11 卑屈おじさん
「おーい、そんなおっさんと喋ってないで、俺らと遊ぼうぜ」
熱海ダンジョン前広場
今日も今日とてルシル達と喋ってたら、なんかチャラい奴らが5人ほどやって来た。
「なんだナンパか?」
「うっせー!おっさんは黙ってろ!」
「いい歳こいて若い子囲いやがって!」
ガーン、確かにそう見えるよな…
ハゲデブは引っ込んでた方が良いよな。
「俺らの方が楽しいぜ?」
「何を根拠に?すでに気分悪いんだけど」
クオン見た目通り強気だな、変な精霊持ちとは思えない。
「あたし、女の子が好きなの」
「う、嘘つけよ!騙されねえぞ!」
ルシル、断るためにそんな嘘を。だが向こうも諦めないようだ。
「そっちの可愛い子ちゃん、こっち来いよ」
「可愛い子ちゃんって死語じゃない?ウチ、洗練された人が好きだから」
ガーン、死語だったのか。普通に使ってた。
「い、良いからこっち来いよ!」
「なんで偉そうに命令してんの?」
「ゴブリンに近づきたくない」
「だ、誰がゴブリンだ、ふざけやがって!」
「ルシル、さすがに言い過ぎだぞ?」
「いえ師匠、ルシルに悪気は無いんです」
「人の事ゴブリン扱いで悪気無いはおかしいでしょ」
「おじ様、本当に悪気は無いんです」
「なんで俺に念押ししてんだ?今はあいつらに対しての話だろ?」
なんかわちゃわちゃしてるな。
皆の思考があっち行ったりこっち行ったりしてる気がする。
「無視してんじゃねーよ!」
「相手する義理ある?」
「良いから来いよ!」
「触らないで!」バシッ
「痛って!よくもやりやがったな!」
「ゆるさねーぞ!」
「こっちのセリフだ!殺すぞてめえ!!」
うお、エレナがぶちキレた、鬼の形相だ。
あまりの迫力に男達も狼狽える。
「行かねえっつってんだろ!!わかれやボケ!!」
「い、いや、俺達はおっさんから守ろうと」
「なんか、悪い道に誘われてんじゃねーかって」
…そう見えんの?…まあ、あれか、パパ活か。
「違うわボケェ!!ぶっ殺すぞテメェ!!」
「ま、まあまあエレナ、あいつらも悪い奴らではないみたいだ」
「心配してくれたんだね、でもそんなんじゃないから」
「おじさんはEDだから大丈夫だよ」
「ルシル、余計誤解されるからよしなさい」
「師匠、ルシルは天然なだけで良い子なんです」
「おじ様、本当に悪気は無いんです」
だからなんで思惑があっちこっちに行ってんだよ。
エレナはキレてただろ、貫き通せよ。
「な、なんか勘違いだったみたいだな、ごめんな」
若者達は去っていった。
うーん、後味悪い。
「エレナは凄い迫力だったな」
「中学時代、物凄い不良だったんだよ」
「やめてよ恥ずかしい」
「それよりあれだ、誤解受けるのも無理はないよな。お前達ももう少しおっさんと距離を置いた方が良いかもしれない」
うん、これは俺の配慮が足りなかった。大人として先に気づくべきだった。若い子と話してて楽しかったんだろうな。だから気づけなかった。
でもやっぱり、これだけ歳が離れていると健全とは言えないと思う。君達はおっさんとは別のコミュニティで生きるべきだ。
「おじ様卑屈すぎないっすか?ウチは憧れてるからおじ様に会いたいんすよ」
「師匠は別府第一単独覇者ですよ?貴重な情報もたくさん頂いてるし、恩恵を受けているのはこちらなのに」
「あんな奴らの言う事気にすること無いよ。もっともらしい事言ってたけど、結局はナンパだったと思うよ」
「うん、ワンチャン狙ってはいたよね。ウチら可愛いし」
くぅ、こんなにも慕ってくれているとは、これがなんで嫁には解んないのかなぁ。
じゃ、じゃあ、おっさんは今まで通りでいいのか?
