53 夢を馳せる
「ねえ、私もダンジョン潜りたい~」
妊娠が発覚してしばらく経ち、暇なのかカミナが絶賛わがまま発動中。
「ダメだって、13週目までは流産の可能性高いらしいじゃないか」
「200層くらいまでならダメージ全くないし大丈夫だよ」
そうは言ってもな。ダンジョン潜るには階段降りてく訳だし踏み外したらどうすんだ。
妊娠中は細心の注意を払うものなんだぞ。
「お前は妊娠発表もしたんだから、そんな時にダンジョン潜ってたら叩かれるよ」
「うー」
他の男に取られたと思ってる元ファンからしたら間違いなく格好の標的だ。
またおかしな奴らのおもちゃにされるぞ。
「うう、解った」
「そばにいるから安静にしてなさい」
こんな感じで俺も週に1回くらいしかダンジョンに行けてない。
今はカミナが最優先。すべてを犠牲にしてでも守ってみせる。
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「やっぱレベル上がんないねー」
ミオコとミズキは現在二人で400層ダンジョンを攻略中。
精霊の効果の凄さをあらためて実感していた。
「精霊もそうだし、高層ダンジョンに潜れないからね」
「ねえ、500行ってみない?」
「ヒーラー無しで?ポーション山ほど持っていけば行けるかもだけど」
「それか、誰かと臨時パーティ組むとか」
「うーん、そんな都合良い人はなかなか…」
高レベル帯になってしまうと陥る人材不足。
そろそろ私達はすでに日本のTOP300まで来ているんだ。まず人がいない。
他の高レベルは既存のパーティがあるだろうし、余ってる人がいても都合よくヒーラーとは限らない。
そしておじさんとカミナが復帰した時にはお役御免では薄情だし。
「復帰するのかな?あの二人」
「それもあるのよね」
子供の為に復帰しない可能性もある。
女親は特にそうだし、おじさんも息子が出来たから一度やめたはずだ。
だったらウチらも切り替えて新しいパーティ作った方がいいんだけど…
「でも精霊様の恩恵を諦めきれないよ」
「そうだよね、可能性がある限りはウチも二人とパーティ続けたい」
「ビキニも貰っちゃったし」
「本当だよね、去年が濃すぎる一年だったから、今とのギャップが…」
刺激的な日々とのギャップ。単調なレベル上げに飽き飽きしてるんだろうね。
少し気分転換したいな。彼氏でも作ろうかな。
「がんばれミオコ」
「なんか腹立つわね」
すぐからかってくるんだから。
ウチも結婚くらいしたい。がんばれミオコ。
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「カナデ、後ろ!」
「任せて!」
モンスターの首が飛ぶ、ここは湯沢ダンジョン130階層。
湯沢を拠点にして頭角を現してきた女の子達。
国から支援を受けパワーレベリングを受けた立石 奏を筆頭に、年上の女の子が3人、計4人のパーティ。
「おお~さっすが」
「カナデ、ナイス」
「ごめんねカナデちゃん、私が敵を止められなくて…」
「大丈夫だよ、ケガはない?」
良いパーティが見つかった。みんな年上なのに気安く接してくれる。
年下なのにレベルが一番高い私に嫉妬もない。それどころか頼りにしてくれる。
そして向上心もある。みんな私に追いつこうとしてくれてる。
「あそこは先に右の奴を足止めすべきだったのかな?」
「どうだろ?カナデはどう思う?」
「敵が多かったからどのみち囲まれたんじゃないかな?」
「もっと慎重に進むべきだったね」
反省もある。人のせいにもしない。おごりも無い。
私が言うのもなんだけど最近の女の子達とは思えない。
「ねえカナデ、熊本の子とは連絡とってるの?」
「取ってるよ。みんなミコトの話好きだよね」
「だっておもしろいじゃん、忍者みたいな人に弟子入りしてソロでやってんでしょ?」
「私はどっちかというと心配なんだけどな」
「SNSで滝に打たれてたよね。あれも修行になるのかな?」
わかんないけど寒そうだった。
でもミコトのレベルは現在145、133の私よりも先に行ってる。
ソロだから貰える経験値も多いんだろうけど、当然強敵では苦戦するはずなのに。
臆病な子だったんだけどな。どんな心境の変化があったのだろう。
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「心頭を滅却すれば火も亦涼し」
「師匠、それは高レベルだから火傷しないだけで」
「ミコト、何を言う、早く炭を並べぬか」
「私はやりませんからね?」
熊本の女の子、坂本美琴、現在師匠と火業の特訓中。
レベル700のスカウトだというから弟子入りしてみたら変な人だった。
「ほれ、熱された炭の上でも平常心…」
「レベル145の私じゃ無理ですよー」
「ふむ、修行が足りんな」
師匠の決まり文句だ。昭和生まれらしい。
頭巾でいつも目しか見えないけど、深いシワが刻まれている。
道後で出会ったおじさんより歳いってるんじゃないかな?
