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ダンジョンだじょーん(仮)  作者: ヒゲ面の男


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1 復帰おじさん

「ふう、ここまで来てしまったか」


 腕を組み、目の前の懐かしい光景にため息をつく。

 ここは静岡 熱海ダンジョン。

 およそ40年位前、世界各地に突如ダンジョンが出現した。


「不思議だな、全然枯れる事なくモンスターや資源を生み出すダンジョンか」


 ダンジョンの手前は広場になってる。

 以前とあまり変わりない…お、あそこにベンチがあるな。ちょっと一休みさせてもらおう。


「さて、どーすっかなー」


 一息つき、ゆっくりと周りを見渡す。ダンジョンの前には数人の冒険者が見てとれる、俺も昔は…


 おや、あの子はおそらく初心者だろうな。

 ダンジョンの手前でキョロキョロしている制服の少女。ギャルっぽいなかなかの美少女。

 制服の着崩しがすごいな、おっさんには目の毒だ。

 あの服装だと冒険者登録もまだかもな、手続きの仕方が解らないのだろうか。


 あ、目が合った。

 やべ、見てるの気づかれたな、こっちに来ちゃった。


「あのぉ~」

「なんだよ、視姦してたわけじゃないぞ?訴えるのはやめてくれ」

「ええ?!急に何言ってんの?」


 被害妄想だったか。

 でも、こんなおっさんに若い美少女が語りかけてくる事無いもの。

 むしろ話しかけられたら良くない展開を警戒する。


 俺は中年メタボ腹、髪も少々薄くなりかけのおっさんの中のおっさんだ。

 制服の女の子とは縁のない存在だ。


「冒険者の人?」

「いや、元冒険者だな。25年前まで潜ってた」

「もうやめたの?」

「ああ、大金稼いで引退してるよ」


 気安く話しかけてくる女の子、大金と聞いて目が見開いた。


「だからと言って慰謝料は払いたくない」

「おじさんマジで何言ってんの?」

「ダンジョン潜りに来たんじゃないのか?早く行きなよ。あそこに受け付けあるから色々教えてくれるぞ」

「う、うん、そうなんだけどね、でもいざってなると、怖くなって来ちゃったっていうか…」


 ダンジョンは命懸けだ。その引き換えに大金を稼ぐことは出来るのだが。

 命と大金の天秤、直前で躊躇する者は少なくない。


「お金はいくらあっても困らないが、死んだら当然使えない」

「…うん」

「よく考えた方がいいよ。甘いもんじゃないからな」

「…」


 うつむき、神妙な面持ちの女の子。俺にどんな言葉を期待したのかな。

 優しく君は大丈夫だよとでも言えばよかっただろうか。

 でも実際に潜ったことがある立場としては、そんな無責任な事は絶対に言えない。


「えと…おじさんは引退したのにここで何を?」


 話変えてきたな、気を紛らわせたいのかもしれない。


「うーん、何から話せばいいのやら」

「なにか複雑な事情なの?」

「まあ簡単に言うと、腹が出てきたし」

「はい?」

「資産があるから働いてないんだけど、妻とは倦怠期だし」

「はあ?」

「家には居づらいし、少し冒険者に戻って痩せたいなと」

「ああ、ダイエット?」

「あと最近ED気味でね。体鍛えれば戻るかなと」

