30 ダパン
南紀白浜 最終日
「うーん、飲み過ぎたかも」
ミオコとミヅキの調子が悪そうだ。
昨日、一仕事終えた彼女達はそのまま明るいうちから祝杯を挙げ、現在こんな感じ。
俺とカミナが頑張って549層まで攻略して来たというのに。
「じゃあ攻略は午後からにするか?俺とカミナは午前中、海で遊んでくるよ」
「あーチェックアウトはしないとー」
そうだな、お前達も海へは来てくれ。そこでぐったりしてればいい。
フラフラするミオコとミヅキを連れ海へ。
ああ、やっと来れたぜ。昨日とは打って変わって快晴の海。白い砂浜。
「私達はビーチパラソル借りて休んでるよー」
ミオコとミズキは着替えてから寝てるって。
水着に着替えカミナを待つ、まだか?まだか?まだか?
「おまたせ」
おお!夏の海に舞い降りた天使!白い砂浜に映える黒いビキニのカミナ!生きてて良かった!
「可愛いよ」
「ありがとう」
可愛いしか出てこない駄目な俺。この美しさをもっと壮大なイメージで表現したいが出てこない。
ふ、富士山のように美しいぞ?いやこれはなんか違うな。
び、琵琶湖のようにでっかいぞ?どこが?何考えてんだ俺は。
フラミンゴのように細く長い脚、これは表現あってるかな?
そんな事を考えてる内にカミナが海へと走り出す。おーい、待ってくれよー。
後ろ姿も美しいな、長い手足を振りゆっくり走っていく。
ああこれ、捕まえて御覧なさーいのやつじゃないか?
いや、これは古いよな。今の子がそんなの知ってる訳がない。
実際冒険者のステータスで追いかけっこなんかしたら周りは引くだろうし。
「はやくー」
カミナに呼ばれ、もう我慢出来ん。
カミナの手を引き海の中へ、バシャバシャバシャ。
「まだ海が温かいね」
8月後半だけど暖かいな。たしか黒潮の影響だ。
クラゲも少ないし良い場所だよ。
「泳ぐ?」
「いや、頭は海に漬けたくない」
「もー、気にしなくていいのに」
髪が薄いってのは気にするものなんだぞ?
というか海来てまともに泳いでる奴なんていないでしょ。
カミナは泳ぎ得意なの?
「得意だよ。小学校の頃は水泳教室通ってた」
小学生の頃のカミナか。どんな感じだったんだろうな。やっぱ当時から可愛かったのかな。
「当時は焼けてて色黒だったな」
「そうなの?」
屋外のプールで頑張ってたのかな。全然面影ない。今は真っ白だ。
…うーん、色黒のカミナか。それも見てみたい。
「GOD、海は良く来るの?」
「いや、息子が子供の頃以来だな。15年ぶりくらいかな」
実際、おっさんになると海は来ないよな。
腹も出てくるし、若い人達がはしゃぐ場所だと思うようになってくる。
元嫁も日焼けを気にするようになっていったしな。
歳を取るとどんどん行動範囲が狭くなる。
若い頃ならちょっとの時間が空けばどこかに行っていたのに。あの頃の行動力は今はもう無い。
「でもダンジョン探索は頑張ってるよね」
「ああ、また守りたい者が出来たからね」
何気ない一言にカミナの顔が潤む。
取り繕う必要なんてない。そのままの言葉を伝えれば良いだけだったんだな。
ひとしきり遊んだ後、海から上がる。
あの二人はどこだ?バク子、探せるか?
『向こうですね』
ジュースでも買ってってやろうかな。
カミナ、あの2人は何が好きなんだ?
「あ、あの、カミナさんですよね?握手を」
俺達が海から上がるのを待っていたのか、女の子達がカミナを囲んでる。
おっさんは居心地悪いな。この間にジュース買ってくるか。
カミナも冒険者、一般人くらいなら心配しなくても良い。
ジュースを買って戻ってくると今度は男の子達に囲まれてる。
なんだナンパか?なかなかガラの悪そうな奴らだ。
こういう時も自分がイケメンならさっそうと登場できるのに。
おっさんが登場じゃ締まらないよなぁ。
「待たせたか?」
「ううん、この子達、初日に会った人の子分なんだって」
初日の?ああ、あのー、えーと、うーん。
「菊池泰明の子分っす!兄貴がお世話になったそうで!」
そうそう、そんな名前だった。
十代の子達だ。揃ってリーゼントの子達が5人いる。
あいつ、なかなか慕われてるみたいだ。
「自分達も冒険者なんすけど、ただいま浜の治安を守るパトロール中です!」
「それであのー、お仲間さんに、もっと肌を隠してもらえないか言ってほしくて」
ああ、あいつらまた…
ごめんね、ちょっと常軌を逸した水着を着てたでしょ?
