49 フェンリル
何回かデュラハンを倒し、更に600ダンジョンボスマラソンをしてレベルアップ。
そろそろフェンリル行けるかな。
「でもその前に休みをー」
「仕方ないですね」
ミオコはデュランダルを持ち始めてから戦いたくて仕方ないみたい。
今までの武器とは桁違いの強さに酔いしれてしまった。
「だけど別に無敵になった訳じゃない、過信は禁物だぞ」
「気を付けます」
口うるさいようだけど、言っておけば少しは抑止力になるはずだ。
心の隅にでも留めておいてくれ。
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「うう、疲れが抜けないなー」
700ボスとの連戦、いくらレベルアップを繰り返したところで歳には抗えない。
俺の体の限界はこの辺なんじゃないだろうか。
はあ、すぐに弱気になっちゃうなぁ。
汐里さんの墓の前であいつらを守ると誓ったのは誰だったけ?
自分の歳も考えず、大風呂敷ひろげちゃった。
「でも、ここは元気だよ?」
どこ?ねえどこ?
カミナとおかしな事をして過ごした。
はあ、ぐったりだ。休みに余計疲れるようなことしてご苦労様だ。
しかし、俺も休みを欲しがる割に寝っ転がってるだけなんだよな。
カミナは退屈じゃないだろうか?
「休みだしどっか行かないか?」
「天気悪いよ?」
本当だ。今にも雪が降りそう。
寒いだろうし出かけるような気分じゃないか。
「ねえ、フェンリルってさ…」
カミナも次に向けやる気満々みたいだ。
フェンリルは巨大な狼みたいなモンスターだ。
脅威なのは牙と爪、どちらもダメージがでかい。弱点は水。
「攻撃は噛みつき、爪、遠吠えの三つだ」
「へえ、単純なんだね」
「単純と言えば単純なんだけど、それに特化してると思ってくれ」
自分の強みを洗練させている存在、下手な小細工をしないという事だ。
「遠吠えに硬直効果がある。俺はソロの時耳栓して戦ったけど、今回はどうするかな」
遠吠えは防げるけど指示が通らなくなる。
全員耳栓する必要は無いかな。
「もしくは全員耳栓して指示なしで戦うか…」
「硬直はどれくらいで切れるの?」
「5秒くらいかな。ただ硬直食らったら間違いなく攻撃は受けてしまう」
フェンリルはチャンスを見逃さない。
やっぱ全員耳栓か。戦闘はそれぞれの判断に任せよう。
「誰かが噛まれたら水の魔法だ。フェンリルが嫌がって放してくれる」
「そのあと回復?頑張るね」
回復は俺も手伝うよ。それと水鉄砲山ほど買っておかなくちゃ。
「水鉄砲で放してくれるの?」
「ああ、俺も水魔法使えないからそれで行った」
目を狙うと少量の水でも放してくれる。
視界を遮られるのが嫌なんだろうね。
「ちょっと100円ショップ回ってくるよ」
「私も行こっか?」
「そうだな、手分けして買った方が早いか」
「(一緒に行くつもりだったのに)…うん」
一人20個くらいあれば足りるかな、ミオコ達にも買わせよう。
メッセージを送っておいてくれ。
近くの100円ショップへ、在庫無いの?
三店舗目で何とか揃える事が出来た。
あ、そう言えば、熱海の女の子達に何かお礼しようと思ってたんだよな。
一回自宅の保管庫に行ってこよう
テレポートで保管庫へ。
うーん、何がいいかな。お、スクロール、これでいいか。
「ただいまー」
「GOD、遅かったね」
そっちは1軒で終わったの?運がいいな。
こっちは3軒回ったよ。
「なあ、夕方熱海に行ってきていいか?」
「(む?)ルシルちゃんに会いに行くの?」
「ま、まあそうと言うか。3人の女の子達に渡したいものがあるというか」
カミナの目が鋭いなぁ。あの子達とはなんもないぞ?
「これなんだけどね」
「ああ、スクロール?」
「いつもは教えてる立場だけど、この前は教えてもらう感じになっちゃったんだよな。そのお礼だ」
「この前って?」
むむ、ミスったな。いっつもカミナと一緒だからこの前っていつ?ってなるよな。
どうせ変に疑うしカミナには話してないんだよな。
「か、カミナが美容院言ってる時に…」
「ふーん」
「怒ってる?」
「浮気したの?」
「してないよ。でもカミナに話すと疑われるだろうなと思ったから言わなかったのはごめんなさい」
「…いいでしょう」
ふう、なんとか許されたか。
結婚後最大のピンチだったぜ。
「でも、何を教えてもらったの?」
「うーん」
「え?話せないの?」
「えーとな、俺はカミナが精霊を持ってる事を誰にも話してない。同時に、他の人が精霊を持ってる事をその人の許可なく話せなくてだな」
「……ああ!そういう事?!」
まいったな。これも話すつもりはなかったんだけどな。
経験値8倍の話はしたし気づくよね。
あの3人のうちの誰かが経験値アップの精霊持ちだと予想がついてしまう。
「うーん、罪悪感が…」
「ご、ごめんね?聞いちゃいけない事だったね」
「カミナだから信じられるけど、ミオコ達にも言っちゃだめだぞ」
「うん、あの二人はパーティに入れようとしかねない」
経験値300の敵がいるとして現在は300×4÷4=300。
クオンが入ると300×8÷5=480。
1,6倍か滅茶苦茶お得だな。
「解った、熱海に行ってきていいよ」
「別に一緒に来てもいいんだぞ?」
「ううん、顔に出ちゃうと困るから私は行かない。そのかわり位置情報を共有しようよ」
え?位置情報ってGPSアプリの?
