43 終幕
「なあ旦那はん、これ見てみぃ」
翌日、ホテルのプールサイドでくつろいでたらギャル達が来た。
スマホか?動画を見せようとしてるみたいだ。
「あれ?これ昨日の映像か?」
「現地のテレビ局が来てたみたいやね」
「これ俺か?なんかカッコ良くないか?」
遠目からのアングルで大きな月をバックにホテルの屋上からドローンへと特攻する巨体。
顔はマスクで全く見えないしシルエットは残念だが、映画のワンシーンみたいだ。
「めっちゃバズってるわ」
「こんなん見たら惚れてまうやろ」
惚れられても仕方ない、そう思えるくらいの映像だ。
体が重くて全然飛べてないと思ってたけど、このアングルから見ると凄い飛んでるな。
その後のロープアクションもかっこよすぎるだろ。ハリウッドが放っておかないレベルだ。
「そんな訳で現地の取材班が探しとったよ」
「ええ?取材は困るな。犯罪者に顔がバレる」
「だったらこんなとこにおったらダメやで。部屋にもどりぃ」
仕方ないな。大仕事終わったんだからゆっくりしたかったのに。
というか俺達は日本にいつ帰れるんだ?菊池は忙しそうで見かけないし。
ギャル達よさらばだ。教えてくれてありがとな!
「…行ってもうたな」
「ウチらの水着姿に一言くらいあってもええやないの」
「頑張ったのにな」
「いけずやわ」
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熱海ダンジョン前広場
「おはよー、ねえ動画見た?」
「見たよ!あれ絶対師匠!」
「おじ様遠いトコ行っちゃってウチ寂しいっす」
今日は日曜日、昨日外国のどこかで犯罪者グループの摘発があったらしい。
被害者の中には日本人が含まれるとのことで日本でも話題になっているニュースだ。
「でもいくら冒険者とはいえあの体型であんなに飛べるもんなの?」
「インパクト凄いよね」
「重力感じないくらいぐんぐん上昇してるっすよね?あんな事が可能なんすかね」
建物の屋上から浮かび上がり、ゆっくりと上空へ移動してゆくドローン。
そこに向かう弾丸のような丸い影。
月夜の背景と相まって、インパクトが絶大だ。
「はぁ…やばい、抱かれたいかも」
「ええ?マジっすかパイセン」
「あれ?またオークに食べられちゃったの?」
「る、ルシルが!パイセンやめて!ルシルがおかしくなってる!」
しばらく大丈夫だったのにまたルシルのおかしなスイッチが入ってしまった!
パイセン正気に戻って!ウチ一人でこんなのどうすりゃいいのよ!
「ご結婚されたようなので祝福してあげてくださいね」
「受付のお姉さん?え?そうなんすか?」
「ガーン」
「あれ?あたしなにしてたんだろ?」
よ、良かった。みんな正気に戻った!
ありがとう!個人情報ガバガバお姉さん!
