1. 知識の泉と忘却の少女
昔々、あるところに元気な少女が住んでいました。
少女は老婆と深い森の中に住んでいて、老婆は少女の疑問に何でも答えてくれました。少女はそんな老婆のことが大好きでした。
少女は思います。私も老婆のように、何でも知っている人になりたいと。
そんなとき、少女は街で「知識の泉」の噂を聞きました。
その泉の水を飲んだものは、ありとあらゆる知識を身に付けることができるというのです。
少女はその話を聞き、早速その泉を探し始めました。
やがて、老婆は亡くなりました。未だに泉は見つかりません。
けれど少女は悲しみませんでした。
少女はこう考えたのです。知識の泉の水を飲めば、きっと再び老婆に会えるのだと。
そして、少女は見つけました。
深い、深い森の奥に、誰にも見つからないようにひっそりとその泉はありました。
少女はその泉の水を飲み、そして、ありとあらゆる知識を得たのです。
少女は困りました。
何に困ったのかわからなくなるほどに困りました。
少女は悩みました。
何に悩んだのかわからなくなるほどに悩みました。
やがて、少女は考えることをやめました。
考えても、考えても、考えても。
いくら考えても、わからないのです。
少女は知識を得ましたが、その知識の使い方がわからなかったのです。
知識は膨大にあり、その知識が何か全くわかりませんでした。
薬の作り方、動物の生態、魔法の使い方――そんなことは、少女にとっては必要ないのです。
そして、その知識について理解する頃には、やがて別の知識が頭の中に生まれています。
考えても、考えても、考えても。
それでも、老婆に再び会う方法は見つかりませんでした。
少女は、やがて何も考えてなくなり、椅子に座って一日を過ごしました。
何日も、何日も、何日も。
やがて、少女は気づきました。
どれくらい、食事をしていないだろう。
いくら時間が経っても、空腹になることはなかったのです。
少女はやがて、物言わぬ、ただ椅子に座るだけの人形になりました。
膨大な、その知識を携えながら。
時は流れます。
はるか、悠久の時が流れます。
数年、数十年、数百年。
やがて、少女の家に、ノックが響きました。