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異世界転生したけど、スキルが『Excel』だけだった。でもマクロ組んだら魔法より強かった件  作者: まこーぼ


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40/51

**第40話:伐採(デリート)と整地(フォーマット) 〜ジャングルをセル結合する〜**


 新大陸の空気は、濃密だった。

 湿度は90%を超え、腐葉土の発酵した匂いと、甘ったるい花の香りが混ざり合い、呼吸するだけで肺に重みを感じる。

 気温は35度。

 スーツ姿の俺には過酷な環境だが、`[空調管理(体感温度調整)]` マクロを常時稼働させているため、不快感はない。


 目の前に広がるのは、壁のようなジャングルだ。

 高さ数十メートルの巨木が林立し、その間をツタやシダ植物が埋め尽くしている。

 道などない。

 一歩進むのに、ナタで数分間藪を払い続けなければならないような密度だ。


「おいおい工藤、ここを切り開くのか? 俺たちだけで?」


 カイルが呆れたように言った。

 今回の上陸班は、俺、カイル、ミリア、そして荷運び用の屈強なオーク数名。

 どう見ても人手不足だ。


「通常なら、開拓村を作るのに数ヶ月かかるでしょうね」


 俺は冷静に分析した。

 木を切り、根を掘り起こし、地面を平らにし、地盤を固める。

 途方もない労力だ。


「ですが、私にはExcelがあります」


 俺はジャングルの手前に立ち、視界にグリッド線を表示させた。

 

 `Grid On`

 `Range Selection: A1:Z100` (約1ヘクタールの範囲)


 俺はまず、邪魔な「下草」と「蔦」を処理することにした。

 これらは建築には不要なノイズデータだ。


 `[検索する文字列]: "雑草" OR "蔦" OR "藪"`

 `[置換後の文字列]: ""` (削除)

 `[範囲]: 選択エリア`


 実行。


 シュンッ!


 音が消えた。

 目の前の空間から、緑色のモジャモジャした部分だけが、まるでレイヤーを非表示にしたかのように消滅した。

 残ったのは、巨木と、剥き出しになった地面だけ。

 風通しが一気によくなった。


「うわぁ……何度見ても気持ち悪いな、その魔法」

 カイルが引いている。


「魔法じゃありません。データ整理です」


 次は巨木だ。

 これらは建築資材(材木)として利用できる。削除してはもったいない。

 俺は木々を選択した。

 

 `[データ] タブ` → `[区切り位置]`。


 巨木を、以下の要素に分割する。

 1. 枝葉(不要)

 2. 樹皮(燃料・壁材)

 3. 芯材(柱・梁)

 4. 根(不要)


 実行。


 バキバキバキッ!


 轟音と共に、数十本の巨木が一斉に解体された。

 枝葉と根は塵となって消え、樹皮は綺麗に剥がれて積み重なり、芯材は製材された角材のように四角く加工されて地面に並んだ。

 プレカット済みの建材の山が出来上がった。


 `[Material Acquired]: Lumber (High Quality) x 500`


「……製材所いらずだな」

 オークたちが目を白黒させている。


 最後は、地面の整地だ。

 凸凹した地面、埋まった石、ぬかるみ。

 これらを平らにし、建築に適した硬さに固める。


 俺は地面を選択した。

 `[セルの書式設定]` → `[配置: 均等割り付け]`?

 いや、ここは `[塗りつぶし]` を応用しよう。

 「コンクリートのような硬度」という属性プロパティで、地面を塗りつぶす。


 `Fill Color: Concrete Grey`

 `Property: Hardness 50`


 ズズズズズ……。


 地面が波打ち、泥が乾燥し、石が沈み込む。

 数秒後、そこには水平器で測ったように真っ平らで、カチカチに固まった土台が出現した。


 所要時間:15分。

 開拓完了。


「さあ、拠点の基礎はできました。資材もあります。

 あとは組み立てるだけですね」


 俺は汗ひとつかいていない。

 `MP: 7/10`。

 広範囲の干渉だったので少し消費したが、ポーション一本で戻るレベルだ。


「……アンタ、これ国が傾くレベルの技術だぞ」


 カイルが乾いた笑いを漏らした。

 ミリアはすでに慣れたもので、さっさと測量用の道具を広げ始めている。


「では、ここに管理棟を建てましょう。設計図(CADデータ)は私が作ります」


 俺は空中に `[オートシェイプ (AutoShapes)]` で図面を描き始めた。

 四角形、線、コネクタ。

 パワポで資料を作る感覚で、建物の構造を定義していく。


 だが、順調な作業は、突然の来訪者によって中断された。


 ヒュンッ!

