38 決断
「うー昨日は疲れたな。今日は動く気しない」
「GOD、海外の準備は終わったの?」
まだだ。一度家に戻ってパスポートやら使えそうなアイテムやら持ってこなきゃ。
パスポート期限失効してないと良いけど。
「海外は良く行くの?」
「あんまり、アイテムボックスのせいで審査がめんどくさいからな」
去年までは冒険者をやめてたけどスキルが無くなる訳では無い。
元冒険者でも出入国審査は時間がかかる。
「アイテムボックスも一度空に…あ、そう言えば石板入れっぱなしだったな」
道後ダンジョンで出たドロップ品の中に謎の石板があった。
ホワイトボードほどのでかい石板。すっかり忘れてしまっていた。
「あんなものどうすればいいのか。取り合えず自宅の庭に置いてくるかな」
「外に置いておくの?不用心じゃない?」
確かに貴重な物かもしれないからな。でも家の中に置いたら床や家具が傷つきそう。
重さも相当なものだし、家が傷むのは嫌だな。
「ガレージに置いておくか。床はコンクリだし」
「まあ外に置くよりは良いだろうけど」
はやいとこあれがなんなのか調べておけば良かったな。
でも翻訳作業は時間かかるしめんどくさいんだ。だから当分放置になりそう。
そんな訳で家に来た。また草が伸びてるよ。
やれやれ、ほとんど住まなくなったのに管理が大変だ。
カミナがまた草取りやってくれるって、休みの日なのにすまないな。
じゃあ俺はガレージに石板置いて荷造りさせてもらおう。
スーツケースどこだろう?元嫁がしまった場所が解らない。
広い家の中を探し回る。どこだ?全然見つからないな。
ああこんなところに、こんな収納滅多に開けないからな。
自分の物がどこにあるかも解らないなんて男のダメなところだ。
続いて保管室へ行くか。昔取った貴重な武器やらアイテムやらが置いてある地下室だ。
鍵どこだっけ?貴重品だらけだから堅牢な作りになっていて鍵も2重になってんだよね。
まあいい、いつもどおりテレポートで入るか。横着してるから鍵の場所なんて忘れちゃうんだよな。
「ここも一度整理しないと、今だと必要のないアイテムもいっぱいあるな」
俺が最初に冒険者をやってた時には貴重だったアイテムも、ダンジョン誕生から40年で価値も変わってる。
それにこれ使用期限とか大丈夫か?モノによっては悪くなってそう。
このメイス、スタン効果があるから便利なんだよな。持っていこう。
今のレベルで人間を下手に攻撃すると殺しちゃうからな。加減が難しい。
飛行機に武器持ち込めるんだっけか?今回は特殊任務だし大丈夫だと思うけど。
後で菊池に確認しておくか。
これは使えるかな。誘いの香炉。
中に特殊な香を入れて燃やす事で相手を眠らせたり麻痺させたり出来る香炉だ。
幻惑の魔法と効果が被るのと効果出るまで時間かかるから現役時代はほとんど使わなかった。
それに自分が吸うと自分にも効果が出るから使い勝手悪かったんだよな。
装飾が奇麗だから取っておいたけど、やっぱいらないか。
他もいろいろ見てみたけど役に立つか解らないな。
これも使用期限怪しい。現地で使えなかったじゃシャレにならんしやめとくか。
と言う訳でメイスだけを持ち、部屋からでた。
「GODどこ行ってたの?」
「地下だ。役に立ちそうなもの無いかなって」
「地下?」
地下の存在を初めて知ったのか、カミナの目の色が変わってしまった。
別に貴重品に興味があるわけではない。元嫁の残存物に興味があるだけだ。
「ち、地下は武器とかあって危ないし、元嫁は入った事無いよ」
「確認させてほしい」
意志の強い目だ。こりゃ駄目だ。連れて行かないと納得してくれそうにない。
はあ、今出てきたのにトンボ帰りかよ。
仕方ない、カミナを抱きしめテレポート。
「散らかってるね。リフレッシュしてあげるよ」
ああ、それは助かるな。
