45 ミオコの悩み
ーおじさん、ちょっと二人で話があるんですがー
「ん?カミナが一緒じゃダメなのか?」
ミオコから電話が来た。
何か深刻な感じだが、おそらくは有馬の事だろう。
「カミナ、ミオコと話してくる」
「私は行っちゃダメなの?」
「仲が良いからこそ話したくない本音もあるでしょ」
嫌われたくないから言わない事もある。
そうしないと人間社会はやっていけない。
「私一人になるよ?守ってくれる約束は?」
「カミナ、お前はもうレベル780の冒険者だぞ?絶対防御もあるし」
ほとんどの脅威から自分で自分を守れる存在。
万が一敵わない脅威が来ても絶対防御で耐えられる。
「なんかあったら絶対防御張りながらスマホで連絡して」
「…浮気だ」
違うって、どこか人目のある場所で会うよ。
近くのバーガーショップで良いか。
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「おう、カミナが浮気を疑ってるから手短にしてくれ」
「だから中学生が来るようなバーガーショップなんですか」
子供が騒がしい。逢引するような場所では無い。
おじさんはコーラだけ、200円もしないメニュー。
「有馬の話だろ?」
「はい、ウチはどうしても行く気になれなくて」
「昨日カミナとも話したんだけどな、シオリさんの弔いの為にも行くべきではないかと思うんだ」
おじさんはカミナの意見に同調してるみたい。
ウチの我儘がどこまで通用するだろうか。
「俺も花をたむけてあげたいと思っている」
「ウチは…いろいろ思い出すから嫌なんです。今も時々フラッシュバックを起こして」
「ふむ、現場に行けばなおさらそうなると」
「はい」
おじさんはウチの意見もしっかり考えてくれてる。
歳を取ると思慮深くなるんだろうな。
「有馬の地を踏むことすら嫌なのか?」
「はい、見慣れた景色を見れば、それだけで色々思い出してしまうと思います。シオリと何を話したか、笑顔やウチを呼ぶ声まで」
「そうか、じゃあ有馬はやめよう。カミナ達には俺から言っておくよ」
え?こんなにあっさり?
なんだか拍子抜け、責められることも想定していたのに。
「亡くなった人は残念だが、今生きてる者の暮らしを優先させるのは当然でな、冒険者は体はいくらでも強くなれるけど、心が強くなる訳では無い」
ウチは元々小心者なのよね。
一時期は動画サイトの登録者数や再生数に振り回されてた。
カミナとおじさんの事があって、思い切ってやめてしまった時には心が軽くなった。
「因みに、もっとレベルが上った時に、俺とカミナとミヅキで有馬攻略するのは許してくれるか?」
「ウチ抜きで…はい、それに関しては文句を言える立場では無いと思います」
カミナとミヅキの無念も晴らしてあげたいと思っているのだろう。
もやもやが無いと言えば嘘になるが、そこまで強制も出来ない。
本音を言えば、カミナとミヅキにも諦めて欲しい。
ウチが逃げて二人が逃げなかった現実を目の当たりにしたくない。
二人が成長して自分が止まっている気分になるだろう。
でもそこまで我儘は言えない。
乗り越えられる強さがあれば良かったんだけどね。
人それぞれ各々に限界はある、ウチはそこまで強くなれない。
「じゃあ帰るよ。諦める事は決して悪い事じゃない、無理して負担かけるよりは全然良い」
ふと、シオリの姿がフラッシュバックする。
レベル差があるのに何も言わなかったあの子。
ついていくのが大変だと、一言でも言ってくれれば…
いや、ウチらが気づいてあげなければならなかった。
ダンジョンの先輩として、もっと冷静に分析して、無理だと判断するべきだった。
レベルが上るのが嬉しくて、欲が出て、判断が鈍ったのではないだろうか。
「ミオコ、お前が一番年上だったからお前が決断を迫られる場面もあったんじゃないか?あまり責任を感じすぎるなよ」
おじさんは帰っていった。
………最後の言葉が、頭から離れなかった。
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「そんな訳で次は城崎を目指そう。ミオコの事は責めてやるなよ」
「責めはしないけど、そっか、ミオコはそんなに苦しんでたんだね」
城崎のダンジョンの最終エリアには海水の地底湖がある。
ダンジョンボスはクラーケン。巨大なイカの化け物だ。
「水の中にいるからやっかいなのと、触手で水の中に引きずり込もうとしてくるから色々アイテムも準備しなきゃ」
「水の中でも呼吸ができるアイテムがあったよね」
ああ、昔の俺は酸素ボンベ使ったけどね。
小型の酸素ボンベを山ほどアイテムボックスに入れてたな。
スキューバー用の、ボンベが左右に分かれているやつが昔はあったんだが、今は無くなったんだな。
なんか事故でもあったのだろうか。
