10 経験値
「うわ、本当にもうレベル上がった!」
熱海ダンジョン 11階層
「サルエロ、これって正確にはどれくらい経験値UPしてるの?」
『約2倍くらいですわねぇーん、正確には1.973745…』
「う、うん、解った」
経験値が約2倍か。感覚的に今までと全然違うのが解る。
時間効率が2倍になるんだよね?凄い事だ。
「しかも本人だけでなく、パーティ全員に効果あるんすね」
『計算上は一緒の事ですもぉーん』
経験値300の敵がいるとする。
ソロは経験値アップで倒せば経験値600手に入る。
3人で倒せば普通は1人あたり経験値100しか手に入らないが、精霊の力で200、これが三人分で600、結局一緒の事なのか。
「怖い思いした甲斐があったよ」
「ホント、報われたっす」
「…今は200だけどソロで倒せば600か」
「ちょっと?パイセンが不穏な事考えてるよ」
「裏切る気なの?」
「い、いや、欲が出ちゃうよね。怖い怖い」
人と違う力を持ってしまった時の魔力、力は人を惑わせてしまう。
「でもさ、私の苦労も認めてよ。昨日湯舟に入ってたらお尻の下にサルエロの顔があったんだからね」
「「イヤーーーーーー!!!!!」」
『んふふ、もうすでに主の体の全てを知ってしまいましたわぁーん』
「「キャーーーーーー!!!!!」」
実体が無いから障害物貫通し放題。寝てたら上に乗りかかってくるし、重くはないけど、うなされた。
「もう、慣れてきたけどね」ホロリ
「泣いてるじゃないっすか、パイセン」
「大丈夫、クオンちゃんは奇麗な体だよ」
うう、そうなのかなぁ?とても大事なものを失った気がするよ。
『おやぁん?スライムですね』
「「「え?」」」
ひょ、ひょっとして、金スラ?あの超レアモンスターの??
『銀スラですわねぇん』
「銀?銀でもレアはレアだよ」
「強いの?狩りたいっす」
「強くは無いよ、ただ逃げ足は速かったはず」
『銀スラは経験値が高いんですのよぉーん』
「「「!!!」」」
3人共、何も言わずに飛び出した。
経験値に魅了された冒険者達。
「そっち行ったよ!逃がさないで!」
「くそ!あたらなかった!」
「任せるっす!」
エレナの矢が逃げるスライムを捕えた。
素材をドロップし、スライムの体が消滅する。
「うお!レベル4つ上がったっす!!!」
「あたしも3つ!」
「私も3つ!!」
ばんざーい、ばんざーい、ばんざーい。
色々あったけど、報われてよかった。最終的にはそう思う事が出来そうだった。
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「へえルシル、銀スラ狩ったのか?ラッキーだったな」
熱海ダンジョン前広場
「銀スラが持ってた銀だけで270万!他と合わせて今日は一人あたり100万の儲けだったよ!」
やはりダンジョンは夢がある。今まででダントツの儲けをはじき出した。
レベルもクオンちゃんが20、あたしが18、エレナが16まで上がった。
「という事は16階層まで潜れるのか。すごいな、もう初心者は脱出したな」
嬉しい!最初はお金の為だったのに、認めてもらえるのってこんなに嬉しいんだね。
貯金もこれで150万か。目標の1300万はまだまだだけど、不可能な数字とは思えない。むしろもっと余裕を持たせられるのではないだろうか?
「まあまあ、過信は慢心に繋がるから気をつけるんだぞ」
確かにそうだね。慣れてきた頃が危ないって聞いた事がある。
おじさん、いつもアドバイスありがとうね!
