42 作戦決行
「旦那はん少し休んどき、これ借りるで」
「あ、ウチが使いたかったんに」
あらら?メイスをもってギャルが行ってしまった。
目に入る犯罪者を手当たり次第に殴り倒すギャル。
…拘束はどうするの?
「殴るだけ殴ってほったらかしかよ」
「そんな事言われてもなぁ。次から次へと来るんやもん」
「銃撃たれる前に殴った方がええやろ?」
そうだな、取りあえずは無力化か。
仕方ない拘束は俺がやろう。地味な役回りになっちゃった。
「暴れるんじゃねえ!」
「そいつは冒険者やからミスリルなぁ」
雑な指示まで飛ばしてきた。
まあ猿ぐつわをする必要がなくなった分早く拘束出来るから良いけどさ。
そして他の冒険者たちも合流し、しっちゃかめっちゃかになってきた。
菊池も拘束に追われてる。お前も地味な役回りか。
時々銃声が聞こえる。誰も怪我してないと良いけど。
目の前の拘束に追われ、確認する余裕もないな。
あ、いて。今のはひょっとして流れ弾か?
そうか、冒険者の体に弾が当たるとこんな感じなんだな。
初めて経験した。こんなの全然怖くない。
「逃げ出してる奴がいるぞ!塀の方に何人か回れ!」
「広すぎて無理よ!カバー出来ないわ!」
「どうせ塀を越せるのは冒険者だけだ!そいつらだけ狙えばいい!」
誰かの怒号が聞こえる。盛り上がってるな。
こっちはせっせと荷造りしてる気分だ。呑気な事やってる気持ちになってくる。
門から警察も入ってきた。防御シールドを持ってる。あまり門付近からは動かない。
犯罪者が逃げないようにして戦いは冒険者に任せる感じか。
という事は塀の周りは軍隊が囲んでいるのだろう。上手く連携が取れてるみたいだな。
「マンションに立てこもってる奴がいるぞ!」
「ドア壊せよ!それか窓から飛び込め!」
楽しそう。俺もそっち行きたい。なのに目の前には犯罪者の山。
せっせ、せっせと拘束していく。
「ちょっと拘束が間におうてへんやん、何してるんや?」
「うるせー!動いてる犯罪者減ってるだろうが!少しは拘束にまわれよ!」
「そ、そんなにキレへんでも」
みんなちょっとは回り見ろよ!年寄りにばっか縛らせやがって!
お前縛るの好きそうな顔してんじゃねーか!縛れよ!
「そ、そんな顔してへんもん」
「ウチら、どっちかというとMやよ?」
「いいから縛れ!Sの気持ちが解ってこそのMだろ!」
「む、無茶苦茶やわ」
「逆らわんとこ?旦那はん怖いわ」
よし、拘束人員確保。2人増えると違うな。
あれよあれよと拘束された犯罪者が積みあがっていく。
「手伝うかい?」
「菊池か、こっちも余裕が出来てきた。大丈夫だぞ」
「じゃあ俺はホテルと管理棟で拘束されてる奴を運び出すぜ」
そうだな。見えないとこに置いておくんじゃ不安だ。逃げるかもしれない。
外に出しておいた方が管理しやすいな。
「犯罪者はもういないか!」
「隅々まで探せ!どっかに隠れてるかもしれんぞ!」
大捕り物も大分片付いたみたいだな。
今はなまはげみたいに犯罪者を探してる状態だ。
「バク子、どっかに隠れてる奴いない?」
『たくさん人がいすぎて判別が難しいです』
ここには2500人+冒険者20人+警察+軍隊。
無茶な事を聞いてしまった。ごめん。
「こっちは片付いたんよ」
「アパートの人質はいつ解放するん?」
「犯罪者を全員縛り上げて安全が確認されてからじゃないか?」
こっちも終わった。縛り忘れは無いか?
やれやれ、こんなに人を縛ったのは初めてだ。当たり前か。
「人質を解放するぞ!犯罪者が紛れてるかもしれないから注意しろ!」
犯罪者の探索が終わり、アパートの解放が始まった。
人質が手を上げながら出てくる。そして手を上げたまま膝をつく。
身体検査かな?武器を持ってないか確かめるのか。
犯罪者が混じってるかもしれないから仕方ないな。
ホテルの方に担架が運びこまれてる。
女の子達が乗っている。裸だったから毛布を掛けられてる。
病院へ行くのかな。元気になってほしいな。
「おかしい、首謀者が見つからねえ」
菊池がホテルから出てきた。
慌ててる。首謀者だと?
「幹部の顔はすべてマークしてたんだ。なのに首謀者だけ足りねえ」
「…あ!そう言えば、ホテルで一人気配が消えてるんだよ」
リーダーが見つからないのか。
じゃあ消えたのはリーダーって事か?
でもどうやって気配を消せるんだ?
