2. 傾国の姫君
森の中に、美しい姫君がいました。
やがて、ある国の王子がその姫君を見つけ出します。
それは人間なのだろうかと、王子は思いました。あれは、人形ではなかろうか、と。
その姫君は、確かに生きていました。
呼吸をし、体温があり、瞬きもします。
けれど、食事をせず、水すら飲まず、排泄もせず、眠りも必要ないようでした。
人々は口を揃えて言います。あの姫君は、神の使いだと。
その噂は国中に広がり、その姫君を見つけて妻として迎え入れた王子は、圧倒的な支持を得ました。
王子は姫君に問います。
「貴女の名は」
すると姫はこう答えるのです。
「忘れました」
姫は、何もわからなかったのです。
けれど、王子はそのことを国民には告げず、無口な深窓の姫君として丁重に扱われています。
王子は姫君を美しいと思っていましたが、同時にどこか訝しんでいました。
そんなあるとき、王が病に伏しました。
その病気がどのようなものか、医師たちにも全くわからず、皆頭を悩ませていました。
そんな中、姫は言いました。
この薬を作りなさい、と薬草の名をいくつか告げたのです。
王子は姫の告げる薬草を必死に探しましたが、見つけることはできませんでした。
やがて、王は亡くなりました。
国民たちは、王子は姫の戯言に惑わされ、乱心したと言い始めました。
深窓の姫君と呼ばれた彼女は、「魔女」と呼ばれるようになりました。
王子は怒り、「魔女」を離れの小さな塔に閉じ込め、誰もそこを訪れることはなくなりました。
長い、長い時が流れます。
王子は、そして王国は滅びました。
王と同じ病に、皆が伏したのです。誰も、助かりませんでした。
長い、長い時が流れました。
やがて、廃墟となった街には、誰も寄りつかなくなりました。
謎の奇病で死に絶えた街に、好んで近寄るものはいません。
それでも、不思議なことに、塔だけは残っていました。
そして、あるとき、一人の男が塔を訪れました。