あいつらもレベルが高いし言えなかったらしい。
確かに子供も居るのにあんなのが居たら風紀が乱れるよな。
ごめんな?世話をかけたよ。
礼儀正しく挨拶をして男の子たちは去っていった。
俺達もベテラン冒険者として、若い子の見本となるような行動をしないとな。
ミオコとミヅキの元へ行く。
人だかりが出来てる。あそこみたいだ。
ナンパなのか珍獣見てるのかどっちなんだろうか。
「おい、ケツを隠せよ」
案の定、尋常ではない水着で寝そべっているミオコとミヅキ。
声かけるの躊躇してしまった。
そんな水着のヤツ海外にいってもなかなかいないぞ?どこで買ったんだよ。
「あー、やっとナンパ来たと思ったらおじさんかぁ」
「露出狂に声かける勇気のあるやつそうそう居ないぞ?」
ナンパ待ちだったらしい。それじゃ逆効果だよ。
こんな奴らと一緒にいたら奇異の目が集まる。
バスタオルでいいから隠せ隠せ、不満そうな顔するな。
お前ら本当はモテないんじゃないか?
「い、言いましたねおじさん」
「自分は若い子ゲットして調子に乗ってるね」
「ああ、俺の彼女は世界一可愛い」
「おじさんが一番恥ずかしいですよ?」
た、確かに、良い歳こいて何言ってんだ俺。
久しぶりに海に来て浮かれてしまっている。若い彼女に舞い上がってしまっている。
離婚したばっかなのに浮ついている。
失敗を忘れるのは良い事なのか、悪い事なのか。
前向きに歩き出したと言えば聞こえが良いが、反省してないようにも見える。
答えはどっちなんだろうな?
「そんな事よりそろそろダンジョン行かないと遅くなる」
「また着替えるの?めんどくさいなー」
「ウチらも水着ダンジョンやる?」
馬鹿言ってないで、さあ行こうぜ。体はどうだ?もう平気か?
風にあたると酒は抜けるよな。
久々の海、気持ち良かったな。これからもちょくちょく来たい。
俺達は着替えてダンジョンに向かった。
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南紀白浜ダンジョン前広場
「ええと、2人で549階層まで行ったんだっけ?」
「結構潜りましたね」
ああ、カミナを抱えて頑張ったぞ。
あ、軽いからそんなに頑張らなくても行けたぞって言った方が良いかな。
「遅いよ!」
遅かったか。おっさん故のデリカシーの欠如が出てしまった。
でも本当に軽かったぞ。胸はこんなにでかいのに。
そしてまた余計な事を言ってしまったようだ。
「もー、行くよ?」
549層まで行き、550層の小ボスを難なく倒す。
そして599階層、ダンジョンボスの手前まで来た。
「南紀白浜のダンジョンボスは知ってるか?」
「ダパンでしょ?名前くらいは知ってる」
白黒の熊型モンスター、ダパン。
ここにしかいないから戦うのは初めてだよな?
パンチ1発でも食らったらHP滅茶苦茶持ってかれるぞ。
「ここのボスは比較的楽だと言ってましたが」
「ああ、リーチはそんなに長くないから、ヒットアンドアウェイで倒せるんだ」
無理せず、一撃一撃をしっかり入れる。
欲張って二撃入れようとするとカウンター食らう。
俺もここまでは魔法で来たけど剣に持ち変えるよ。
「3方向から囲んで、カミナは二人の後方で回復してあげて」
「おじさんが遠くなるけどいいの?」
俺は自分で回復できるからね。
それにあいつの動きは覚えてる。若い時に何回も戦ったからな。
今はレベル下がっちゃったけど、多分被弾なしで行けるよ。
慢心してる訳じゃないから安心してくれ。よし、行こう!
南紀白浜600階層 ダンジョンボス ダパンの間
白黒のモンスターが寝っ転がっている。
俺達を見つけ、起き上がり鋭い目つきで威嚇してくる。
「広がれ!ヒットアンドアウェイだぞ!無理な時は絶対に攻撃しちゃだめだ!」
ダパンに攻撃を絞らせない為に3方向から囲む。
細かくジャンプし向きを変え3方向を威嚇しようとするダパン。今だ。
一撃を入れ、すぐさま飛びのく。
こっちを向きパンチを放ってくるダパン。今だぞ、攻撃してくれ。
ミヅキの一撃が入る。即座に退避。ダパンが振り向きパンチが飛んでいく。そこをすかさず俺の一撃。この繰り返しだ。
ミオコの動きが悪いな。どうもタイミングつかめてないみたい。ほら今だぞ?ああ、タイミング逃したな。
あ、今じゃないぞ!ミオコが攻撃食らってしまった!壁際まで吹っ飛ぶミオコ。慌ててカミナが回復に行く。
「戻ってくるまで前後で挟め!攻撃が1人になると瓦解するからな!」
「解った!」
左手で魔法を撃ちながら横に移動、ミヅキの一撃が入り、後ろを向くダパン、そこへ俺の一撃。
「ごめん!戻ったよ!」
ミオコは大丈夫だったようだ。ではまた3方向から攻撃。ダパンの攻撃がミヅキにかすった。大した事なさそうだ。
その後、同じ事を何度となく繰り返す、ミオコはまた攻撃を食らったか。
でも想定内、無傷で攻略できるとは思ってない。
そして、ミヅキも食らった。吹っ飛んでいく。カミナは大忙し。
「こ、これ、まだ続くの?!」
「まだ6割くらいだぞ!踏ん張れ!」
もう20分くらい動きっぱなしだ。ちょっとペースが悪いくらいだ。ミオコがまた食らう。動きがちょっと悪くなってきたかな?
