36 成長
翌日、今日もケイトリンに付き纏われるかと心配してたが、朝ご飯を食べすぐにチェックアウトしたらしい。
何だったんだろうな?あいつは。
「あと残り200階層、今日550くらいまで潜って、明日ダンジョンボス倒してそのまま帰る感じかな」
そんな話をしながらダンジョン前に行くと見知った顔が。
あの子は確か、坂本美琴ちゃん、育成計画で出会った熊本の高校生だ。
「皆さんが来ていると聞いたので、今日はご挨拶にと」
夏休みで日曜日だから親の車で来たらしい。確か家は南阿蘇にあるんじゃなかったっけ?
結構時間かかったんじゃないかな。
「そんなに気を使わなくていいんだぞ?」
「いえ、せっかくなので黒川ダンジョンにも挑戦してみたかったですし」
熊本最大の黒川600ダンジョン、普段は南阿蘇300に潜ってるんだっけか。
まあ高階層ダンジョンに潜っただけでも自慢になるしな。
将来テレポートを覚えた時には一瞬で行けるようになるし、いろんなダンジョンを回っておくのも悪くない。
「パーティメンバーは後から来ます。皆さんにはご迷惑はかけないので」
おお、先に言われたな。
昨日の今日だからひょっとしたら一緒に潜ってくださいとか言われるかと思った。
でもそんな子ではなかった。迷惑になると解っているのだろう。やはり良い子だ。
「それより聞いてくださいよ。私が冒険者を始めたからおかあさんもパートを減らすことが出来て…」
そっか、君んちは家計が大変な家だったな。
お母さんを楽させることが出来て嬉しそうだ。
その表情にこっちも嬉しくなってくる。
「飛川さんも心配してしょっちゅう連絡をくれるし、私は幸せです」
うんうん、このまま順調に育って幸せになってほしいな。
育成計画で選ばれた子達は本当に良い子ばかりだ。
周りまで幸せにする魅力を持ってる気がする。
「若いうちだけだよ。贅沢を覚えればこの子だって」
「お前は真逆の人間だなミヅキ。どうしてそうなった」
ミヅキは悪影響与えちゃ駄目。
もしくは反面教師としての活躍に期待している。
いいかい美琴ちゃん、こんな大人になっちゃ絶対に駄目だぞ。
苦笑いで答える美琴ちゃん。
そうそう、こういう大人相手にはそうやってお茶を濁せ。
じゃあ俺達はそろそろダンジョンに潜ろう。美琴ちゃんまたね。
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ダンジョンに潜りいつものルーティーン。
ミヅキは何かを探してるみたいに今日はキョロキョロしてる。
「金スラまたいないかなって」
「昨日出たんだからこのダンジョンでは当分出ないと思うぞ?」
明確な出現情報は謎だが立て続けに出たという話は聞かない。
そもそも金のインゴットがそんなにしょっちゅう手に入ったら相場が下がって価値がなくなる。
レアだからありがたいんだぞ。
「昨日見たからついつい意識して探しちゃうんだよね」
まあそういうもんかもな。
でもそろそろ敵が強くなってくるんだから集中してくれ。
怪我した姿を美琴ちゃんに見せたくはないだろ?
ダンジョンは死と隣り合わせ、あの子もいつかはそういう場面に遭遇するだろう。
それでも傷つきやすい若い頃に経験してしまっては今後に影響しかねない。
最悪冒険者をやめてしまうだろう。
それでもいいのかもしれないが、あの子は国に援助してもらってるからな。辞めずらい立場のはずだ。
思えば枷をつけられてるようなものなのだ。
あの子は幸せだと言ったけど…この先もずっとそう思えるんだろうか?