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「エレナ、装備グレードアップするの?」
「うん、大金入ったからね。武器はこの前運よくドロップしたから、防具を何とかしたいなって思ってたんだ」
そうか、エレナはそっちにお金使うんだ。
私はこのままで大丈夫なのかな。
「ルシルは学費貯めてるんでしょ?ウチも一応進学希望だけど、お金は親父に出させるんだ」
「お金持ちだもんね、良いなぁ」
「自分で稼ごうとしてるルシルは偉いよ。ウチ真似出来ないもん」
私は自分の我儘もあるからね。
東京に行きたい、一人暮らしをしたい、わざわざお金のかかる方法を選択しようとしている。
「パイセンはどうするのかなぁ?」
「進路決めてないって言ってたよね。でも別府に戻りたいとも言ってなかった?」
「うう、パイセンが遠くに行ったら、精霊の加護が…」
あはは、確かに困るよね。
でも人の人生だから止める事も出来ないよ。
「テレポートっていつ頃覚えるのかな?」
「ああ、テレポートがあればね、距離なんて関係ないか」
おじさんに聞いてこようかな。
いや、それくらいは攻略サイトに書いてあるかな。
「…レベル500前後だって」
「誰でも覚えられるの?」
「うん、テレポートは特性とか関係ないみたい」
でもレベル500かぁ、エレナのお父さんが現役時代400とかだっけ?相当時間かかるんじゃないかな。
多分サルエロの加護の力を借りても数年では到達できないと思う。
「こうなったらウチがもう一体精霊を」
「あはは、欲出すぎ、サルエロみたいな精霊でも大丈夫なの?」
「無理」
「あはは」
身近に精霊持ちが居るだけで私達は恵まれているよ。恩恵を当たり前と思わず感謝しなきゃね。
…エロ本とかプレゼントした方が良いのかな?恥ずかしいけど余りある利益を貰っている訳だし。
「エレナ、エロ本ってどこで売ってるの?」
「ぶ!わ、解んないよ。そもそもウチらには買えないでしょ?」
そうだよね、クオンちゃんはどこで手に入れたんだろう?
おじさんなら知ってるのかな?今度聞いて困らせてみよう。
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ーケイトリン君、今は湯布院に居るようだねー
「はい、今日から入りました」
CIAエージェント ケイトリン・リリー・フィリップス。
いつもの通信だ。まったくどこから見ているの?
ー別府には3日居たようだが、一度しかダンジョンに行かなかったねー
「え、ええ、歴史や文化を知ることで世界最高峰のダンジョンが産まれた理由などが解るかと思いまして、調査に忙しく…」
地獄めぐり、楽しかったなぁ。
一応ダンジョンには潜ったんだから良いじゃないの。ソロだし無理せず300階層でやめたけど。
ダンジョンの中の温泉も楽しんだし、関サバもとり天も美味しかったし満足だ。
ーふむ、引き続き期待しているよー
ふう、なんとか切り抜けたか。
まったく気が休まらないからやめてほしい。
「牛まぶし一人前、お待ちどう様でーす」
わー来たー!湯布院名物 由布まぶしだー!
美味しそう!ウナギで似たような料理があるみたいだけど、ウナギはちょっと食べた事無いから今回はやめておくわ。
これを4等分にして、最初はそのまま?んー美味しい!全部これで食べれば良いんじゃないの?
いえ待って?薬味があるのね?これは試すべきだわ、んー最高!!
3杯目はお茶をかけるのね?これが一番謎だわ?焼いたお肉をお茶に漬けるってどういう神経しているのかしら?でも物は試し、わさびを少しつけて…まあ!風味が変わるのね?お湯に溶けたわさびが良い仕事してるわ!
4杯目は好きなように?ええ?全部好きなんだけど!どうしよ!おかわりくださーい!
そもそも湯布院でも由布院でもどっちでもいいってどういう事よ!紛らわしいのよ!
