表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したけど、スキルが『Excel』だけだった。でもマクロ組んだら魔法より強かった件  作者: まこーぼ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/51

第50話:神々の会議室 〜成果主義なき管理職たち〜


 光の階段を登りきった先に待っていたのは、天国という言葉から連想される「花畑」や「雲の上の楽園」ではなかった。


 そこは、無機質で、冷徹な「サーバールーム」だった。


 上下左右、果てしなく広がる純白の空間。

 そこに、巨大なモノリス(石板)が無数に浮遊している。

 モノリスの表面には、高速で流れるルーン文字ソースコードが刻まれ、世界中のあらゆる事象――誰が生まれ、誰が死に、雨がどこに降るか――をリアルタイムで処理している。


 そして、その中心。

 円卓のように配置された七つの巨大な玉座に、「彼ら」はいた。


 七柱の神々。

 人間の姿をしている者もいれば、光の球体、あるいは幾何学立体の姿をしている者もいる。

 彼らから放たれるプレッシャーは、魔王ゼノスの比ではない。

 存在の格(解像度)が違う。


 中央に座る、主神らしき「老人の姿をした光」が口を開いた。


『よく来た、イレギュラー(異分子)よ』


 声が空間全体から響く。


『我々は、この世界システムの管理者「セブン・アドミニストレーターズ」。

 貴様の処遇を決定する会議を、これより始める』


 俺は円卓の中央に立たされた。

 被告人席だ。

 だが、俺は怯むことなく、周囲のモノリスを [Excel・アイ] でスキャンし続けていた。

 (……構造が古い。コードがスパゲッティ化している。これはメンテナンスが大変そうだ)


『工藤聡。貴様の罪状を読み上げる』


 右端の神(赤い球体)が叫んだ。


『第一に、魔王軍の無力化。

 魔王は「人類に恐怖を与える装置」として設計された。それを貴様は、あろうことか「貿易相手」に変えた。

 これにより、人類の危機感テンションが低下し、神への祈り(アクセス数)が激減している!』


『第二に、技術レベルの逸脱』


 左端の神(歯車のような姿)が続く。


『飛空艇、通信網、高度な農業。

 これらは「あと500年後」に解禁される予定の技術ツリーだ。

 貴様はシナリオを無視し、勝手に文明を進化させた。

 そのせいで、我々のデータベース容量がパンク寸前だ!』


 次々と挙げられる罪状。

 要するに、「俺たちが書いたシナリオ通りに動かないから迷惑だ」と言っているだけだ。


 俺は溜息をつき、手を挙げた。


「発言を許可していただけますか?」


『……許可する。だが、命乞いなら無駄だぞ』


「命乞い? まさか」


 俺は眼鏡ないをクイッと上げ、ビシッと言い放った。


「私が言いたいのは、あなた方の『運営方針』があまりに前時代的で、非効率だということです」


 場が凍りついた。

 神々がざわめく。


「魔王を恐怖の装置にする?

 そんなマッチポンプで稼いだ『祈り』に、何の価値がありますか?

 恐怖による信仰は長続きしません。リピート率が低い。

 現に、私が提供した『豊かな生活』の方が、人々からの感謝(ポジティブな信仰)を集めています」


 俺は空中にグラフを投影した。

 [祈りの質(Quality of Prayer)] の比較データだ。

 神々への祈り(恐怖・懇願)は数値が低いが、エル・ドラドでの感謝(喜び)は数値が高い。


「次に、技術ツリーの制限。

 データベースがパンク? それはあなた方のサーバー増強スケーリング不足です。

 ユーザー(人類)の成長に合わせてインフラを投資するのは、運営の義務でしょう。

 それを怠り、ユーザーの進化を止めるなど、怠慢ネグレクト以外の何物でもない」


 俺の言葉は、神々の痛いところを突き刺した。

 彼らは、長い時の中で「管理」することに疲れ、あるいは飽き、ただ現状維持を望むだけの「老害」と化していたのだ。


『き、貴様ぁ……! 神に向かって何という口を!』

『我々は創造主だぞ! 被造物が意見するなど、言語道断!』


 激昂する神々。

 主神が、静かに、しかし絶対的な殺意を持って告げた。


『……議論の余地なし。

 貴様は、バグだ。

 修正不可能と判断する。

 よって、即時削除デリートを実行する』


 主神が手を掲げた。

 空間にあるすべてのモノリスが赤く輝き、俺に照準を合わせる。

 「消去光線デリート・ビーム」のチャージ。

 物理防御も魔法防御も貫通し、存在の定義そのものを消し去る、神の権能。


『消え失せろ、工藤聡』


 カッッッ!!!


