第45話:露天風呂のマクロ建築 〜地熱エネルギーの配管設計〜
翌朝。
南国の太陽がジリジリと大地を焼き始める頃、俺はすでに遺跡の前に立ち、開発予定地の測量を開始していた。
今日のタスクは、リゾート都市の核となる「温浴施設」の建設だ。
遺跡の深層、`Zone B: Geothermal Plant (地熱発電所)` から汲み上げた熱湯を、地上の客室まで引き込み、かけ流しの温泉として提供する。
さらに、森の民の伝統的な建築様式と、現代の和風旅館の美学を融合させた、唯一無二の癒やし空間を創出する。
`[Project]: 温泉旅館『エル・ドラド』建設`
`[Resource]: 古代遺跡の石材, 森の木材, 森の民(労働力)`
`[Deadline]: 本日日没まで`
無茶なスケジュールに見えるかもしれないが、俺には「秘策」がある。
「工藤様、みんな集まりました!」
リリムが、森の民たちを引き連れてやってきた。
彼らは病が癒え、活力に満ちている。手には石斧や蔦を持っているが、その表情は「何をすればいいか分からない」という不安と期待が入り混じっていた。
「ありがとうございます。では、作業手順を説明します」
俺は空中に、巨大な「設計図」をホログラムで投影した。
3Dモデルで描かれた、木造二階建ての数奇屋風旅館。
広大な露天風呂、日本庭園、そして各部屋に備え付けられた檜風呂。
「おおぉぉ……!」
森の民たちがどよめく。
「こんな立派なものが、本当に作れるのか?」
「作れます。ただし、あなた方には『単純作業』だけをお願いします」
俺は彼らに指示を出した。
1. 森から切り出した木材を、指定の場所(A地点)に運ぶ。
2. 遺跡から切り出した石材を、指定の場所(B地点)に運ぶ。
3. 指定された溝(配管用)を掘る。
以上だ。
釘を打つ必要も、カンナをかける必要もない。
加工と組み立ては、すべて俺が「自動化」する。
「カイルさん、ミリアさんは、現場の安全確保と、魔物除けの結界設置をお願いします」
「へいへい。現場監督兼ガードマンってわけか」
カイルが大剣を担いで散っていく。
準備完了。
俺は、建設予定地の中央に立ち、意識を集中させた。
`[開発] タブ` → `[Visual Basic Editor]` 起動。
新規モジュールを作成する。
`Sub Build_Onsen_Ryokan()`
変数を定義する。
`Dim lumber As Object` (木材)
`Dim stone As Object` (石材)
`Dim pipe As Object` (配管)
まず、基礎工事だ。
昨日の整地作業で、地面はすでにコンクリート並みに固まっている。
ここに、配管を通すための溝を掘る。
森の民たちが掘り始めた溝に合わせて、俺は `[オフセット関数]` を使い、地下深くの地熱プラントまで正確にボーリング(掘削)を行う。
ズズズズ……。
地面に直径30センチほどの穴が開き、それが数百メートル下まで一直線に伸びていく。
そして、古代の耐熱パイプ(遺跡から回収したもの)を `[挿入]` する。
カチン、カチン、カチン。
パイプ同士が自動的に接合され、地下深くまで繋がった。
バルブを開く。
ゴウウウッ……!
地熱で熱せられた蒸気と熱湯が、パイプを通って地上へ昇ってくる。
湯気が噴き出す。
硫黄の匂い。
源泉かけ流し、確保完了。
「次は建物だ」
俺は A地点に積み上げられた木材の山を `選択 (Select)` した。
そして、`[加工マクロ]` を実行する。
`For Each lumber In Range("A_Spot")`
`lumber.Cut(Length:=3000, Shape:="Square")`
`lumber.Smooth(Level:=High)`
`lumber.Join(Target:=Frame_Structure)`
`Next lumber`
シュパパパパッ!