「ちょ?!それ女子高生に話す話?!」


 お前が聞いて来たんだろうが。そんな恰好しといて警戒すんなよ。

 嘘偽りなく言ってみたらこれだもんな。


「つまりは体を鍛え、ダイエットして奥様とラブラブだったあの頃に戻りたいと」

「お前今頭見ただろ?髪は戻らないとか思っただろ?」

「お、思ってないよ~」


 嘘つけ、俺はその辺敏感だから必ず気づくぞ。元冒険者の察知能力でな。


 さて、いつまでも見ず知らずの女の子と喋ってても仕方ない。

 俺もそろそろ腹を決め、潜る覚悟をするか。


「言われてみるとすごいお腹だね。なんでそんなになるまで放置したの?」

「ダイエットは先延ばしにするものだからだ」

「はは、少し気持ちわかる」


 そうか?お前は太ってるようには…まあ年頃の女の子は誰しもそういうもんだっけか。


「つかなんでついてくるんだ?」

「あ、あたしはまだ覚悟が…おじさんもうちょっと話聞かせてくんない?」

「馬鹿言うな、さっきも言ったけど覚悟無いならやめとけ」

「に、日本て、ほかの国より圧倒的にダンジョンの数が多いんでしょ?」


 なんとか話し続けようと話題を振ってくる。

 ああ、なぜかは知らんが日本はダンジョンの数が滅茶苦茶多い。

 熱海ダンジョン、箱根ダンジョン、草津ダンジョン、湯沢ダンジョン、伊香保ダンジョン、下呂ダンジョン、城崎ダンジョン、道後ダンジョン、上げるとキリがないくらいのダンジョン王国だ。

 別府なんて3つくらいダンジョンが密集している。


「…進学にお金が必要でさ」

「親は頼れんの?」

「そんな事も無いんだけど、兄弟多いからなるべく負担かけたくない」


 おお、そういう事情だったのか。ギャルなのに結構しっかりしてんな。

 おっと、偏見だったか、ごめんごめん。


「あたし私立しか行けないと思うし、1000万くらいは必要かなって」

「県外行くのか?一人暮らしするなら授業料家賃食費あわせてそれくらいはいるよな。東京ならもっと必要かも」

「う、うう、東京行きたいんだよね」

「じゃあ1300万くらいかな」

「そ、そんなに?」


 落ち込むギャル。

 現実は厳しいよな。人間育ちきるまでお金がかかり過ぎだ。


「まあでもな、ダンジョン潜ればあっという間の金額でもある」

「えっ?!」


 途端に目が輝きだす美少女。現金なもんだ。


 ダンジョンには資源がある。

 モンスターを倒せば素材が手に入るし、魔石や装備といったドロップ品もある。

 地中の鉱石を食べてるモンスターもいて、そいつを倒せば貴重な鉱物が手に入ったりもする。

 資源の少なかった日本が今では資源大国になったくらいだ。


「金のスライムとか倒せれば一発でそれ以上の大金が手に入るよ」

「ああ、聞いた事はあるけどそれってそうとうレアなんでしょ?」


 うん、金しか食べないと言われているスライム。10年20年潜っても1度も出会えないとかザラだ。

 出現自体がそうとうレアなモンスター。


「まあ金スラは別格だけど、他にもいろいろと価値のある鉱物も手に入るし」


 金銀プラチナ、各種宝石、レアアース、レアメタル、etc

 それまで地球上になかったミスリル、オリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネなんて物まで手に入る事もある。