今度整理するのも手伝ってよ。いらない物や価値がなくなったものはこの際だから整理したい。
売れそうなものなら換金所に行って売ればいいし、使える物ならパーティで使ってもいい。
「これ奇麗だね」
「ああ、誘いの香炉だ。エッチな気分になる香を入れれば一晩中だ」
「(じゃあこれを使って元奥さんと?壊そうかな)へえ、凄いね」
カミナとの営みに使ってみようかと思って言ってみたけど反応が薄かった。
まあこんなものが無くても俺達はお盛んですけどね。
因みに元嫁には使ったことは無い。元嫁は一般人、冒険者が一晩中求めたらえらい事になる。
「この剣凄いね。とんでもなく強そう」
「ああ、『星砕き』だな。俺が持ってる剣で一番強い」
「今使ってないよね?」
「パーティでは使いにくいんだよ」
剣の波動が凄くてな。うっかりミヅキあたりを斬ってしまいそうだ。
ソロなら周りを気にすることなく使えるんだけどな。
「カミナ、この杖使うか?『輪廻の杖』」
「こ、これも凄い魔力感じるんだけど」
俺が知る限りでは最強の杖だ。
箱根900ダンジョンボスのドロップ品。
「持ってみるか?」
「うん…うわ!魔力がみなぎってくる…!」
回復効果、攻撃魔法の効果が結構上がるはずだ。
まあ俺は剣使ってるから自分で使ったことは無いんだけどね。
「凄いね。でもまだ私じゃ使いこなせないと思う」
そうか、まあ使い慣れた杖があるならそっちの方が良いかも知れない。
強すぎる武器に振り回されちゃう事もあるからな。
「じゃあもういいか?」
「(誘いの香炉壊したい…)う、うん、出よっか」
カミナを抱きしめ、地下から出た。
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準備を済ませてカミナ宅へ。もうすっかりこっちに居ついちゃってる。
マンションが快適すぎて困る。もうあんなにでかいは家いらないんだろうな。
このマンションだって俺には広すぎるくらいだ。
俺はネットカフェみたいななんでもすぐに手が届く距離の部屋が一番好きかも知れない。
ホテル住まいも憧れるんだよな。掃除してもらえるし、セキュリティー万全だし光熱費込みだし。
でもやっぱり荷物を増やせないのがな。踏み出せない要因の一つだ。
「ホテル暮らし?私達は日本中回ってるからそれもいいかも知れないね」
ああ、一か所に住む場所を決めない生活。
移動しながらダンジョン探索して観光して…
まあ俺は日本中ほぼ観光し終えているんだけどね。
「でもそれって…」
カミナの顔が沈む。どうした?
俺、なんか嫌な事言ったのかな。
「子供が出来たら出来ないよね?GODは私と結婚する気ないの?」
おっと、そういう事か。
先延ばしにしていた結論を目の前に引きずり出された。
もうちょっと様子を見たかったけど、結論を出すには良いタイミングのような気もする。
俺も覚悟を決めるか。
「カミナ、俺は前よりもカミナの事を好きになってるけど、カミナの気持ちはどうだ?」
「私だってそうだよ。小さい頃から憧れてきて、恋に変わって、付き合うことが出来て、毎日を過ごすうちにもっと好きになって、幸せいっぱいだよ?」
「よし、じゃあこれを」
跪いてカミナの手を取る。
その薬指にゆっくり指輪をはめた。
「え?!いつのまに用意したの?」
「さっきだ。保管庫から持ってきた」
「…ダンジョン産の指輪って事?」
ああ、運のステータスが二倍になるリング、『幸福のリング』だ。
ただしこれは手付の指輪だ。婚約指輪も結婚指輪もお金を払ってちゃんとしたものを準備するつもりだ。
「じゃ、じゃあ」
「俺と結婚してくれますか?」
「も、もちろんです!」
カミナが抱き着いて来て、二人で床に転がる。
ああ、こんなに幸せで良いのかな。
「あと、これも一応もってきたんだよな」
「…え?何コレ」
ダイヤのビキニアーマーだ!