木材が宙に舞い、目に見えない刃によって一瞬で製材される。
角材になり、板になり、柱になる。
そして、それらがテトリスのように組み合わさり、骨組み(フレーム)を形成していく。
釘は一本も使わない。
日本の伝統工法「木組み」だ。
ほぞとほぞ穴がピタリと噛み合い、強固な構造体となる。
カンカンカンッ! という小気味よい音が響き渡り、目の前で建物が組み上がっていく様は、圧巻の一言だった。
「すげぇ……魔法使いでもあんなことはできねぇぞ……」
運搬作業中の森の民たちが、口を開けて見上げている。
骨組みができたら、次は壁と屋根だ。
壁材には、調湿効果のある「珪藻土(に近い土)」を使用。
屋根には、耐久性の高い「黒曜石の薄板(瓦)」を使用。
`[塗りつぶし] 効果` で、壁を一瞬で白く塗り上げる。
`[配列複写]` で、瓦を屋根に敷き詰める。
一階部分、完成。
二階部分、完成。
露天風呂の岩組み、完成。
所要時間、わずか三時間。
ジャングルの只中に、純和風の木造建築が忽然と姿を現した。
周囲の熱帯植物とのコントラストが異様だが、それが逆に「隠れ家リゾート」のような雰囲気を醸し出している。
「ふぅ……大枠はできましたね」
俺は汗を拭った。
だが、ここからが本当の勝負だ。
「内装」と「設備」の充実。
リゾートの質は、細部に宿る。
俺は建物の中に入った。
まだ木の香りが漂う更地の室内。
ここに、畳(い草はないので、香りの良い草を編んだマット)を敷き詰める。
障子(紙はないので、薄く削った半透明の樹皮)をはめる。
そして、各部屋に「専用露天風呂」を設置する。
風呂桶は、樹齢千年の巨木をくり抜いて作った「丸太風呂」だ。
蛇口をひねると、先ほど引いた源泉から、適温に調整されたお湯が注がれる。
`Temperature: 41.5℃ (Best)`
`Minerals: Rich`
俺は手をお湯につけてみた。
少し熱めだが、肌に吸い付くような滑らかさ。
美肌効果抜群のアルカリ性単純泉だ。シヴァ様あたりが泣いて喜びそうだ。
「よし。ハードウェアは完璧だ」
俺は満足げに頷いた。
次は「ソフトウェア(サービス)」の準備だ。
リリムと森の民の女性たちを集め、「接客マニュアル」のレクチャーを行う。
「いいですか。お客様が来たら、まずは笑顔で『いらっしゃいませ』。
そして、荷物をお持ちし、お茶とお菓子(木の実の砂糖漬け)を出す。
決して『獲物』を見るような目で見ないこと。
特にリリムさん、誘惑スキルは禁止です。癒やしが目的なので」
「はぁ〜い……つまんないですぅ……」
リリムが頬を膨らませるが、彼女の制服(和風メイド服)は完璧に着こなされている。俺のデザインだ。
夕暮れ時。
すべての準備が整った。
建物の入り口には、『天然温泉 エル・ドラド』と書かれた看板が掲げられ、行灯の柔らかな明かりが灯った。
「すげぇな……本当に一日で建てやがった」
カイルが呆れを通り越して感心している。
ミリアも、目をキラキラさせて露天風呂を覗き込んでいる。
「工藤さん! 私、一番風呂に入ってもいいですか!?」
「ええ、どうぞ。スタッフによる試運転も重要ですから」
俺は許可を出した。
カイルとミリア、そして森の民たちが歓声を上げて風呂場へと消えていく。
しばらくすると、壁の向こうから「極楽だぁ……」「肌がツルツルする!」という喜びの声が聞こえてきた。
`[Test Run]: Success`
`[User Satisfaction]: 100%`
成功だ。
俺は縁側に腰掛け、夜風に当たりながら、完成した旅館を眺めた。
この建物は、ただの宿ではない。
新大陸における「文明の灯火」であり、世界中から人を呼び寄せる「磁石」となる場所だ。
だが、問題は「集客」だ。
こんな秘境に、どうやって客を呼ぶか。
船で数日かかる距離は、一般客にはハードルが高い。
俺は夜空を見上げた。
そこには、満月が輝いている。
「……移動コストをゼロにするしかないな」
俺の頭の中に、次なる計画が浮かんでいた。
`[Teleportation Gate (転移門)]` の設置。
王都と新大陸を、一瞬で繋ぐ魔法のドア。
それには、膨大な魔力と、高度な空間座標計算が必要だが、古代遺跡のエネルギーを使えば可能かもしれない。
`[New Quest]: 王都-新大陸間 直通トンネル(VPN)の構築`
俺は手帳(脳内)にタスクを追加した。
休んでいる暇はない。
リゾート開発は、まだ始まったばかりなのだから。
その時、風呂上がりのカイルが、火照った顔で牛乳(のような白い木の実ジュース)を飲みながら出てきた。
「ぷはーっ! 生き返ったぜ!
なあ工藤、次は『娯楽』が欲しくねぇか? 風呂上がりに遊べる場所とかさ」
「娯楽、ですか」
「ああ。カジノとか、闘技場とかよ!」
カジノ。
悪くないアイデアだ。
富裕層の金を巻き上げるには最適なシステムだ。
俺はニヤリと笑った。
「いいですね。遺跡の地下区画を使って、『地下カジノ』を作りましょう。
スロットマシンも、ルーレットも、すべて私が『確率調整(設定6)』しておきますよ」
俺たちの夜は、欲望と野望の入り混じった企画会議で更けていった。




