3 救出おじさん
「どうした?迷子か?」
熱海ダンジョン 265層
「や、やっと人が来た!助けてください!」
「落ち着け、状況説明して」
女の子が一人、通路の陰でへたり込んでいた。
大きなメガネのロリッ子だ。そこそこ深い階層なのにソロか?珍しいな。
「それが良く分からないの!気が付いたらここに…なんだか見た事もない強そうな敵がいるし」
「この階層にいる敵はロックイーターだ。ここは265層だぞ?」
「え?!ウソ…5階層にいたはずなのに…」
あーこれはあれか。話には聞いてたけど本当にあるんだな。
「怪我してるか?」
「う、うん。脇腹をモンスターに…でもやられたのは5階層のジャイアントラットで…」
「おでこも怪我してるな」
「え?い、いたっ!ほ、本当だ、いつの間に…」
「お前はおそらく気絶したんだよ」
とりあえずヒール、動けるか?
レンジャーか?スカウトか?装備を見ると低レベルなのは解った。
「あ、ありがとう」
「ソロか?」
「ううん、4人パーティだったんだけど、ジャイアントラットの群れに奇襲されて、逃げながら迎撃してるうちに散り散りに…」
「食われなかったのは幸運だったな」
「私、どうなっちゃったの?」
「まあとりあえず出るぞ。リターン」
女の子を連れ、呪文を唱えた。
熱海ダンジョン ダンジョン前広場
「トモカ?!生きてたんだね!良かった~~~~」
ダンジョン出るとすぐに女の子が駆け寄ってきた。
受け止めようと手を広げた俺の横をすり抜け、助けた女の子のもとへ。
「他の二人は?」
「高段者の人達に頼んで一緒にトモカの事探しに…ひょっとしたら逃げるうちに6階層に行ったんじゃないかって」
「居なくなってから何時間経ったんだ?」
「えと…誰ですか?おじさんは」
すごい怪しい目で見られてます。うん、慣れてるぞ。
「このおじさんに助けてもらったんだ。私、265層にいたらしくて」
「ええ?!なんで?」
「まあまあ、今から説明するよ」
何度も言ってるが、ダンジョンは生き物である。
モンスターを生み出し、死体は吸収する。
モンスターのみならず、人間の死体も吸収する。
おそらくこの子は一度ダンジョンに吸収されかけたのだ。
「気絶してたからダンジョンが間違えたんだよ」
「で、でも、それでなんで265層に?」
吸収の途中で「あれ?コイツまだ生きてんぞ?」となったダンジョンは女の子を吐き出した。
ただご丁寧に元の階層に戻してくれる訳ではない。
適当な階層に放り出されたんだ。
「時々起こる事らしい。高階層から低階層に飛ばされたって話は聞いたことある」
「私は低層から265層だったけど…」
「逆もあるんだろうな、でもその場合はまず帰ってこれないだろうからなぁ」
トモカは背筋が寒くなる。
そうだよね、265層で敵に見つかったら終わりだった。
気絶してる時に敵に見つかったら終わりだった。
このおじさんが来なければ終わりだった。
「運のステータス高いのか?」
「え?う、うん」
「おやじギャグか?」
「ち、ちがくて!」
「トモカは運のステータスがずば抜けて高いって言ってたよね?」
どれ、恥ずかしがらずにおじさんに見せてみなさい。
ほほう、飛びぬけてるな!
