6. 永遠の彼方
あるとき、騎士が流行り病に罹りました。
その病は、かつてあの地――少女のいた王国、没した王と同じ症状でした。
少女は悩みます。騎士を助けるには薬草を探すしかありません。
けれど、あのときはどれだけ探しても見つかりませんでした。
その薬草は、王が没したあの時にはすでに、絶滅していました。しかし、少女にその知識はありません。
少女は考えます。
考えて、考えて、考えて。一つの結論に辿り着きます。
かつては思いつかなかった、いえ、かつては思いつくような、その感情を有していなかった少女は。自らの腕を少し切り。その血を。
泉の混じった、少女の血を、騎士に飲ませました。
騎士は目を覚ましました。寝ている間、不思議な夢を見ていました。少女の、これまでの夢を。錬金術師、王子、老婆――そして、知識の泉。
気付けば、騎士は涙していました。零れ落ちる涙は地に落ちることなく霧散して消えていきました。
少女を見れば、腕から血を流しながら、嬉しそうに笑っています。
少女が笑い、感情を取り戻したそのとき。少女が、倒れました。
血は止まりません。いくら止血をしても、少女の細く白い腕から、止めどなく血は溢れ出てきました。
騎士は少女を助ける方法を探します。少女自身に訊ねます。
騎士は、少女がとてつもない知識を有しているということを、彼女の夢で知っていました。
けれど、少女はこう言いました。
「わかりません」
忘れました、と何度も答えた少女でしたが、今まで、わかりません、と答えたことはありませんでした。
騎士は困り、悩み、苦しみます。
それから、何日も、何日も。騎士は少女の看病を続けました。医者に見せても手の施しようがないと言い、薬を塗っても血が止まることはありませんでした。
少女は、衰弱していきます。
けれど、それと共に少女はよく笑うようになりました。
かつての時間を取り戻すかのように、少女は笑います。
彼女に笑ってもらおうと、騎士は少女に話しかけます。他愛のない騎士の話を、少女は楽しそうに聞いてくれました。
血を失うとともに、少女は感情を取り戻していきました。老婆を失った時すでに、少女の心は凍り付いていたのかもしれません。その心が、溶け出しました。
そして、血を失うとともに、少女は知識を、記憶を、徐々に失くしていきました。