「やっば、魅力的…」

「かといって後押しはしないぞ?お前も聞いたことあるだろうけどダンジョンは自己責任だ」

「…うん、モンスターも危険だし、時々は人間も危険…って聞いた」

「ダンジョン内は治外法権みたいなトコあるからな」


 一応前科持ちとかは、ダンジョン内に入れない事になってんだけどね。

 だが、捕まってないだけの悪い奴もいるし、こんな可愛い女の子を目の前にすると、魔が差す奴も出てくるものだ。

 ある程度レベルが上がってしまえば危険も減るのだが、低レベルのうちはいろいろと心配事が付きまとう。


 ボソ「でもこのおじさんはED、一緒に潜れば安心かも…」


 おい、なんか聞こえたぞ、嫌な予感がするから釘刺しとくか。


「俺はEDを正常に戻すために潜るんだ、その前提を無視するなよ」

「正常になったら襲うの?」

「お、襲わないけどよ、その言葉を信用できるほど親しくないでしょ」


 社会的に死ぬの怖い。未成年になんて絶対手を出さんわ。

 大体さっきも言ったけど嫁がいるんだからな。


「それに俺も最初はリハビリの為に第一層から潜るつもりだけどさ、さすがに初心者に合わせて低層階にずっと居たんじゃダイエットにならんし」

「そ、そうだよね、ごめんねムシの良いこと言うとこだった」


 そう言ってはにかむ美少女。

 聞き分けが良いな…見た目とのギャップにちょっとときめいてしまう。

 むしろ我儘を言ってくれれば冷たく突き放せたのに。


「わかった、今日だけなら付き合ってもいいぞ?」

「い、いいの?!」

「ああ」


 甘いな俺、でもこうやって知り合ってしまった子が危険な目に会ってほしくない。

 後味悪い思いをしたくない自分の為でもある。


「だけど初日は3時間にしとけ、慣れない事すんだから初日はそれくらいで引き上げろ」

「わ、わかった、従います」

「ふう、えらい時間食っちゃったな」

「ごめんね、あたし、長谷川はせがわ 琉詩流るしる15歳、ルシルって呼んで」


 現代っ子ぽい名前だなぁ。いいよと手を振り、さあ受付に行こう。

 登録まだだろ?俺も失効してるから取り直さないと。

 レベルだいぶ下がってるだろうな…主に加齢と肥満で。

 レベルとステータスはダンジョンに潜らないと次第に下がって行く。

 運動でもしてれば少しは維持出来るのかもしれないが、まったくやってませんでしたよ、はい。


「再発行手続きですね」


 そうです。お願いします。受付のお姉さん、若くて美人だな。

 しばらく来なかったから知ってる顔が居なくなってしまった。少し寂しい。


「俺みたいなおじさんで潜ってる人っています?」

「多くはないですね。でも何人かは頑張ってらっしゃいますよ」


 そうか、ホっとした。でもまあ、普通は平穏な日常を選ぶ年齢だよな。

 ダイエットするにしたって別にダンジョンに潜らないと出来ない事でもない。


「でも続かないんだよな、普通のダイエットって」

「あはは、わかります。私も受付の仕事がない日は潜ってるんですよ?」

「へえ、副業OKなの?」

「副業になるんですかね?同じ職場の部署が違う感じでしょうか」


 よくわからんな。しかしダイエット効果があるのはお姉さんもお墨付きって事だ。


「痩せてお金も稼げるから続くんですよ」


 受付の言葉は潜らせるための方便かもしれないが、解らないでもない。

 ダンジョンは痩せるぞって誰かが言ってから、実際ダンジョンに潜る女子が増えたんだよな。


「確認取れました。こちらが再発行の冒険者カードとなります」


 よし、緊張のレベル確認タイム。

 この世界ではレベルとステータス、スキルはすべて冒険者カードで管理される。

 ステータスオープンと叫んだところで何も出てこない、虚しく白い目が集まるだけだ。


 ああ、やっぱ全盛期の5分の一までレベル下がってるな。

 ステータスもそれくらい…素早さが無茶苦茶落ちてる。

 丈夫さはそこまで落ちてないか。これは肥満のせいだろう。

 このように体形でもステータスは変化する。

 しかし衰えが数字で見えるって残酷だ、無茶苦茶凹む。


 スキルは変わってないな。一度覚えたものに変化は無しか。知ってたけどね。


「そっちは終わったか?」

「うん、ねえステータスを見てくれる?あたしの特性って何になるの?」


 ルシルが聞いてくる。

 なぜこんなことを言ってくるかというと、明確なジョブ表示が無いからだ。

『魔力が高いからお主は魔法使いになりなさい』等と強制されることはない。

 もちろん適正にあったジョブ選んだ方が楽だけどね。