「まあ今は酸素ガムがあるから必要ないけどね」
噛むと空気が出てくる酸素ガム。ダンジョン産の素材で作られたアイテム。
慣れは必要だが5分は水中にいられるようになるらしい。
一人30枚もあれば足りると思う。値段は少々お高い。
「ビキニアーマーは泳ぎ能力が上がる、特にサファイアのビキニアーマーは水耐性も上がるし、他よりさらに泳ぎ能力が上がる」
「じゃあミヅキの活躍に期待だね」
ああ、槍もクラーケンには効果的だ。
ミヅキの活躍次第で討伐時間は変わってくる。
ミヅキ一人に負担かける気は無いけどね。
「でもGODはどうするの?ビキニないよね?」
「俺は陸から雷か炎の魔法撃つことになるかな」
ソロの時は水中戦を選んでたけど、今はパーティだ。
一応引きずり込まれた時用にガムは持っておくけど。
「髪を濡らしたくない」
「それが本音なの?もう、真剣にやろ?」
真剣だよ?それを踏まえてちゃんと考えてるよ。
大丈夫、命大事にで計画を練ってる。
「一度ダイビングプールで練習した方が良いかもな」
泳ぎにも酸素ガムにも慣れておかないと。
カミナはスキューバーやった事無いって言ってたよな?俺も無いんだよな。
「でも泳ぎは得意だよ」
「そっか、小学生の時水泳教室行ってたんだっけ」
俺も泳げるけどミオコとミヅキはどうかな。
二人はダイビングの経験者なのか、じゃあ安心か。
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次の日、ダイビングプールに来た。
ビキニアーマーの女子3人と海水パンツのおっさんが一人。
「許可貰ったからその姿で泳いで大丈夫だぞ」
ミオコが少し気まずそう。
有馬の事を気にしてるんだろうな。
「鎧のまま深いプールに飛び込むのってちょっと抵抗あるね」
「ほらいけミヅキ」どんっ
「わ!」
バシャーン
「なにすんの!」
「ちゃんと浮くだろ?取り合えず泳いでみろよ」
ミヅキが不貞腐れながら水を一掻き。
「!」
「え?滅茶苦茶進んでない?」
「水の抵抗ないみたい…」
ミヅキがご機嫌になり、すいすい泳ぐ。
少し潜って浮かんでくる。ザパー
「おお、ドルフィンジャンプ」
「に、人間の動きじゃないよ」
そりゃそうだ、俺達は冒険者、元々人間離れしている。
ほれ、カミナとミオコも行きなさい。突き落としてやろうか?
「わ、解りましたよ」
「GODは来ないの?」
俺は水泳能力アップないからね。
自分の泳ぎは理解している。
二人ともすいすい泳ぐ。
カミナは水泳教室行ってただけあってさすがだな、フォームがしっかりしている。
ミオコも泳ぐの得意みたいだ。気持ちよさそうに泳いでいる。
でもやはりミヅキだな。
サファイアのビキニアーマーの水泳能力強化は絶大みたい。
深く潜っては水中から飛び出し、5m位ジャンプして静かに着水。
楽しくてしょうがないって顔をしている。
「や、やばい、天井ぶつかりそう」
「ああ、ジャンプセーブしてるのか」
海とかならもっとジャンプ出来そう。
そうだよな、レベル757の冒険者の能力ならもっと飛べるか。
次は酸素ガム使ってみるか。これは俺も使った事無いんだよな。
「おじさんも入るの?」
「水泳キャップ被るんだ?」
「髪を乱したくないもんでな」
「あはは」
薄い髪で水に入るとハゲは目立つ。
やれやれ、本当はやりたくない。
「スキューバーの呼吸法に近いらしいけど、吸う感覚が無いからまた難しいらしいんだよね」
口の中で噛むと空気が出てくる酸素ガム。ダンジョン産の資源で作られている。
まあいい、試してみよう。
「ごふ!」
「おじさん汚い!」
「びっくりした、一噛みで滅茶苦茶空気出るぞ」
君達も試してみたまえ。なかなかおもしろいぞ。
「ばふ!げほ、む、むせぢゃった」
「ミヅキ、鼻水出てるぞ」
「ぶふ!な、なにこれ、けほっ、けほっ」
「ミオコも涙目だな。カミナはやらんの?」
「……GODの前でやりたくない」
気にするなよそんな事、こないだおかしな事をしてる時もむせてたじゃないか。
いまさら何を言っているんだ。
「…なるほど、呼吸法が全然違うねこれ」
水泳教室の知識があるカミナ、あまり苦ではなかったみたい。
潜りながら試してみるって、あ、俺も練習しないと。
水の中で泳ぎ、苦しくなる前に一噛み。
空気が多すぎるので逃がしてやりながら肺にも取り込む。
当然肺からも空気を出す必要があるため、息を吐きだす。
「ごばっ!げほげほ、や、やっぱ難しいな、慣れが必要だ」
「息吐くときガムが口から出ちゃった」
「う、ウチは逆、ガム飲み込みそうになっちゃった。けほっけほっ」
難しいな、水中で口の中に発生する空気だけを肺に取り込む。
普段の感覚と全然違う。
「ごぱぁ!あ゛、鼻で吸っぢゃっだー」
「ウヂもー」
「わだぢもー」
はあ、時間かかりそうだなこりゃ。カミナはどこ行った?