俺使った事ないけどあれってほぼ浮気防止のヤツじゃないの?
「黙って会いに行った罰です」
「まあいいか、俺は浮気しないし」
「信じてるからね?」
「(信じてたらアプリ入れさせないだろ)でもな、俺はあいつらの成長が楽しみでな、これからも見守り続けたいと思ってる」
「それが恋に変わることはない?」
「無いよ。どちらかと言うとわが子を見守る心境だ」
歳だからだろうな。若い子が成長する姿を見るのが楽しい。
あいつら成長が早いから見てて楽しいんだよ。
「カミナ達もそう、ぐんぐん成長する姿を身近で見れて楽しいんだ」
「ああ、育成の時に私もそう思ったかも」
あの子達良い子だったもんな。
いやカミナはまだ若いじゃないか。
でもお姉さんとしてそう思うものなんだろうな。
「そんな訳だからこれからも熱海にちょくちょく行っていいか?黙って行くような事はしないから」
「うーん、仕方ないなぁ」
何とか許可が出た。ふう、長く困難な戦いだったぜ。
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熱海ダンジョン前広場
「そういう訳で、この前のお礼だ」
「どういう訳?」
「何があったんすか」
魔法のスクロールだ。一回こっきりの使い捨てだが、強力な魔法の巻物が5本。
いざって時の逆転アイテムだな。
「5本?ウチら3人なのに」
「もう一本持ってこれば良かったかな。でも後衛が使った方がいいぞ」
「どんな魔法なの?」
適当に持ってきたから解らん。
えーと、火、雷、雷、氷、毒だ。
こう敵に向かって巻物を広げるだけで発動するぞ。
「師匠、ちなみに熱海100中ボスに効くのは?」
「全部だな。どれ使っても一撃だ」
「「「一撃?」」」
「オーバーキルって事だ。100中ボス程度に使ったら勿体ないアイテムだ」
100階層程度の敵は属性の弱点もまだ無いからな。どれ使っても一緒だ。
200くらいから使ってほしいアイテムだが、別にお前らの好きにしていいぞ。
「じゃあ俺は帰るぜ。あまりお前達と話してたら嫁が嫉妬するんだよ」
「へえ、あのカミナさんが?」
「無敵っぽい女性なのにね」
「意外と可愛いとこあるんすね」
「そうだろ?無茶苦茶可愛いんだ」
「「「あはは(のろけかよ)」」」
「じゃあなー」
おじさんは帰って行った。さてこれはどうしたもんか。
「どう使うのが正解なの?」
「解んない。でも100階層は突破できるって」
「でも突破出来たところでチョイスの無いウチらじゃ…」
そうだよね、次に潜るときは1階層からやり直し。また100階層が壁になる。
スクロール使って5回は突破出来る事になるけど…
「100階層で使うのは勿体ないとも言ってたね。じゃあ保留でいいんじゃ?」
「でも今は99階層までしか潜れないし、101~でレベルアップ早めた方が良くない?」
それも一理あるような気がする。
休みの日にまず100まで潜ってスクロールを使ってボスを倒し、残りの時間を101~で経験値稼ぎ。
で、リターンで戻ってくる。悪くないのかな?