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湯河原500ダンジョンボス部屋
「ふう、おじさんいなくても余裕だったね」
「ビキニアーマー凄すぎない?全然ダメージ軽いんだけど」
おっさんが出張中の為、元の3人でダンジョン攻略を進めるカミナパーティー。
500層くらいなら3人でも余裕で制覇できるようになってた。
「しかし3人ビキニだと今まで以上に見られるよね」
「それはしょうがないよ。こんなに良い女達の露出を拝めるんだから」
「GODに感謝してよ?こんなに凄いものをタダでくれたんだから」
解ってますって。嫁のカミナにも感謝だよ。
カミナがおじさんを落としてくれなければ、経験値ブーストもビキニアーマーもなかったからね。
「おじさん、おみやげにドローン持ってきてくれないかな」
「あの動画の?無茶言い過ぎよミヅキ」
「月夜に飛翔するGOD、素敵だったな」
「そう?私昔の映画ポスター思い出したけど。宇宙人のヤツ」
「ああ、自転車の籠に乗ってるヤツね」
「あれも素敵じゃない。GODはもっと素敵だけど♡」
カミナはいつも通りおじさんの事となると盲目だ。
おじさんの前では猫を被ってるのかあまりウチらと喋らないが、3人だと結構よく喋る。
「おじさんいつ帰ってくるの?」
「解んない。忙しいのかRINEの既読がつくのも遅いんだよね」
「時差のせいじゃないの?」
「浮気してんじゃない?」
「「ミヅキ!!」」
ミヅキは相変わらずだ。外国育ちの天真爛漫。
根は悪い子じゃないと思うんだけどね。
「そりゃあGODはモテると思うけど…」
「え、う、うん」
「お、おう」
「二人とも、GODの事を好きにならないでね?」
「「…」」
本気で言ってるからおもしろいよね。
好きにならないでか、でも実際全然アリになってきてんだよね。
最初はハゲが致命的に駄目だったけど、慣れると気にならなくなってきた。
太ってるよりは中肉中背が好きだったけど、ぽっちゃりも可愛く見えるようになってきた。
「どうしようかな。ウチも彼氏と別れたし」
「ちょっとー」
「ついに別れたのね。年下に結婚で先を越されて焦んないの?」
「うるさいわねミヅキ、アンタだって今彼氏いないでしょ」
「私のお眼鏡にかなう男がいないだけよ?」
「それ30過ぎて婚活パーティ行ってる女のセリフだよ」
そうは言ってもウチも今年で25歳、婚活パーティ行ってみようかな。
まだ焦る年齢じゃないとか言ってるとあっという間に30だからね。
「ミヅキも行ってみたら?婚活パーティ」
「彼氏は欲しいけど別に結婚したい訳じゃないんだよね。どうせ私の方が稼ぎが良いし、共有財産とか意味わかんない」
それは確かにそう思う。冒険者は稼ぎが良すぎるのよね。
財布を一緒にしようとか言われたら、ウチも抵抗ある。
「カミナのところはその辺どうするの?」
「全然決めてないけどGODのしたいようにする」
聞くまでも無かった。おじさん、資産いくらくらいあるんだろう?
9億のビキニアーマーをぽーんとくれるような人だ。100億以上は持ってそうだな…
「そろそろ出ない?家に帰ってシャワー浴びたい」
「そだね」
「ミオコは今日もカミナの家に泊まるの?」
「おじさんが心配性だからね。いない間はウチがカミナを守らないと」
「てかそろそろ動画撮らない?3人共ビキニでさ」
「再生数は間違いなく稼げるね」
「私結婚報告しようかな」
「うーん、視聴者の反応が怖い」
女三人だとにぎやかだ。
おじさんがパーティに入る前もなんだかんだ楽しかったんだよね。
おじさんがいるとウチも経験値を求めてハイエナみたいになっちゃうからなぁ。
今回いなくなってそれに気づいた。反省反省。
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「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
「が、外国人のお姉さん、大丈夫かい?」
あ、変な声が出ていたわね。気持ち良すぎて気づかなかった。
CIAエージェント、ケイトリン・リリー・フィリップス。
今は東京下町の銭湯に来ていた。
温泉にばかり入っているのも良くないと聞いて、趣向を変えてみたら見事にハマってしまったわ。
変な形の椅子に座るのは最初怖かったけど、これマッサージしてくれるのね。
拘束されて有無を言わさずエッチな事をされる椅子に似てるんだもの。期待…勘違いしちゃった。
「コーヒー牛乳ください」
「あいよ」
腰に手を当て一気に飲み干す。
これ、おじさんがやるスタイルらしいわね。
マナーなのかと思って真似してたら若い女性に笑われたわ。
それ以降、引っ込みがつかなくなって続けてる。日本め、よくも騙したわね。
やば、通信が来た。外に出ないと。
「はい」
ーケイトリン君、エースが結婚したという話は聞いたかね?ー
「そうなんですか?エースは現在他国に行ってると聞きましたが」
ーパートナーは初婚のようだし、ハネムーンを考えている可能性があるー
「はあ」
どういう事かしら?日本人のハネムーンと言えばハワイよね?
アメリカに来る可能性を考えているという事かしら?
