表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したけど、スキルが『Excel』だけだった。でもマクロ組んだら魔法より強かった件  作者: まこーぼ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/51

第20話:モーダルダイアログの悪意 〜強制広告と闇の仲介屋〜


 翌朝。

 アルタ・ノヴァ支部の掲示板前は、昨日とは異なる種類の「阿鼻叫喚」に包まれていた。


「な、なんだこれは!? 依頼書が押せねぇぞ!」

「『閉じる』ボタン? どこだ!?」

「『あと5秒でスキップできます』ってなんだよ!」


 冒険者たちが、スマート依頼板の前で頭を抱え、あるいは板を叩こうとしていた。

 俺が実装した新機能、`[UserForm.Show vbModal]` (モーダル表示)による強制ポップアップ広告が、猛威を振るっているのだ。


 彼らが依頼を受けようと画面(空中に投影されたウィンドウ)に触れた瞬間、視界いっぱいにデカデカと表示される極彩色のウィンドウ。


 **【プレミアム会員募集中!】**

 **月額たったの銀貨5枚!**

 **・広告非表示!**

 **・倉庫使い放題!**

 **・宿屋10%OFF!**

 **[今すぐ登録する]**


 そして、そのウィンドウの右上に、米粒ほど小さく、薄い灰色で表示された `[x 閉じる]` ボタン。

 しかも、最初の5秒間はグレーアウトしていて押せない仕様(YouTube広告方式)だ。


 俺はカウンターの中から、その様子を冷ややかに、しかし満足げに見つめていた。

 手元には、リアルタイムで更新される `[コンバージョン率(成約率)]` のグラフが表示されている。


 「くそっ! 急いでるのに! この広告邪魔なんだよ!」

 「ええい、銀貨5枚くらい払ってやるよ! 登録だ登録!」


 チャリン。

 一人の冒険者が、怒りに任せて `[今すぐ登録する]` ボタンを叩いた。

 即座に、彼のギルドカードから銀貨5枚分のデータが引き落とされ、俺の手元のグラフが `+1` カウントアップする。


 `Current Subscribers: 42 / 2000`

 `Revenue: 210 Silver`


 開始一時間で42人。悪くない滑り出しだ。

 人間の「不快感を解消したい」という欲求は、時に「得をしたい」という欲求よりも強い購買動機になる。

 これを「ダークパターン(ユーザーを誘導する悪意あるUI設計)」と呼ぶ者もいるが、俺は「行動経済学的最適化」と呼びたい。


「……えげつないな、お前」


 隣でカイルが呆れた顔をしている。

 彼は早速プレミアム会員になった(俺が半ば強制的に加入させた)ため、涼しい顔で依頼を選んでいる。


「ビジネスですよ。それに、倉庫が使えるのは本当に便利でしょう?」


「まあな。重い予備の剣を預けられるのは助かる。……だが、敵を作るぞ、これは」


 カイルの忠告はもっともだ。

 変化は痛みを伴う。特に、これまでの「非効率」が生み出していた「隙間」で飯を食っていた連中にとっては。


 その時だった。

 掲示板の人だかりを割って、一人の男が現れた。


 全身を灰色のローブで包み、目元だけを出した男。

 痩せぎすで、蛇のような冷たい目をしている。

 彼は広告に悪戦苦闘する新人たちを押しのけ、スマート依頼板の前に立った。

 そして、懐から何かを取り出し、板の魔力受光部センサーに押し当てた。


 バチバチッ!


