6 精霊
「あー簡単にレベル上がらないかなー」
熱海ダンジョン前広場
「エレナ、そればっかり言ってるね」
「だってさルシル、ゲームなら何かしらの救済処置があるでしょ?」
「そうなの?ゲームやらないから知らない」
あるのだ。やたら経験値が多い硬くてすぐ逃げる敵とか。
経験値が倍増するような装備とか。
「おじ様に聞いてみようかな」
「だれ?おじ様って」
あんたがおじさんと呼んでる人の事だよ。ウチはおじ様と呼ぶことに決めた。
ルシルはちょっと気安く呼びすぎだと思う。凄い人なのに。
今日はおじ様来ないのかな。
「そんな都合よく来るわけが…あれ?見覚えのあるお腹が」
「腹で認識するな、傷つくだろうが」
「おじ様~!」
本当に来た。相変わらず全然痩せてない。
ダンジョンはダイエット効果あるって聞いたのになぁ。
「経験値アップの方法か、もちろんあるけど寄生虫になるぞ?」
「あー高レベルの人についてく感じっすか?」
ああ、高レベルの人とパーティー組んで深い階層に潜ればよい。
ほぼ低レベルは戦力にならないけどね。
高レベルは低レベルを守りながら戦うという何もメリットが無い方法。
「なのでお金が必要な事が多いかな。それも高レベルがその時間を潰す分を考えた金額設定になるから高額だ」
「やっぱそうなっちゃいますよね」
時々だけど富豪が大金で高レベルパーティ雇う事あるよ。
富豪の目的は単純にステータスアップだろうね。
人間として能力が高くなる事に魅力を感じない訳がない。
「エレナお金持ちだよね?」
「うう、お小遣いは皆と一緒だよ。勘違いさせるから良くないって親父が…」
「うん、正しいお父さんだと思うぞ。それに女の子は違うもん要求されたりもするからやめといた方が良いよ」
んーなるほど、ウチもなかなか可愛いからね。
しかしお金でなんとか出来るならローンとかで…
「冒険者は死ぬ恐れがあるからローンは組めないぞ?家も車もローン組めない」
「で、ですよねぇ」
「エレナ、やっぱ地道が一番だよ」
「おじ様、他に方法はないっすか?」
「じゃあ精霊を見つけなさい」
「精霊?…って何すか?」
「…あ!攻略サイトで見た事あるかも!」
時々ダンジョンでは精霊が見つかる。
そしてその精霊に気に入られ、契約すれば加護が受けられる。
効果は様々だが、冒険者にとっては喉から手が出るほど会いたい存在だ。
「その精霊が経験値アップとか持ってるって事っすか?」
「そうだ、あとは魔石アップとかも…隠してる奴も多いだろうから情報あんまり出てないかもな」
「攻略サイトもそんな感じだったよ。何か曖昧で本当にいるのかどうか」
「でも隠すってなんすか?珍しい存在なら自慢するのが人間じゃないすか」
「精霊と契約してる冒険者が死ぬとな、その精霊は元居たダンジョンに戻されるんだ。だからどこのダンジョンのどこらへんで精霊と契約したぞと公表した場合、舞い戻る精霊狙いで冒険者は命を狙われる危険性がある」
「はー怖いっすね」
なので公表してない人は多いと思う。
全然気にせず公表してる人もいるけどね。
刺客が来ても返り討ちにする自信があるのだろう。
「まあどこで契約したか言わなければ存在自体は言っても問題ないと、俺は思うんだけどね」
「そっすよね、どこで契約したか解らなければ、どうしようもないっすもんね」
「あとそれに、精霊持ちはパーティの勧誘がしつこいから言いたくないってのもあるかも」
「ああ、それは解る気がするっす、で、おじ様は契約してるんすか?」
「ん?」
「やたら詳しいっすけど」
んー、バレちゃったか、調子に乗って喋りすぎたな。
まあ、俺は別にバレても構わんのだけどね。
「今から見せるよ、ただし大声は出すなよ?お前たちにしか見えないようにしてもらうからな」
「え?本当に?そんな事出来るの?」
よし出てこい精霊たちよ!