ここまで極端なの珍しい。
「でも他のステータスが低くて…やっぱり私冒険者に向いてないのかな?なにやっても中途半端だし」
「いや待ちなさい。知ってると思うけどダンジョンで育ったステータスは現世界にも反映するんだ。このまま運を育てると、普段の生活でも豪運になるわけだ」
「そ、それって」
「まだ未成年か?」
「え?うん、17歳」
「わたしもー」
「ギャンブル出来る歳になるのが楽しみだな。俺ならもっと育てておくけどな」
「ギャンブルかぁ」
「ギャンブルはよくないと思います」
「じゃ、じゃあ、投資とか」
「投資良いね」
「投資?かっこいー」
「どっちにしろもっと育てたほうがいいぞ?飛びぬけてるって言っても今の数字は低レベルの飛びぬけてるだ。高レベルの飛びぬけてるとは比較にならない」
運は不確定な要素だ。
実際、俺の全盛期の運のステータスは今のトモカとは比較にならないくらいの数字だった。
単純にレベルが高かったからね。
その頃、数字選択式の宝くじで2等の700万を当てたことがある。
では1等を当てた奴はもっとステータスが高かったのか?いや、そうではないと思う。
それだと1等が毎回同じ人になるだろう。
運が良い人の中でも、更にランダムな運要素があるのだと思う。
おみくじを引いても毎回大吉が出る訳ではない。
ただ、運のステータスを上げれば、大吉が出る割合が増えていくように思う。
「ふーん」
「むつかしいねー」
「力や素早さみたいに実感しやすいものではないからな」
「でも正直、他のステータスが低いから足を引っ張ってるような気がして」
「そんな事無いよトモカー。ね?おじさんもそう思うでしょ?」
いや、知らんし。ここで俺に振るなよ。
「それに、265層に飛ばされたのって運が良かったのかな?怖くてずっと震えてた」
「助けてくれそうなおっさんの前に飛ばされたと考えれば運がいいだろ」
「たしかにそうかも…」
「助けてくれそうなイケメンの前に飛ばされると更に良いかも」
おい、連れの子。お前さっきからなんだ。
「まあ運が良くても死ぬときは死ぬからな。無理に冒険者続けろとは言えないけど」
「…」
「しかし、私生活で豪運になれるかもと聞いて、その魅力に抗えるだろうか?」
「うーん」
「おやじギャグやめなさい」
「違います」
「今日は命拾ってラッキー、それで勝ち逃げで良いのかもな」
「…」
迷ってる迷ってる。いや別に、俺はどっちでもいいんだけどね。なんか惑わしてるよな、俺
ちょっと変わったステータスを見て、どんな成長をするのか気になってしまった。
しかし興味本位で若者をグラつかせるのは良くないか。
「お前の人生だ。決めるのはお前だ」
「えー?大丈夫だよトモカ。おじさん大人なんだから後押ししてよー」
「馬鹿ゆうな、ダンジョンは自己責任だぞ?お前たちが死んでもおっさんは責任取れない」
「…冒険者を続けた場合、皆のお荷物になりながら、自分だけ豪運になっていくって言うのは」
あー、それを気にしてるのか。
なかなか責任感が強いんだな。
「今も私を探す為に高段者の人達に迷惑かけてるみたいだし」
「そんな事無いよートモカー」
そんな事はある、連れの子は未熟だな。
迷惑をかける事の重さを分かってないのだろう。
17歳ならそれでも仕方ないと思うかもしれない。
だがここはダンジョン、命のやり取りをする場所だ。
若いから、未成年だからで許される場所では無い。
「私決めました。冒険者やめます」
「えー」
「そうか、達者でな」
「そしておじさん、あらためて」
トモカが膝を折り、地面に座る。
そのまま地面にひれ伏し、土下座した。
「助けていただき、ありがとうございました。この御恩は一生忘れません」
「お、おいおい、そこまでしなくても」
「265層に飛ばされたのはトモカのせいじゃないよー?」
「ううん、ジャイアントラットの群れに気づかなかったのはスカウトの私の責任、パーティの皆にも迷惑かけてごめん」
「そんな事無いのにー」
「おじさん、私はやめちゃうけど何か役に立てることがあったら…」
