12 順調
「あれ?ヒール覚えたっす」
熱海ダンジョン 16階層
「おお、エレナ良かったじゃん」
「うらやましい」
ダンジョンに潜ってすぐにレベル17になった。
今まで弓職のスキルしか出てなかったのだけど、急に回復魔法を覚えた。
ウチの潜在能力の中に回復魔法があったのか。
「怪我してないっすかー」
「試したいのは解るけどしてないよ、MP勿体ないから温存して」
「いいなあ、回復職は引く手あまたなんでしょ?」
「うん、でも専門職ほどスキルレベルが上がるか解らないし、使える回数も限られてくるよ」
今はヒールLv1、これがレベル10でMaxだったはず。
専門職じゃないからそこまで行けるか解らないのか。
MPも多くは無い、スキルと併用して3回くらいは使えるかな?
「まあでもいざって時にあるとないとじゃ大違いだよね?」
「うん、頼りにしてるよエレナ」
「まかせるっす!」
なんであれ成長は楽しいな。
お金も稼げるし、命懸けではあるけれど冒険者はなんて良い仕事なのだろうか。
30分後。
「あれ?二刀流Lv1覚えたよ?」
今度はルシルが何か覚えたようだ。
「二刀流?それレアスキルだよ!」
「そうなの?でもこれって剣士のスキルだよね?あたし、魔法職はどうすれば…」
「いいなあ、なんで剣士の私に出ないかなぁ」
クオンちゃんが悔しがってる。
嬉しいけど複雑だ。やっと魔法職に慣れてきたのに。
「確か魔法を剣に乗っける方法があったはず」
「それって強いの?」
「うん、今は低階層だからあんまり関係ないんだけど、そのうち属性の相性が出てくるらしくってね」
炎の効く敵、氷の効く敵、雷の効く敵。
魔法でも良いんじゃないかと思うだろうが、剣に魔法乗っければ手数が変わってくる。
近距離戦になる分危険も増えるが避けられることも少なくなる。
「攻略サイトに詳しく書いてあるけどダンジョン内はスマホ圏外、出てから見てみると良いよ」
「うん、わかった」
「それより、ふふ、こっちはリターン覚えたよ」
「え?今日は盛り沢山じゃないっすか」
「これでいつでもダンジョンから出られるの?」
そう、MPは必要だけどいつでも出れるようになった。
今までは帰りの事を考えて余裕を持たせて戻ってたけど、これからはもっとギリギリまで粘れる。
「一人だけ?パーティ全員出れるの?」
「2人を連れて出られるよ。MP3倍必要だけどね」
「凄いっす。でもMP無駄遣い出来ないっすね」
私は剣士だからMPあんまり使ってなかったんだよね。
スキルで多少は使うんだけど、いつも余らせてた。
だからリターンはメリットしかない。
「なんか良い事ばかりっすね」
「順調に軌道に乗ってるよね」
『わたくしのお陰かしらぁーん』
「う、出てきていいって言ってないでしょ」
オランウータン型の精霊、サルエロ
でも確かに彼を手に入れてからとんとん拍子に事が進んでる気がする。
弊害もたくさんあるんだけどね、私にとっては。
「サルエロのエロ本がママに見つかっちゃってさぁ…悲しい顔してた」
「あ、あらら、それはそれは…」
「パイセン、元気出すっす」
ルシルは考える。お世話になってるし、時々はサルエロにエロ本献上しようかと思ってたけど、これは駄目だね。
クオンちゃんのお母さんが可哀そう。
「でも実体無いのにどうやって見るの?本めくれないよね?」
『んっふっふー、精霊ともなれば本などめくらなくても中身を確認出来るのですよぉーん』
そうらしい、でもネット検索は出来ないらしい。
なので昨日は私が色々おかしなものを検索させられた。
セーフサーチの存在がバレた時の事が怖い。私未成年だからダメで切り抜けられるだろうか。
「クオンちゃん…苦労してるんだね」
「わかる?優しくしてよ」
「パイセン、ご飯くらいならいつでも奢るっす」
わーい、じゃあ今日も頑張ってみんなで焼肉行こうよ。
いいの?やったー、太っ腹!