「ですが、エースもパートナーも高レベルの冒険者、我が国にとっては歓迎できる来客では無いですよね?」
ーうむ、本来はそうなのだが、今回は少し状況が変わってねー
「と、言うと?」
ー他国で活躍するエースの動画を君は見たかね?ー
ああ、あの月夜に飛翔する丸い物体。
コメント欄にはハリウッドみたいって書いてあったけど、私は香港の『燃えよデブ〇ン』だと思った。
―もうすでに我々の予測を越えてエースは元の実力を取り戻してきている。さらにエースが加わった途端、パーティメンバーの成長も驚異的に伸びているー
「それは解りますが、だからと言ってどうしようも…」
―少し、成長を止めたいのだー
ええ?それがハネムーンに関係してくるの?
なんだか嫌な予感しかしない。
ーエースが米国領に入ってくれれば後は我々でなんとかするー
「ちょっと待ってください、いったい何をする気なんですか?パートナーも一緒なんですよ?」
―それは知らなくていい。君はエースを誘導してくれればそれで良いのだー
はあ?!アメリカに招待しろって言ってるの?どうやって?
接触はしたけど全然親しくないわよ?私の言う事なんてあやしいって思うに決まってるでしょ!
それにエースもパートナーもレベル600越えの冒険者、簡単にやられるとは思えない。
むしろ母国に被害が出ると思うけど。
何する気なのかしら?どう考えても国際問題になりそうな話だ。
…困ったわね。国際問題になったら私も日本にいられないわ。
国の関係が悪くなったら強制退去させられるだろうし、そのきっかけが私だとバレたら拘束もありうる。
高レベルの冒険者が日本に増えてから、国際的立場が色々変化したのよね。
アメリカだって日本を怒らせたらどうなるか…
「すみません。今回の命令は断らせていただきます」
ーな、なんだと?!ー
「何をする気か知りませんが、エースは用心深い男です。当局の思い通りになるとは思えません」
ー我々には不可能だと言うのか?末端の分際で無礼だぞ!ー
「私だってあなたを簡単に殺せますよ?」
ーな!き、君は、母国を裏切るのか!ー
「そんなつもりはありません。ただ冒険者を舐め過ぎだと思います。エースはパートナーの事をとても大切にしています。もしパートナーに何かあれば、エースはどんな報復をしてくるか解らないですよ?」
私が母国を攻撃するとしたら、テレポートで移動しながら核施設や原発を攻撃するわね。
重要施設がある国ほど再起不能にするのは簡単だ。
高レベルの冒険者にはそれが出来てしまうのだ。
ーくっ!もういい!ー
通信が切れてしまった。
はあ、何か処分があるかもしれないわね。
だけどこれは母国を思えばの事なのよ。解ってもらえると良いけど。
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「ふいー、シャワー気持ち良かった」
お、カミナからRINEが来てるな。
動画見たよ、いつ帰れるの?か、解んないんだよな。
あの動画、日本でも騒がれてるのかな。
事後処理はおそらく当分時間がかかるよな。
もし逃げた犯罪者がいるとしたら、また出番があるのかな。
菊池に聞かないと何とも言えない。
「このホテルはいつまでいていいんだろ?」
正直やる事無くて暇だ。
プール行っても寝てるだけだし。
スマホで動画でも見るかな。不健全な生活だ。
コンコン
お、菊池かな?
「待たせて悪かったな。俺はもうしばらく残るがアンタ達は帰っていい」
「成果はどうだったんだ?今回の作戦は成功か?」
「まだはっきりとは解からねえが取り合えず死者はいなかった。成功と言っていい」
犯罪者の総数とか解りようがないもんな。施設に絶対いるとも限らないし。
人質を攫う為にどこか別の場所で活動している可能性もある。
捕まえた犯罪者を厳しく追及して一網打尽に出来ればいいけどな。
でも死者がいなかったって事は、人質はすべて確保出来たって事になるのか?