「なんか得意な事はあるのか?」
IT関係は強いらしい。
ふむ、今のところは頼めることないな。でもそのうち頼むかもしれない。
一応RINEは交換しとくか?浮気を疑われるのが怖いからグループチャットにしてくれ。
「おや、仲間が出てきたみたいだぞ」
ダンジョンの入り口から憔悴顔の男の子達が出てきた。
だがすぐにトモカの顔を見つけ、破顔する。
涙を浮かべながら駆け寄ってきた。
「じゃあ俺は行くわ」
「なんだ?おのおっさん」
「あのおっさんに攫われたのか?」
「違う、助けてもらったんだよ~」
なんか言われてる。
居心地悪いから足早に立ち去ろう。
その背中を見つめ続ける小早川智花。
もう一度深々と頭を下げた。
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「おじさーん、こないだ女の子を土下座させてたね」
「お、おおルシルか、あれには深いわけが」
熱海ダンジョン ダンジョン広場前
「あはは、助けたんでしょ?知ってる」
「なら誤解されるような言い方するなよ」
「師匠、ご無沙汰しております」
「え?おお、クオンか?どうしちゃったんだお前」
急に呼び方変わって、師匠なんてくすぐったいじゃないか。
背筋をピンと伸ばし、軍人みたいな姿勢で接してくる。
「2人はレベルあがったのか?」
「うん、あたしは8、クオンちゃんは12、6階層まで潜ってるよ」
「装備も変えたみたいだな」
ルシルは可愛らしい、クオンはかっこいい防具に変わってる。
ルシルは結局杖持ち始めたんだな。
クオンのその恰好は剣士だよな?似合ってるぞ。
「まだ2人で潜ってるのか?」
「ううん、今日からもう一人くるんだけど遅れるって」
そんな訳で広場で時間潰してたらしい。
で、おっさん見つけたし、からかってやろうって訳か。
「師匠、今『テレポート』で出てきましたよね?」
「見てたのか?俺、都内から来てるからな」
テレポートは移動魔法だ。一度行った場所ならどこでも行ける。
遠くになる程魔力の消費はすごいけど、一応海外にも行ける。
ただそれをやると重罪なんだけどね。
「おじさん都内だったの?」
「ああ、地元はこっちなんだけどね。現住所は千代田区だ」
「すごいね、一瞬でここまで来れるの?」
ああ、一瞬だ。
日本中のダンジョンに一瞬で行けるが、リハビリ中なので昔一番最初に入ったダンジョンに来ているんだ。
「すごいね!あたしも覚えたい!」
「だが覚えたら覚えたで大変だ。冒険者組合を通して各種行政機関に情報が通達される。一年に一回は警察が家まで様子見に来るし」
「ええ?どういう事?」
犯罪に使えるからだよ。
以前、アイテムボックスに麻薬入れてた者の話はしたじゃないか。
テレポートは更に犯罪を容易にする。
ひとんちの高級車をアイテムボックスに入れてバイバーイとか出来てしまう。
「それでみんなGPSなり紛失防止トラッカーなりを自分の貴重品に付けるようになったのだ」
「なんだあ、覚えても良い事ばかりじゃないんだね」
「ああ、さいわい高レベルにならないと覚えられな…」
「師匠!レベルいくつなんですか?!」
うお!なんだよクオン。
急に大きな声出すなよ。
「すんごく下がっちゃったから恥ずかしくて言いたくないって言ったでしょ?」
「師匠、真剣なお話があります」
「なんだよ、あらたまって」
「別府第一ダンジョン、過去に完全攻略したのは…師匠ですか?」
「そうだけど」
「ええ?そんなあっさり?」
別に隠してないし、知ってる人は知ってるし。
若いお前たちの中では25年前の出来事なんて興味もないでしょ?
俺だって自慢みたいになるからわざわざ言わないよ。
「別府第一ダンジョンのラスボスは…」
「クオンちゃん、それって聞いていいの?」
「オロチだけど」
「ええ?そんなあっさり?」
「ほ、本当なんですか?」
「ん?攻略サイトに書いてあるでしょ?俺、情報提供したよ?」
「書いてません!」
書いてない???なんで?
