-序章-
-序章-
教室の隅。窓際で一番後ろの席という最高の席で帰り支度をしている少女。彼女の名は鍵垣深紅。少しつり上がった大きな瞳、みずみずしく潤った唇、程良くパーマがかかった栗色の柔らかい髪。誰がどう見てもそれは"美人"だった。
「深紅ーあんた今からあいてるー?」
教室のドアにもたれて立っているいかにもギャルっぽい女子が数人。
「ごめん、ちょっと寄る所があるんだ。」
「また屋上行くのー?」
かったるそうに喋るギャルたちとは逆に深紅はヒマワリのような笑顔を浮かべてコクリと頷いた。
最近の深紅のマイブームは此処、桜魅高校の屋上に上がり、下校時刻ギリギリまで天体観測をすることだった。桜魅高校は深紅が住む地域では最も大きな高校であり、屋上はただの屋上ではない。"屋上庭園"になっているのだ。屋上庭園には管理人によって手入れされた花や木が生い茂り、小さめの噴水やベンチが並んでいる。ちなみにデートスポットだったりするのだ。
ギャルたちは「じゃあ、また今度な。」とかったるく手を振って教室を出て行った。深紅は軽いカバンを持ってギャルたちが帰っていった方向とは真逆の廊下を走り、階段を一段飛ばしで駆け上がる。
『桜魅高校の屋上庭園。西側に自殺希望者発見。』
ジジッと雑音が聞こえた後に女の声がする。
「今日はないかと思ってたんだけどな…。」
とあるビルの屋上。フードを深くかぶったこの男。見た目から高校生くらいだろうか。フード付きのパーカーにはいくつもの大きなチャックがついており、その袖は手をおろしていると地面についてしまうほど長く、手は隠れている。
『cランクの任務です。いつも通りに遂行して下さい。』
男は首元についている大きな安全ピンを口元に近づけるとこう言った。
「神の思い通りにはさせない。ナチュラル、行きます。」