「何も問題ないっすよ」
「むしろもっとお話し聞かせてくださいよ」
「おじさんはハーレムを作るべきだよ。こないだ拾った薄い本でそうなっ…モガモガ」
「ん?」
「師匠、ルシルは天然なんです」
「悪い子じゃないっす」
よく解らんが、なんかちょくちょく話ずれてた気がする。
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「おじさんなんでそんなに卑屈なの?」
「んー、多分妻との生活の中で、否定され続けたからかもしれないな」
「師匠が間違ってたんですか?」
「妻の中ではそうなんだと思う。妻が何か言ったとして、俺がもっと良い方法があるよと言うと、急にヒステリー起こしたりしてな」
「「「あーーー」」」
ん?なんか心当たりあんの?3人共同じ反応だ。
「多分おじ様は間違ってないんすよ。でも女にもプライドがあるっていうか」
「師匠、女が求めてるのは意見ではなく同意という言葉を聞いたことはありますか?」
「うん、それは聞いたことある。でもな、『今は奥さんって言っちゃ駄目なの!差別なのよ!』って言われてもさ、じゃあ他人の配偶者を呼ぶ時はどうすりゃいいんだ?」
「貴方のお嫁さんはって…お嫁さんって呼び方は姑さんとの区別として使ってる感じがするよね」
「貴方の妻…はおかしいか、妻は自分の配偶者の呼び方だね」
「家内、女房もそうだよね」
「奥さんが差別なら家内、女房も差別な気がするなあ」
「パートナーでいいんじゃないっすか?」
「それも解りにくくないか?つか年配のご夫婦にそんな事言ったら『はぁ?』って顔されるぞ」
「「「うーん」」」
しょうもない話だ。
でも結婚生活はしょうもない衝突の連続だ。君達も覚悟しておくように。
「疲れちゃうんだよな。こんなどうでも良いような事で言い合いし、気づいたら時間の浪費がばかばかしくなる」
「じゃあ折れるって事すか?」
「向こうは引っ込みつかなくなってるからな。ここで意地を貫き通してもお前に何が残るんだ?って思うんだけど、向こうはそれに気づいてもいないみたいだし」
「その時に言い負かして勝てば満足なのかもね」
勝ち負けじゃないんだけどな。でもそれにすら気づいてないと思う。
「まあ、あたしは女だからその気持ちも解るかな」
「そう?私は解んない」
「クオンちゃんはちょっと男前なとこあるもんね」
「奥さん、おじ様に対して劣等感があるんじゃないすかね」
「「「え?」」」
「というか劣等感だという事にも気づいてないかもしれないすけどね。おじ様、別府覇者だし昔はモテたんじゃないすか?」
「ああ、滅茶苦茶モテた」
「その別府覇者をGETした時に、奥さんは優越感を持ってたはずなんすよ。他の女達に対してね」
ふむ、トロフィーワイフとは逆のあれか。
確かに妻は鼻高々だったかもしれない。
「でもそんなの最初だけじゃないっすか。おじ様は冒険者をやめた訳だし」
ああ、妻はNO1冒険者だった俺が好きで、だんだんとおじさんになって行く俺の事は好きじゃなかったのかもしれない。
人に自慢出来る俺が好きだったって事か。
「おじ様に対して不満が出てくるんすけどそのうち気づくんすよ、じゃあ私には何があるの?って」
「お前なんでそんな事が解るんだ?」
「うちは親父が冒険者だったすからね、喧嘩してるうちに自分はなんでこんな偉そうな事言ってんだろって」
なるほど実は親父の事認めてるんだな?