「あなたー、ご飯が出来たわよー」
「はーい、ミコト、お主も食っていけ」
そしてとても愛妻家、なので悪い人ではない。
師匠のお陰でレベルも上がってるし実力は確かなんだろうな。
「ミコトちゃん、ウチの人が無茶させてない?」
「無茶は言われますが断ってます」
「むむう、修行が足りん」
「あなた、若い女の子に変な事させちゃだめよ?」
「はーい」
師匠、食べるときは頭巾取ったらどうですか?
起用に食事が消えていくけど…
その技術は私に教えようとしないでくださいね。
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「憧れのカミナさんが妊娠してしまいました。皆さんに質問なんですが、妊娠ってどうやったら出来るんですか?」
「え?そ、それは」
「え、えーと」
「………」
有馬ダンジョン101階層 セーフティエリア
夏に育成を受けた兵庫の女の子 江藤 彩花ヒーラーレベル130。
年上の男女含め四人のパーティでダンジョンを探索している。
「せ、性教育とかで習わなかった?」
「性教育?過保護な親に育てられたものでその日は休まされまして」
「親の意向なら俺達が教える訳にも…」
「アヤカちゃんにはまだ早いよ!僕だってまだなのに」
「「「え?」」」
「な、なんでもない」
妊娠がまだ?妊娠は女の人がするものだと思っていたけど男の人もするの?
そういえば道後で会ったおじ様もすごいお腹でした。妊娠してたのですね。
ひょっとしたらそれが強さの秘訣…?
「私もしてみたいです。妊娠」
「ちょ、ま、まだ早いって!」
「早まっちゃだめよ?アヤカちゃん」
「ぼ、僕と…」
「児ポ法、冒険者はへたすりゃ極刑」
「うう」
育成で選ばれた三人は今のところ順調に育っている。
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「育成の三人は順調、何か質問はある?」
元冒険者議員 飛川 珠希。
仕事が評価され現在、青少年冒険者特別育成計画担当責任者に抜擢された。
「熊本の子は大丈夫なんですか?」
「心配したけど一番レベル上がってるんだもの、大丈夫でしょ」
多少変わった人の方が成果を出せるのではないかと思うのよね。
カミナの旦那さんも個性的だったし。
それより次の育成候補を考えなければ。
「またカミナに頼もうと思ってたけど妊娠したのね。旦那様は引き受けてくれるかしら?」
カミナの絶対防御ありきの計画だったから難しいかしら?
誰か他の絶対防御保持者を準備する?
