50 鵺
休み、しかし考えることがいっぱい。はてさてどうしたもんか。
「鵺ってそんなに手ごわいの?」
「ああ、幻術使うし、時には消えるし」
「消えるの?レオンの加護みたいに?」
ああ消える。そして飛んでるから足音も聞こえない。
レオンの加護より厄介とも言える。
「鳥型のモンスターなの?」
「いや、頭はサルで四肢はトラ、胴はタヌキで尻尾はヘビ」
「滅茶苦茶だね」
見た目は無茶苦茶だし攻撃はおぼろげだ。
「物理攻撃をしてこないんだよな」
「ええ?それは………不思議な敵だね」
ずっと化かされているような感覚なんだよな。
そして次第に病んでくる。精神を蝕んでくるんだ。
「でも物理攻撃をしてこないなら、こっちが死ぬ事も無いんじゃ」
「精神が弱ってきたとみると、生命力を吸い取ろうとしてくる」
「それって…」
「生命力を取られすぎると、年寄みたい姿になって死ぬぞ」
「えええ!!!?」
どうだ怖いだろ?鵺を最後にした理由がこれだ。
女は年齢に敏感だし俺もこれ以上ハゲたくない。
「攻略法さえ解ってしまえば簡単な相手だ。だけど初回はみんな慣れなくて苦戦するんだよな」
ミオコとミヅキが来た。
「歳取っちゃうの?ミオコはもう曲がり角だよ?」
「ミヅキ!殴るわよ!」
「今までの敵とは根本的に違う相手なんだよな」
こいつらが耐えられるかどうか。避けるのも手だぞ?
「うん、避けたいです」
「私も避けたい」
「ふ、二人とも」
「ミヅキはどうなんだ?怖くないのか?」
「おじさんが一番危ないんじゃないの?年配だし少しの生命力を吸い取られただけで死にそう」
「「ミヅキ!!」」
「俺が今更影響を受けることは無いよ」
精神攻撃は慣れてくる。
初見の時の衝撃は凄かったけど、一度見ればその後は二番煎じ、三番煎じになってしまう。
むしろ若い時より図太くなってるから今更精神攻撃などには屈しないと思う。まあ油断はしないけど。
「慣れれば簡単な相手なんでしょ?だったら慣れようよ。美味しいじゃん」
「うむ、レベルアップの為にマラソンするには良い相手だと思う」
「その、吸い取られた生命力は倒せば戻るんですか?」
「戻らない」
「えええええ」
「私行かない」
「セーフティエリアの温泉に入れば、戻る」
「な、なんだ」
「だったら良いかな」
結局行くか?行くでいいんだな?
じゃあ休みが終わったら下呂ダンジョンだな。
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下呂
「ひなびまくってんねー」
「こらミヅキ」
ミヅキがミオコに怒られてる。
ひなびたって悪い意味なのかな?天気が悪いから余計そう見える町だ。
これでも俺が来てた頃よりは整備されてるんだけどな。
「私はこの雰囲気好きだけどな。なにかノスタルジックでいい感じ」
カミナは好きか。俺も嫌いではない。
でもノスタルジックを感じたいなら尾道がおすすめだぞ。
日本中観光した中で、俺が一番好きなのが尾道だ。
昭和が今も変わらず残っている。
「こんど連れてってよ」
「そうだな、休みでもゴロゴロしてるだけだもんな」
今はそう言ってても冒険者は疲れる。休みになったら動く元気がないんだよな。
カミナも若いのにぐったりしてる事が多い。
それだけ過酷なんだよな。最近は特にそうだ。
「そろそろ潜るか?」
「「「了解」」」
下呂ダンジョン前広場
「あ、あのパーティ、やっぱり下呂に来たのか」
「最近700を連続攻略してるらしいね」
「下呂が最後?ここは特殊だからな。あいつらもどうなるか…」
何か聞こえるな。カミナ達が有名だからSNSでどこにいるかバレちゃうんだよな。
「おいやめときな。ここは生半可なダンジョンじゃねえぞ」
「ビキニっつってもここのダンジョンボスには関係ないぞ?」
親切で言ってくれてるのかな。
語感が悪いが下呂マウントという言葉がある。
下呂は700の中でも特別、それまでの強さが通じない。
なので下呂に潜ってる私凄い!ってなるらしい。
「大丈夫、俺が制覇したことあるから」
「はあ?嘘つけよおっさん」