養われている立場で反抗する自分に違和感を感じているのか。
「ウチはそれが嫌で自分も冒険者を始めたっすけど、奥さんは他に発散する場所もないんじゃないすか?それだと自分の感情をおじ様にぶつけるしか無いと思うっすよ」
「…なるほど」
ママ友とかにも嫌われてんだよな。理由は自慢しすぎたから、自業自得。
そのうち、俺がハゲて太って来たから馬鹿にされるようにもなったのかもな。
これは因果応報、昔の付けが回って来たんだけ。
それに向こうだっておばさんになってる。お互い様。
「おじ様、失礼ですけどなんでそんな女選んだんすか?」
「ちょ!エレナ!」
「さすがに言い過ぎだよ」
「いや、いいんだ。中身を見抜けなかったのは確かだと思う」
若くて奇麗だった。そして昔は良い奴だった。
でも多分、最初は猫かぶってるだけだったんだと思う。
俺にも悪い所はあったのかも知れない。いや、あったのだろう。
全てを妻のせいにするつもりはない。
「すみませんおじ様、生意気言って」
「いや、今日は俺が教わったよ。ありがとうな」
「やっぱりおじさんはハーレ…モガモガ」
「ルシルさっきからちょくちょくおかしな事言ってないか?」
「ルシルは良い子なんです」
「世の中が悪いんすよ」
2人に羽交い絞めにされ、ルシルが連れ去られて行く。
きょ、今日はありがとなー。
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き、聞いてしまったわ。
熱海ダンジョン受付、葉山加奈子。
結構余計な事をする女。
これはいよいよ離婚かも、カミナさんに報告した方がいいかしら?
緊急時の連絡先は知ってるし、彼女達は伊豆高原に拠点移したけど連絡は取れる。
「受付のお姉さーん」
「ひょえええ!」
「ど、どうしたの?」
ほ、本人が来てしまったわ。そうか、今から潜るのか。ここは落ち着いて。
「奥様との仲はどうですか?」
「え?」
動揺してた!!私、なんて事を聞いてしまったの!
「ああ、別れる事になると思うよ。さっき踏ん切りついたし」
げ、言質取ったわ。
いや、まだ安心できない。心変わりがあるかもしれない。
「でもこういう時どうすればいいんだろうな?」
「どうすればとは?」
「やっぱ向こうから言わせた方が良いのかな?プライドもあるだろうし」
あーそういう事?どうだろう?その辺は人によって違いそう。
言い出せない人はいつまで経っても言い出せない。
「お気持ちが無いのであれば、早めに終わらせてあげるのが最善かと」
「うーん、そうだよね。そうなるとどう切り出せばいいのか…」
「あ!好きな人が出来たって言うのはどうでしょう?」
「好きな人って言ってもなー」
「(ここはチャンスね)貴方の事を気になってるという人がいますよ」
「え?ひょっとしてお姉さん?」
「え?私?」
「いやだって、前にデートしようって…」
あ!!!忘れてた!!!そんな事あったっけ!!!
「いや、あの、そうじゃ…」
「いやでもお姉さんみたいな若くて奇麗な子好きになったって言ったら嫁発狂しちゃうよ?お姉さんいくつだっけ?」
「(カミナさん私より若いんだけど)24です」
「息子と一緒の歳だもの。何考えてんだって穏便には済まないと思う」
う~~失敗した~~。
ここでカミナさんの事を話しても、もっと若いじゃないかで終わりそう。
「ごめんね、お姉さんの気持ちは嬉しいけど…」
なんか私が好きって思っちゃってるし、振られたみたいになってるし。
そりゃ一度はデートしてって言ったけど、ちょっといいかもと思ったくらいで…
カミナさんのような本気の前には足元にも及ばない気持ち。
「まあ自分でもうちょっと考えてみるよ」
「考え事しながら潜るのは危ないですよ?」
「うん、今日は無理しないよ」
…行ってしまった。
ぐう、上手くいかないな、私向いてないのかも。
葉山加奈子はその後の仕事でミスをしまくった。