すごく露出が多いけど、しっかり肌色の部分まで透明なコーティングがされる不思議な鎧だ。
ちなみに本当にダイヤで出来てる訳じゃないけど、それと同等くらいの防御力を持つ。
「オロチのドロップ品の一つだぞ?」
「へえ、ビキニアーマーって聞いたことはあったけど見るの初めて」
そうだろそうだろ。800階層以上のボスを倒さないと出ないからな。
不死王も800だけどあいつは持ってない。
800でビキニアーマーが出るのは湯布院のボスだけだ。
「これ着て戦うの?ちょっと恥ずかしい」
「動画では際どい鎧着てるじゃないか」
「そ、そうだけど、実際にこんなの着て戦うのは…」
解ってるよ。動画はパフォーマンスだ。
カミナも普段は防御力高そうなヒーラー用の法衣を着ている。
ダイヤのビキニアーマーはどちらかと言うと近接用の鎧だけど、神々しい鎧だからヒーラーが着ても別に違和感は無い。
「モンスターのブレスや魔法への耐性もあるんだぞ?」
「ふーん……解った、着てみるね」
そう言って素っ裸になるカミナ。
下着も形を選ばないとはみ出す露出の多さなのだ。
そうとう面積の少ない下着じゃないと無理だと思う。
「うーんこれ、胸はニップレスじゃないと無理かも、下もほぼ紐のヤツじゃないと…」
「…やっぱ恥ずかしいか?」
まあ半分そう思ってたんだけどね。
でも単純に着てみてほしかったんだ。エロいから。
しかしこの姿を他の男に見られるのは複雑でもある。
嫌なら無理はしなくていいよ。
「スパッツとか履いちゃ駄目かな?」
「えー」
「い、嫌そうだね」
ビキニアーマーにスパッツ?夢が無いな。
ふっ、最近某RPGのリメイクでそんな事になったけど滅茶苦茶不評だったぞ。
「GOD、写真撮って。ミオコ達に送ってみる」
解った。ポーズをとってくれ。
やっぱエロいな。女神のような神々しさの中に備わるエロティック。ギャップが最高だ。
写真を送ったとたんに二人がテレポートで飛んできた。
お前ら休みなのに暇なんだな。
「おじさん、カミナ、まずはご結婚おめでとうございます」
「ありがとうミオコ」
「おじさん、私達のビキニアーマーは?」
「え?お前らも欲しいの?俺はビキニアーマーのカミナを見たかっただけなんだが」
もう目的は達成している。
ダンジョンで着るかどうかはどっちでもよいのだ。
「ウチはお金払ってでも欲しいです。エメラルドでもいいので無いんですか?」
「保管庫にあったかなぁ、女装備は基本売っちゃうから」
ビキニアーマーはダイヤ、ルビー、サファイア、エメラルドの4種類が存在する。
ダイヤが一番防御力が高く、次にルビーとサファイアが同等、エメラルドは少し劣るけど強力な防具に変わりはない。
「ウチらも700ダンジョンの制覇に向けレベルと装備のアップグレードをですね」
「確かに役に立つ事は間違いない。ちょっと探してくるよ」
やれやれ、今日は何回保管庫に行かなきゃいけないのか。
ミヅキがついてこようとする。駄目だ。お前には目の毒なものがいっぱいあるからな。
大人しく待っててくれ。
「まったく、一回でも連れてきたら次からいつでもテレポートで入れるからな」
ミヅキは変な子だけどさすがに泥棒するような事は無いとは思うが。
それでも疑いを持つことになるような事態は避けたい。
盗まれても気づかない可能性もある。何を置いてあるかもううろ覚えだ。
「女装備なんていくつも保管してたら変態みたいだし、売っちゃってる気もすんだけどな」
やれやれ、あるとしたらこの辺なんだが…。
カミナがリフレッシュしてくれたおかげで埃が舞わない。感謝だな。
ん?あった。ルビーもサファイアもエメラルドもある。
俺、取っておいていたんだな。変態だったんだな。
