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ハルは授業を受ける

あれから僕たちは、吹雪が止むのを待っては進み、再び吹き荒れれば近くの洞窟へ逃げ込む……という工程を繰り返していた。 現在、第2層・第4階。目的地である5階はもうすぐそこだ。 移動の合間の休憩時間は、もっぱらオクスタシアさんによる特訓に充てられていた。


「オクスタシアさん。なんでこんなに丁度いい位置に、手頃な洞窟が点在してるんですか?」


吹雪に捕まりそうになる絶妙なタイミングで、いつも都合よく洞窟が現れる。 一度や二度なら運が良いで済むが、さすがに出来すぎている気がした。


「それは、これらの洞窟が私や第2層に住む者たちで作り上げたものだからですよ」


「なるほど……。手作りだったんだ」


あの村もそうだが、ここにいる悪魔たちは「無間地獄」という過酷な環境に完璧に適応し、案外快適に過ごしているように見える。一応、ここは地獄の監獄のはずなんだけど。


「エンマ様がまだここにいた頃は、皆ここを出ようと必死でしたが……今ではもう、すっかり諦めてしまっていますからね。当然の帰結です」


「私がいた頃は、もっと殺伐としていたからな……」


後ろから歩いてきたエンマが、遠い目をして呟いた。 そんな話をしながら、僕たちは次の洞窟へと滑り込む。手慣れた手つきでエンマが火を灯した。


「それではハル君。……“アレ”をしましょうか」


「あ、うん。わかった」


オクスタシアさんの言う“アレ”とは、特訓のことだ。


「あ、私も行っていいか――」


「エンマ様は来なくて結構です。それよりも、考えるべきことがあるでしょう?」


「う、うぅ……分かった」


エンマは少し寂しそうな表情を浮かべ、焚き火のそばに座り込んだ。 僕はオクスタシアさんに促され、洞窟の奥へと向かう。


「エンマに内緒にする必要、あるの?」


「いや、ここで教えてしまったら、いざという時にエンマ様が驚かないじゃないですか。楽しみは取っておくものです」


「そんな理由で……」


オクスタシアさんの相変わらずの性格に、僕は苦笑いした。


「今回は『身体強化』をやってみましょう。君は自身の血液を操れるので、比較的簡単にできると思われます」


「……血液を操るのって、普通の悪魔にはできないの?」


「できませんよ、普通。君はエンマ様の能力をそのまま受け継いでいるからこそ、可能なのです」


「エンマの能力って、炎だけじゃなかったんだ……」


てっきり炎だけだと思っていたけれど、どうやら「血」も彼女の領分らしい。 能力は「生前に犯した罪」から形作られると聞いたことがある。炎と血。……一体、彼女はどんな罪を犯したんだろうか。


「血液を操れれば、強化だけでなく治癒も可能です。もっとも、エンマ様のように体内の傷を完全に修復するのは、君にはまだ無理でしょうが」


第1層の時、瀕死の重傷を負っていたはずのエンマが、目を覚ましたら全快していたことがあった。


「それって、めちゃくちゃ難しいことなの?」


「難しいなんて域ではありませんよ。体内の血管と血管を、血液そのもので繋ぎ合わせて修復するのです。あの魔力操作技術は、まさに神業の域ですよ」


エンマは、やはりあらゆる意味で規格外だったようだ。


「……そういえば、オクスタシアさんの能力って何なの?」


瞬間移動をしたり、地割れを起こしたり。これまで見てきた彼の力は、系統がバラバラで正体が分からなかった。


「私の能力ですか……。そうですね、強いて言うなら『重力』でしょうか」


「重力?」


「ええ。正確に言えば、ブラックホールに関する事象なら概ね何でもできるのですが……説明が難しいですね」


一体どんな罪を犯せば、ブラックホールなんていう天災のような能力が発現するのか。


「おや、気になりますか? 私の生前の罪」


僕の表情を読み取ったのか、オクスタシアさんに見透かされた。


「……それは、気になりますよ。誰だって」


「そうですね……。今日の課題ができたら、話してあげないこともないですよ」


オクスタシアさんの過去…まるで想像つかない。少しだけやる気が湧いてきた。


「身体強化……」


「君の場合は、まず魔力を血液に乗せて循環させるイメージです。手を出してください」


彼が僕の手を握る。その瞬間、体内の血液がぐるぐると掻き回されるような、妙な感覚が走った。


「え、何これ……っ!!」


「今、君の体に私の魔力を流して強制的に身体強化を施しました。その感覚を、今度は自分の魔力で再現するのです」


「他人も強化できるんだ……」


「ええ。ただし、他人の魔力が体内に入ると酷い不快感を伴うので、あまりやりませんが。難易度は高いですが、物体に付与することも可能ですよ。……さあ、やってみてください」


「……」


僕は目を閉じ、体内の魔力に意識を向ける。 オクスタシアさんの魔力が流れた時の不気味な感触を思い出し、それを自分の魔力でなぞるように。水路を思い浮かべ、血液という流れに魔力を乗せていく。


……これ、思ったよりきつい。


「はぁ、はぁ……できて、ますか……?」


「はい。多少は、といったところですね。魔力の漏れが激しすぎて、実戦では使い物になりませんが」


オクスタシアさんの辛辣な批評に、僕はがっくりと肩を落とした。 これだけ必死にやって、まだ「多少」なのか。


「ぷはぁ……。これが限界だ……」


全身の力が抜け、僕はその場に座り込んだ。結局、吹雪が止むまで練習を続けたが、合格点はもらえなかった。


「魔力が切れているようですね」


オクスタシアさんの声と共に、コツンと頭に何かが当たった。拾い上げると、小さな結晶体だった。


「何、これ……」


「魔石ですよ。魔力を回復する効果があります。今度、作り方を教えてあげますよ」


それを握ると、途端に体が軽くなった。魔力が切れると、こんなにもだるくなるものなのか。


「……魔力があるなら、てっきり『魔法』とかがあるのかと思ってたけど。こういう地味なのがほとんどなんですか?」


「ありますよ、魔法」


「え、あるの!? でも、今まで使ってるの全然見てないような……」


「あるけれど、使わないだけです。……私やエンマ様のように、強力な『固有能力』を持つ者にとっては、魔法は使いにくいものでしかないですから」


「使いにくい?」


「ええ。簡単に言えば、魔法の行使方法と能力の使い方が似すぎていて、使い分けが難しいのですよ。だから、魔法は能力を持たない者が、代替手段として使うことがほとんどですね」


オクスタシアさんから魔法の仕組みについて一通り説明を受けた後、僕たちはエンマの元へ戻った。 ちょうど吹雪は止んでいる。 僕たちは、いよいよ第2層の核心部へと足を踏み出した。


ハルとオクスタシアがだいぶ仲がよくなってきましたね。次のではもう目的地にはついていると思います。

最近気づいたんですが、なろうのアプリがでてたんですね。びっくりしました。

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