深い場所を魚のように泳ぐカミナを発見。
むう、克服してしまったか。俺らも頑張らないと。
その後、しばらく練習して酸素ガムを使いこなせるようになった。
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「ふー♡海行きたーい」
真冬だぞ。ミヅキはすっかりはしゃいでいる。泳ぐのが楽しくてしょうがないようだ。
他の3人は疲れたのでプールサイドで休んでる。
「ほら見て、立ち泳ぎ」
「水の中から体が出すぎだろ」
足首しか潜ってない。ほぼ水の上で歩いてるような状態だ。
サファイアのビキニアーマー+レベル757の能力は凄まじいな。
「まあクラーケンは任せておいてよ」
「調子に乗ってるなぁ。でも頼りにしてるからな」
「…みんなごめんね。ウチのせいで」
おっと、また気にし始めたのか。
別に討伐の順番が変わっただけだよ。
有馬もそのうち攻略することになるだろうし、ミオコ抜きでだけど。
「別に嫌な事を無理にする必要もないだろ?俺もクラーケン戦ではお前らをビショビショにして丘から高みの見物だ」
「私がおじさんを突き落とすけどね」
「あはは、GODそんなに髪が濡れるの嫌なの?」
嫌に決まってるだろ、ぺっちゃんこになるんだぞ。
張りの無い髪は水滴の重さに抗えない。
どうせ俺には水泳能力アップは無い。
丘から水中から多方向から攻撃した方が効果的だろ?
「ソロの時はどうしたんですか?」
「にらみ合いだな。俺は水から出てくるのを待ち、向こうは俺が水辺に来るのを待つ」
どちらも自分が有利な場所で戦いたい。
クラーケンは体を半分水面から出し、足をくねくね挑発、斬りかかったところを捕まえて水に引きずり込もうとする。
俺はすぐには引きずり込まれない場所で我慢、焦れたら負けだ。
「それでも何回か引きずり込まれたけどな」
「引きずり込まれた時の対応は?」
足を攻撃、吸盤がくっ付いてくるから暴れても無駄、斬り落とすしかない。
足はしばらくしたら復活する。
「復活ですか。じゃあどこを攻撃すれば…」
「弱点は両目の真ん中の少し上の方だな、人間で言うと眉間に近いかな」
まあ弱点を攻撃するには足を何本か切り落とさないと届かないんだけどな。
足が減ってくると水の中に入って復活を待つし、めんどくさい奴だよ。
「なのでこっちが水を苦にしなければより討伐は速い」
「なるほど、このミヅキ様の時代が来たか」
カミナは足を切る方法がないから捕まったら助けてあげてくれよ。
いや、俺がまっさきに飛んでいくけどね。
「俺は魔法で傘みたいな頭を狙う。弱点ほどでは無いけどそこそこ効く」
「他に気をつける事は?」
「短い触手で魔法を使ってくる。水の魔法だ。これもミヅキならそんなに効かないと思う」
「おお!今すぐ行こうよ!」
気が早いよ。まだまだ説明は終わってない。
「後は墨だよな。イカだけに」
「目くらましって事?」
ああ、粘着性の墨でな。まともに食らうとこれがなかなか取れなくてやっかいだ。
水中では周りが見えなくなるし、方向感覚が狂う。
「他にも足全体を使った津波攻撃とか、結構多彩な技を使ってくるぞ」
「ふーん、大変そうだね」
「いや、今思えばだけどさ、有馬のデュラハンから行こうって言ったのは、その時はまだビキニアーマーを渡してなかったからで…」
今日の皆の動きを見て確信した。クラーケンの方が楽になった。
現在のレベルでも行けると思う。
「俺が足を引っ張らなければいけるよ」
「おじさんだけビキニないもんね」
「元々俺が一番レベル低いんだからな?一番役に立たないと思ってくれ」
「GOD、私が助けるからね」
「…おじさん、このあとまた二人でお話を」
おや?またかミオコ。
仕方ない、二人は先に帰ってくれ。