じゃあ成功と言って良いだろうな。
「明日の飛行機で帰ってくれ。空港まではバンで送らせる」
解った、お前はまだまだ大変だと思うけど体壊すなよ。
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「ふいー、どうせなら現地からテレポート使わせてくれればいいのにな」
4時間の車移動、7時間のフライト後、東京の空港に着いた。
ここからまためんどい入国審査か。
「しゃあないよ、アイテムボックス調べて貰わんと」
「旦那はんは都内なんやろ?ウチらはこのあと京都までテレポートやで」
移動で疲れてるのに長距離テレポートご苦労様。
他の皆も疲れてるな。冒険者でも移動は退屈だから疲れるんだよな。
ながながとした入国審査を終え、やっと解放された。
「旦那はん、RINEくらい教えてくれへんの?」
「嫁に疑われる可能性がある事は1ミリもしたくないんだ、ごめんな」
「ほんまいけずやなぁ」
すまないな、一緒に戦った事は忘れないよ。
じゃあ達者でな。
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「ただいまー」
「GOD!会いたかったよー」
カミナに抱き着かれ、幸せが戻ってきた。
移動でシャワー浴びてない、臭くないか?
「お風呂入る?背中流してあげるよ」
ありがとう、お、ミオコも居てくれたのか。
俺の到着を見届け自分の家に帰っていった。ありがとうな。
「うー、湯舟がしみるなー」
「向こうではお風呂に入らなかったの?」
シャワーしかなかったからね。海外あるあるだ。
プールはあるのにバスタブは無いんだもんな。
「やっぱ日本が一番だよ」
「新婚旅行は連れてってくれないの?」
「そうだな、どっか行きたい国ある?てか式はどうする?」
こないだ衝動で婚姻届けは出してきた。
まだ向こうの親にもあいさつしてない。
いろいろ順番を間違えたかもしれない。
「行きたいのはボリビアかな」
「ウユニ塩湖か?あそこは12月くらいでないと鏡張りになってないぞ」
「ええ?そうなんだ?」
南米を選ぶとはトリッキーだな。まあ冒険者に治安はあんまり関係ないからね。
現在9月、ウユニ塩湖はまだベストコンディションではない。
「でも行くなら今から申請出しておいた方が良いかもな」
ボリビアも少しだけどダンジョンがある。
なので冒険者の入国には慎重だ。
直行便が無いため中継地の許可も必要になる。
「中継地はどこだろ?」
「俺が行ったときはアメリカ経由だったな」
「GOD行った事あるの?」
ああ、冒険者をやめてる時だけどね。
アメリカは滅茶苦茶審査が厳しくてな。出来れば今度は違う経由地で行きたい。
「じゃあ違う場所にする?」
「いや、カミナが行きたいなら行こうよ」
一度は見ておいた方が良いよ。年々水が減ってるらしいからいつ見られなくなるか解らないらしいし。
ついでにマチュピチュとかに寄ってもいい。
「GOD、眠そうだね」
「ああ、長時間移動の後のあったかい湯船でもう限界かもしれん」
カミナともっと話したいんだけどな。
今にも目を瞑ってしまいそうだ。
「疲れたんだね。ベッド行く?」
うん、布団に入りたい。
ごめんな、明日また続きを話そう。
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その後、菊池から事後報告が来た。
関連組織や国外の協力者含め、壊滅状態に出来たらしい。
人質が多国籍にわたるため、結局様々な国と連携を取ることになったとか。大変そう。
人質には経緯などまだまだ取り調べが続くみたいだが、母国に戻す手続きも同時に進めているらしい。
頑張ってるな菊池、ちょっと尊敬するレベルだ。
「すごいね、たくさんの人を救ったんだね」
「思いが凄いよ。他人の為にここまで出来るんだもんな」
協力はしたけど俺は軽い気持ちだった。
簡単な任務だと思ってたしその後の事なんて考えてもいない。
救いたいなんて大それたことも思ってない。菊池に義理を返す程度の気持ちだ。
どう育ったらそうなれるのか。
菊池自身にもこれまでにいろいろあったんだろうな。
気持ちを揺り動かす何かがあったのだろう。
「GODだって凄いじゃない。日本の資源大国化の道筋を作ったでしょ?」
自覚無いんだよな。菊池もそうなのかな。
凄い事をしたなんて自分では思ってない。元々金儲けと攻略欲求だったし。
まあとにかく、終わって良かったよ。