じゃあカミナ邸に逆戻り。
「そんな訳であったよ」
「ウチ、ルビーで!!」
「私はサファイアがいい!!」
「おじさん!9億で譲ってください!」
「私はタダで!!」
いろいろと突っ込みどころが満載だが、現在のルビーのビキニアーマーの参考価格は9億らしい。
サファイアもそれくらい。エメラルドは7.5億らしい。
ダイヤは現存する物がカミナにプレゼントした物しかないはずだから、参考価格は出ていない。
でも希少性と性能で15億は行きそうだな。
「パーティ内でも金のやり取りはきっちりするべきだと思うが、今回だけはタダであげるよ」
「ほ、本当ですか?」
「やったー、着てみよっと」
躊躇なく服を脱ぎだすミヅキ。またお前は恥ずかしくないのかよ。
カミナの手前、目をそらさなきゃ。ミオコは風呂場で着替えてくるって。
「着替え終わったよ」
「おじさんどうですか?」
…どうですかと言われても。
目の前には露出の多い女の子が3人としか。
「なんか、やっぱやりすぎって感じがする。3人共下乳とお尻がほとんど見えてるし」
「胸は意外と動かない設計になってますよ?」
「ほう、そうなのか。でもお尻は…」
「チャイナドレスみたいに後ろに布が垂れてると恥ずかしくないかも」
「良さそうな腰巻探してみようか?」
「私は無くていいけどね」
女の子3人でガヤガヤしだした。
おしゃれの事となるともう蚊帳の外だな。あとは任せよう。
しかしビキニアーマー3人連れてるおっさんってダンジョンでどう見られるのかな。
またハーレム感が強まりそう。
「大丈夫ですよ。ビキニアーマーは高レベルの証、憧れの対象です」
「でもこんなの持ってるならもっと早く言ってよ。600ももっと楽に行けたのに」
「忘れてたんだよ。歳だから」
「それ言われると納得するしかない」
むしろ忘れてて良かったよ。
出会ってすぐにビキニアーマー着せようとする男とか信用できるか?滅茶苦茶怖くないか?
「確かに」
「GODは怖くないよ」
「おじさんは装備貧弱だよね。男用の鎧はドロップしなかったの?」
「サイズがあわなくなったのだ」
最強防具を持ってるけどデブには対応してない。
俺はもうしばらく市販品で我慢するしかない。
「ビキニアーマーもらったしおじさんの装備は私達で買ってあげない?オークションでなるべく性能が良くてサイズがあいそうなのを」
「いいね。さすがミオコ」
「そだね、さすがに私も嫌とは言わないよ。1億くらいなら出すよ」
ミヅキが1億?以外だ。
まあビキニアーマーの価値を考えたら安いものなのだろうけど。
そうだな、結婚祝いとして遠慮なく受け取ろう。
「でも海外任務の前に結婚とかおかしなフラグ…」
「ミヅキ!」
「GOD、いきなり未亡人は嫌だよ」
「死ぬくらいなら任務投げだすから安心してくれ」
監禁されてる2000人は可哀そうだけど、見ず知らずの人達だ。
騙されて海外にまで行ってしまう子達だ。ちょっと自業自得な部分もあると思うんだよな。
カミナを不幸にしてまで救う価値があるかと言われると、無いと思う。
菊池は立派だよな。それでも救いたいって言ってるんだもんな。
「菊池の期待には応えたいけど、難しいミッションなら無理はしないよ」
「でもさー、その子達が戻って来ても立派に社会復帰出来るのかな?」
解らん。すこしは懲りてくれると良いけどな。
自分達の為に救出部隊が組まれるんだ。その重さくらいは感じてほしい。
「それより結婚決めたのに暗い話になるのは嫌だ。カミナ、今から婚姻届けを出しに行こう。で、帰りに指輪作ってもらいに店に行くぞ」
不安を打ち消すために気分を変えよう。
心配するな。必ず帰ってくるからな。