「おじさん、集中してください」
「おあ?すまんすまん、俺が考え事しちゃってた。人の事言えないな」
人の心配して自分が怪我してたら世話はない。
その後は集中して551階層まで潜り、本日の探索は終わった。
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熱海ダンジョン前広場
「いやー夏休みも終わりだね」
「明日から学校かぁ。宿題ぜんぜんやってない」
「潜ったっすねー今年の夏は」
熱海の女の子達、ルシル、クオン、エレナ。
この夏休みはダンジョン探索に集中し、それぞれレベルを83、84、82まで上げる事が出来た。
「おかげで大学の資金がもう貯まっちゃったよ」
悩みがこんなにあっさり解決するなんて。冒険者を始めて本当に良かった。
こうなったら他の兄弟の学費も貯めてあげようかな。
「ねえねえ、それより来年の夏こそはさー」
「またダンジョン旅行の話?」
「エレナそればっかりだね」
来年の夏休みまでにレベルを150くらいまで上げ、全国の低階層ダンジョン攻略を考えているエレナ。
レベル150まで上げれば100階層のダンジョンは踏破出来るんだよね。
なので観光と美味しいもの食べながらエレナは旅行したいと思っている。
おじさんの話を聞いて憧れてしまっている。
「来年はクオンちゃんは3年生だしまだどうなるか…」
「パイセンいい加減進路決めてくださいよ」
「う、うるさいなあ、解ってるよ」
あはは、まだ猶予はあるんでしょ?ゆっくり考えればいいよ。
エレナも自分の予定の為に急かしちゃ駄目だよ。人の人生にかかわる事なんだから。
「でもパイセン、実際精霊持ってるんだから冒険者専任一択じゃないっすか?」
「うん、人より有利な立場で冒険者として活躍出来るのに何を迷ってるんだって感じなんだけどね。でもキャンパスライフを経験してみたい気もする」
あくまで大学生活を経験してみたいだけ、勉強はしたくない。
こんな気持ちで大学行くのも間違ってるとは思うんだけどね。
でも実際に遊ぶ為に大学行く人もいっぱいいる。
今の教育制度ってどうなってんのかしらね。
「それに2人は大学行くんでしょ?2人は大卒なのに私だけ高卒ってのも」
見栄の為に大学行くのももちろんおかしいって解ってる。
でも大卒は一つのステータス。手に入るもんなら手に入れておきたい。後で後悔したくない。
「そんな訳でまだまだ迷う予定」
「悩める乙女っすか。似合わないっす」
「うるさいな!」
あはは、クオンちゃんといつまでもパーティ組みたいけど、果たしてどうなるか。
あたしだって高校卒業したら東京行っちゃうし…
それに先の事ばかり言ってるけどやむに已まれぬ理由で突然やめるかもしれない。それが冒険者。
いつ死ぬか解らない、それが冒険者と言うもの。
おじさんの教えは忘れてないよ。
「2人とも、死なないでね」
「え?ルシル急にどうしたの?」
「気を引き締めろって事?確かに最近ウチら浮かれてるけどさ」
レベルも順調に上がり、あたしと同じだけ2人も大金を手にしている。
若いあたし達には余り過ぎる程の大金。
それなのにまだまだ欲しいと欲が出始めてる。
きっと落とし穴が訪れるのはこういう時ではないだろうか?
ネガティブ思考かな?順調すぎると怖くなってくるんだよね。
「…うん、言ってる意味は解るよ」
「そだね、確かに甘い考えが出始めてたかも。ウチらはまだまだ弱いって事を自覚しなきゃ」
空気を悪くしてしまったかと心配したけど解ってくれたようだ。
良かった、これからも慢心することなく続けられそうだ。
2人が同じパーティで本当に良かった。そう思えた事がこの夏の一番の収穫だったのかもしれない。
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翌日、世間では夏休みが終わったみたいだ。
おっさんもちょっと前まで毎日が夏休みだったんだけどな。
今は若い子にこき使われる毎日だ。
「一人で何言ってるんですかおじさん」
「おっと、声に出てたか」
「自分がダイエットの為に復帰したんでしょ?」
そうなんだけどな。やはり若い子について行くのは大変でな。
特に朝がつらい。前日の疲れが残ってるような気がする。
ダンジョン探索4日目の朝ともなると、疲れが蓄積して愚痴を言わずにはいられなくなってくる。
「つらい、4日連続ダンジョンはつらい」
「あと50階で制覇ですよ?早く行きましょうよ」
「明日は休みにしてあげるからさー」
「明後日は?」
「ダンジョンです!」
何でこんなにやる気があるんだか、おっさんには信じられないよ。
お前たちはまだ若い、この先いくらでも潜れるじゃないか。
おっさんを酷使して楽しいか?
