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異世界転生したけど、スキルが『Excel』だけだった。でもマクロ組んだら魔法より強かった件  作者: まこーぼ


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第29話:実地棚卸の衝撃(フィジカル・ショック) 〜ゴースト社員を数える方法〜


 翌朝。

 王都の北側に位置する、第三騎士団の駐屯地。

 堅牢な石造りの門の前に、俺とカイル、そして財務省から派遣された数名の補佐官(いずれも青白い顔の文官)が立っていた。


 俺の胸には、ヴァルザック大臣から授かった「銀の天秤」のバッジが輝いている。

 王立会計監査官の証だ。

 これには、国王の勅命と同等の「調査権限」が付与されている。理論上は。


「止まれ! 何用だ!」


 門番の騎士が槍を交差させて立ち塞がった。

 彼らの装備は立派だ。磨き上げられたプレートメイル、装飾の施された盾。

 だが、その態度は横柄で、酒の臭いが微かに漂っている。


「本日より第三騎士団の『特別監査』を行います。団長のガルド将軍にお目通り願いたい」


 俺はバッジを見せて通告した。

 門番たちは顔を見合わせ、鼻で笑った。


「監査ぁ? 知らんな。将軍は今、演習中でお忙しい。文官風情が出直してきな」


 予想通りの反応だ。

 軍部は「聖域」として、長らく外部の介入を拒んできた。文官など、彼らにとっては虫ケラ同然なのだろう。


 俺はため息をついた。

 正規の手続き(プロトコル)が通じないなら、強制実行(Force Run)しかない。


「カイルさん」

「あいよ」


 カイルが一歩前に出る。

 彼は大剣を抜かず、鞘のまま肩に担いだ。


「どけよ、ブリキ野郎ども。通せっつってんだよ」


「き、貴様! 騎士に対してその口の利き方は……!」


 門番が激昂し、槍を構える。

 カイルはニヤリと笑い、目にも止まらぬ速さで二人の槍を薙ぎ払った。


 ガキンッ!


 槍が弾き飛ばされ、門番たちが尻餅をつく。

 殺気だけで圧倒したのだ。


「開けるぞ、工藤」


 カイルが蹴りで小扉をこじ開ける。

 俺たちは堂々と敷地内へ侵入した。

 警報の鐘が鳴り響く中、俺は冷静に周囲を観察スキャンした。


 広い演習場。

 そこには、数百名の騎士たちが整列していた。

 ……数百名?

 帳簿上は、この駐屯地に5,000名が常駐しているはずだ。

 残りはどこにいる? 宿舎か? 休暇か?


 演習場の壇上に、一人の巨漢がいた。

 第三騎士団長、ガルド将軍。

 禿げ上がった頭、脂ぎった顔、そして煌びやかすぎる金色の鎧。

 彼は俺たちの侵入に気づき、顔を真っ赤にして怒鳴った。


「貴様らァ! 何の真似だ! ここを神聖なる騎士団と知っての狼藉か!」


 ガルドの周囲を、親衛隊らしき精鋭騎士たちが囲む。

 俺は臆することなく、演習場の中央へと歩み出た。


「ガルド将軍。財務省より『実地棚卸』に参りました。帳簿上の人員数と、実在数の照合を行います」


「棚卸だと!? 兵士を物品扱いするか! 無礼者め、叩き出せ!」


 ガルドの命令で、数十人の騎士が抜剣し、俺たちを取り囲んだ。

 完全な包囲網。

 だが、俺は懐から「あるもの」を取り出した。


 昨夜、俺が作成した秘密兵器。

 『人員点呼用・自動カウントシステム(beta版)』。


 仕組みは単純だ。

 `CountIf` 関数を応用した広範囲ソナー。

 対象エリア内の「生体反応(Bio-Signal)」を検知し、その数をカウントする。


 俺は右手を空に掲げた。


「無駄ですよ、将軍。隠しても数字は暴かれます」


 スキル発動。

 `[Range]: 駐屯地全域 (Radius 2km)`

 `[Criteria]: Human (Living)`


 ブォン……!