「100中ボスの推奨討伐レベルは122だったよね?101の推奨レベルはいくつだっけ?」
「101はセーフティエリアだよ。ちなみに102の推奨レベルは三人だと平均106、今の私たちのレベルだね」
そうだった。セーフティエリアも行ってみたいなあ。
「今のレベルだと102が限界っすか。旨味あるのかなぁ」
「でも100中ボス倒せばレベル上がるかも」
「うう、誘惑が多い、どうするのが正解なんだろう」
取りあえず保留だね。貴重な物みたいだしよく考えてから使おう。
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「耳栓はしたか?」
「「「…」」」
「あ、こっちの声も聞こえないし、返事されても聞こえないんだった」
那須ダンジョンボスエリア フェンリルの間
俺達は那須ダンジョンを探索し、四日目に最下層まで来た。
銀色に輝く毛並みの大きな狼がうなりだす。
「でっか…」
ミヅキが何か言ってる。口の形からおっきい///だと思う。
俺は両手を斜め前に指し示す。
広がって展開しろ、という意味だけど伝わってるかなぁ。
フェンリルを囲む、周囲を警戒し、後ずさりながらフェンリルが様子をうかがう。
隙が無いと判断したのかいきなり遠吠えを使ってくる。
アウォォォォォ~~~~~~~
遠吠え時は攻撃チャンス、一斉に飛び掛かる。
2発入れたところで遠吠えキャンセル、カミナを狙いに来たな、大きな口がカミナに迫る。
ガキィーーン
カミナの前に立ちふさがり、その牙を剣で受ける。
なんて力だ、全然踏ん張り切れない、後ろに後ずさる。
カミナが水鉄砲を出し、フェンリルの目に発射。
フェンリルがびっくりして後ろに飛び顔を振る。
よしよし、水鉄砲効いてるぞ。
仕切り直しだ。フェンリルは動きながら俺達に距離を詰められないよう飛び回る。
陣形が崩れるのを待ってるんだろう。
あ、ミズキが遅れたな。飛び出す形になったミオコを狙ってくる。俺も間に合わない。
ミオコがデュランダルをフェンリルの顔に入れる。鼻狙いか。
見事に命中し、フェンリルの体が一瞬だけ揺れる。だが勢いは止まらなかった。
「ぎゃーーー!!」
ミオコが噛まれてしまう。すぐに目に水鉄砲発射。
ミオコを放し、後ろに飛びのくフェンリル。ミオコに回復をかけてやる。
「あ、ありがとうございます」
ミオコが何か言ってるけど解らないぞ?
気になるから口を動かさないでほしい。
あ、ミズキが爪食らった。壁まで飛ばされる。カミナが回復に行ってくれた。
次の瞬間こっちに飛んでくるフェンリル。
牙で俺を、爪でミオコを同時に狙ってきた。
互いに剣で受ける。衝撃が凄いが少し後ずさっただけで止める事が出来た。
ミオコに来た爪を引っ込め、すぐに別の爪が俺に飛んできた。
まずいな、俺の剣は牙を抑えてる。これは食らうしかないか?
ミオコが水鉄砲を出そうとするがその前に食らってしまった。
直撃し、壁まで俺の体が飛ばされる。
その瞬間ミオコの水鉄砲でフェンリルは後ろへ飛んだ。
間に合わなかったけど立て直す時間は作ってくれた。
自分で回復し、戦列へと戻る。
一撃一撃が重いな、俺の場合は爪でHP6割持っていかれた。
3人はビキニアーマーだからそこまででは無いだろうが、迫力ある攻撃に少し狼狽えているかもしれない。狼だけに。
あと、こいつはタフなんだよな。今日は何時間かかるやら。
おお?!ミヅキが仕掛けたな。
フェンリルが俺の方を見た隙に全力ダッシュ、首元にミヅキの槍が深く突き刺さる。
フェンリルがうめき声をあげたような気がした。今のは会心の一撃だ。
ついでに俺とミオコも攻撃、カミナも風の魔法を放ったな。
水の魔法だとフェンリルは条件反射で飛びのくから風で正解、俺達の攻撃の事も考えてくれたのだろう。
たまらずフェンリルが倒れのた打ち回る。
暴れる体に巻き込まれたら危険だ。慎重に何発か入れるがあまり決定打を入れられなかった。
そのうちフェンリルが立ち上がり、体制を立て直してきた。
カミナが噛まれた。3方向から水鉄砲が放たれる。
なかなか放さない、牙に引っかかったか?暴れるフェンリルの頭、カミナが放された時に大きく宙を舞った。
着地地点まで行き見事キャッチ、だがフェンリルの爪が飛んでくる。それは読んでたぜ。カミナを抱えながら転がり避ける。体制を直しカミナをヒーリング。
「GOD愛してる♡」
無茶苦茶にしてって言った?ちょっと解んないな。取りあえず立ち上がり体制を整える。
フェンリルはまだまだ元気いっぱいだ。油断も隙も無い。
さあ、持久戦だぞ。
……………
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「今日は3時間かかったか」
「た、タフすぎ」
みんなぶっ倒れちゃった。
女の子達が恥ずかしげもなく大の字だ。
「でも100円の水鉄砲が大活躍だったね」
「あんな強敵の弱点が100円鉄砲なんて皮肉だよね」
「おじさんが考え出したんですよね?」
「ああ、水鉄砲にたどり着くまで色々試した」
俺の場合はレオンの加護でダンジョンボスでも逃げられるから色々試せたんだよな。
他の人ではそうはいかない。
「もちろん専門職の水魔法があればダメージも大きいし一番楽だぞ。スクロールで試したから解る」
「ごめん、私全然水魔法撃てなかった」
初回は仕方ないよ。隙がないもんな。
動きは解ってきただろうし次に期待だ。
「でもこれで、後の700は下呂のみかぁ」
「おじさん、またレベルアップですか?」
「いや、下呂のダンジョンボスはちょっと特殊でな、レベルは足りてるけど後回しにしたんだ」
「下呂のボスって何だっけ?」
「鵺だよ」
掴みどころのない敵 鵺。
強さよりも精神力が試される相手だ。
この子達を勝利に導けるだろうか?俺としても試練だな。




