第35話:四天王との定例会議 〜予算配分の最適化問題〜
魔王城の最上階にある「円卓の間」。
黒曜石の巨大なテーブルを囲み、魔王軍の最高幹部たち――四天王が集結していた。
空気は重く、ピリついている。
彼らは普段、互いに反目し合っており、一堂に会することなど滅多にない。
それを招集したのが、新入りの「人間」だということが、彼らのプライドを逆撫でしていた。
俺は上座(魔王の席の隣)に座り、手元の資料を整えていた。
リリムが震える手でお茶を配っている。
バンッ!
テーブルが叩かれた。
最初に口を開いたのは、全身が炎に包まれた巨漢――『炎獄の将軍』イフリートだ。
「おい人間! 俺様を呼びつけるとはいい度胸だ! 予算ゼロだと? 舐めるなよ!」
`イフリート(四天王・第一席)`
`[Attribute]: 火属性`
`[Personality]: 短気, 浪費家`
`[Budget Request]: 燃料費(石炭・油) 5億G`
続いて、妖艶な笑みを浮かべた美女――『氷結の魔女』シヴァが冷ややかに言い放つ。
「野蛮ね、イフリート。……でも、人間ごときに私たちの財布を握られるのは不愉快だわ。凍らせて彫像にしてあげましょうか?」
`シヴァ(四天王・第二席)`
`[Attribute]: 氷属性`
`[Personality]: 高慢, 美容オタク`
`[Budget Request]: 研究費(という名の化粧品代) 3億G`
三番目は、全身が金属でできた機械人形――『鋼鉄の機神』メタトロン。
「『効率化』ト言ッタナ。非論理的ナ存在(人間)ガ、我ヲ最適化デキルトデモ?」
`メタトロン(四天王・第三席)`
`[Attribute]: 無属性(物理)`
`[Personality]: 合理主義(に見せかけた頑固)`
`[Budget Request]: メンテナンス費 4億G`
最後は、フードを目深に被り、影のように揺らめく存在――『死霊の王』ネクロマンサー。
彼は無言だ。だが、その周囲には無数の怨霊が渦巻いている。
`ネクロマンサー(四天王・第四席)`
`[Attribute]: 闇属性`
`[Personality]: 陰湿, 引きこもり`
`[Budget Request]: 供物代(死体購入費) 2億G`
四者四様の問題児たち。
俺は眼鏡をクイッと上げ、立ち上がった。
「お集まりいただき感謝します。総務局長の工藤です。
本日の議題は『次期軍事予算の配分』について。
……結論から言います。全員、申請額の80%カットです」
「「「はぁ!?」」」
イフリートの炎が燃え上がり、シヴァの周囲が凍りつき、メタトロンの駆動音が唸りを上げた。
殺気が俺に集中する。
「ふざけるな! 80%カットだと!? 戦争ができんぞ!」
「できますよ。無駄を省けばね」
俺は空中に `[ピボットグラフ]` を展開した。
「まずイフリート将軍。あなたの部隊の『燃料費』ですが……」
グラフの一点を指差す。
「なぜ、夏場に暖房用の『最高級無煙炭』を大量購入しているんですか? しかも、その購入先はあなたの親族が経営する商会ですね?」
`[Audit Result]: Conflict of Interest (利益相反)`
イフリートがギクリとする。
「な、なにっ!? それは……部下の士気を高めるために……!」
「いいえ。あなたは横流しをして、私腹を肥やしている。証拠の『裏帳簿』もありますよ」
俺はイフリートの隠し口座のデータを表示した。
真っ赤になったイフリートは言葉を失う。
「次にシヴァ様。あなたの『研究費』。内訳を見ると、『美肌クリーム』『アンチエイジング・ポーション』……これらは軍事研究ですか?」
「失礼ね! 美しさは力よ! 敵を魅了するために必要な経費だわ!」
「魅了スキルの成功率は `[Level]` と `[Charm]` に依存しますが、あなたのレベルなら素顔で十分です(お世辞)。化粧品の効果は誤差の範囲。よって却下」
シヴァが顔を赤らめ、「そ、そう? 素顔で十分……?」とまんざらでもない顔をする。
チョロい。
「メタトロン将軍。あなたの『メンテナンス費』。
全部品を新品に交換しようとしていますが、耐久度チェックの結果、まだ使える部品が90%です。
『予防保全』は大事ですが、『過剰品質』はコストの無駄です。
使用頻度の低いパーツは、中古品またはB級品で十分機能します」
俺はシミュレーション結果(B級品でも性能低下率1%以下)を提示した。
メタトロンの電子頭脳が高速計算を始める。
「……計算結果ト一致。……論理的ニ反論不可能」
最後にネクロマンサー。
「あなたの『死体購入費』。
墓場から掘り起こすのに、なぜ金を払うんですか?
墓荒らし(グレーゾーン業者)に委託しているようですが、自前のスケルトン部隊を使えばコストゼロです。
『引きこもり』をやめて、たまには外の空気を吸いましょう」
ネクロマンサーのフードの下から、小さな呻き声が聞こえた。
「……面倒くさい……」
「面倒くさいなら、予算もゼロです」
完全論破。
俺はテーブルに両手をついた。
「いいですか。魔王軍は今、財政難です。
あなた方が好き勝手に予算を食い荒らしている間に、人間たちは団結し、攻めてきています。
このままでは、共倒れです」
俺は新しい「予算案」を提示した。
`[New Budget Plan]`
- 共通経費(兵站・インフラ)に重点投資
- 各将軍の裁量予算は削減するが、成果報酬を導入
- 人間の領土を占領した場合、その収益の30%を還元
「成果を出せば、青天井で予算を出します。
イフリート将軍、人間の都市を燃やすのではなく、占領して『火力発電所』として運用すれば、燃料費はタダどころか利益になります。
シヴァ様、あなたの美貌で人間の貴族を篭絡し、貢がせれば、化粧品など買い放題です」
俺の提案に、四天王たちの目の色が変わった。
単なる削減ではない。
「稼ぐための投資」への転換だ。
「……なるほど。略奪ではなく、搾取か。悪くない」
イフリートがニヤリと笑う。
「あら、貢がせるのは得意よ。面白そうね」
シヴァが髪をかき上げる。
「利益率30%……計算上、現在ノ予算ヲ上回ル可能性アリ」
メタトロンが承認する。
「……死体が増えれば、それでいい……」
ネクロマンサーも同意した。
交渉成立。
`[Quest Update]: 四天王の掌握`
`[Result]: Success`
俺は安堵のため息をついた。
冷や汗で背中はびっしょりだが、なんとか乗り切った。
これで、魔王軍の財務体質は劇的に改善されるはずだ。
だが、問題は「内部」だけではない。
「外部」からの脅威――すなわち「勇者パーティ」の侵攻が、すぐそこまで迫っていた。
その日の午後。
魔王城の警報が鳴り響いた。
`[Alert]: Intruder Detected (Zone 1)`
`[Type]: Hero Party (Lv.50+)`
勇者一行。
彼らは、俺が構築した「効率化された魔王軍」を、力技で突破してこようとする「バグ(イレギュラー)」だ。
俺は、総務局長として、そして魔王軍の防衛システム管理者として、彼らを迎撃する準備を始めた。
もちろん、暴力ではなく……「事務的な嫌がらせ(ダンジョンギミック)」でね。