「うーん、どれも均等だな」


 数値は平均より高いかもしれない。でも力、魔力、丈夫さ、素早さ、器用さ、運、すべて均等なステータスだ。


「これって珍しいの?」

「いや、そうでもないよ、ただジョブ選びは迷うことになるな」


 剣士になろうと思ってレベル上がったら、急に魔法使いのスキル覚えたなんて事がある。

 スキルは自分の中に眠っている潜在的なものだ。自分の希望どおりに成長するとは限らない。


「こういう時は一番安いショートソードと初期汎用防具買って、スキル覚えるまでレベル上げたほうがいいぞ」


 受付横にストアがある。ほら、中古なら1万くらいで揃うぞ。

 いらなくなったら売れば3割くらいは戻って来るぞ。


「これ、可愛くないね…あれ?おじさんも買うの?」

「ああ、昔の防具は売らずに持ってたんだけど、キツくて入らなかった」

「あはは、そうなんだ」


 俺は新品買おうっと、金なら持ってるし。ダンジョン素材で作られた凡庸防具。

 加工から製品化までの道のりは長く、昔は高価だったけどだいぶ安くなってるな。

 時の流れをしみじみ感じる。


「着替えておいで、女子更衣室はあそこだ」

「うん」


 俺も着替えよ。冒険者共用の有料更衣室だ。

 有料とは言え大した金額ではない、ロッカー借りるだけだからな。


「よし、お、先に着替え終わってたか。女子なのに早いな」

「おじさんが遅いんでしょ。何やってたの?」

「腹のせいで足が上がらんのだ、立ったまま着替えるの辛い」

「あはは」


 さて、俺は自分の武器を出さなきゃ。ほれアイテムボックス。


「いいな、アイテムボックス」

「アイテムボックスは冒険者なら誰でも結構すぐに覚えると思うぞ」


 俺はレベル3で覚えた。少なくともレベル5までには覚えると思う。

 最初は容量が狭く、スキルレベルがあがれば次第に広くなっていく。


「便利は便利なんだけど、海外に行くときは検査に時間かかってさ」

「ああ、昔、麻薬をアイテムボックスに入れて持ち込もうとした人がいたんでしょ?」

「そう、それ以降は厳しくなった」


 調べる方法があるのだ。

 ただ、犯罪者に対策されないために、方法は公表されていない。


「それにな、レベル200超えたあたりから入国出来なくなる国があるのは知ってるか?」

「え?!どうして?」

「日本も仲良い国ばかりじゃないからさ、自分の国の重要施設を破壊する工作員なんじゃないかと疑われたりするんだ」

「それは困るよ!あたし海外行きたい!」

「まあ禁止してるのは変な国ばっかりだから、そこまで気にしなくていいんだけどな」


 ちょっと脅かし過ぎたかもしれない。

 女の子が行きたがるような国ではないから大丈夫だよ。


「かっこいい模様の剣だね」

「ああ、ダマスカス鋼の剣だ、これでも下位の武器なんだけどな」

「もっとすごいの持ってるの?」

「持ってるけどリハビリでは必要ないからな」


 今日はこれで行く。冒険者を引退するときに、武器防具の大半は売っちゃったんだけどね。

 でも思い入れのある武器や、超貴重なアイテム等は売らずに保管しといた。

 過去の栄光というか、コレクション的な所有欲というか。


「よし、じゃあ行くか」

「う、うん、あれ?パーティ組んでくれないの?」

「ああ、パーティは経験値分割だからな、今日はソロ×2で行く」

「?」

「基本はお前が倒せ、俺は危なくなるまで手を出さない」


 よく解らないみたいだが、自分がメインだという事は理解したみたい。

 1階層の敵は強くないし、出来るだけ経験値を譲ろうというわけだ。

 1階層の経験値やドロップ品なんて俺には価値のない物だし。


「囲まれないよう声はかけるからな、指示はクロックポジションで出す」

「な、なにそれ?!」


 8時の方向に敵、とかいうやつだよ。映画で見た事くらいあるでしょ?

 慣れてないと戸惑うかもしれないけど安心しろ、すぐに慣れる。


「自分を中心に時計に見立てて…なるほど」

「一階層の敵は知ってるか?」

「ゴブリンでしょ?一応予習はしてきた」


 あいつら強くないけど数は多いからな。つか予習してるのか、以外だ。

 以外と見た目とは違って真面目なんだな。


「うう、緊張してきた」

「これから生き物を殺すんだ。躊躇するのはあたりまえだ」

「で、出来るかな、あたし」

「Gくらいは殺したことあるか?」

「え?うん、あるけど」

「なんで殺した?」

「ええ?なんでって…気持ち悪いから?普通でしょ?みんな殺してる…」


 普通だな。でもよく考えてみろ、Gは何か悪いことをしたのだろうか?

