32 モシカ
湯沢ダンジョン前広場
「と言う訳で来たけど。1日しか休みなかったけど良かったのか?」
「おじさんは休み過ぎるとレベル下がるんでしょ?」
まあそうなんだけど。
でももうちょっとゆっくりしたかった。
「ウチら向上心の塊なんで」
「休みなんて無くてもいいよね?」
本当はおじさんとカミナがいつ別れるか解らないと思ってるもんで。
これだけの歳の差、明日何があってもおかしくない。
今だけかもしれない精霊の加護の経験値アップ目当てです。はい。
「じゃあ今日は初日だし敵はガンガン無視して301層まで目指そう」
ダンジョンに入る。バク子にナビしてもらい、いつも通りの省エネ進行。
どうせ低階層は俺達のレベルでは旨味が少ない。
チョイスの魔法があるから飛ばしても良いんだけど、カミナの階層記憶の為に一から潜る。
毎回こうなる予定だ。
「あ、伊豆高原は549まで進んでるんだっけ?じゃあそこから始めればいいか」
チョイスの魔法を覚える前に潜った場所でも、階層記憶は適用される。
これはテレポートもそう。覚える前に行った場所でも飛ぶ事が出来る。
「今日は東京に帰るけど、湯沢って何があるの?」
「スキー場と温泉だな。あと高原」
「夏は高原ですか」
「高原って何すんの?」
なんだろな?ピクニックとかキャンプじゃないか?
俺もあんまり高原には行かないな。
「キャンプとか興味ないか?」
「カミナがチョイス覚える前はセーフティエリアでキャンプみたいな事してましたからね」
「飽きてるよね。本当のキャンプ場は虫出るだろうし」
そうだったな。それに確かに虫は嫌だ。
セーフティエリアは他の生き物がまったくいないんだよな。
「スキーやスノボはやらないよな?」
「冒険者はすぐに上手くなっちゃいますから」
「それに道具がすぐ壊れるよね?私、前にゴルフやってたけど1000ヤード飛ばそうと思ったら球が破裂しちゃった」
これは冒険者あるあるだ。
驚異的な身体能力で大抵のスポーツは簡単にこなせるようになってしまい、すぐに飽きが来る。
道具を使うスポーツでは消耗が激しい。俺も温泉卓球で球を破裂させた事がある。
思いっきりやれないからつまらないんだよな。
「私もパパの投げた球を簡単にホームランしちゃってパパ落ち込んでたな…」
カミナのお父さんは元野球選手。投手だったのかな?
娘にホームラン撃たれたら落ち込むよな。
そんな訳で冒険者はあまりスポーツをやらなくなる。
スポーツも見なくなるので、俺はカミナのお父さんの事を知らなかった。
「スカイダイビングでパラシュート使わずそのまま着地する人もいますからね」
無茶苦茶だよな。人間をやめたらスポーツってつまんなくなるんだよな。
それに、本気でやってる人達に申し訳ないというのもある。
俺達みたいなのがスポーツをやらない方が世の中の為なんだ。しらけるもんな。
だから俺が湯沢に遊びに来るとなると温泉一択になるのかな。
離婚したし若い彼女が出来たし新しい趣味が欲しい。
「お前達は休みの日何やってんの?」
「ウチはショッピングかカフェ巡りですね」
「私はゲームか居酒屋巡り」
ふむ、どれもピンと来ないな。
酒は嫌いではないけど酔えばトラブルになりかねないから飲まなくなった。
コーヒーは好きだけどインスタントで良いんだよな。カフェで長居するのは苦手。
ゲームは子供の頃はやったけど今更だよな。
ショッピングはネットで良い。
「参考にならんな」
「偉そうに―」
「おじさん趣味見つけないとボケますよ?」
「うーん、カミナは?最近ずっと一緒にいるけど一人の時は何してたんだ?」
「私は読書か海外ドラマ見るのが好きかな」
読書か、少し老眼が来てる俺にはキツイ。
海外ドラマは文化が違うせいか頭に入って来ないんだよな。
「うーん、俺には新しい趣味見つけるの無理かもしれない」
「ゲートボールは?」
ミヅキが俺を馬鹿にしてくる。
俺はコイツへの復讐を趣味にしよう。
そんな話をしてたら301層に着いてしまった。
「丁度6時間か」
「楽勝過ぎるね。バク子ちゃんありがとう」
冒険者のステータスの高さでほぼ走り抜けてる。
一応邪魔なモンスターを倒してはいるのだが、ダンジョン初日はマラソンになってしまうな。
「レア素材は無いし魔石のみ」
「レベル上がんなかったー」
低階層は仕方あるまい。明日に期待しようぜ。
さあ、ダンジョンから出よう。
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「うー夕方だなー」
「お疲れ様です」
おや?君は確かカナデちゃん。水泳の子。
会うかもとは思っていたけど初日に会えるとはね。これから潜るのか?
「皆さんが潜っていると聞いて待ってました」
いつ出てくるかも解らないんだから待たなくていいのに。
冒険者は泊りがけで潜る事もよくある。
でも道後では夕方には出てきていたから行動パターンは把握されてるのかもしれない。
「パーティメンバーは?」
「あちらの方々です。国に紹介して貰いました」
おお、いかつい男達が3人。え?女の子一人なの?