 ドスッ!


 一本の矢が、俺の足元のアスファルト(固めた土)に突き刺さった。

 粗末な作りだが、羽根には鮮やかな極彩色の鳥の羽が使われている。


「……警告射撃か」


 カイルが瞬時に大剣を抜き、俺の前に立った。

 ジャングルの奥、切り開いていない森の暗がりから、複数の気配がする。


 `[Radar]: Enemy Detected`

 `[Count]: 20`

 `[Race]: Unknown (Humanoid)`


 原住民だ。

 未開の地にはつきものの、先住民族とのファーストコンタクト。


 森の陰から、小柄な人影たちが現れた。

 身長は人間の子供ほど。肌は緑色で、体には植物で編んだ服を纏っている。

 手には弓や吹き矢。

 そして、その瞳は敵意に満ちていた。


 `森の民(エルフの一種?)`

 `[Level]: 15`

 `[State]: 怒り, 警戒`


 彼らのリーダーらしき、頭に大きな花飾りをつけた個体が、何かを叫んだ。


「■■■! ■■■■■!!」


 言語が通じない。

 未知の言語だ。

 だが、身振り手振りで「出ていけ」「森を壊すな」と言っているのは分かる。

 俺たちの急速な伐採行為が、彼らの縄張り意識を刺激したらしい。


「どうする工藤? やるか?」

 カイルが問う。


「いえ。これからリゾート開発をするにあたり、現地住民との対立は最大のリスクです。……交渉ネゴシエーションしましょう」


 俺は前に出た。

 言葉は通じない。

 だが、俺には `Excel` がある。

 Excelには「翻訳機能」がある。

 そして何より、Excelは「万国共通言語」だ。


 俺は空中にウィンドウを出した。

 `[校閲] タブ` → `[翻訳 (Translate)]`。

 検出言語:`[森の民語]` → 翻訳言語:`[共通語]`。


 リアルタイム翻訳機能(字幕表示)を起動する。

 MP消費は継続的だが、コミュニケーションコストを下げるためには安いものだ。


「■■■!(森を穢す悪魔め! 去れ!)」


 字幕が出た。

 なるほど、悪魔扱いか。まあ、一瞬で森を消し飛ばせばそう思われるか。


「私たちは悪魔ではありません。対話を望みます」


 俺の言葉が、自動的に彼らの言葉(発音)に変換されてスピーカーから流れる。


「対話? 笑わせるな! 木々を殺し、大地を石に変えたではないか!」


「これは開発です。あなた方にも利益があります」


 俺は懐から、手土産を取り出した。

 王都で仕入れた「角砂糖」と「ガラス玉」。

 典型的な文明の利器だ。

 だが、彼らはそれを見ても反応が薄い。

 むしろ、「そんなガラクタで誤魔化す気か」という軽蔑の色が見える。


 ……失敗した。

 彼らは原始的だが、知能は高い。

 安っぽいビーズで釣れる相手ではない。

 彼らが求めているのは、もっと本質的なものだ。


 俺は `Excel・アイ` で彼らのステータスを詳細分析した。


 `[Health]: Poor`

 `[Debuff]: 未知の風土病, 栄養不足`


 彼らは病んでいる。

 森の奥で、何か深刻な問題が起きているのかもしれない。


「……あなた方、病気にかかっていますね?」


 俺の言葉に、リーダーが動揺した。


「な、なぜそれを……」


「治せるかもしれませんよ。……もし、話を聞いてくれるなら」


 俺は `条件付き書式` で、彼らの体内の「病巣ウィルス」を赤く可視化してみせた。

 彼らは自分たちの体が赤く光るのを見て、恐怖し、そして俺を畏怖の目で見た。


 医療支援メディカル・エイド

 これが、交渉の突破口キーだ。


「案内してください。あなた方の集落へ。

 そこで『診療所』を開設します。治療費は……そうですね、この土地の利用権でどうでしょう?」


 リーダーは迷った末、弓を下ろした。


「……ついてこい。だが、妙な真似をすれば、この森が貴様らを喰らうぞ」


 交渉成立。

 俺たちは建築作業を中断し、ジャングルの奥地へと足を踏み入れることになった。

 そこには、俺のExcelスキルでも解析不能な、古代の遺跡と「ダンジョンの入り口」が待ち構えていた。

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