 人間は、自分の都合で生き物を殺しているんだ。


「身勝手だね、人間て」

「ああ、彼らはダンジョンに住んでるだけかもしれない。そこに無理やり殴り込んで、俺たちは奪っている」

「う、うわ、そう考えると、人間無茶苦茶悪だね」

「悪だな、だから自分たちが正しいことをしているとか勘違いをしてはいけないんだ」


 熊さん可哀そう、とか言ってる人たちがいる。

 でもな、熊は人間の事可哀そうとは思ってない。だから襲い掛かってくるんだ。


「で、でもさ、ダンジョンのモンスターを倒さないと、そのうち溢れてきて人間を襲いだすって…」

「それは仮説だな。実際には起きた事ないからな」


 ひょっとしたらそうなるのかもしれない。

 だが現状では自分たちを正当化する理由づけにしかなってない。


「まあ、その点1階層のゴブリンは女の子見るとゲスい顔になるから、悪い奴だと思いやすいぞ」

「うん、過去にはダンジョン内で女の子に乱暴を…こいつらがダンジョンから出てきたら大変だよね?」


 大変だな。その辺の創作小説をネットで見た事があるが、大変な事になってた。


「やっぱりやっつけないと」


 うんうん、本当の理由は金儲けだけど、それだと疑問に思う時がいつかは来るんだ。

 それこそ自分の身勝手にさいなまれる時が来る。

 モンスターを倒すことを躊躇し、自分が命を奪われるなんて事になる。

 善人ほどその罠に陥りやすい。


「まあ意地悪に聞こえたかもしれないけど、甘い考えは捨てておけって事だ」

「うん、ありがとう、覚悟が決まったよ」


 よし、じゃあ行くぞ。



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 熱海ダンジョン1階層


 すぐにゴブリン数体を見つけた。4匹だな、初陣にはちょっと多いけどフォローするから行こうぜ。

 女を見つけすぐに嫌らしい顔になるゴブリン達。ルシルの顔が嫌悪感へと変わっていく。


「よし、奥の弓持ってる奴に注意しながら手前の奴から行け」

「え?で、でも」

「躊躇するな、一瞬の躊躇が命取りだ」

「わ、わかった」


 いきなりは怖いよな。でも安心しろ、そんなに強くないから。

 ゴブリンが弓を引くのに手間取ってる、力が弱いからな。

 石を拾い、弓ゴブに向かって投げる。

 ギャ!という悲鳴とともに弓を落とすゴブリン。脆い弓だ、今ので壊れたのか。

 ゴブリンが自分で作ったのか精度も低そうだった。


「えいっ!」


 お、手前のゴブリンやっつけたか。

 その後すぐに近くのゴブリンに切りかかるルシル…結構大胆に行くなぁ。


「一匹4時の方向に回り込まれたぞ。目の前を一撃で片づけて対処しろ」

「は、はい!」


 こちらの指示どうり、2匹目を肩から切り裂き、すぐに向き直る。

 飛びかかってきていた3匹目を横に薙ぎる。

 そしてこちらが指示する前に弓持ってたゴブに切りかかっていった。


「どう、そんなに強くなかったでしょ?」

「はぁはぁ、うん」

「でもなんか運動やってたのか?動きが想像より全然良かった」

「中二まで新体操やってたよ、こん棒振り回してたのが役に立ったかも」


 なるほど、こん棒か。じゃあお前二刀流いけるんじゃないか?