それとも他に何か別のパワーレベリングの方法を知っていそうな気も…
いえ、今はそれより選別ね。来年度は人数を増やして良い事になったし、間違いのない子を選ばないと。
「飛川さん、男子冒険者就労年齢引き上げの件でマスコミが」
「また騒いでるの?」
「ええ、責任者が女性だから忖度したんじゃないかって」
まだ施行もされてないのに。結果が出るのは当分先。
何度説明したところでどうせ納得しようとはしない。揚げ足取りに付き合う必要は無いわ。
「無視していいわよ。説明責任は終えてるし」
「解りました」
はあ、そりゃ必ずうまく行くとは今の段階では言い切れないけど。
冒険者が犯罪起こせば政府のせいだって言うくせに対策練ったらそれにも文句。
そんな完璧な政策を出せたら苦労はしないわよ。
今は経過を見る段階、黙って見てなさいよね。
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「うい~親父、牛タンもう一皿」
「外国人のお姉ちゃん、飲みすぎだよ?」
CIAエージェンシー ケイトリン・リリー・フィリップス。
現在は仙台に来ていた。
日本は牛肉が美味しい。それは知っていたわ。
どこに行ってもブランド牛だらけ、便乗がひどいと思ったけど結構どれも美味しいのよね。
なのに舌まで食べるの?最初は戸惑ったわ。
内臓もどうなのかと思ったけど舌まで食べるなんて。
でも食べてみると美味しいわね。
コリコリした触感も面白いしカルビやロースと違って脂が少なくてもたれないのがいいわね。
でもこの辺牛タン屋だらけだけど、舌ばかり売って品薄にならないのかしら?
牛は胃が4つあるっていうし、日本の牛は舌が何本も生えてたりするのかしら?
そんな舌で攻められたら…いやだ私ったら何を考えているのかしら。
「ああ、ウチの牛タンはアメリカ産だよ」
はあ?アメリカ産なの?アメリカ産が名物になってるの?なんで?
名物ってその土地でとれたものじゃないの?はあ?
母国もこんなに美味しいものをなんで輸出しちゃうのよ。
私がアメリカにいたら許さなかったわね。そんな権限は無いけど。
「はい、デザートのずんだシェイクだよ。もう酒はやめときな」
…緑色のシェイク。スムージーじゃないのこれ?美味しい牛タンを食べた後にこれ?
酔ってるからシェイクに野菜でも混ぜとけ解んねーだろってなめられているのかしら?
まあいいわ、飲んじゃお。ずびびびび。
「お、美味しすぎる」
なにこれ!香ばしい風味の中に粒粒の触感、さわやかな上品な甘さ!後味もスッキリ!
「親父!ずんだシェイクもう一杯!」
「飲みすぎだって、腹壊すぞ」
CIAエージェント ケイトリン・リリー・フィリップス。
仙台の夜に酔いつぶれていた。
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「GOD、男の子がいいの?女の子がいいの?」
「うーん、出来れば女の子かな。カミナに似た美人が生まれてくれるといいなぁ」
「GODもかっこいいのに」
男の子はもういるからな。あいつが俺の遺伝子ついで禿げたら可哀そう。
責任感じる前にあの世に行きたい。
「でも元気な子ならどっちでもいいぞ?」
「元気に決まってるよ、冒険者の子なんだから」
そうだといいな。何事もなく生まれてくる事が一番だ。
母子ともに健康に、そして健やかに育ってほしい。
「なので我が儘を言わず、おとなしくしてなさい」
「暇なんだもの、妊婦ってつまんない」
そういうもんなのかもな、何でもやってもらえるし、常に過保護な状態だ。
羨ましい気もするけど命を生み出すという重大な行為、責任も重い。
「あと9か月の我慢だ」
「こんな日々が後9か月も…ひえー」
カミナがふて寝した。安静にな。
ふう、疲れたな。カミナには悪いが妊婦は気を遣うぜ。
自分の世話だけで精一杯の年齢なのに、これが後9か月、いや生まれてからも続くのか。
お腹の中で10か月、そして生まれてから22年、人間を育てるのは大変だ。
俺はその頃77歳か?生きてるのかな。想像もできない。
成人まで見守れないとしてもお金は残してあげられる。
無責任な言葉かな?そりゃ出来れば大人になるまで生きていたいけど…
こんなおっさんが親で生まれてくる子は恥ずかしくないかな。
授業参観はカミナに行ってもらおう。おじいちゃんが来たって言われたら可哀そうだもんな。
カミナならかっこいいお母さんで子供も鼻高々だろう。
体育祭はどうしよう?親子競技とかあるんだよな。息子の時は冒険者の親と子供というバランスの悪さで失敗したんだよなぁ。
はは、俺も今から心配しすぎかな?
不安もあるが、なんだかんだ楽しみにしてるのかもしれない。
どんな子が生まれてくるのだろう?カミナの寝顔を見ながら夢を馳せた。