人の事は言えないけど何か心配な組み合わせだな。
「自衛官と警察官と消防の方です」
ああ、ステータスアップの為に潜るのか。
体力があるに越した事の無い職業の人達だ。
なので研修扱いでダンジョンに潜る事があるとは聞いている。
「じゃあ一時的なパーティって事?」
「そうなりますね」
本業あるから冒険者に専念は出来ないよな。
取り合えずある程度の期間は一緒に潜って次の人員に交代していくのだろう。
でも正式なパーティ探さなくていいのか?
「良い人が見つかったら順次入れ替わっていく事になるかと」
そうか、まあ焦ってパーティ組むのも事故の元だしな。
国が定めた育成方針なら何も言うまい。
「あんた達、この子に手だしたら許さないよ」
「やめとけミヅキ」
国に尽くしてる人達だぞ。
確かに不祥事もいっぱいだけど、選抜された人達なんだから大丈夫だろ。
ごめんなさいね、ウチのパーティメンバーが ペコペコ。
「じゃあ頑張ってな」
「はい、お疲れさまでした」
カナデちゃんに手を振り、東京に戻った。
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湯沢2日目
今日も今日とて同じことの繰り返しだ。
600は南紀白浜と一緒だから仕方ない。
こっちに泊まっても無いからなんも起こらない。
そんな訳で6時間弱かけて501層まで降りた。
湯沢最終日
「さて、湯沢のダンジョンボスは『モシカ』だ」
「強いの?」
でっかい鹿型モンスター、動きが早いぞ。
目に入ったやつを狙って突進してくる。
ステップが厄介だ。動きが読めない。第二形態は無い。
「攻撃力はさほど高くないが、被弾はある程度覚悟した方が良い」
「陣形は?」
4人で囲もう、俺とカミナは対角で。
ヒーラーは自分で治せるし、ミオコとミズキが被弾したら近い方が治しに行く。
その辺は臨機応変で行こう。
「攻撃を受けてもすぐに立ち上がらないと駄目だ。両足で止めを刺しに来る。こっちは結構痛いぞ」
「「「了解」」」
「では行こうか」
湯沢600階層ダンジョンボス モシカの間
部屋に入った瞬間から睨まれ、鼻息荒く足をバタつかせるモシカ。
俺に向かって突進してくる。と見せかけてステップでミヅキへ。
俺が横から背中を攻撃するが止まらない。ミヅキは直撃を受けてしまった。
「いった!!」
「大丈夫か?!みんな広がれ!」
ミズキも高レベル冒険者、今ので怯んだりはしない。
すぐにカミナが回復、陣形を作るために動き出す。
「いったい!!」
「大丈夫か?」
ミズキがまた被弾。続いてミオコも被弾。固まるな、モシカが狙いやすくなる。
回復はモシカが他に向かってる時だ。
「いったぁい!」
ミオコがまた食らった。すぐに立ち上がる。
そろそろ動きが見えてこないか?
カミナが避ける。うまいぞ。
まだこっちは最初の俺の一撃しか入れてない。
「いったぁいぃ!」
「あぁん♡」
そこら中で色っぽい声が木霊する。
攻撃が俺に向かってないから俺が行かなきゃ。
少し強引にモシカに一撃を入れる。
「いや、来ないで!」
「そこは駄目ぇ!」
お、俺が頑張らなきゃ。モシカに二撃入れる。
俺は全然無視されてる。
あ、そろそろ回復してやらなきゃ。ヒール。
「ぅう!また入った(攻撃が)!」
「好き放題入れられちゃうよぉ(攻撃を)!」
………モシカに3発入れる。
俺はもう防御は気にしなくていいかも知れない。
「突き上げないでぇ!」
「ガンガン突かないでぇ!」
10発くらい入れた。モシカは死んだ。
「おい、お前ら攻撃してなくないか?」
「う、ウチは一発いれましたよ?逆に滅茶苦茶イレられたけど」
「槍は相性悪いね。なすすべなく強引にイレられっぱなしだった」
カミナは大丈夫か?穢されてないか?
被弾無しで終わったらしい。良かった。
「こんなことじゃ伊豆高原大丈夫かな」
「レベル上がったし大丈夫ですよ」
「今日は無茶苦茶にされたけどダメージは軽かったよ」
やれやれ、おや?ドロップ品にオリハルコンの剣があるぞ。ミオコいる?
必要なら渡すけどその分分配は減るからね。じゃあ東京に帰ろう。
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「湯沢ですか?今奥飛騨なんですが」
CIAエージェント、ケイトリン・リリー・フィリップス。
有馬へ行き、下呂へ行き、現在は奥飛騨温泉郷にいる。
当局から通信が入るが、今とんでもない山奥なんだけど。
「現在レンタカーを借りていますが、湯沢はさすがに遠すぎますよ」
奥飛騨めっちゃくちゃアクセス悪いのよ?
電車も無いし事業所乗り捨てレンタカーを借りざるを得なかった。
「すでに3日目?それならいまから向かっても行き違いになる可能性が…次は湯田中渋に向かった方が良くないですか?」
600、600、と回ってるみたいだから600に先回りしましょうよ。
と言うか湯沢にいるって解ってるのならその情報掴んだ人間が接触すればいいじゃないの!バカ!
こっちは温泉も入らずテレポートポイント作るためだけに回ってんのよ!アホ!
「(って言いたいけど言えない)はい、その方が効率的ですよ。そうさせてください」
通信が切れた。はあ、お腹すいた。こっちは高山で朴葉味噌も食べずに頑張ってるのよ?
慣れない左車線の運転ももう疲れた。温泉に入りたい。
CIAエージェント、ケイトリン・リリー・フィリップス。
とぼとぼと車に乗り込み、湯田中渋へ向かった。




