第47話:古代の遺産とマクロ建造 〜空飛ぶ豪華客船〜
リゾート都市「エル・ドラド」の建設が進む中、俺は古代遺跡の最深部、`Zone E: Hangar (格納庫)` に籠もっていた。
そこは、広大なドーム状の空間だった。
天井は高く、床には複雑な魔法陣(誘導路)が描かれ、中央には巨大な「骨組み」が鎮座している。
全長300メートル。
クジラの骨格を思わせる、流線型の金属フレーム。
古代文明が作りかけで放棄した、未完の飛空艇だ。
`[Object]: Sky Ark (Prototype)`
`[Status]: Incomplete (Progress 40%)`
`[Missing]: Engine, Hull, Control System`
未完成。エンジンなし、外装なし、制御系なし。
ただの巨大な鉄屑だ。
だが、俺の目には、これが世界を変える「空の物流革命」の象徴に見えていた。
「……これを飛ばすのか? 正気かよ」
後ろでカイルが首を傾げている。
彼は遺跡から回収したスクラップの山に腰掛け、リンゴをかじっていた。
「正気ですよ。海路では往復二週間かかりますが、空路なら二日です。
鮮度の高い魚介類、珍しい果物、そしてVIP客の輸送。
これを実現するには、空を飛ぶしかありません」
俺は空中に `[設計図ウィンドウ]` を展開した。
古代の設計データは破損していたが、Excelの `[データの補間 (Interpolation)]` 機能で、欠損部分を現代の航空力学に基づいて補完する。
`Sub Repair_Design()`
`For Each parts In Ship_Frame`
`If parts.IsBroken Then parts.Repair(Level:=High)`
`Next parts`
まずはフレームの修復だ。
俺は遺跡内に散らばるミスリル合金の残骸を集め、マクロで溶解・再構築させた。
ドロドロに溶けた金属が、生き物のようにフレームに絡みつき、欠けた骨格を補強していく。
数十分後、銀色に輝く完全な骨組みが完成した。
「次はエンジンだ。心臓部がないと動かない」
俺は格納庫の隅にある、埃を被った巨大な円筒形の装置に目をつけた。
`[Gravitational Engine (重力エンジン)]`。
理論上は無限の浮力を生み出す夢の機関だが、肝心の動力源(燃料)が枯渇している。
「魔石か? それとも電気か?」
カイルが聞く。
「いいえ。もっと効率的で、クリーンなエネルギーを使います」
俺は懐から、一枚の契約書を取り出した。
以前、魔王軍の四天王イフリートと交わした「エネルギー供給契約書」だ。
`[Contract]: Thermal Energy Supply`
`[Provider]: Ifrit (Fire General)`
イフリートの生成する超高熱の炎(魔力)を、特殊なクリスタルに封入し、バッテリーとして利用する。
俺は通信石でイフリートに連絡を取った。
『よう、工藤か。何の用だ? 今、人間の街でステーキ屋を経営する準備で忙しいんだが』
「ステーキ屋もいいですが、特注のバッテリーを送ってください。出力最大で」
『へっ、任せとけ! 特大のを送ってやる!』
数分後、転送魔法陣が光り、真っ赤に燃える巨大な魔石が転送されてきた。
熱い。近づくだけで眉毛が焦げそうだ。
俺は `[断熱処理]` を施したマニピュレーター(魔法の手)で魔石を掴み、エンジンの炉心にセットした。
ゴゥン……!
低い唸り声と共に、エンジンが覚醒した。
重力制御装置が稼働し、300メートルの巨体が、ふわりと数センチ浮き上がった。
「浮いた! 本当に浮いたぞ!」
カイルが飛び上がる。
動力は確保した。
最後は、外装と内装だ。
ここが俺の腕の見せ所だ。
ただの輸送船ではない。「空飛ぶ豪華客船」にするのだ。
俺は `[デザインモード]` に切り替えた。
船体の上部には、全面ガラス張りの展望デッキ。
客室は全室スイート仕様。
レストラン、バー、そしてカジノも完備。
`[Material]: Enhanced Glass (強化ガラス)`
`[Style]: Art Deco (アール・デコ調)`
資材が足りない部分は、森の木材や、魔王城から「余剰在庫」として送られてきた高級家具で代用する。
俺は指揮者のように手を振るった。
`Execute Build Macro`。
カンカンカンッ!
