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ダンジョンだじょーん(仮)  作者: ヒゲ面の男


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39 救出計画

 飛行機が大地を離れ、浮かび上がる。

 この浮かび上がる感触は慣れないな。胃がキュッっとする。


「到着まで何時間だっけ?」

「7時間だぜ。ゆっくり休んでくれ」


 菊池に話しかける。7時間もフライトか。

 今回の救出ミッションには20人の冒険者が参加するようだ。

 2000人を救い出すには少ない数字だが、現地の警察やら軍隊やらも協力してくれるらしい。

 まあ大船に乗った気持ちで行こう。


「みんなのレベルは?」

「最高が870だな。あの人がそうだ」


 斜め前に座る40代のおじさん。

 おじさんって言っても俺より若いんだけどね。


「しかしアンタ、レベル626だったんだな。俺より高いと思ってたぜ」

「ひょっとして俺が一番レベル低いのか?」


 ゆっくりと頷く菊池。菊池は現在653らしい。俺は引退してたから落ちたんだよ。

 外国の犯行グループにはそんなに高レベルはいないだろうから大丈夫でしょ。


「菊池、これをみんなに言うかはお前の判断に任せるが、俺は精霊を5体持ってるからレベル1000くらいの力は出せるぞ」

「な?!ご、5体?」


 びっくりしてるが予想通りの反応だ。

 俺もその反応には慣れてるから何も感じなくなった。

 加護の効果は筋力アップ、脚力アップ、サーチ、姿消し、後は今回関係ないけど経験値アップだ。

 一応これを踏まえて計画を練ってくれよ。


「す、すげえ、サーチと姿消しだけで今回のミッションの成功率はぐんとあがる」


 そうだよな。敵の位置が解って姿を隠して近づける。

 あ、知ってると思うけど幻惑の魔法も使えるから敵の無力化も簡単だぞ。


「じゃあ俺は寝るから。機内食は食べない派だから起こさなくていいぞ」

「お、おう」


 いびき対策でマスクをして寝る。

 俺も太ってからイビキが凄いんだよな。カミナの家でも寝る時はマスクしてる。

 カミナはしなくていいって言うけどさ、イビキはいらつくもんだ。

 そういう日々の積み重ねでだんだんと嫌われていくものだと思う。

 俺は今度こそ結婚生活で失敗をしたくない。なのでこれからもマスクをして寝る。

 すやぁ。


「やれやれ、もう寝たのか」

「凄いねその人。私緊張して寝れそうにない」

「俺もだよ。虹谷さん」


 虹谷と呼ばれた女性は35歳独身、レベル788の魔法使い。

 普段は別府第一ダンジョンに潜っている。


「そういえばこの人が別府覇者だぜ?俺も後から知ったんだけどな」

「ええ?!この人が伝説の?」


 伝説は大袈裟な気もするが初制覇から25年経っているから大袈裟でもないのか。

 いまだに達成者は一人だけ。皆777階層で阻まれ最深部に辿り着けてすらいない。


「やっぱり777階層はやべえのかい?」

「私は入り口でやめたわ?レベルがスロットみたいに変化するのよ?怖くて行けないわよ」


 別府第一ダンジョンの777階層は特殊エリア。

 自分のレベルが1分ごとに変化する。

 出目が悪いといきなりレベル1になるなんてこともありえる恐怖の階層。

 777から出れば元のレベルに戻る。


「一応攻略サイトに突破法は書いてあるけど信用して良いのか解らないし、一歩間違えば死だと思うと試せないわよ」

「だな。苦労してあげたレベルが無意味になるとか無茶苦茶だ」

「別府制覇は嘘なんじゃないか?って人もいるけど」

「いや、議員の知り合いがいるんだが、制覇は間違いねえらしい」


 国の人間が言うんだ。間違いないのだろう。

 何故か攻略サイトは隠しているが、ダンジョンボスはオロチだという話も聞いた。

 7つの首がある大蛇とドラゴンを掛け合わせたようなモンスター。


「すごーい、起きたら話聞いてみようかな」

「いや、大事なミッションの前だから余計な詮索はやめてあげてくれ」

「そうね、自分から話すならともかく、詮索は失礼か」


 高レベルになると低レベルの質問攻めにウンザリさせられることがある。