「かっこいいね。でもこの重さに慣れないと、はぁはぁ、無理かな」


 膝に手をつき、息切れしてる。こん棒は名前のわりに結構軽いらしい。

 だがスポーツやってたのは大きいな。先に聞いておくべきことだった。


「魔石が出てるぞ、ドロップ品を拾うまでが冒険者だ」

「全部もらっていいの?」

「俺は石投げただけだし遠慮するな、さっきも言ったけど1階層のドロップ品なんて初心者にしか価値がない」

「わ、わかった」


 魔石しか出なかったな。まあゴブリンのドロップ品なんて、良くて薬草だからな。


「こいつらが持ってた武器はどうする?」

「出来の悪いものだからすぐ壊れるぞ?」

「…ホントだ、ガタガタだね」

「ほうっておけばダンジョンに吸収される、あ、死体もな」


 価値のない物は荷物になるだけ。

 アイテムボックスが無い初期のレベルや容量が少ないうちは余計なものを拾わないほうが良い。

 お、向こうに3匹いるぞ、息が整ったら次に行こうぜ。



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「剣の振りが大きくなってきたな。疲れてきたか?」

「ハアハア、まだ大丈夫だよ」

「いや、自分の足を切っちゃうと困る、少し休め」


 こっくりと頷くルシル。ほれ水だ、アイテムボックスに入れておいた。


「あ、ありがとう」

「飲みすぎるなよ?ダンジョンは尿意との戦いでもある」

「そっか、みんなどうしてるんだろう?」


 …まあ、いろいろだ。

 1階層くらいならすぐに外に出れるけど、深い階層だとそうもいかない。


「…ひょっとして、その辺でしてるの?!」

「…そういう奴も…まあ…だから端っこの方にはいかないほうがいい」

「えええ!!信じらんない!」


 奇麗なトイレでゆっくり出来るとでも思ったか?そんな訳ないじゃん。


「一応ダンジョンは生き物でな、どういう仕組みかは解らないけど次の日には奇麗になってるぞ」

「お、おじさんもそんな事してるの?」

「いや、簡易トイレ持ってるよ、ほれ」


 アイテムボックスから出してみる。

 折り畳みの紙パック式の簡易トイレ、中におむつで使う吸収剤が入ってる。

 大は難しいけど小はこれでなんとか出来る。


「なんだ、そんなの売ってんだね。あたしも買わなきゃ」

「まあこれも女子には不人気なんだけどね」

「うん、使うの恥ずかしいかも」

「使い終わった後アイテムボックスに戻すのが嫌という理由でその辺にする奴がいるんだ」

「気持ちは解るけど…それはあまりにも身勝手なような…」

「お前は本当に真面目なんだな。なんでギャルやってんの?」

「それは偏見だよ?ギャルにだってちゃんと考えている子いるよ?」


 そうか、すまん。

 ギャルなんてその時が楽しければ良い天真爛漫な生き物だと思ってた。


「まあ、大半がそんな感じだけどね、あはは」

「ギャルの友達とダンジョン潜ろうとは思わなかったのか?」

「うん、みんな将来の事より今が大事みたい」


 やっぱりそうなんじゃないか。お前が特殊ってだけで。


「彼氏はいな…」

「セクハラ」


 ジト目で見られちゃった。

 別に他意はないんだぞ?彼氏と潜れば安心だと思っただけで。俺は今日しか付き合う気ないからな。


「おじさんだって一人で潜る気だったんでしょ?」

「俺は元々ソロだったからな、パーティ組んだこともあるけど…そうだな、ソロとパーティのメリット、デメリットを話しておくか」


 まずソロ。

 ・経験値、素材、ドロップ品独り占め

 ・人間関係に悩まされない

 ・相性悪い敵に出会うと逃げるしかない

 ・助けがない分死亡率は高い

 ・モンスター以外にも襲われる可能性が高くなる(悪人、乱暴目的や強盗目的)


 次にパーティ。

 ・経験値、素材、ドロップ品は分割

 ・人間関係が面倒なことがある(男女関係や報酬分配でもめる)