目に見えない大工たちが一斉に作業を始めたかのように、船体が組み上がっていく。
銀色の流線型のボディ。
翼のようなスタビライザー。
そして、船首には女神の像。
三日三晩の不眠不休の作業の末。
ついに、それは完成した。
**飛空艇『アーク・ロイヤル』**
圧倒的な存在感。
古代の技術と、現代(俺の前世)のデザインセンスが融合した、空の女王。
「……美しい」
ミリアがうっとりと見上げている。彼女は内装のコーディネートを手伝ってくれた。
「試運転と行きましょうか」
俺はブリッジ(操舵室)に入った。
そこは、魔法陣と計器類が並ぶ、コックピットのような空間だ。
俺はキャプテンシートに座り、マイクを握った。
『本日はアーク・ロイヤルにご搭乗いただき、ありがとうございます。
これより、王都への処女航海を行います。
当機は全自動操縦(マクロ制御)となっておりますので、皆様はどうぞおくつろぎください』
エンジン出力、上昇。
反重力フィールド、展開。
ズズズ……フワッ。
巨体が軽々と宙に浮く。
格納庫の天井が開く(これも修理した)。
青空が見える。
「発進(Launch)!」
俺がエンターキー(空中のボタン)を叩くと、船は猛スピードで空へと駆け上がった。
G(重力加速度)がかかるが、内部の慣性制御が働き、揺れはほとんど感じない。
窓の外。
眼下には、ジャングルの緑と、建設中のリゾート都市、そして青い海が広がっていた。
カモメたちが驚いて逃げていく。
「ははっ! 最高だ! 世界を見下ろしてる気分だぜ!」
カイルが窓に張り付いている。
俺は航路を「王都」に設定した。
高度3,000メートル。巡航速度800km/h。
これなら、王都まで半日だ。
王都の上空に、この巨大な船が現れた時の、人々の顔が見ものだ。
そして、ヴァルザック大臣や国王陛下に、新大陸の特産品(醤油、トロ、熱帯フルーツ)を届ける。
これが、最強の「営業ツール」になるはずだ。
`[Log]: Flight Stable`
`[ETA]: 6 hours to Capital`
俺はオートパイロットに切り替え、コーヒーを淹れた。
空の上で飲むコーヒーは、また格別だ。
だが、俺たちの快適な空の旅は、そう長くは続かなかった。
王都の手前、山岳地帯の上空で、レーダーに「巨大な反応」が現れたのだ。
`[Warning]: Unknown Object Approaching`
`[Size]: Colossal (超巨大)`
`[Speed]: Mach 2`
なんだ?
ワイバーン? いや、もっと速い。
ドラゴン?
俺がモニターを凝視すると、雲海を割って、伝説級の怪物が姿を現した。
**『天翔ける古龍』**
全長500メートル。
白銀の鱗を持ち、六枚の翼を広げた、空の王者。
それが、縄張りを荒らされたことに激怒し、ブレスを吐く構えを見せていた。
「……おいおい、テストフライトでラスボス遭遇かよ!」
カイルが叫ぶ。
「想定の範囲内です。……総員、戦闘配置!
アーク・ロイヤルの『迎撃システム』を起動します!」
俺はコンソールを操作した。
この船は、ただの客船ではない。
元・軍用艦だ。武装も、しっかりと復元してある。
`[Weapon System]: Online`
`[Target]: Ancient Dragon`
空の覇権をかけた、ドッグファイトが幕を開ける。




