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異世界転生したけど、スキルが『Excel』だけだった。でもマクロ組んだら魔法より強かった件  作者: まこーぼ


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19/51

第18話:昼食のデータクレンジング 〜TRIM関数で削ぐスジ肉〜

 午前中の業務ラッシュを、オートフィルタと条件付き書式の力でねじ伏せた俺は、ようやく訪れた昼休み(12:00〜13:00)を満喫すべく、ギルド併設の酒場エリアへと足を運んだ。


 昼時の酒場は、夜とはまた違った種類の喧騒に包まれていた。

 仕事前の腹ごしらえをする冒険者、昼から飲んでいるダメ人間、商談をする商人たち。

 空気は澱んでいる。

 煮込み料理の湯気、安いエールの酸っぱい匂い、そして汗と泥の臭いが混ざり合い、換気の悪い空間に充満している。


 俺はカウンターの端、比較的静かな席を確保し、壁に貼られたメニュー(木札)を見た。


 『本日の定食:銅貨5枚』

 (内容:パン、スープ、肉)


 選択の余地はない。

 俺は給仕のふくよかなおばちゃんに銅貨5枚を渡し、定食を注文した。

 数十秒後。

 ドンッ! と重い音を立てて、木製のトレイが置かれた。


「はいよ、冒険者セットお待ち!」


 ……これが、異世界の洗礼か。

 俺は目の前の「物体」をまじまじと観察した。


 まず、パン。

 黒い。そして、見るからに硬い。

 表面はひび割れ、叩くとカンカンと乾いた音がする。これはパンではない。鈍器だ。

 おそらくライ麦と雑穀を混ぜ、石窯で焼きすぎて水分が完全に飛んだものだろう。


 次に、スープ。

 泥水のような茶色い液体の中に、正体不明の野菜くずと、ドロリとした何かが浮いている。

 匂いは……塩辛い。そして、古い雑巾のような微かな酸臭。


 最後に、肉。

 なんの肉か不明だが、繊維質が凄まじい。

 白いスジが網目のように走り、フォークを刺そうとしてもゴムのように弾き返す。


 `[Analysis]: ギルド定食`

 ----------------------------------

 [Bread]: 硬度90 (レンガ相当), 水分率 3%

 [Soup]: 塩分濃度 4.5% (致死量寸前), 雑味成分多数

 [Meat]: 咀嚼難度 S, 可食部 30%

 ----------------------------------


 ひどい。

 栄養はあるかもしれないが、これを消化するために胃腸が消費するエネルギーの方が上回るのではないか。

 周囲の冒険者たちは、このパンをスープに浸して柔らかくし、肉をガムのように噛み続けている。

 彼らのあごは強靭だ。だが、現代日本人の貧弱な顎を持つ俺には、これは「食事」ではなく「苦行」だ。


「……食べるしかない、か」


 腹は減っている。

 だが、そのまま食べるのは非効率だ。

 俺は Excel スキルを発動させた。

 食材の「最適化(Optimization)」を行う。


 まずは、鈍器のような黒パンだ。

 手に取るとずっしりと重い。

 これは「圧縮」されすぎているのだ。密度が高すぎる。

 ファイル形式で言えば、`.zip` でガチガチに固められたテキストファイルのようなもの。


 俺はパンを両手で持ち、イメージした。

 `[配置] タブ` → `[折り返して全体を表示する (Wrap Text)]`。

 あるいは、行の高さを広げて、ゆとりを持たせる。


 `AutoFit (自動調整)`。


 メキメキメキッ……。

 俺の手の中で、黒パンが音を立てて膨張し始めた。

 圧縮されていた気泡が広がり、ガチガチに結合していた繊維がほぐれていく。

 数秒後。

 石のようだったパンは、二倍ほどの大きさになり、ふっくらとしたスポンジ状の物体へと変化した。

 指で押すと、フワッと沈み込む。


 「よし。解凍完了」


 一口ちぎって食べる。

 味は素朴なライ麦だが、食感は焼きたての食パンに近い。これなら食べられる。


 次は、塩分過多のスープだ。

 このまま飲めば、高血圧まっしぐらだ。

 問題は「塩(NaCl)」と「雑味アク」というノイズデータが多すぎること。


 俺はスプーンでスープを軽くかき混ぜながら、`CLEAN` 関数と `SUBSTITUTE` 関数を複合実行した。


 `=SUBSTITUTE(Soup_Data, "Salt", "", 2)`

 (塩分という文字列を、2回に1回、空白に置換する=塩分50%カット)

 `=CLEAN(Soup_Data)`

 (印刷できない文字=アクや不純物を除去)


 シュワワ……。

 スープの表面から、白いアクが浮き上がり、一箇所に固まった。

 それをスプーンですくい取り、捨てる。

 同時に、スープの色が泥色から、透き通ったコンソメ色へと変化した。


 飲んでみる。

 ……美味い。

 野菜の甘みと、肉の出汁がしっかりと感じられる。

 塩辛さは消え、優しい味わいになった。

 やはり素材が悪いのではない。調理プロセス(パラメータ設定)が間違っていただけだ。


 最後は、ゴムのような肉。

 これは `TRIM` 関数の出番だ。

 `TRIM` は、文字列の前後や単語間の「余分なスペース」を削除する関数。

 肉において「余分なスペース」とは何か?

 そう、「スジ」や「脂身」だ。


 俺はナイフを肉にかざした。

 `=TRIM(Mystery_Meat)`


 スッ。

 ナイフを入れたわけではない。

 肉の塊から、白いスジだけが「余白」として認識され、ポロリと皿の隅に弾き出された。

 残ったのは、赤身の柔らかい部分だけ。


 フォークで刺す。

 スッと通る。

 口に入れると、ホロホロと崩れる柔らかさ。

 ビーフシチューの肉のようだ。


「……完璧だ」


 俺は一人、悦に入りながら「最適化された定食」を食べ進めた。

 ふわふわのパン、優しいスープ、柔らかい肉。

 周りの冒険者たちが、硬いパンと格闘している中で、俺だけが王侯貴族のような食感を楽しんでいる。


「な、なあ……アンタ」


 ふと、視線を感じて顔を上げると、隣の席に座っていた若い冒険者(朝、掲示板前で会った少年剣士だ)が、呆然と俺の皿を見ていた。

 彼は、自分の皿にある「石」のようなパンと、俺の「ふわふわ」なパンを見比べている。


「それ、同じ定食……だよな? なんでアンタのパンだけ、そんなに美味そうなんだ?」


企業秘密スキルですよ」


 俺はニッコリと笑い、最後の一口を飲み込んだ。

 MPバーが少し回復する。

 `MP: 3/10` → `5/10`。

 良質な食事は、MP効率も良いらしい。


「ごちそうさまでした」


 俺はトレイを返却口に持っていき(おばちゃんが「あんた、残さず綺麗に食べたねぇ!」と驚いていた)、午後の業務へと戻ることにした。


 午後の予定は、支部長室での「予算会議」だ。

 監査を乗り切ったとはいえ、ギルドの財政は火の車。

 無駄な経費を削減し、新たな収益源を確保しなければならない。


 俺の頭の中には、すでに `ピボットテーブル` による収支分析グラフが描かれていた。

 どこを削るか。

 真っ先に思いつくのは、「冒険者が壊す備品の修理費」と「夜の宴会費」だ。

 ガント支部長が泣きを見る未来が予測できたが、心を鬼にして `Delete` キーを押す準備を整えた。


 俺はネクタイ(相変わらずない)を締め直す仕草をして、支部長室の重い扉をノックした。

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