こんな事でもないとホント闇落ちしちゃいそう。
「エレナ、半分出すよ」
「助かるよ!ルシル」
そんな感じでダンジョン探索を頑張った。
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「おお、二刀流か、良いのが出たな」
熱海ダンジョン前広場
「おじさんも今帰り?」
「ウチらこれから焼肉っす。おじ様もどうっすか?」
ん?ダイエット中だしな。
それにさすがに未成年と食事はなぁ。大人のしてそこは配慮したい。
「まだ言ってんすか?ほら行きますよ」
「うお、押すなよ!」
「おじさん二刀流詳しい?色々聞きたいんだけど」
「師匠、リターンの使い方ですが、ダンジョン以外で使う方法があると…」
「いっぺんに言うな、わかった付き合うよ」
仕方ないな、ユッケのある店で頼む。
焼肉久々だなー、楽しみだ。
「おじさん、ユッケとご飯だけでいいの?」
「ああ俺、肉は焼かないんだ」
焼肉来てるのに…やっぱり変わってるなぁ。
「でもやっぱ絵面がなぁ、こんなおっさんと制服姿の女子3人っておかしくないか?」
「私達は冒険者なんですからおかしくないですよ」
「そうそう、歳の差パーティも珍しくないっす」
「冒険者の打ち上げとして見られないかな?」
そういうもんなの?時代は変わったのかな。
酒は飲まないから安心してね。
「で、なんだっけ?二刀流とリターンだっけ?」
どっちも説明めんどいんだよな。攻略サイトにも書いてあるだろうに。
読むのもめんどいから説明させられてるのだろうか。
「まず二刀流、これは読んで字のごとくだけど…」
「魔法を剣に乗っける方法があるって」
「そんなの当分先の話なんだけどな、まあいいや、杖で魔法を出すイメージがあるだろ?それを剣に纏わせるのはちょっと練習が必要なんだけど、出来ないことは無い」
「どう練習すればいいの?」
最初はそうだな、ちょっと離れた場所に剣を置いて、杖を使わずに魔法を剣に向かって撃つ。
剣に残るイメージでやってみると良い。
「剣持ってちゃ駄目なの?」
「ああ、刀身にだけ纏わせるのが最初は難しいから、例えばグリップ持ってると炎出した場合火傷するだろうな」
氷を出せば凍傷になるし、一番厄介なのは雷だ。感電してしまう。
だから最初は遠くから刀身に安定して魔法を乗せる練習をした方が良い。
「安定して乗せれるようになったら今度は手に持ってやってみると良い」
「でも少し怖いね。雷は伝導するんじゃ?」
「ああ、だからグリップは木にするとか、厚手のゴム手袋するとか工夫が必要になってくる」
「木だと炎は防げないよね?」
「そう、だから纏わせる属性によって工夫を変えてかないとな」
「なんだか大変そう」
ああ、一朝一夕で出来るもんじゃない。
練習中は剣を何本も駄目にしてしまうだろう。
「それにミスリルクラスの剣でないと刀身の痛みも早くなるぞ?」
急激な温度変化に耐えれる素材は少ない。
鉄の剣とかでやってるとすぐ駄目になるだろうね。
「み、ミスリルの剣っていくらだっけ?」
「1500万くらいしたはずだよ」
「ええ?!そんなの無理だよ!」
そうだな。しかも2本だからな。3000万だ。
「安い剣なり代用出来るもので練習は出来るけど、実戦で使うとなると当分先だろうな」
「なんだあ、ぬか喜びだー」
「いや、別に魔法なんて纏わせなくてもな、二刀流は強力なスキルだぞ?」
単純に攻撃力が上がるんだ。いきなり二倍になるとは言わないが、スキルレベルが上ればどんどん強力になって行く。
「スキルレベルの上昇は使用頻度とも関わってるから積極的に使っていった方が良いと思うぞ」
「ヒールも積極的に使った方が良いって事すか?」
「ああ、モチロンそうなんだけどな、でも本職弓ならMPそこまで高くないでしょ?レベル上げるのはかなり大変だと思う」
「えーとMP回復ポーションとか使って…」
それは費用対効果が合わない。
そこまでしてヒールのスキルレベル上げる奴はいない。
「レアスキル上げたいとかでそういう事やってる奴はいるけど、金持ちの道楽だぞ」
「滅茶苦茶金飛んでくんすね」
「その点、二刀流はパッシブスキルだ。MPの消費が無いのが良い所でな」
「おお、じゃあ使い放題じゃないっすか」
ええ?じゃあなるべく二刀流で戦えって事?