「ビキニの女の子死なす気かよ」
ビキニアーマーの美女死なすなか。気持ちは解るぞ。
目でも楽しめる貴重な人材だ。惜しいと思うよな。
「まあまあ、期待しててよ」
「ちっ、知らねえぞ!」
「もったいねえ」
なんか随分な言われようだな。俺が頼りなく見えるからかな。
大丈夫、死なせるようなことはしない。
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1日目は301まで、2日目は501まで、いつものペースで進んでいく
3日目は640まで進み、4日目に699まで来た
「さて、これからボス戦だが、今回は少しでも駄目だと思った時点で精霊を使うからな」
「それほどの相手という事ですか?」
何とも言えない。お前達が順応できるかどうかにかかってる。
こればっかりはやってみないと解らんな。
「部屋に入ってすぐに幻術を使ってくるぞ。すぐに慣れてくれ」
「慣れる?」
「どんな幻術なんですか?」
「いろいろ、どれが来るかは解らん」
やってみた方が早い。さあ行くぞ。
下呂ダンジョンボス 鵺の間
ゆらゆらと揺れながら、風船のように浮かんでいる。
何とも珍妙な生き物だ。いや、生き物なのかどうかも解らない。
「あれ?!なんで私、槍を左手に持ってるの?」
「ウチは天井歩いてる!なんで?!」
「GOD!どうして急に痩せたの?!」
「落ち着け、幻術だ」
ミヅキは鏡写しだな。ミオコは天地反転。カミナのは認識阻害か
鵺は様々な幻術を使ってくる。そしてすぐに幻術を入れ替えてくる。
「感覚が変だと思うがすべて幻術だ。お前達は大地を歩いてるし、ミヅキはちゃんと右手に武器持ってる。俺は瘦せてない」
「わわ、武器動かそうとしたら逆の手が…」
「なんで?後ろに進んじゃう!」
「GOD、フサフサだね」
「何?!それは本当に幻術か?!」
「ね、ねえ、なんか呑気だけど大丈夫なの?」
「ああ、前にも言ったが物理攻撃はしてこないんだ」
今もゆらゆら揺れている。
こっちの精神が消耗するのを待ってるんだ。
「どんどん攻撃していいぞ」
「そ、そうは言っても、体がうまく動かせない」
「いた!だれがぶつかってきたの?!」
「そっちがぶつかってきたんだよミオコ、何やってるの?」
ゲームのコントローラー逆に持ってるような感じになってるな。
適応しようと思えば慣れるもんだぞ?頑張れ。
「ミズキ、なんで土下座してるの?」
「そ、そんなつもりはないんだけど」
「カミナも逆立ちしてるよ?」
「カミナ、はしたないからやめなさい」
「そ、そんなこと言われても」
もう仕方ないな。こうやるんだ。
鵺に向かって走り出し、ジャーンプ。体を一回斬りつけ着地。
「今の効いてるんですか?」
「鵺の体が一瞬揺らいだだけに見えたけど」
「ああ、斬った感触も雲切ったみたいで手ごたえ無いんだけど、一応効いてる」
「よ、よーし」
「カミナ、どこに向かって走ってるんだ」
カミナが壁にぶつかった、可愛そう。
ヒーリングかけてあげよう。
「これ、怖くて魔法は使えない。誰に当たるか解んない」
「おいおい、弱気は鵺の格好の餌食だぞ。魔法だって慣れれば当たる」
「む、無理だよ~」
鵺が消えた。消えると生気を吸いに来る。カミナを狙ってるな。
カミナの背中から白い糸のようなものが出てくる。
ストローで吸うように、何もない空間に吸い込まれていく。
「鵺はこの糸の先にいる。えい!」
暗闇の中び鵺の体が浮かび上がり、ゆらゆらと揺れながら俺達から距離を取った。
「い、いま、生気を吸われちゃった?」
「ああ、ちょっとだけな」
「い、いや!」
あ、やばいな、カミナがパニック状態だ。
…一度立て直すか。
カミナを肩に乗せ、ミオコとミヅキも担ぎ上げる。
ちぃ太の加護を借り、699までの階段をダッシュ。
そこからチョイスの魔法で601層まで戻った。
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「一度目は失敗だな」
「ご、ごめんなさい」
いやいいよ、想定してたことだ。
