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異世界転生したけど、スキルが『Excel』だけだった。でもマクロ組んだら魔法より強かった件  作者: まこーぼ


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第39話:洋上のキックオフ・ミーティング 〜波の高さは分散(Variance)で予測する〜

第二部:新大陸開拓・リゾート開発編 〜未開のブルーオーシャンへの出張〜


 ザザァン……ザザァン……。

 規則正しい波の音が、木造船の船底を叩いている。

 俺――工藤聡は、王都の港を出港して三日目となる大型帆船「ストーム・ブレイカー号」の甲板に立ち、水平線の彼方を眺めていた。


 潮風が頬を撫でる。

 磯の香りを含んだ湿った風だ。


 空は突き抜けるような青。白いカモメ(によく似た魔物『シー・ガウ』)が数羽、マストの周りを旋回しながら甲高い鳴き声を上げている。


「……ふぅ」


 俺はマグカップに入ったコーヒーを啜った。

 揺れる船上でのコーヒーブレイクは、オフィスでのそれとは違った趣がある。


 ただし、カップの中身がこぼれないように、常に手首の角度を水平に保つ「ジャイロ補正マクロ」をバックグラウンドで走らせていなければならないが。


 今回のプロジェクトは、世界統合機構(旧・魔王軍&各国連合)が主導する、国家プロジェクト級の案件だ。

 

 『新大陸・未開拓エリアにおけるダンジョン資源の有効活用およびリゾート地開発計画』

 要するに、「誰も手をつけていない新大陸のダンジョンを、安全な観光地に改造して外貨を稼ごう」という計画だ。


 そして、その総責任者プロジェクト・マネージャーとして白羽の矢が立ったのが、この俺だった。


「おーい、工藤! 釣れたぞ! デカいのが!」


 甲板の後方から、野太い声が掛かった。


 カイルだ。

 彼は上半身裸になり、日に焼けた肌を晒しながら、巨大な釣り竿としなる格闘している。

 今回の出張にも、護衛兼作業員としてついてきてもらった。


「カイルさん、仕事中ですよ(移動中だけど)」

「いーだろ、暇なんだから! うおおおっ!」


 バシャンッ!

 水しぶきを上げて釣り上げられたのは、体長二メートルはある巨大なマグロ……に、鋭い牙と角が生えた『キラー・ツナ』だった。


 ビタンビタンと甲板の上で暴れまわり、木板を削っている。


 [Monster]: Killer Tuna

 [Level]: 12

 [Status]: 窒息中


「へっ、今夜の刺し身はこいつで決まりだな!」


 カイルが手際よくナイフで締めにかかる。

 俺はため息をつきつつ、その光景を横目に、手元の航海図(羊皮紙)に視線を落とした。

 現在位置は、大陸棚を抜けて外洋に出たあたり。


 ここから先は「魔の海域」と呼ばれる、海流が激しく、強力な海獣が生息するエリアだ。

 船長は「風任せ、運任せ」と言っていたが、そんな不確定要素リスクを抱えたままプロジェクトを進めるわけにはいかない。


 俺は海面を見下ろした。

 うねるような波。複雑な潮の流れ。


 俺は Excel・アイ を海面にフォーカスした。


 [Analyze]: Ocean Current (海流)

 [Data Points]: Wave Height, Wind Speed, Water Temperature


 無数の数値データが視界に溢れ出す。

 波の高さ、周期、風速、水温。


 これらをリアルタイムで収集し、一つのワークシートに流し込む。

 =FORECAST.ETS(Target_Time, Values, Timeline)

 (指数平滑法による時系列予測)


 俺は、向こう24時間の「波の動き」と「最適な航路」を予測計算した。

 通常、熟練の航海士が長年の勘で読むそれを、俺は数式で導き出す。


「……ふむ。3時間後に南西から低気圧が接近。波高が4メートルを超える」

 俺は計算結果を弾き出した。

 このまま直進すれば、船は時化しけに巻き込まれ、到着が半日遅れる。おまけに船酔いによるスタッフ(主にミリアなどの文官組)のダウンが予測される。


 [Resource Loss Risk]: High

 俺は飲みかけのコーヒーを置き、操舵室へと向かった。

 操舵室では、髭面の船長がパイプをふかしながら舵を握っていた。

 