CIAエージェント ケイトリン・リリー・フィリップス
体重が1㎏増えました。
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伊豆高原ダンジョン広場前
「カミナ、本当にこっちに拠点移して良かったの?」
「うん、熱海は500層だし、600層の伊豆高原に移るのは基本ルートでしょ?」
動画サイトで人気を誇る一条神奈とそのパーティ。
すでに熱海ダンジョンを何度か制覇した彼女達は、物足りなさを感じ拠点を伊豆高原に移す事にした。
「600層なら湯田中渋や湯沢でも良かったんだけどね」
「あんまり遠いとテレポートのMP消費がエグいでしょ」
都内に住む彼女達はテレポートを使わなければダンジョンには行けない。
潜る事を考えるならMP消費は少しでも抑えたほうが良い。
なので近場で考えるとしたらやはり候補は伊豆高原。もしくは900層の箱根へ一気に行ってしまうか。
一応、MPを回復するアイテム等もあるのだが、高価なので費用対効果で考えれば伊豆高原が基本ルートになってしまうのだ。
「でも、熱海には愛しの人が居るでしょ?」
「も、もう!からかわないでよ!」
解ってるわよ。でもあの人だっていつ移動するか解らない。
現役時代には日本中を飛び回っていた人だ。
この前は348層で諦めたって(受付のお姉さんに)聞いたけど、絶対にすぐに上がってくる人だ。
「ソロで348階層だからすごいよね。カミナ、あんたはソロならどこまで行けそう?」
「私はヒーラーだからね。火力がどうしたって足りないから220層くらいじゃない?ソロならあんたの方がもっと行けるでしょ?」
「行けるとは思うけど、私達の強さはカミナの精霊様のお陰だからね」
カミナの横に立つ、トナカイ型の精霊。
実体は無いのだが、カミナを守るように佇んでいる。
加護は経験値アップ、二十歳そこそこのカミナ達のレベルを500以上まで持ってきた頼れる存在。
「私はもっと強くなるわ。その為には熱海に収まってはいられないの」
「それも、あの人の為?」
別府第一ダンジョンをソロで完全攻略した人だけど、それは若い頃の話。
どれだけ頑張ったとしても、そこまで戻るのは難しいだろう。
加齢は残酷だ、人からいろんなものを奪っていく。
視力、聴力、筋力、判断力、精神力、記憶力。
スポーツ選手を父に持つカミナはそれを知っている。
「でもあの人、お父さんより年上なんでしょ?」
「それは言わないで!」
関係ないでしょ!年齢なんて!それより結婚してることが重要なのよ!
ああ、離婚してくれないかな、受付のお姉さんはひょっとしたらって言ってたけど…
でもあの人の不幸を願うのは胸が痛いの!傷ついてほしくないの!
私、どうしたらいいのよ…
「はぁ、重症だねこりゃ」
「うるさい!さっさと潜るわよ!」
自分の力で変えられない事を心配してもしょうがない。
今はただ、強くなる事だけを考えよう。
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「いい湯だな~」
熱海ダンジョン 301階層 セーフティエリア露天温泉
「今日も350付近で終わりかな。出るのはリターンで一瞬だけど、ここまで降りてくるの時間かかりすぎだよな」
『申し訳ありません。私がもっとお役に立てれば』
「違うぞ?バク子のナビゲートがなければ200階層くらいで一日が終わってるよ。ごめんな歳のせいか愚痴るのが癖になってるんだ」
ダンジョン探索は時間がかかる。
深い階層を潜る者は泊りがけで来るのが普通だ。
『主、好きな階層へ行く魔法をお持ちですよね?』
「ああ、チョイスの魔法だな。あるけど目的はダイエットだからね。ダンジョン内を歩く事にも意味があるんだ」
まあ350階層の小ボスを倒すのはもうちょっと先になりそうだから丁度いいんだよな。
1階層から350階層までの遠足、そう考えている。
350の小ボスを倒せるようになったら次からチョイスの魔法で飛んで50階層くらいから始めればいいかな。
『主、少しは痩せたか?』
「2キロ痩せたぞ、ゴリ左衛門」
『たった2キロか』
うるさいな!確かに誤差だけどさ。
若い子達と喋ってばっかで真面目にやってないもんで。
『ワシの加護を使えば350の敵など倒せるだろうに』
そうなんだけどな、何度も言うけど目的は攻略ではないのだよ。
ゴリ左衛門としては頼ってほしいんだろうけど。
「簡単に倒してたらダイエットにならんし、歯がゆいかもしれないけど付き合ってくれよ」
『まあこの25年、まったく運動もしてなかった事を考えれば喜ぶべき事なのかもしれないな』
「そうそう、重い腰をあげたんだから喜んでくれ」
『主、長生きしてくれよ。なるべく長く主の元に居たいからな』
ご、ゴリ左衛門…泣かせること言いやがって。
こんなハゲデブを心配してくれるのは、お前達だけだよ。
『主、オナラしてくれよ、硫黄の匂いと比べたい』
「文太君、この流れをぶった切って楽しいのか?」
『うるせえ!いつも家じゃブーブーやってるだろうが!』
しょうがないな、ほれ。 ブホッ。
お湯の中でおならは次に使う人に少し申し訳ないな。
バレやしないだろうけど。
『くっせぇ~』
「当たり前だろ」
『硫黄は体に良いのになんで主のオナラは体に悪そうなんだ?』
「知らんわw」
なんだかんだお前達が居てくれて楽しいよ。
お前たちが居なければ…もっと早くに限界が来ていただろうな。