「今日のおじさんめんどくさいね。カミナなんとかしてよ」
「それより攻略ペース落とさない?私達、前はもっと休んでたよね?」
う、それはだってウチとミヅキは2人がいつ別れるか解らないと思っているもんで。
今のうちにたくさん攻略しておきたいという本音があるけど、正直には言えない。
「おじさん、ちなみにお休みどれくらいほしい感じですかね?」
「3日潜った後は3日くらいは休みたいな。実働と休みが半々くらいだとありがたい」
良い機会だしはっきり要求を出しておこう。実際おっさんはその辺が限界だ。
ただ若い君達にはそれだと物足りないのも解る。どう落としどころを見つけるか。
「カミナもそれだと物足りない感じか?」
「私はGODに合わせるよ」
「カミナは聞くまでもないでしょ」
「そうだよ、おじさんの味方するの解ってるんだから」
ああ解っていたさ。
でもだからって無視するのは良くないでしょ。
じゃあ2人の要求は?この際だし言ってみなよ。
「ウチは休みなしでも良いくらいです」
「ミオコは一応彼氏居るんじゃなかったか?どうなんだそれは」
「連絡も取ってないですよ。もう終わってるようなもんです」
「私達もおじさんとパーティを組む為に犠牲を払ってるんだよ?」
う、それを言われると弱いな。
ミヅキなんてもう男と別れてしまったもんな。
「まあパーティ解消されるのが一番困るので彼氏くらいは我慢しますが、その分経験値の恩恵は欲しいかなと」
「また不死王マラソンやれって言うんじゃないだろうな?」
「経験値的には不死王美味しいけど、あれはドロップ品貰えないから今はあんまり…」
不死王は俺一人で倒すからドロップ品を分けてない。
金も当然欲しいから今の600ダンジョン攻略の方が美味しく感じ始めてるのか。
「出来れば600のダンジョンボスだけを狩るツアーが時間的にも美味しいかなと」
ダンジョンボスだけ倒して次に行くやり方だな。
それは俺も昔やってたな。
ある程度強くなってしまうと雑魚敵と戦う事自体が無駄に思えてくる。
ただしそれはチョイスの魔法ありきで成立する話。
「まあ600だけ回るとなると距離的にMPが大変だから、500を混ぜるとかなら理想的なプランがあるぞ」
「教えてください」
伊香保500、水上500、湯沢600、野沢500、湯田中渋600を回るコースだ。
この五か所は距離的に近い。草津も近いけどあそこは900だからまだ無理。
「東京からテレポートで飛べて半日で帰って来れるコースだな」
「家から通えるんですね」
「ダンジョンボス5連戦で今のお前達ならレベルが2~3上がるコースかな」
「半日で2~3?!美味しいじゃん!」
時間的には楽だけどボス連戦だから体の負担は大きいんだぞ?だから休みもしっかりとらないと。
だけど家から通える距離と言うのがやっぱいいよな。テレポート様様だ。
まあまだ湯田中渋は4人で攻略してないし、実行するにしてももうちょっと先か。
でもこれでレベル上げが出来るようになれば俺の負担はかなり減る。
半日働いて家でだらだら出来るんだもんな。
「そんな事を話してたら目が覚めてきたな。よしダンジョン行くか」
「もう、眠かっただけなの?」
「ごねすぎですよおじさん」
歳とると動き出すまで時間がかかるもんなんだ。若い君達には理解出来んだろうな。
これが冬だと更に俺はごねるからな。覚悟しとけよ。
そんな感じで黒川のダンジョンボスをあっさり倒した。
「弱かったね」
「俺らも強くなってるからだろうな」
「おじさん、以前湯田中渋は相性悪いって言ってましたけど、今の私達でも難しいですかね?」
どうだろうな?みんなレベルは?
カミナが692、ミオコが662、ミヅキが655か。そして俺が606。
「ぎりぎりだな。もちろん精霊を使えば簡単に行けるんだけど…」
「もうちょっと底上げが必要ですか」
仕方ない、東京帰るついでに途中にある不死王、ダパン、シロトに寄っていくか。
ダンジョンボスだけを倒し、それぞれレベルを3~5上げてこの日は終了した。