なんか適当にそれっぽくポーズとってみた。
ぼんっ
浮かび上がる3体の精霊。
あれ?2体足らんぞ?どこ行っちゃったの?
「2体足りない?5体いるって事?」
『今日はご機嫌斜めなので出たくないそうだ』
「え?喋った!」
「てかこれって…」
「ちょ、ちょっと待って、情報量が多いっす、なんか見た事あるのもいるし」
「この大きいのゴリラだよね?!」
ゴリラではない、精霊だ。ちょっと発光してるでしょ?
ちなみにさっき喋ったのはこのゴリラに似た精霊だ。
「こっちの浮いてる子は…これレッサーパンダだよね?」
「か、可愛いっす。あ、触れない…」
「精霊に触れることは出来ないぞ」
『なんでえこのメス共は』
「え?口悪い…」
レッサーパンダではなく精霊だ。
あと精霊からしたらお前たちはメスであってる。
「こっちの子は…」
「えーと、なんだっけ?見た事あるような気がするんだけど」
『…』
それはバクに似た精霊だな。
照れ屋だから無視してるわけじゃないぞ?
「こ、これは、経験値アップとか関係なくほしいんすけど」
「あたしもー」
目的変わっちゃってるじゃないか。まあ気持ちは解るけどね。
よし、姿隠していいぞ。
「あ!消えちゃった…」
「えーこのように、稀にだがダンジョン内に精霊は存在する。みんなも探してみよう」
「稀にって、5体持ってるくせに」
「ウチの分残ってるのかなぁ?」
それは解らない、ダンジョンが現れてもう40年位経つからな。
ひょっとしたら発見されつくしてるかもしれない。
「おじ様が5体も見つけるからー」
「ねーズルいよねー」
「因みにだが、精霊たちは深いダンジョンには居ないと思う。俺は100階層、200階層のダンジョンで5体とも見つけてる」
「ええ?じゃあ500層の熱海には居ないって事?」
確定情報ではないんだけどね。
俺も探しきれて無いだけかもしれないし、先に誰かが発見したのかもしれない。
ただ同じダンジョンに2体以上居るってことは無いと思う。
「どうしよう、伊豆半島にはダンジョンいっぱいあるけど」
「どれが低階層?」
「近くの宇佐美、畑毛、大仁は低階層だな。でもすでに発見されてる可能性もあるんだから、精霊はついでくらいの気持ちでだな」
「ルシル、どこ行く?」
「行きやすいのは宇佐美かな」
聞いてないみたいだ。
お前たちは精霊目的でダンジョン潜ってたんだっけか。
あんまり目的を見失うなよ。
「どうしたんです?この子たちは」
「おおクオンか、お前居なかったな、今来たのか?」
「ちょっと告白断ってて遅れました」
お、おお、青春してるな。おっさんそっちに興味津々だ。
自分のそんな思い出はすっかり忘却の彼方だ。
「クオンちゃん、低階層ダンジョン行こーよ」
「ええ?なんで?電車代かかるじゃん」
「パイセン、精霊がー」
「精霊?あんなの持ってるのは1万人に一人って話だよ」
…なぜか2人がこっち見たな。
なんでジト目なんだよ。俺は別に悪い事したわけじゃない。
「それにたとえ3人で見つけたとしてもな、契約できるのは一人だけだ」
「あ!そっか!」
「じゃ、じゃあソロが良いって事?」
やめとけよ、女ソロなんて余計な危険が増えるだけなんだから。
それにソロだとまだ大した階層潜れないでしょ。
低階層とは言え最低でも100層はあるんだからな。
「じっくりレベルを上げてから挑むのが賢明だぞ?居るかも解らないものの為に危険を冒してどうするんだ」
「うう、楽してレベル上げたいって話だったのに」
「いろいろ本末転倒だったね」
「ちょっと何の話?全然見えないんだけど」
説明は2人に聞いてくれ。おっさんはそろそろ行くわ。
今日も時間潰しちゃったなー。全然ダンジョン潜れてない。
まったく俺こそ何しに来てるんだか。
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関西国際空港
「…ついに来たわ!」
ボーディング・ブリッジから空港へと降り立つ女が一人。
