第48話:空中戦のゴールシーク 〜偏差射撃の未来予測〜
上空3,000メートル。
雲海を切り裂きながら疾走する飛空艇アーク・ロイヤルに、巨大な影が迫っていた。
古龍。
その巨体は、アーク・ロイヤルよりもさらに一回り大きく、白銀の鱗は太陽光を反射して神々しく輝いている。
だが、その口元には、文明の侵入者を排除せんとする明確な殺意――極大ブレスの予兆である青白い光が収束していた。
「来るぞ! 衝撃に備えろ!」
カイルが叫ぶと同時に、古龍が口を開いた。
ゴオオォォォッ!!
極太のレーザーのようなブレスが、一直線にこちらへ向かってくる。
俺は操舵輪を握らず、コンソール上のキーボード(魔力投影式)を叩いた。
回避行動? 間に合わない。
ならば、「防御」だ。
`[Defense System]: Anti-Magic Field (対魔力障壁)`
`[Input Power]: Max`
船体周囲に展開された六角形のエネルギーシールドが、ブレスと接触する。
バチバチバチッ!
激しい閃光と振動。
船内の照明が明滅し、警報音が鳴り響く。
`[Shield Status]: 75%... 60%...`
「くっ、出力が高い! シールドが持たない!」
ミリアが悲鳴を上げる。
だが、耐えきった。
ブレスの余波が過ぎ去ると、俺は反撃に転じた。
「こちらの番です。主砲、起動!」
船体下部から、巨大な魔導砲(遺跡から発掘した『巨神の杖』を改造したもの)が展開される。
だが、相手はマッハ2で飛び回る古龍だ。
目視で狙っても当たらない。
ここで使うのが、`[ゴールシーク (Goal Seek)]` だ。
本来は「目標値を達成するための変数を逆算する」機能だが、これを弾道計算に応用する。
`[Target Cell]: 命中判定 (Hit)`
`[Goal Value]: TRUE`
`[By Changing Cell]: 射撃角度, タイミング`
変数は無数にある。
敵の速度、風向き、重力、そして敵の「回避行動の癖」。
俺は `[データテーブル]` を展開し、過去数秒間の古龍の動きを解析した。
奴は「右旋回」を好む傾向がある。
`Searching Solution...`
`Found!`
最適解が出た。
俺はトリガーに指をかけた。
今撃てば、3秒後に敵が移動する「未来の位置」に直撃する。
「計算完了。……墜ちろ!」
ドォォォォン!!
魔導砲が火を噴いた。
紫色のエネルギー弾が、何もない空域へ向かって飛んでいく。
カイルが「どこ狙ってんだ!」と叫ぶが、その直後。
古龍が右へ旋回した。
まさにその軌道上に、エネルギー弾が吸い込まれるように到達した。
ズドォォォォンッ!!
直撃。
古龍の左翼の付け根にクリーンヒットし、鱗が飛び散る。
ギャオォォォォッ!!
悲鳴を上げ、古龍が体勢を崩す。
「当たった! すげぇ!」
「まだです。あれくらいでは落ちません」
古龍はすぐに体勢を立て直し、怒り狂って急降下してきた。
今度はブレスではない。
物理攻撃。
その巨大な鍵爪で、船体を直接引き裂こうとしているのだ。
距離、500メートル。
一瞬で詰められる。
俺は次の手を打った。
Excelにおける最強の拘束技、`[セルの結合]` だ。
だが、今回は相手が大きすぎる。単純な結合では弾かれる。
ならば、「空間ごと」固定する。
俺は `[条件付き書式]` を広範囲に展開した。
`[Range]: 船体周囲 1km`
`[Condition]: Enemy Velocity > 500 km/h`
`[Format]: Viscosity (粘度) Increase`
空気が変わった。
船の周囲の空間が、まるで水飴のようにドロリと重くなったのだ。
空気抵抗係数を局所的に100倍にする。
突っ込んできた古龍が、見えない泥沼にハマったように減速する。
翼が空気を掴めず、もがく。
「今だカイルさん! 甲板へ!」
「おう! 待ってました!」
カイルがブリッジを飛び出し、甲板へと駆け上がった。
彼は、俺が事前に用意しておいた「特製装備」を装着する。
`[Jet Pack (風魔法推進器)]`。
背中に背負った魔導エンジンが唸りを上げる。
「行くぜぇぇぇッ!!」
カイルが空へ飛び出した。
粘度の高い空間の中でも、推進器の力で加速する。
目指すは、古龍の眉間。
古龍がカイルに気づき、噛みつこうとする。
だが、遅い。
カイルは空中で軌道を変え、古龍の頭上を取った。
大剣を振りかぶる。
そこに、俺からの支援が飛ぶ。
`[Support]: Attack Power * 2 (乗算)`
`[Support]: Critical Rate = 100%`
「必殺! ドラゴン・スレイヤー・スラッシュ!!」
カイルが叫び、剣を振り下ろした。
閃光一閃。
ガキンッ! ズバァッ!!