「気配を遮断出来るスキルならあるんよ。ウチらも使ってるし」
「そうなのか?」
「でもウチらからも完全に遮断となると高レベルのスカウトのスキルになるんやけどなぁ」
スカウトのスキルなのか。
でも敵に高レベルの冒険者がいる事は予想してない。
事前情報には無かったはずだ。
「…いや精霊か?バク子、加護でそんなのはあるのか?」
『あります。というか、レオンの加護がそうですよ』
透明化がそうなのか?あれって気配も消えるの?
じゃあリーダーは透明になって消えたって事か?…体中の力が抜ける。
「そんなの…もう見つからないじゃないか…」
「さっきから誰と話しとるん?」
「時々独り言を言わはるよな」
もういい、バク子出てきてくれ。
俺の代わりに説明してあげてくれ。
精霊の登場にまわりが騒然となる。
俺は力なくその場にへたり込む。
よりによって透明化かよ…
「そうか、透明になって逃げられたんじゃ捕まえようがねえな」
自分と同じ加護持ってる奴が相手じゃな。
透明化がいかに凄いか知ってるだけに、絶望的だ。
もうとっくに遠くに逃げているだろう。
『甘いな主!そいつはまだ近くにおるぞい』
「…レオンか、お前まで出て来ちゃ駄目じゃないか」
「せ、精霊が2体?」
「ど、どうなっとるん?」
『姿を消すことが出来てもの、同じ加護を持つものだけには見えるんじゃ』
「…お前には、透明化が利かないって事か?」
『当たり前じゃろうが!毒蛇の毒は自分には利かんのじゃ!』
「じゃあ、どこに居るって言うんだ?教えてくれ」
『うーん、近くにいるのは解るんじゃが、ここからは見えんな。建物の影におるのかな』
目視出来ないと駄目なのか。
だが近くにいると聞いて再び元気が出てきた。
なぜ逃げないのか知らないが、今逃がしたら一生捕まえられない気がする。
必ず見つけ出さなくては。
敷地内をあっちこっち移動してみる。
レオンどうだ?チラリとでも見えないか?
『おらんなぁ、まだ近くにおるんじゃがの』
敷地から出て塀のまわりを一周してみる。
どうだ?居ないか?
『不思議じゃ、動いてないようなのに見つからん』
駄目か。いったいどこにいるというんだ?
もっと外側に範囲を広げるか?
ん?何だこの音、敷地内からだ。戻ってみるか。
「この音は何だ?」
「解んねえ」
「どこから聞こえてくるんやろな」
辺りをキョロキョロ、なんだろうか?この化かされてるような気持ちは。
得体のしれない何かに翻弄されている。
透明化した相手がすぐそばにいるのかもしれない。
すぐ隣で俺に牙を剥こうとしてるのかもしれない。
底知れぬ不気味さを感じる。これが透明化を相手にするという事なのか。
「あ!あそこ見て!」
誰かが指をさした方角に自然に目線が向かう。
え?なんだあれは。
「ホテルの屋上になにかいるぞ!」
「なんだありゃ!」
『主あれじゃ!加護の主はあそこにおるぞ!』
「あ、あれは」
菊池が何かを言いかけた時、ホテルの上から何かが飛びあがった。
「あれは人間が乗れるドローンだ!あんなものまで準備してたのかよ!」
な、なんだと?そんなもんがもう実用化されてるのか?
「すまねえ、屋上に布を被ってる何かがあるのは解ってたんだが資材か何かだと思ってた。まさかあんなものだとは…」
想像出来る訳がない。どう見ても簡単に手に入るものには見えなかった。
走りだした。体が勝手に走り出した。
「ちぃ太!力を貸してくれ!」
『頑張って』
速度が上がる。そのままホテルの壁を駆け上がる。
屋上まで登り、ドローンに向かって更にジャンプ。
くそ!体が重すぎる!届く気がしない!
なんで俺は太ったんだ!なんで怠けてた!
このまま逃がしてしまうのかよ!
「旦那はん!ロープ使いなはれ!」
そうかアイテムボックスの中にロープがあった!
今日散々使ってきて扱いも上手くなってるぞ。
ロープの先を握り、束ねてある重い方をドローンに向かって投げる。
空中でのとっさの行動が果たしてうまくいくのだろうか?
ドローンのプロペラにロープが当たり、ドローンの挙動が一瞬乱れる。
はじかれたロープがアームに巻き付き、束ねた方のロープが落ちてくる。
落ちてきたロープを掴み、折り返した形でぶら下がることが出来た。
き、奇跡だ。
ドローンの挙動がおかしくなる。
バランスが悪い上に一人用のドローンなのかもしれない。
俺はロープを登ろうとするが、挙動がひどすぎて上手く行かない。
だんだんと高度が下がっている。
下で皆が叫んでいるが、ドローンがうるさすぎて良く分からない。
このまま高度が落ちれば捕まえられるんじゃないか?
だったらその瞬間の為に集中しなくては。
操縦席は無人に見える。加護で消えているからだろう。
レオンには見えているんだろうな。でも今は確認している余裕もない。
いや、姿が見えて来たぞ。加護が丁度切れたんだ。
気配が消えてから相当経ってる。時間切れなのだろう。
本当はもっと早く飛びたかったのだろうが、俺達がいなくなるのを待ってたのかな?