 ・弱点を補ってもらえる

 ・連携とれる分、強敵や多数の敵への対処はしやすい

 ・動けないような怪我をしても運んでもらえる


「うーん、パーティの安全も大事だけど、やっぱ報酬独り占めも魅力的、おじさんはどうして一人を選んだの?」

「人間関係だ、レア武器が出た時とかよくもめる」

「ああ、人数分出る訳じゃないもんね」

「パーティは安全って言ったけど、足を引っ張られる時もある。無茶する奴もいるからな」

「なるほど」


 そんなこんなでソロが楽ってなりました。でもやっぱ女の子は危険が増える分、パーティのほうが良いと思うけどな。


「そろそろ大丈夫だよ、次に行こ?」


 よし、やる気まんまんだな。

 5匹いる。多いからここまで手出ししなかったけど1匹だけ倒すか。


「ファイヤーアロー」ボッ

「へ?おじさん魔法使えたの?」

「質問は後、今は敵に集中」

「は、はい!」


 あ、ルシルが攻撃食らったな。大したことはないみたいだけど…

 その後は危なげなく4匹のゴブリンを倒し切った。


「回復いるか?」

「ポーション持ってるの?あるなら欲しいかも」

「ポーションもあるけどヒールかけるよ」

「え?」

「ヒール」


 ルシルに光が降りそそぐ。キラキラと眩い光。


「おっさんの癒しはどうかね?」

「嫌な言い方…てかヒーリングも使えるの?」

「ああ、俺は結構何でも屋さんなんだ、だからソロでも困らなかった」

「剣持ってるから剣士なのかと」


 剣もそこそこ使えるぞ?まあすごく弱くなっちゃったけどね。


「てか今のでレベル上がったみたい。あっ!アイテムボックス覚えた!」


 おめでとう。レベル2で覚えたか。早いな。

 ステータスはどうだ?全部プラス3?よい伸び率だ。


「しかしジョブ系のスキルは出なかったから方向性選びは持ち越しだな」

「でもなんかすごく体が軽い、すごく強くなった気がする」

「ああ、レベル30にもなれば、チーターより速く走れるし、ゴリラより力も強くなるからな」

「とんでもないよね、冒険者はオリンピックに出場禁止だもんね」


 ああ、ダンジョンが出来てから超人が珍しくなくなったからな。スポーツなんて茶番になってしまった。


「さて、次に行くか。時間的に今日はもう一つレベル上げて終わりだな」

「は、はい。ジョブ系のスキル出るといいなぁ」


 そんなこんなでルシルはレベル3になり、本日のダンジョン探索は終わった。



 -------------------------------



「はぁ」

「どうした?ため息ついて」

「剣に慣れてきたのに結局『ファイヤーアローLv1』が出るなんて」


 方向性が決まって良かったじゃないか。でも別に、魔法使いが剣持っててもいいんだぞ?


「おじさんは素手で魔法使ってたよね?でも杖持って魔法使ってる人もいるよね?どう違うの?」

「単純に杖の先からファイヤーアロー出せば熱くないな」

「え?そんな理由?」


 いや、冗談だけどさ。

 杖使った方が魔法は安定する。素手だと分散しやすい。飛距離も威力も変わってくる。

 慣れである程度はカバーできるけどね。


「良い杖使えば威力も飛距離もスピードも上がる」

「うーん、じゃあ杖に変えようかな」

「魔力が尽きたらただの棒」

「また惑わすようなことを…」


 アイテムボックスも手に入ったことだし両方持っとけば?手数多い方が安心だ。


「ねえ、例えばの話、こっちの世界の武器とかダンジョンに持ち込むとどうなるの?」

「ああ、アメリカじゃ最初の頃に銃持ってダンジョン入ってたらしい」

「使えなかったの?」

「いや、低階層では通用したらしいよ。でも冒険者のレベルが上がっても銃は火力は変わらないからさ」

「…深い階層では効かなくなっていったって事?」


 ああ、剣なら力が上がれば威力も上がるけど、銃は一定だ。

 それに銃のスキルなど存在しないんだ。

 そのうち硬い敵に遭遇して効かなくなるらしい。

 銃の種類にもよるが、威力の高い銃ほど取り回しが難しいらしく、素早い敵に懐に入られると詰む。

 結局アメリカでも現在は剣と魔法で戦っているとか。


「他にもダンジョンは暗いからモンスターの向こうにいた他の冒険者を誤射ったり、マシンガン撃ってたら攻撃を反射する敵でパーティがハチの巣になっちゃったり、単純に跳弾しちゃったり、事故だらけだったらしい」

「そうなんだ」

「中国で手榴弾を使ってダンジョンが崩落した話は知ってるか?」

「ええ?そんなことあったの?」

「まあ今みたいにすぐ情報が届く時代の話じゃないから真意は不明なんだけどな、同時刻に潜っていた冒険者は全滅、ダンジョンは翌日には元に戻ってたらしいんだけどね」

「はー怖いね」


 ダンジョンは生き物、怒りに触れたんだと思う。

 そんなことよりそろそろ換金に行こうぜ。


「やった!3時間で3万円!時給1万だよ?」

「…どう考えるかだけど、命懸けの仕事で時給1万だからな」

「…そっか、まだまだ安いね」


 ああ、1階層回ってるくらいじゃ割に合わない。本当に稼ぎたいならもっと深く潜らないと駄目だ。

 それにパーティだともっと取り分減るんだからな。


「あ、明細見たら税金20%も取られてる!」

「これでも安くなったんだぞ?昔は50%だった」

「日本も資源大国になったんだから税金無くしてくれればいいのに」

「国防に金がかかるようになっちゃったからな」


 資源があるとなるとそれを狙う奴が出てくる。政府も喜んでばかりではいられない。


「さて、そろそろ帰りさい。今日はゆっくり休まなきゃダメだぞ?」

「おじさんはどうするの?」


 もちろんここからはダイエットの時間だ。魅惑の逆三角形ボディーを手に入れてやるぜ。


「そっか、気を付けてね」

「お前も安心できる奴とパーティ組んだ方がいいぞ?」

「うん、考えてみるね。今日は本当にありがとう」


 手を振り、笑顔でルシルが去っていく。

 ふう、やっと解放されたか。安堵と共に少し寂しさを感じる。


 良い子だったな。


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