第30話:循環参照の罠(サーキュラー・トラップ) 〜反逆者の烙印〜
第三騎士団の不正を暴き、ガルド将軍を逮捕した俺たちの功績は、翌日の王都新聞の一面を飾る……はずだった。
だが、現実は違った。
翌朝、財務省の俺の執務室(清潔でコーヒーメーカー完備)に飛び込んできたカイルが、一枚の新聞を俺の机に叩きつけた。
「おい工藤! これを見ろ! ふざけやがって!」
俺はコーヒーカップを置き、新聞の見出しを見た。
**【第三騎士団長ガルド将軍、帝国のスパイを捕縛!】**
**〜財務省に潜伏していた反逆者、国家転覆を計画か〜**
記事には、俺とカイルの似顔絵(悪人面)がデカデカと掲載されていた。
内容はこうだ。
「自称・監査官の工藤聡とその手先カイルは、帝国の密偵であり、財務省のデータを改竄して軍部の弱体化を図った。ガルド将軍は彼らの陰謀に気づき、身を挺してこれを阻止しようとしたが、卑劣な魔法により拉致された」
「……なるほど。情報の『上書き保存』ですか」
俺は冷静に呟いた。
宰相バルバロス。
さすがは政界の古狸だ。俺たちが証拠を固めて告発する前に、メディアを掌握して「事実」そのものを書き換えてきた。
フェイクニュースによる情報操作。
大衆は、複雑な汚職の真実よりも、分かりやすい「外敵の陰謀」を信じやすい。
「呑気なこと言ってる場合かよ! 俺たち、指名手配されてるんだぞ!」
カイルが窓の外を指差す。
庁舎の外では、近衛兵団(宰相直轄の精鋭部隊)が包囲網を敷き始めていた。
黒い鎧の兵士たちが、財務省の出入り口を封鎖している。
ヴァルザック大臣はどうなった?
おそらく、彼もまた「監督責任」あるいは「共謀者」として拘束されたか、軟禁状態にあるだろう。
俺たちは孤立した。
庁舎内でも、昨日までペコペコしていた官僚たちが、遠巻きに俺たちを見てヒソヒソと話している。
`[State]: 疑心暗鬼`
「どうする? ここで暴れて脱出するか?」
カイルが剣の柄を握る。
「いえ、武力衝突は相手の思う壺です。『やはり反逆者だ』と宣伝されるだけだ」
俺は思考を巡らせた。
宰相の狙いは、俺たちを「社会的に抹殺」すること。
そして、その裏で進めている「何か」を完遂することだ。
その「何か」とは?
横領した巨額の資金(1億5千万G/年 × 数年分)の使い道だ。
ただの私腹にしては額が大きすぎる。
俺は `[データ] タブ` → `[トレース(参照元のトレース)]` を脳内で実行した。
ガルド将軍から宰相へ流れた金の流れ。その先にある「最終的な消費地」はどこだ?
ふと、昨日の監査で気になったデータが蘇る。
第三騎士団の「武器購入履歴」。
大量の武器が発注されているが、駐屯地には在庫がなかった。
それらの武器はどこへ消えた?
そして、最近頻発している「魔王軍の侵攻」。
辺境での小競り合いが増えている。
……もしや。
俺の中で、最悪の仮説が組み上がった。
`Hypothesis: Arms Trafficking to Enemy (敵国への武器密輸)`
宰相は、横領した金で武器を買い、それを魔王軍に横流ししている?
あるいは、魔王軍と結託して、国内に「危機」を作り出し、軍事費を吊り上げている?
いわゆる「マッチポンプ」だ。
これを証明できれば、逆転できる。
だが、証拠がない。
証拠はどこにある?
おそらく、宰相の私邸か、あるいは……「闇の物流ルート」の拠点。
その時、俺の懐の通信石が震えた。
アルタ・ノヴァ支部のミリアからだ。
『く、工藤さん! 大変です!』
ミリアの悲鳴のような声。
『王都の地下水路から、魔物の反応が多数! それと、見たことのない黒い装束の人間たちが、何か大きな荷物を運んでいます! ゲイルさんが追跡中ですが……』
地下水路。
王都の地下に広がる、広大な迷宮。
そこが「闇のルート」か。
しかも、今まさに取引が行われようとしている?
「ミリア、位置情報を共有してくれ。すぐに向かう」
俺は通信を切り、カイルを見た。
「脱出しますよ、カイルさん。正面突破ではなく、裏口から」
「裏口? 警備でガチガチだぞ」
「物理的な裏口ではありません。情報の裏口です」
俺はデスクの上のPC(魔道具端末)を操作した。
財務省のセキュリティシステムにアクセスする。
`[System Control]: Emergency Protocol (緊急避難プロトコル)`
俺は庁舎内の「火災報知器」をハッキングした。
ただし、音を鳴らすのではない。
「誤作動」を起こさせる。
特定のエリア(近衛兵がいる場所)のスプリンクラーを作動させ、同時に防護シャッターをランダムに開閉させる。
`Execute`。
ジリリリリリ!!
プシューッ! ガシャン!
庁舎内がパニックになる。
近衛兵たちが水浸しになり、閉まるシャッターに阻まれて右往左往する。
その混乱の隙を突き、俺たちは書類保管庫のダストシュート(ゴミ捨て穴)へ飛び込んだ。
ヒューッ……ドン!
地下のゴミ集積場に着地。
臭い。だが、ここは地下水路へと繋がっているはずだ。
「……たく、アンタといると服が汚れるな」
カイルがぼやく。
「クリーニング代も経費で落としますよ。さあ、急ぎましょう」
俺たちは暗い地下道を走り出した。
目指すは、ミリアが示した座標。
そこで行われている「密会」こそが、この国の運命を決める「循環参照のエラー(終わらない戦乱の原因)」だ。
だが、俺たちは知らなかった。
その地下水路には、人間だけでなく、魔王軍の幹部クラスも待ち構えていることを。
`Active Quest: 地下取引の阻止`
`Enemy Level: Unknown (High)`
俺は `Excel・アイ` の暗視モードを起動し、闇の中へと足を踏み入れた。