「ミオコ!狙われてるかもしれない!慎重に!」
ミズキが食らった!やばい!攻撃が俺に集中してしまう!仕方ないので、ちぃ太の加護発動。
素早く動き回り、攻撃を絞らせない。あーあ、精霊を使ってしまった。
ミオコが戻ってきた。渾身の一撃が入る。すぐさま飛びのき、パンチを潜り抜ける。
ふう、これでまた陣形を取り戻せる。
ダパンが呻き、倒れていく。結局30分以上かかっちゃったな。
「ど、どこが、はあはあ、簡単なの?」
「ん?簡単じゃないか?おんなじ攻撃しかしてこないし、第二形態もない」
「一撃でHP60%くらい持ってかれるんですが」
「パンチ強いって言ったでしょ」
なんだよ?話が違うみたいな顔して。
お前達もレベル600越え、これくらいの死線は幾度も経験してるだろう?
「3人で囲んでれば攻撃食らっても追撃来ないし、60%持ってかれても怖がらなくていいんだぞ?」
「そ、そうは言っても、うーん、ビビりました」
想像より一撃が重かったってところか。
初見の敵はそういう事もあるよ。
「不死王3分くらいで倒してるから麻痺しちゃったかな」
「確かに、あれしばらく見せられたから感覚おかしくなってるかも」
「ミオコは動き悪かったな。なんかあった?」
「戦いが始まってすぐにコンタクトがズレちゃって」
あらら、それは自分の準備不足だぞ?自己責任だ。
仲間を危険にさらす行為だ。
「冒険者が命を失うのはそういう想定外のトラブルが一番の原因だ。万全の準備をしてほしい」
「はい、ごめんね?みんな」
俺も精霊使っちゃったしちょっと不安が残る結果となったな。
これはもうちょっとパーティレベルの底上げが必要か?
取り合えずドロップ品拾って東京帰ろう。
今後の事は帰ってから決めよう。
ダンジョンから出て帰ろうとしたらまたなんかガヤガヤしてる。
なんだよ、ここのダンジョントラブル多すぎないか?
「へいへいへい、その女の子達を解放しな?」
「うるせえ!俺の勝手だろ!」
ああ、初日のリーゼントか。そしてホストっぽい男と3人の女の子。
二十代半ばの男とどう見ても未成年の女の子達、あらら、これは怪しい。
人の事は言えないけど本当に怪しい。
「お前が家出少女をダンジョン内で稼がせ、上前ハネてんのは知ってんだぜ?」
そんな悪い事してんのかあの男。本当なら許せんな。
「こいつらが売掛金払えねえって言ってんだからしょうがねえだろうがァ!!」
「そもそも言葉巧みに店に連れてって、借金作らせたんだろうが」
うーん、社会問題を見ている気分だ。
家出少女は家に戻されたくないから警察にも駆けこめない。
どうせ大したサービスもしてないのに何百万も請求してるんだろうな。
「うるせぇ!これでも俺は冒険者レベル150だぞ!くらえ!!」
あ、ホストがキレちゃったな。大丈夫か?
人混みが邪魔で前にいけない。
殴りかかってくるホストにカウンターを入れる、えーと、菊池だっけ?
とにかくそいつのカウンターが決まった。あいつ強かったんだな。
「ふっ、お嬢ちゃん達、こんな奴の言う事なんて聞かなくていいんだぜ?」
「で、でも私達、警察にも相談できなくて」
「安心しな、俺はこう見えても弁護士だ。お嬢ちゃんみたいな若い子からは金もとらねえし悪いようにはしねえ」
あいつ弁護士だったのか。全然見えないな。
「でも家に帰されると親が暴力振るうし」
「親がまともじゃねぇなら俺が戦ってやる。もう苦しまなくていいんだぜ?」
…滅茶苦茶良いやつだな。初日悪い事しちゃったな。
なんか気まずいから見つからないうちにこっそり東京に帰った。