 視界が真っ白に染まる。

 俺の身体が、指先から分解されていく感覚。

 痛みはない。ただ、「無」へと還る感覚だけがある。


 ……普通なら、ここで終わりだ。

 だが、俺は待っていた。

 この瞬間を。

 彼らが「管理者権限」を行使するために、システムの深層カーネルを開く、この一瞬を。


(……アクセス・ポート、確認)


 消えゆく意識の中で、俺は最後のマクロを発動させた。

 昨夜組み上げた、起死回生のカウンター・プログラム。


 [Trap Card Activate]: VBA Injection


 俺の身体が消滅するコンマ1秒前。

 俺という存在データそのものを「ウイルス」として、彼らのシステム内部へと潜り込ませた。


***


第51話:権限奪取ルート・ハック 〜そして世界は再起動する〜


 System Alert: Unauthorized Access

 System Alert: Administrator Privileges Overwritten


 白い空間に、無機質なアラート音が鳴り響いた。

 神々が困惑の表情を浮かべる。


『な、何だ? 消去が完了していない?』

『システムが……操作を受け付けないだと!?』


 彼らの目の前で、消えかかっていた俺の身体が、ノイズと共に再構築されていく。

 Ctrl + Z (元に戻す)。

 俺は、消去された自分のデータを、直前のバックアップから復元したのだ。


「……危ないところでした。バックアップは基本中の基本ですからね」


 俺は完全に復活し、ニヤリと笑った。

 そして、俺の周囲には、無数のウィンドウが展開されていた。

 それらは、神々が操作していたモノリスの制御画面そのものだ。


「馬鹿な……! 我々のコンソールを乗っ取ったのか!?」


「ええ。あなた方が私を削除しようとしてアクセスした瞬間、その通信経路を逆探知しました。

 セキュリティが甘いですよ。パスワードが『God1234』だなんて、推測されやすすぎます」


 俺は [VBA Editor] をフルオープンにした。

 目の前にあるのは、この世界の「ソースコード」だ。

 物理定数、魔法法則、因果律。すべてが可読可能なコードとして記述されている。


 そして、一番上にある記述。

 Public Const Administrator = "Seven_Gods"


 俺はここを書き換えた。


 Public Const Administrator = "Kudo_Satoshi"


 エンターキー(虚空)を叩くッ!


 バチィィィィンッ!!!


 世界が震えた。

 神々の玉座から光が失われ、彼らの体が地面(のような空間)に落下した。

 逆に、俺の体は黄金の光に包まれ、宙に浮き上がる。


 [System Message]: Administrator Changed.

 [New Admin]: Kudo_Satoshi


『権限が……奪われた……!?』

『ありえない……人間ごときに、神の座が……!』


 神々が恐怖に震えて見上げる。

 俺は彼らを見下ろした。

 全能感。

 指先一つで、星を消すことも、新しい大陸を作ることもできる力。

 だが、俺はその力に溺れるつもりはない。


「さて、業務引き継ぎ(ハンドオーバー)の時間です」


 俺は神々に告げた。


「あなた方を削除はしません。

 システムには『メンテナンス要員』が必要です。

 今日からあなた方は、私の部下として働いてもらいます」


『部下だと……!? 創造主たる我らに、雑用をしろと言うのか!』


「創造主? 過去の栄光ですよ。

 今のあなた方は、ただの『管理不行き届きな前任者』です」


 俺は空中に、新しい「組織図」と「シフト表」を表示した。


 [New Organization]: World Management Team

 Manager: Kudo

 Staff: Old Gods (7 persons)


「主神、あなたは『天候制御』担当です。雨不足の地域に、均等に水を配分してください。

 そこの赤い神は『地殻変動』担当。地震のエネルギーを分散させ、被害を最小限に抑えること。

 ……サボったら、給料(信仰心)をカットしますよ?」


 屈辱に顔を歪める神々。

 だが、権限を奪われた彼らに、拒否権はない。

 システム上の絶対命令(Admin Command)だ。


『……承知、した……』


 神々が頭を垂れた。

 クーデター完了。

 俺は、この世界の真の支配者――いや、「最高責任者(CEO)」となったのだ。


 その後、俺は世界のパラメータを [最適化] した。

 不条理な疫病の根絶。

 魔物の発生率の調整。

 資源の再分配。

 世界は、かつてないほどの安定と繁栄の時代を迎えることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