加護が切れてしまえば気配も復活してしまう。なのでこのタイミングで飛びあがらざるを得なかったんだ。
「てめえ!散々苦労させやがって!」
「うるせえ!落ちろよ重いだろ!」
もちろん外国人なので言葉は解らない。
でも多分こんな事を言い返されたと思う。
地面が近くなってきた。いや、下は川だな。
さっさと落ちろよとロープをゆする。
あぶね!滑りそうになった!
川岸ではみんなが叫んでる。ごめん、やっぱり聞こえない。
川を越え、いよいよ地面が近くなってきた。
相手の動きを観察する。向こうもこっちを気にしてる。
そろそろ飛び降りて逃げるんじゃないか?俺ならそうするけど。
銃を向けてきた。俺の頭に赤いレーザーが当たる。
続いて2回の衝撃、いや、実際は丸めたテッシュを投げられた程度の感触しか感じなかった。
苦々し気にこちらを睨んでくる。お前も冒険者なら銃なんかに頼るなよ。
遂に首謀者がドローンからジャンプ。
俺もロープを離し追いかける。ちぃ太の加護がまだ続いてる、ありがたい。
あっという間に追い付き、腰にタックル。
暴れるなこの野郎!顔を一発殴るとのた打ち回る。
暴れるなくそが!ミスリルの拘束具を取り出し、無理やり巻き付ける。
こいつは腕の一本や二本折れてもいいだろ?往生際の悪い。
遂に首謀者は動けなくなった。
「くそ、なんなんだよこいつ」
精霊持ってるくせに犯罪になんて走りやがって!
こいつの精霊はどんな奴なんだ?こいつのどこを気に入ったんだよ!
『虚しいのう』
レオンには見えてるんだろ?姿現すよう言ってくれないか?
ふるふると、首を横に振るレオン。
…出てこないのか。なんだよそれ。
急に、強い光が目の前に来た?
今度はいったいなんだよ!お前、何したんだ!
地面に寝っ転がったままの首謀者。
あれ?お前じゃないのか?じゃあこの光はなんだ?
まわりを囲まれる。銃を持った兵士達だ。
遠くで菊池の声が聞こえる。
「そっちは違う国だー、戻ってこーい」
やばい、国境越えてしまったのか。
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「それで、兵士達に幻惑の魔法を使ったのか?」
「こ、国際問題になるんやない?」
解らん、でも言葉通じないし、あれしか思いつかなかった。
首謀者を持ち帰るには透明化では無理だったろうし。
あの川が国境だったんだな。だからみんな騒いでたのか。
「そうか、だが良く連れ帰ってくれた」
「少しでも油断したら透明化で逃げられる。拘束は絶対外しちゃ駄目だぞ」
敵にして初めて分かった透明化の脅威、こんなのチートだよ。
まあ、俺が言うなって話なんだけど。
「後の事は弁護士である俺に任せてくれ。悪いようにはしねえ」
助かるよ。今回は本当に疲れた。
今はベッドにぶっ倒れて泥のように眠りたい気分だ。
「助かったのはこっちだぜ。本当にありがとうな」
菊池が手を上げ、施設の中へ戻っていく。
あいつはまだ確認作業が残ってるらしい。
何人かの冒険者もそれに付き合うようだ。
「旦那はんはウチらとホテルに戻ってええらしいよ」
「そうか、もう動けそうにないから助かるよ」
「肩かそか?あのバンが送ってくれるらしいわ」
「怪我をしたわけじゃないからな。自分で歩けるよ」
全員捕まえられたのかな?気にはなるけど疲労で眠気も凄い。
数が多いから確認作業も大変だろう。
「やっぱ肩貸すわ」
「え?おいおい、大丈夫なのに」
「満身創痍やないの。ウチもこっちから支えるわ」
両脇からギャルの頭が出てくる。
見方によっては両手に花状態だ。重くないか?
「かっこよかったで、惚れてもうたわ」
「はは、ありがとな」
「ほんまやで?嫁はんはおるん?」
「再婚したてだ。なんで結婚したらモテるんだろうな」
「覚悟が決まるからやろ。背負う覚悟が決まるからや」
自分で自分の変化には気づかないが、違って見える物なのかな。
カミナを幸せにしたいという気持ちに嘘偽りはない。
「なので浮気は絶対にしない。絶対にだ」
「こんなええ女達を振ってええの?」
「もう、いけずやわ」
ははは、疲れてるから早く帰ろうぜ。
今気づいたけど星が奇麗だな。見る余裕もなかった。
一仕事終わった後は世界が違って見える。この歳で一皮剥けたのかな。
「今日はよう寝れるな」
「ウチが子守歌歌ってあげてもええんやで?」
「こんなおっさんをあまりからかうなよな」
冗談って事にしておくからな。
ホテルに戻り、深い眠りに落ちた。