ここが日本…今日は人生最高の日ね。
さて、まずは入国審査をクリアーして…
「ケイトリン・リリー・フィリップスさんですね」
「そちらは?」
中肉中背の男に声を掛けられる。その後ろには3人の男女が控えてる。
…ただものではないな。
「日本政府の者です。貴方は別室にて取り調べをさせていただきます」
物々しい雰囲気だが、想定してたことだ。
ここは大人しく従おう。
「日本語がお上手ですね、通訳を準備していたのですが」
「ええ、以前から興味のある国だったので一生懸命勉強しました」
「さて…どうして呼ばれたかお解りですよね?」
解っている。
私が外国人であり、冒険者であるからだ。
「まずはアイテムボックスの中身を全てお出しください」
これも想定内。
おかしな物を持ち入れさせない為に、アイテムボックス持ちは厳重に審査される。
そんなの全部出さなくてもバレないでしょ?と思うかもしれないがちゃんと調べられるようになっている。
「審査があるのは解っていたので空にしてきました」
「では、精霊に調べてもらいます」
突然現れた鳥型の精霊。
顔が赤い、不思議な雰囲気の精霊だな。
「奇麗な精霊ですね」
「日本ではトキと呼ばれている鳥に似ています」
『大丈夫、アイテムボックスの中は空だよ』
本当は使い慣れた武器くらいは持ってきたかったんだけど、それだと今度は飛行機にも乗れなくなる。
ハイジャック対策で出国時にも調べられた。
「ダンジョンに潜る事を希望されたようで…」
「ええ、せっかくなので日本の高難易度ダンジョンに挑んでみたいわ」
これはアメリカ政府に掛け合い、了承をもらったはず。
粘り強い交渉の結果、いくつかの条件を出され、すべて飲んだ。
「許可はできるのですが、日本から出る時は、アイテムボックスの中を今日と同じ状態にしてください」
「解ったわ」
これは、資源を持ち帰るなという意味だ。
その国のダンジョンで採れる資源はその国の大事な資産、外国人が好き勝手に持ち出したら国益の損失に繋がる。
因みにレアアイテムなども持ち帰れない。
どちらも売って換金し、現金化してなら持ち帰る事は出来る。
ただし税金は50%くらい取られる、外国人だから少々お高い。
「あと、ダンジョン内での生死に関して日本政府は責任を負いません」
「それも聞いてるわ。もとよりダンジョンは自己責任、把握してるわ」
「解りました、では次に身体検査をさせていただきます」
『大丈夫、危険な物は何も持ってないよ』
これも精霊により行われる。
精霊も慣れたものなのか、すでに調べられていたようだ。
『さて、テレポート使えるみたいだね』
来た、一番の懸念材料。
やはり精霊にはバレてしまうのか。
『知ってると思うけど、テレポートで日本から国外に出た場合は国際問題になるからね』
「ええ、解ってるわ」
『日本内での移動になら使っていいよ。でも僕達にはどこへ行ったか解かるから注意してね』
怪しい事はするなという事だ。
常に日本政府の監視がついていると考えればよい。
大丈夫、私の目的は貴方達が考えているようなことじゃないから。
「解ってるわ。国際問題になるような事は私も望んでいない」
「ご理解いただけたようで何よりです。では日本での滞在をお楽しみください」
ふう、なんとか切り抜けられた。
解かっていた事だけど、気分の良いものじゃないわね。
空港から出て府内のホテルへ。
さて、明日からどこへ行こうかしら?
近いのは有馬温泉?南紀白浜温泉?
ああ、城崎温泉もいいわね!どこにしよう!
人気の宿はいくつか予約とってあるし、それも考慮しながら計画的に進めていかないと。
テレポートは一度そこまで行かないと使えないのが不便よね。
飛行機は今日みたいな面倒ごとが多そうだし、電車で行く事を考えて…
幸い日本は電車網が発達してるから、そこまで不便ではなさそうだけど・
CIAエージェント ケイトリン・リリー・フィリップス。
温泉で遊ぶ為に日本に来ただけだった。