 見えない波動が駐屯地全体をスキャンした。

 俺の視界に、結果が表示される。


 `Searching...`

 `Result: 1,842 hits`


 1,842名。

 帳簿上の5,000名に対し、3,000名以上が足りない。


「……少ないですね。残り3,158名はどこです? 集団でトイレですか?」


 俺は冷ややかに告げた。

 ガルドの顔色が変わる。


「な、何を根拠に……! 兵は遠征に出ているのだ! 秘密任務だ!」


「秘密任務? 財務省への届け出には『全員駐屯』となっていますが」


「変更があったのだ! 書類の提出が遅れているだけだ!」


 苦しい言い訳だ。

 俺はさらに追撃する。


「では、給与明細を確認させてもらいましょう。遠征中の兵士にも給与は支払われているはず。誰が、どこで受け取ったのか。受領印を見せてください」


「き、貴様……!」


 ガルドは追い詰められた。

 このままでは横領が露見する。

 彼に残された道は一つ。「暴力による口封じ」だ。


「……殺せ」


 ガルドが低い声で命じた。


「こいつらは帝国のスパイだ! 国家転覆を企む賊だ! その場で処刑しろ!!」


 「御意!!」

 騎士たちが一斉に襲いかかってくる。

 殺気が肌を刺す。

 だが、カイルが俺の前に立ちふさがった。


「やれやれ、やっぱりこうなるか。……工藤、俺の給料分は働かせてもらうぜ」


 カイルが大剣を一閃させる。

 衝撃波が走り、先頭の騎士たちが吹き飛ぶ。

 Bランク上位の実力は伊達ではない。一般騎士では相手にならない。


 しかし、多勢に無勢だ。

 数十人が波状攻撃を仕掛けてくる。

 カイル一人では守りきれない。


「工藤! アンタも何か手伝え!」

 カイルが叫ぶ。


「手伝いますとも。……事務的にね」


 俺は `[データ] タブ` → `[入力規則 (Data Validation)]` を開いた。

 この空間における「物理法則」に、一時的な制限をかける。


 `[対象]: 半径10m以内の敵対者`

 `[制限事項]: 移動速度 < 1.0 m/s`

 `[エラーメッセージ]: "速度超過です。歩行モードに切り替えます"`


 実行!


 ズシッ。


 襲いかかってきた騎士たちの動きが、突然スローモーションになった。

 まるで水中でもがいているかのように、剣を振るう速度が激減する。

 俺とカイルだけは通常速度だ。


「な、なんだ!? 体が重い!」

「魔法か!?」


 騎士たちが狼狽える。

 俺はカイルに指示を出した。


「カイルさん、彼らの鎧の継ぎ目、座標データ送ります。そこを軽く叩いて『武装解除(Unequip)』させてください」


 俺は `条件付き書式` で、騎士たちの鎧の留め具を赤く光らせた。

 カイルはニヤリと笑い、スローな騎士たちの間をすり抜けながら、的確に留め具を剣の腹で叩いていった。


 ガチャン、ガチャン、ガチャン!


 鎧が次々と外れ、地面に落ちる。

 騎士たちは下着姿(あるいは軽装)になり、戦意を喪失してうずくまる。

 圧倒的な蹂躙劇。


 俺たちは、呆然と立ち尽くすガルド将軍の元へと歩み寄った。


「な、な……化け物め……!」

 ガルドが後ずさる。


「さて、将軍。もう一度聞きます」


 俺はガルドの目の前に立ち、手帳を開いた。


「消えた3,000人分の給与、年間1億5千万ゴールド。……どこへやったんです?」


 俺の目は、監査官の冷徹な光を帯びていた。

 ガルドは腰を抜かし、へたり込んだ。


「わ、私は知らん! 上からの命令だ! 私はただ、金を集めて送金していただけだ!」


「上? ……誰です?」


「宰相……バルバロス宰相だ! あの方の指示で、裏金を作っていたんだ!」


 出た。

 黒幕の名前。

 バルバロス宰相。国王の側近中の側近であり、実質的な国政の支配者。

 財務大臣ヴァルザックの政敵でもある。


 俺は `メモ帳(Notepad)` にその名前を記録した。

 `Target Acquired: Prime Minister Barbaros`


「証言、いただきました。……カイルさん、この男を拘束してください。証拠品として財務省へ連行します」


「了解」

 カイルがガルドを担ぎ上げる。


 俺は演習場に残された騎士たち――横領の片棒を担がされていた者、何も知らずに従っていた者たちを見渡した。


「本日をもって、第三騎士団の会計は王立監査官の直轄となります。給与の未払い分は精算します。不正に関与した者は自首しなさい。……数字は逃がしませんよ」


 こうして、最初の「膿」を絞り出した。

 だが、これは宣戦布告に過ぎない。

 宰相バルバロス。

 巨大な権力の塔が、俺たち事務員に牙を剥こうとしていた。

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