最下層から出て体が思い通りに動くようになり皆一安心。
それより温泉に入れ。一回吸われただけだからすぐ回復するぞ。
「慣れるのかなこれ」
「慣れるよ。俺は苦も無く動いてたでしょ」
「おじさんは一度も失敗しなかったんですか?」
「最初は3回くらい逃げたかな。だからみんなも恥じる事ないぞ」
チョイスの魔法を使ったからMPポーション飲んでおこう。
今更だが700から直接飛ばず、一度699まで戻ったのは魔法にモンスターを巻き込まない為だ。
リターン、チョイスの使用時は周りをよく見て使うことが推奨されている。
「生気を吸われてもあわてるな。やばいなと思ったら俺が判断してまた逃げるから」
「それまでは安心して吸われていいの?」
ああ、まだ自分の体をどう動かしていいか解らんだろ。
顔つきが変わるから判断はそこまで難しくない。
「うう、GODの前で老けたくない」
「歳を重ねたカミナも素敵だと思うけどな。さて、もう一回行くか?それとも出直すか?」
三人が顔を見合わせる。自信なさそう。
「慣れれば30分くらいで倒せる相手だぞ?」
「…ちょ、挑戦しようか?」
「うん…そうだね」
「回数こなせば自由に動けるようになるよ」
「うん…」
なんだよ、はっきりしないな。
皆、老ける事にビビってんのかな。
「うーん、俺は自分がすでに老けてしまったから怖くないだけなのかな」
「女にとっては切実な問題ですよ?」
「おじさんの気持ち、少し解ったよ」
衰える気持ちが分かったか。
じゃあこれからは休み多くしてくれ。
「みんな、私が老けても笑わないでね?」
「それはお互い様だよ」
「い、行きますか!おじさん」
よし、では再戦だ!
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「ミオコが吸われてるぞ!ミヅキ!!」
「了解!!」
「カミナは魔法で追撃!」
「解った!……あ!外しちゃった!!」
てんやわんやのドタバタ劇。
少しは慣れてきてるんだけどなー。
「ミヅキ!なんで土下座してんだ!」
「うう、屈辱」
「ミオコはカミナを助けて!吸われてる!」
「あ、あ、ダメ!カミナを攻撃しちゃいそう」
「自分で魔法撃つよ!」
おお、見事撃退。鵺がゆらゆらと浮かび上がる。
「まだ大丈夫?」
「いや、カミナとミヅキはもっかい、ミオコは後2回吸われたら諦める」
「ふ、老けてきてるんだね」
あ、ミヅキが吸われちゃった。
ミヅキを助け、撤収の合図。今度は自分たちの足で699に戻った。
「いやぁ、二人ともおばさん!」
「あんただってそーだよ!カミナ!」
「ミオコは変わってないよ?」
「殺すわよミヅキ!」
阿鼻叫喚とはこの事か、じゃあチョイス使うねー。
601層に戻った。
「三人とも温泉はいってこい」
「おじさんなんで吸われないの?」
「平常心だからだ」
「吸われる恐怖心が半端ないんですけど」
「衰えは怖いな。俺はすでに戦ってる」
「GOD、あんまり顔を見ないで?」
「解った解った」
三人は温泉に行った。多分戻るまで30分はかかる。今日はもう諦めかな。
2回目は少しは動けるようになったけどまだまだだ。
大の字になり、少し休むか。
セーフティエリア、ここはのどかだな。眠くなってきちゃう。
zzzzz
その頃温泉の中では…
「ねえ、これ慣れそう?」
「わっかんない、老けるとすぐ精神おかしくなっちゃう。連続で吸われちゃう」
「だよね。自分の顔が見えないだけに不安不安で」
「おじさん最初から老けててズルい」
「それはおかしいでしょ。おじさんだって吸われたらおじいちゃんになるんじゃ?」
「GODのおじいちゃん?見てみたい…」
「(変な子)ミヅキ、土下座はやめてよ、邪魔で邪魔で」
「好きでやってないわよ!なんで私だけ毎回…」
みんなでため息、こんなに苦労させられるとは。
こんな敵は初めてだ。
「動きは遅いんだけどな、いくらでも攻撃出来そうなのに自分の体が動かなくて歯がゆいよ」
「というか次はどうする?この後行く?」
「…ねえミヅキ、ちょっと試したいことがあるんだけど」
