3. 錬金術師と女神の彫像
ある錬金術師が、国から追放されました。
錬金術師は国を、山を、海を流離い、やがて「魔女の塔」と呼ばれる建物に辿り着きました。
なぜそのように呼ばれているのか訊ねると、中に魔女が閉じ込められていると言います。魔女の呪いで廃墟になった街だと。
それを聞いた錬金術師は、住民の制止も聞かずその塔へと足を踏み入れました。
塔の最上階に、その「魔女」はいました。
いや、魔女などと言ってなるものか。そう錬金術師は思います。これこそが、そのお方こそが私の求めた理想の方だ、天使のようだ、神のようだと感じました。
錬金術師はその女神の如き少女に語り掛けました。
「よろしければ、貴女の名前を伺いたいのです」
すると、少女は言います。
「忘れました」
そのとき、錬金術師は考えました。この少女を永遠のものにしたい。永遠に、私のものにしたい、と。
そこから、錬金術師の研究が始まったのです。
錬金術師は彼女を作ろうとしました。
それはまさしく、神にも匹敵する所業です。
錬金術師はかつても人間を造ろうとし、そして国から追放されたのです。けれど、ここにはそれを止める人物はいません。
錬金術師は諦めませんでした。
何度も何度も失敗を繰り返しました。
あるとき、錬金術師は訊ねました。
「どうすれば、あなたのようになれるのでしょう」
すると、少女は答えました。
あらゆる知識を。そして、知識の泉の、その場所を。
それはきっと、答えが返ってくるとは思っていなかったのでしょう。錬金術師は驚き、けれど急いでその森に向かいました。
錬金術師がその場所に向かうと、そこには泉はありませんでした。
森中を探し回っても、錬金術師にその泉を見つけることはできませんでした。
塔に戻った錬金術師はやがて、抜け殻のようになってしまいました。彼の周りには彼女と区別のつかない贋作が並びました。けれど、それは到底彼女と同様のものとは思えなかったのです。
何かの抜け落ちた、抜け殻たちの中に、錬金術師が倒れ伏しました。
嘆き。彼女たち――本物を除く彼女たちが嘆きました。
贋作たちは、彼だけの為に作られ、彼だけの為に泣いたのです。
けれど彼は、それを彼女だと認めませんでした。彼女は、女神の如き少女は、自分のためになど泣かないからです。
やがて、複製たちは泣くことをやめました。物言わぬ彫像に成り果てました。
その時初めて、彼女たちは錬金術師にとって本物と同様のものになったのです。
けれどそのとき、錬金術師は既に息絶えていました。
彼の死と同時に、空の器に注がれたのは、知識のみとなったのです。
長い時が流れ、錬金術師の屍が朽ち果てる頃。
彫像たちが彼と共に崩れ去る頃、「魔女の塔」に一人の騎士が訪れました。