純 i-じゅん、それは…俺-
俺の気持ち、聴いては…くれませんか?
俺は何も知らなかった。あの子が、どんなに苦しんでココまで生きてきたのか…俺は知らなかった。
ほんのわずかにでも『あの子にしてあげられるコト』は?
と、考えた俺がバカだった。
あの子は精一杯に、馴れない仕事を馴れないままにしないで、逆に楽しもうと努力していた。
俺はあの子に、「『モギリ』ってなんですか?」なんて声をかけたけど、あの子はあの子なりに、俺にわかりやすいように説明してくれた。大体だけど理解が出来て、緊張していた、このやかましい心を落ち着かせることが出来た。
何故だろう。あの子といると俺は落ち着いていた。
お弁当の時、あの子の何気ない素振りと雰囲気で居場所を作ってあげたいと思った。
俺がさりげなく弁当を渡すと、今にもはしゃぎまわりそうな子供のような顔でお礼を言われた。他人だというのに、まるで自分のことのように嬉しかった。だけど、ゴメンな。
ふと思い立って仕事をすると決めた、その日の休憩時間。あの子は、俺にも前見せていたような、それとも愛想笑いのような顔で普通に人と喋っていた。俺は影からそっと見ていたんだ。するとあの子は、この人から渡された箸で。その人の弁当のおかずを食べていた。何ともいえぬ感情が身体中に駆け巡った。まるで世界が反転して、逆周りになったような気持ち悪さ。ひとつひとつ鮮やかに味付けされているおかずを、口に運んでいる。それが何だかモノクロになって、あの子の姿だけが光照らされてさらに吐き気を増した。
そういえば、あの子が香水をつけてきたときには驚いた。挨拶する気なんてさらさらなかったけれど、どうしても我慢できなかった。それはたぶん、俺の居場所をあの子は作ってくれたからなんだと想っている。帰り道に隣にいるのが怖くなって先頭を歩いた時もあった。見下ろすあの子の姿は、幼くて、だけど何か芯があって、無邪気で…そして可愛くて。名前も正確に教えられないまま。
遠くから見たら、あの子は誰よりも外面だけ楽しんでいる。もちろん感情むき出しなんだけど、それ以上に人を想って、人を愛している。
名前…忘れてしまった。
だけど、握り締めたあの温もりは忘れない。一緒に並んでお客さんを迎えたあの日を忘れない。
怪我、治ったかな。あれは予期もしないことだった。
「ゴメンな。俺は忘れたいんだ、死んでくれ。」と、あの時
あの日
見かけてどうしようもなく、口にしてしまって。
「俺が居なくなるべきだよな。」
自分が…居なくなるべきだな。ゴメンね、福影さん・・・
どう、思いますか?俺のこと・・・