「なになにミオコ」
…………
「…OD、GOD起きて」
「ん?おおすまん寝てたか」
「おじさん、次行きましょう」
おお、めげなかったか。今日はもう帰るつもりでいたのに。
じゃあ3回目、行こう。
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「なんだそれ?」
「ウチは足の動きに集中して、ミヅキは腕の動きに集中作戦です」
ミオコがミヅキを肩車してる。
そうか、四肢の動きを制御するの大変だからそれぞれ二本に絞るのか。
「背が高くなり、槍はリーチが長いのでジャンプしなくても届くかなと」
「まあやってみるか」
駄目でもいいよ。試してみよう。
鵺に向かっていく。俺は普通にジャンプ攻撃。
二人が遅れてやってくる。まだぎこちないな。
ミヅキが槍を打ち始める。おお、ぎりぎり当たってるな。
空振りもあるものの、ジャンプしなくて良いからその場で連射できる。
「いける!これいけるよ!」
俺も頑張らなきゃ、ジャンプしながら2発当てる。
カミナはどうだ?魔法撃つのに苦労してるな。
あっ、逆立ちしちゃった。
「うう、GOD肩車しよっか?」
「カミナが俺を?どのみち俺は剣だからリーチ届かないよ」
そんなことしなくても投擲武器のクレイブ・ソリッシュを使えばいい。
今回はみんなを慣れさせるのが目的だったから使ってないけど。
それよりミオコとミヅキが調子よく当てまくってる。
調子が良ければ不安にもならない。これはいけるかもしれないな。
あ、鵺が消えた。カミナのところへ来るだろうな。
白い糸が見えた瞬間に鵺を攻撃、離れていった。
「はあはあ、い、いけるかも」
「息を整えろミヅキ、疲れにも鵺は漬け込んでくるぞ」
地面に足がついてない踏ん張りの利かない体勢での攻撃は結構疲れるんだろうな。
あ、ミヅキが吸われた。ミオコは手がふさがってるから俺が助けないと。ていっ!
……………
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「お疲れさん、40分だ、早かったぞ」
「ぜえぜえ、息が切れる」
「おばさんってこうなんだね」
「私また結構吸われちゃった。GOD見ないで」
はいはい、ドロップ品は俺が全部拾って後で分けるよ。
取りあえず601に戻ろう。
「GODも温泉入って?3回も戦ったんだから少しは影響受けてるかも」
「え?じゃあ後で入るよ」
「ダメ!老けちゃったらどうするの!」
「もう老けてんだが」
お前達の方が目に見えて老けてるんだから先に入りなよ。
カミナは俺の事が第一みたいだ。
「じゃあおじさん一緒に入る?」
「おばはんと入ってもなー」
「殺しますよ」
「ミオコ、マジになるな」
「早く入らないと、四の五の言ってられないからみんなで一緒に入ろ?」
カミナが混浴を提案してくるとは…。
ミオコやミヅキと一緒に入っていいのか?
もうモタモタするなって感じで押された。
「ふいー、カミナ、一緒に入ろうと言いながら、背中を向けられると傷つくんだが」
「だ、だって、若返るまで待って!」
「ミヅキ、股間ばっか見ないで」
「おばさんになってるからデリカシーがないの」
「ミオコは恥ずかしくないの?」
「今は若さを取り戻すことしか興味ありません」
必死に祈るように温泉に入るミオコ。
女の美にかける情熱か。鬼気迫る迫力だ。
…最近の子は皆、下を永久脱毛なんだな。俺の頭に移植してほしかった。
「おじさんが若い頃ソロで挑戦した時は吸われたんでしょ?やっぱりハゲたの?」
「いや、ハゲもしなかったし太りもしなかった、そのまましぼんでくような感じだったな」
「じゃあ、今私達がなってるような状態に将来ならない可能性も?」
「だろうな。ケアを大事にすれば保てるんじゃないか?」
「よかった、これが私の将来の姿なのかと…」
お前達なら美魔女みたいになれるよ。
いや、美魔女って誉め言葉なんだろうか。
藪蛇になりそうだからやめておこう。
とにかくこれで700制覇だ。一区切りだな。