古龍の硬い額の鱗が割れ、鮮血が噴き出した。
致命傷ではないが、脳震盪を起こすには十分な一撃。
古龍の目が白黒し、力が抜ける。
その巨体が、ゆっくりと雲海の下へと落下していく。
墜落だ。
`[Battle Result]: Win (Repelled)`
「やったか……?」
カイルが甲板に戻ってくる。
「ええ。殺してはいませんが、戦意は喪失したでしょう。
これ以上やると、動物愛護団体(ドルイド等)からクレームが来ますからね」
俺は冗談交じりに言ったが、手は震えていた。
ギリギリだった。
船体のダメージも大きい。シールド発生装置がオーバーヒートしている。
「修理が必要ですね。……ですが、まずは王都です」
俺はボロボロになったアーク・ロイヤルを立て直し、再び王都へと針路を向けた。
数時間後。
王都の上空に、巨大な銀色の船が現れた時の騒ぎは、語り草となった。
最初は「敵襲か!?」と大パニックになり、王宮魔導師団が出撃する事態となったが、俺が通信で事情を説明し、なんとか着陸許可を得た。
王宮の広庭に着陸したアーク・ロイヤル。
そのタラップから降りてきた俺たちを、国王陛下やヴァルザック大臣が出迎えた。
「く、工藤よ……。これは一体何なのだ? 空飛ぶ城か?」
国王が目を丸くしている。
「いいえ、陛下。これは『架け橋』です」
俺は積み荷を降ろさせた。
新大陸の新鮮なフルーツ、巨大魚の切り身、そして醸造したばかりの醤油。
「新大陸との交易路を開きました。
これで、王国の食卓は豊かになり、経済は活性化するでしょう」
俺はヴァルザック大臣に、分厚いファイルを渡した。
`[Proposal]: New Continent Resort Development Plan`
(新大陸リゾート開発計画書)
「出資をお願いします、大臣。
リターン(投資対効果)は保証しますよ。
この船で、王都の富裕層をカジノへ運び、金を落とさせる。完璧なエコシステムです」
ヴァルザックは書類を受け取り、ニヤリと笑った。
「……悪党め。国の金庫番を、共犯者にするつもりか」
「優秀なビジネスパートナーとお呼びください」
こうして、王都と新大陸を結ぶ定期便が就航した。
リゾート都市「エル・ドラド」は、またたく間に世界的な観光地となり、俺の目論見通り、莫大な外貨を稼ぎ出すことになった。
だが、光あるところには影がある。
この急速な発展を、良く思わない勢力も存在する。
それは、人間ではない。
古龍を支配していた、さらに上位の存在……「神」を名乗るものたち。
ある日。
俺のデスク(エル・ドラドの執務室)に、一通の白い封筒が届いた。
差出人は不明。
中には、たった一行のメッセージ。
『世界の理を乱す者よ。削除(Delete)を宣告する』
`[New Quest]: 神々との対話(あるいは戦争)`
`[Difficulty]: Impossible`
俺はコーヒーを飲み干し、不敵に笑った。
神?
それがどうした。
俺にとっては、ただの「管理者権限(Admin)」を持ったユーザーに過ぎない。
権限を奪うか、あるいは……もっと面白い提案をしてやろうか。
「カイルさん、出番ですよ。次は『天界』へ出張です」
俺たちの冒険(業務)は、まだまだ終わらない。