 紫色の火花が散った。

 システムエラー音のような不協和音が鳴り響く。

 `[Error]: Illegal Access Detected`


 俺の視界に警告が出る。

 男は何か(魔道具によるジャミング装置か?)を使って、広告を強制的にスキップし、さらにシステムにバグを流し込もうとしたのだ。


「――お客様、困りますね」


 俺はカウンターを飛び越え(身体能力はLv.2だが、`硬質化` スキルで着地の衝撃はゼロだ)、男の腕を掴んだ。


「当ギルドのシステムに対する不正アクセス(物理攻撃)は、重罪ですよ」


 男がゆっくりと振り返る。

 近くで見ると、その肌は病的に白く、微かに薬品の臭いがした。


「……お前か。このふざけた障壁を作ったのは」


 男の声は、擦れた紙ヤスリのように不快だった。


「障壁ではありません。UIです。あなたは?」


「ゲイル。……この街で『情報』を売っている者だ」


 ゲイル。

 カイルたちの会話で聞いたことがある。

 ギルドの裏で、美味しい依頼情報を初心者に高値で売りつけたり、逆に危険な依頼を騙して受注させたりする「手配師ブローカー」だ。

 ギルド職員に賄賂を渡して、未公開の依頼情報を横流しさせていたという噂もある。


 俺の改革――情報の透明化と自動化は、彼のビジネスモデルを根底から破壊するものだった。


「俺の商売あがったりだ。誰も俺から情報を買わなくなった。……どう落とし前をつけてくれる?」


 ゲイルの袖口から、ギラリと光るものが覗いた。

 暗器だ。毒塗りの短剣か。

 `[気配察知]` レーダーが真っ赤に染まる。

 `[State]: 殺意 (High)`


 周囲の冒険者たちが、異様な空気を察してざーっと引いていく。

 俺は掴んでいた彼の手を離さず、逆に力を込めた。


「落とし前? 妙ですね。あなたはギルドの公認職員ではない。寄生虫が宿主の健康改善に文句を言うのですか?」


「……減らず口を」


 ゲイルの殺気が膨れ上がる。

 だが、俺は怯まなかった。

 なぜなら、俺には「最強の盾」があるからだ。


「カイルさん、出番ですよ」


 俺が声を上げると同時に、背後から疾風が吹いた。


 ガキンッ!


 ゲイルが袖から繰り出した短剣が、カイルの大剣によって弾き飛ばされた。

 カイルが俺とゲイルの間に割り込み、剣を構える。


「よう、ゲイル。相変わらず陰気な商売してるな。俺の連れ(・・)に手を出そうってのか?」


 Bランク冒険者、『暁の剣』のカイル。

 その実力は街でもトップクラスだ。

 ゲイルは舌打ちをし、後ずさりした。


「……チッ。用心棒付きか」


「ええ。プレミアム会員特典の一つに『トラブル時の優先サポート』も付けようかと思いましてね」


 俺はネクタイ(ない)を整えながら言った。


「ゲイルさん。あなたの『情報屋』としてのスキルは認めます。ですが、やり方が古い。情報の非対称性(自分だけが知っている状態)で稼ぐ時代は終わりました」


 俺は彼に一歩近づいた。


「どうです? その情報収集能力、ギルドのために使いませんか? 今後、このシステムは周辺の村や他都市とも連携(ネットワーク化)させる予定です。そのための『現地調査員フィールド・リサーチャー』が不足している」


「……俺に、お前の下で働けと言うのか?」


「正規雇用、固定給、そして成果報酬。……今の不安定な小銭稼ぎより、よほど割がいいと思いますが」


 ゲイルの目が揺れた。

 彼は損得勘定で動く人間だ。

 自分のビジネスが崩壊した今、敵対して潰されるか、体制側に取り込まれて生き残るか。

 Excelの `IF` 関数のような単純な分岐だ。


 数秒の沈黙の後。

 ゲイルは短剣を拾い、懐にしまった。


「……話だけは聞いてやる。ただし、給料が安かったら、その時は寝首を掻くぞ」


「歓迎しますよ。では、後で履歴書スキルシートを持ってきてください」


 ゲイルはフンと鼻を鳴らし、人混みの中に消えていった。

 `[State]: 殺意` が消え、`[State]: 中立(計算中)` に変わった。


 俺は大きく息を吐いた。

 冷や汗が背中を伝う。

 カイルが剣を収め、ニヤニヤしながら俺の肩を叩いた。


「やるなぁ、事務員様。あのごろつきを手懐けるとは」


「毒を以て毒を制す、ですよ。清廉潔白な人間だけでは、組織は回りませんから」


 俺は再び、掲示板のコンバージョン率グラフに目を落とした。

 騒ぎの間にも、登録者数は増え続けている。

 `Subscribers: 58`。


 システムは稼働した。

 邪魔者は排除、あるいは取り込んだ。

 だが、俺の「業務改善」の本当の敵は、人間ではなかった。


 その日の午後。

 ギルドに、血相を変えた一人の伝令が飛び込んできたことで、俺はExcelスキルの真価――「戦争プロジェクト」における指揮能力を試されることになる。


「ほ、報告ッ! 北の鉱山で『ダンジョン・ブレイク(魔物の氾濫)』が発生! オーガの群れが街へ向かっています!!」


 ホールが凍りついた。

 魔物の氾濫。

 それは、個人の武勇ではなく、「集団戦」が求められる緊急事態インシデント


 俺は眼鏡ないを押し上げた。

 オーガの群れ?

 いいや、俺にはそれが「処理すべき大量のタスク」に見えていた。


 `Active Project: 防衛戦`

 `Resource: 冒険者 200名`

 `Deadline: 3 hours`


 さあ、リソースマネジメントの時間だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