「船長。進路変更の提案があります」

「あん? なんだ事務員さんよ。船のことは俺に任せとけって言ったろ。今はいい風が吹いてるんだ」

 船長は取り合おうとしない。


 現場の職人気質。これを説得するのは骨が折れるが、データを見せれば早い。


「ええ、今はいい風です。ですが、3時間後には嵐になります。……これを見てください」


 俺は空中に [海象予測グラフ] を展開した。

 現在の平穏な波のグラフが、3時間後に急激なスパイク(突出)を描いている。


「なんじゃこりゃあ? 絵か?」


「未来予想図です。このまま進めば、船体の揺れ係数が許容限界を超え、積荷(建設資材)の荷崩れリスクが80%に達します」


 俺は指先で地図上に新しいルートを描いた。


「ここで舵を面舵(右)に15度。あえて海流に逆らう形になりますが、30分後には追い風の帯に入れます。そうすれば、嵐を回避しつつ、到着時間を2時間短縮できます」


 船長はパイプを口から離し、グラフと俺の顔を交互に見た。

 そして、鼻を鳴らした。


「……魔導師の天気予報より詳しそうだな。よし、乗った。面舵いっぱーい!」


 船が大きく右に傾く。

 俺は手すりに掴まりながら、再び甲板へと戻った。

 甲板では、カイルが捌いたばかりのキラー・ツナの切り身を、ミリアや他のスタッフに振る舞っていた。

 ミリアは船酔いで顔色が悪いが、生の切り身を見てさらに青ざめている。


「うぅ……カイルさん、揺れてるのに生魚は無理ですぅ……」


「なんだよ、精がつくぞ? ほら、工藤も食うか?」


 カイルが血の滴る赤い切り身(醤油なし)を差し出してくる。


「遠慮しておきます。……それよりミリアさん、これ飲んでおいてください」


 俺は懐から小瓶を取り出した。


 [工藤製・酔い止めシロップ]

 成分:生姜、ミント、そして [平衡感覚補正マクロ] を液状化したもの。


「あ、ありがとうございますぅ……」


 ミリアがそれを飲み干すと、すぐに顔色が戻った。


 [Debuff]: 船酔い -> 解除


「はぁ、生き返りました……。それにしても工藤さん、新大陸ってどんなところなんでしょう? 魔王様の話だと、『誰も帰ってきたことがない』って……」


「データがないということは、リスクであり、同時にチャンス(ブルーオーシャン)でもあります」


 俺は水平線を見つめた。

 新大陸。

 そこには、既存のルールも、既得権益も、面倒な監査官もいない。

 あるのは、手つかずの大地と、無限の可能性。


 俺の頭の中には、すでに巨大な開発計画書プロジェクト・チャーターが出来上がっていた。

 

 Phase 1: 拠点確保とインフラ整備

 Phase 2: 現地生態系の調査と「食材」確保

 Phase 3: ダンジョンの安全化とアトラクション化


 「まずは現地到着後の『整地』ですね。……私の『置換』スキルの出番が増えそうだ」

 俺がつぶやいたその時。

 マストの上の見張り員が叫んだ。


「陸だーッ! 新大陸が見えたぞーッ!!」


 船員たちが歓声を上げる。

 水平線の彼方に、鬱蒼とした緑の大地が浮かび上がってきた。

 高い山脈、深いジャングル、そして海岸線に見える白い砂浜。

 美しい。


 だが、俺の目には、そのジャングルの奥から漂う、強烈な [High Level Monster] の反応(赤い点)が無数に見えていた。


「……前途多難ですね」


 俺はネクタイを締め直した。


 リゾート開発? いや、これは「開拓戦争」だ。

 俺たちは、未知の大地に最初の一歩データを刻むために来たのだ。


 船が浅瀬に近づき、アンカーが下ろされる。


 ザザーッ……。


 波打ち際に、ボートが着岸する。

 俺は革靴で、新大陸の白い砂を踏みしめた。


 キュッ、といい音がした。


 [Location]: 新大陸・南海岸エリア

 [Status]: 未開拓

 [Quest Started]: 開拓村の建設


「さあ、仕事始めましょうか。まずは……ここを『更地』にします」


 俺は広大なジャングルに向かって、右手をかざした。

 Ctrl + H (置換ウィンドウ)展開。


 伐採の時間だ。


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