 その質問攻めの裏には『私もおこぼれ預かりたい』があったりするからウザさを感じてしまう。

 高レベルの者達は少なからずそういう経験をしている。


 そして一番嫌な質問が、『人を殺した事はあるか?』だ。

 緊急招集で駆り出される高レベルの冒険者に付き纏う噂。

 そこにはダンジョンの中で他者を蹴落として高レベルになったのではないかという疑いも含まれる。

 デリカシー無くそういう事を聞いてくる愚かな者達を煩わしく思うようになるのは当然だろう。


「私も若い頃は色仕掛けでレベル上げてるって言われた事ある」

「ふっ、アンタは今も魅力的だぜ?」

「当たり前よ?まだまだ若い子になんて負けないんだから」


 余計なお世話だったか。

 その歳で鍛え上げられた体、本当に魅力的だと思うんだけどな。

 おっと、俺も今は余計な事を考えている場合ではない。

 少しでも体を休め、来たるミッションに備えなくては。



 --------------------



「うー着いたか。こっから車で国境付近まで4時間移動?大変だな」


 国境付近の拠点を構える犯行グループのアジト。

 いざとなれば国境を越えれば警察は手出し出来なくなるからな。昔からよくある犯罪者の悪知恵だ。


「しかし、国境を越えてくる者を隣の国が放っておくかな?」

「隣の国はこっちの国と仲が悪いからな。協力してくれるか解らねえ」


 犯罪者でも保護されるのかな。その辺のお国事情は推測出来ないな。

 まあとにかく、500人の犯罪者グループを出来るだけ逃がさず捕まえ、監禁されている2000人を保護することが今回の目的だ。


「作戦は決まったのか?」

「いや、現地に行ってこの目で確かめてみねえと細かいとこまで決められねえ」


 国外の僻地にあるアジトなので情報も断片的らしい。

 天気や時間帯でも状況は変わってくる。向こうに着いてから最適を決めるつもりなのか。


「先にこれを渡しておくぜ」


 菊池がアイテムボックスから何かを取り出した

 ミスリルの拘束具が2つ、手錠が10個、あとは拘束用のロープがたくさん、強力な粘着ガムテープが1つ、それが各冒険者すべてに配られる。


「ミスリルの拘束具が計40個か。手錠が計200」

「個人で準備するにはこれが限界だった」


 いや、これだけあればたいしたもんだよ。

 ミスリルの拘束具は犯罪グループの中にいる冒険者の拘束に使うのだろう。

 手錠はそれ以外の犯罪者に使えばいい。

 現地の警察や軍隊もある程度は拘束出来る物を持ってるだろうからなんとかなるんじゃないかな。


「ロープは足用だ。逃げられないように使ってくれ」


 なるほど、手錠だけだと歩いて逃げられるからか。

 ガムテープは助けを呼べなくする為の口をふさぐ用か?


「ああ、口をふさぐのにも使えるし、足をぐるぐる巻きにすればしばらくは外れねえ」


 臨機応変に使えって事か。理解した。

 小型のバンが4台目の前にやって来た。そろそろ移動か?


「ああ、途中トイレ休憩は挟むがアンタ飯は大丈夫か?」

「携帯食持ってるよ」


 機内食食べなかったから心配されちゃった。

 現地の食べなれない物を口にしてお腹壊したら任務に支障出るし、俺も一応考えてるよ。

 準備は万端のつもりだ。行こうぜ。



 ------------------------



「途中から道が悪かったな。いてて」

「よく眠ってたじゃねえか」


 体を伸ばしてストレッチ。もう真っ暗じゃないか。

 現在は犯罪者の拠点から300mくらい離れた場所らしい。

 監視小屋になってるな。現地の警察にもとっくに目をつけられてるけど、犯罪者グループには冒険者がいるから手出し出来ない状態なんだっけか。


「これに着替えてくれ」


 黒ずくめの服装を渡された。顔全体を覆うマスクまである。

 そうだな、犯罪者に顔を覚えられても何も良いことは無い。菊池はしっかり配慮してくれている。

 …というか、来た当日に作戦決行なのか?


「すぐに決行なのか?」

「いや、取り合えずドローンを飛ばして様子を見る。いつでも動けるようにしておいて欲しい」


 夜でもドローンって飛ばせるんだな。へえ、最新鋭の望遠暗視カメラ付きなの?

 音がけっこううるさいんだな。バレないかこれ?