ここまで頑張って来た魔法はどうすれば…
「両方がんばれ」
「えええ」
「魔法レベルが上った方が、剣に魔法乗せるのも上手くいくぞ」
ユッケ食お、もぐもぐ、美味い。
このユッケをご飯に乗っけて食うのが一番美味いんだよなー。
あ、ユッケだけおかわりくださーい。
「師匠、次はリターンの話を」
「ああ、ダンジョン以外での使い道な、でも熱海では使い道無いんだけどな」
それもちょっとグレーなんだ。
ただ、テレポートと言うもっとグレーな魔法があるので一応容認されている。
「地下鉄で使えるんだよな」
「え?地上まで一気に出れるとか?」
「それだとしょぼいでしょ?地下鉄の駅間を移動できると思ってくれ」
地下鉄自体を出口が無数にある一つのダンジョンだと考えてみてくれ。
一度地下に潜ってしまえばそこから好きな駅の好きな出口に出れる。
ただ、これもテレポートと一緒で一度はそこまで行かないと駄目なんだけどね。
「えーと、東京の地下鉄から大阪の出口にも出れるって事ですか?」
「それは無理、地下が繋がっていないと駄目」
「東京でなら役に立ちそうだね。でも無賃乗車してる気分」
実際そうだからね。駅は使わせてもらうけど金は払わずに済む。
「ただどうだろうか?東京のどこかで事故が起きたとしてさ、リターンとヒール使える冒険者が地下鉄に入るだけで即、事故現場の近隣の地下鉄出口に行けるとしたら」
「おお、救急車替わりって事っすか?」
「そう、しかも現場で治すことが出来る」
まあこれちょっと政治も絡んでるんだけどね。
そんな能力があるなら人命救助にも使いなさいという、偉い人たちの票集めの材料。
報酬も一応は出るけど正直冒険者サイドにメリットは少ない。
「師匠もやった事あるんですか?」
「あるけど『マッハ和世姉さん』が早すぎてな、俺が行くといつも先に居る」
「だ、だれ?」
「それ専門でやってる人だよ。人助けが趣味みたいな人でな、感謝されるから嬉しいんだと」
まあ実際、地下鉄内に住んでる人なんだよな。ホームレスさんだ。
勝てっこないから俺はやらなくなった。
「ウバーみたいなアプリがあってな、そこに登録すると呼び出されるようになってる。俺がやってた頃は携帯メールだったけど」
「へえ、東京進んでるんですね」
「聞いた事も無かったのか?」
昔はニュースでやってたりもしたんだけどな。
でも最近は当たり前になっちゃったからな。
熱海だと聞く機会も無いか。
「そんな感じだ。都市部限定の便利さになっちゃうけど、上手に使いこなしている人はいるぞ」
「うーん、今のところ私には関係ない話でしたね」
都会にでも引っ越したら上手に使いこなすと良いよ。
ふう、お腹いっぱい。
「おじさん、そんなに食べないんだね」
「ああ、代謝が悪くなってるから太ってるだけでな、そんなに食べる訳じゃない」
「ウチらまだまだいけるっす」
「脂は30歳あたりから受け付けなくなるんだ」
「師匠、デザートは食べますか?」
「食べる、パフェくださーい」
「かわいいっす」
若い胃袋が羨ましいよ。翌日もたれない胃袋が。
パフェうめーな。何杯でもいけそう。
「おじさん、今日はあたしとエレナの奢りだからね」
「いや待てそれは良くない、未成年に奢らせる訳にはいかないよ」
「いいからいいから、いつものお礼っすよ」
なんだと?そうは言ってもよう。
アイツ女子高生に奢らせてる!何様?って思われないか?
「むしろおじさんが奢ったらパパ活に見えるんじゃないかな?」
「そっすよ。健全な関係アピールとしてウチらが払うっす」
そ、そうか?なんか悪いなぁ。俺、お金なら死ぬほどあるのに。
「でも奢られるの久しぶりだからなんか嬉しい」
「ふふ、おじさん可愛いね」
「かわいいっす」
「2人共ありがとうね、私もやる気出たよ」
クオンちゃんも満足したみたいだし、めでたしめでたし。