…ああ、またあいつ、ひょっとして。
「人の情報私物化してんのか」
「何の話ですか?」
「いや、攻略サイトの管理人、知り合いなんだけどさ」
ダンジョンが現れた時、日本ではまだまだネットは普及が始まったばかりの頃だった。
それでもダンジョンの話題は常にホットニュース、連日ネットの中を賑わせていた。
そのうち攻略サイトが出来始めた。
嘘か本当かもわからない情報サイトが乱立していった。
だがそのうち、一つのサイトが頭角を現し始めた。
『超攻略!ダンジョンダンジョン』がそのサイトだ。略してダンダン。
「俺が情報売ってたサイトなんだけどね」
「インセンティブ貰ってたんですね」
俺からの情報を受けたダンダンは急成長。
他のサイトを過疎らせ、閉鎖に追いやっていった。
「サイトの管理人は大学の同級生でね。元々は良い奴だったんだけど…」
「悪い人になったの?」
「まあ、冒険者が強くなると勘違いしてしまうように、その管理人も…」
ついにそのサイトは一強独裁になった。
やりたい放題となった管理人は徐々におかしくなっていった。
「まあ俺も、オロチの情報渡して最後のインセンティブ貰って縁切っちゃったんだよね。引退したし攻略サイトにも行ってなかったからそんな事になってるって知らなかったよ」
「でもなんで情報出さないんだろ?ネタバレがどうとかって話だったよね?クオンちゃん」
「うん、攻略する人の楽しみを奪わない為とかどうとか」
「そんなのおかしいでしょ、攻略サイトなんて元々ネタバレの宝庫じゃないか」
ネタバレ食らうために行くような場所だ。
それでも行くのは死にたくないからだ。
事前に情報知ってるのと知らないのとじゃ大違いだからだ。
攻略する人の楽しみ?
そんなのやり直しの利くゲームだから言ってられるんだ。
ダンジョンは一回死んだら終わりなんだ。ゲームじゃないんだぞ。
「まあアイツにとってはゲーム感覚なのかもしれん」
「他のサイトも細々だけど続いてる所ありますよね?そっちに情報流すのは…」
「それはインセンティブ契約の違反になる恐れがある」
アイツの事だ、その辺に抜かりはないと思う。
まったく、おかしな方にばっかり知恵がついていっちゃったんだよな。
かかわるのが嫌になって縁を切ってしまった。
しかし攻略サイトが情報を隠すとはね。
たくさんの命にかかわる事なのに、アイツにはどうでもよい事なのだろうか。
「ハッキング出来ないかな」
「はい?」
「こないだの土下座の子、ITに詳しいって言ってたから聞いてみるよ」
ようトモカ、お前ハッキング出来ないかい?
すぐに返事が返ってきた。
「無理だって」
「そりゃそうだよ」
「そんなに都合良くいく訳が」
「おじさんトモカを犯罪に巻き込まないでって、あ、やべこれグループチャットだった」
「なにやってんの?」
「しっかりしてくださいよ」
十代の女の子達に怒られるおっさん、お恥ずかしい…
おっさんは現代のシステムについていけてないんだ。
それもこれも、あの管理人のせいだな。
「おや、連れが来たみたいだな、じゃあ俺は失礼するぜ」
「あ!…もう、エレナを紹介したかったのに」
「逃げたね。私ももうちょっと話聞きたかったんだけど」
「なになに?ウチにあんなおっさん紹介するとか何させる気よ」
おじさん、第一印象最悪みたい。
どうしてみんなマイナスから入るんだろう。
「誤解しないでね?良い人なんだから」
「凄い人だよ。私は尊敬してる」
「ええ?二人ともどうしちゃったの?」
大丈夫、そのうち紹介するから。
そんなに嫌そうな顔しないでよ。
少し変わってるけど知り合いになって損は無いからね。