 遠くから様子を窺うかがうだけだから大丈夫なのか。おっさんが余計な心配する必要はないみたいだ。


「うわ、敷地が結構広いんだな」

「大小のアパートみたいな建物が…50棟くらい?2000人収容してるにしては小さい気もするが」

「おそらくタコ部屋なんだろう」

「見張りが山ほどいるな。塀が約5メートルくらいか」

「塀の高さはは冒険者にとっては問題じゃないわ。それより外だけでも見張りが100人はいるわよ?外を制圧してる間に中に気づかれそうね」

「ああ、それに監視カメラもたくさんある。すぐに気づかれるだろうな」


 皆がああでもないこうでもないと言っている。

 おっさんは最新鋭のドローンとか出てきて余計な事言わない方が良い気がしてきた。

 なにかアイディア出しても『え?いまどき何言ってんの?』ってなるんじゃないだろうか。


「この建物だけ奇麗じゃないか?ホテルみたいだな」

「幹部クラスが住んでいそうだ」

「こっちの背の高い建物はなんだろう?」

「管理棟じゃないか?ライトが門の方を照らしてるぞ」

「多分そこに警備室があるはずなんだが、先にそこを無力化できれば」

「それなら俺に出来るぞ」


 満を持して発言してみた。

 精霊の力を借りればなんてことは無い。


「よし、先陣はアンタに任せよう。警備室を制圧したら何か合図が欲しいんだが」

「電気消していいか?冒険者ならダンジョンで暗いトコも慣れてるでしょ?」


 電源室も制圧するよ。監視カメラも止めたいし。

 相手が銃を持ってるならなおさら、姿は見えない方が良い。

 まあ俺達は高レベルの冒険者、銃も効かないんだけどね。


「予備電源が入る恐れがあるが…まあそれで行くか」


 予備電源、そこまで考えてなかったな。

 そうだな、犯罪者と人質あわせて2500人もいるんだ。それくらいの設備があってもおかしくはない。

 そっちも見つける事が出来たら制圧しておくよ。


「なあ、確認しておきたいんだが…やむを得ない場合は犯罪者を犠牲にしてもいいか?」


 一人の発言に皆が静かになる。

 今のは40代のレベル870の人だ。


「500人も居る犯罪者を全員普通に確保出来るとは思えないんだよ」

「そうだな。相手は銃を持っているんだ。味方に誤射って事もあるだろう」

「俺達は全員無傷でいられるだろうけど、人質も無傷って訳には行かないと思うぞ?」


 思っていた意見が一斉に噴出した感じだ。

 菊池どうすんだ?彼らの言う事も一理あると思うぞ。


「犯罪者にも人権はある。俺は出来るだけ生かして捕えてえ。人質に被害も出したくねえ」


 菊池は確か、弁護士をしながら人権団体の代表もしてたはずだ。

 そうか、そういう意見になっちゃうか。


「人質も犯罪者も犠牲無く終わらせろという事か?それだと難易度が高すぎるような」

「配慮はするが約束はできないよ。万が一の時は仕方ないんじゃないか?」

「人質を盾にされたらどうするんだ?膠着状態の緊張の中で犯行グループの糸が切れてしまったらどうしようもない」


 菊池が黙り込んでしまう。

 簡単なミッションだと思っていたけど雲行きが怪しくなってきたな。

 やれやれ、ここは年長者の俺の出番かな。


「なあ、取り合えず決行は後日にしないか?安全に事を進めたいならもうちょっと相手を観察してから計画を練り直したほうが良い」


 今の雰囲気で最善の成果を期待するのは難しい。

 なにより日本から来た当日に決行とは思ってなかった。急ぎ過ぎな気がする。

 仕切り直さないか?


「だが、今も被害者達は…」

「早く助けたい気持ちは解るが焦り過ぎだ。時差ボケもあるんだから体を慣らしたほうがいい」


 菊池は救出にばかり気を取られていて周りが見えていない。

 時差ボケに長時間の移動、何人かは疲労の色が出始めている。

 それでも俺達が死ぬことは無いだろうが動きに影響は出るだろう。

 お前が犠牲者を出したくないと望むなら、俺達も万全な状態まで戻す必要がある。


「なるほどそうだな、確かに焦っていたかもしれねえ」

「決行は24時間後でどうだ?」


 それまでにゆっくり寝て各自体調を戻そう。

 飯はどうしよう?食べ慣れない物を口にしたくは無いのだが。


「近くにホテルをとってある。皆はそこで休んでくれ」


 どのみち作戦が終わってもすぐに帰るのは無理だからホテルはとってあったのか。

 おや、菊池は残るのか?


「ああ、ドローンがバレない夜の内は監視を続けるよ」


 明け方ホテルへ合流するって。お前も無理はするなよ。心労が溜まってる顔してるぞ。

 そうだよな、お前が一番被害者の心配をしている。気疲れで倒れなきゃいいが。

 その後、俺達はホテルへ移動し体を休めた。

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