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エンマ様は決意しなくてはいけない

なんとかハルの中に流れている私の魔力を感知し、無事に洞窟まで辿り着くことができた。


「あー……エンマ。おかえり」


「ハル……。えっと、心配かけたな」


やっぱり、ハルと話すのは少し気まずい。それを見かねたオクスタシアは、どこか面白そうな顔をしてこちらを眺めていた。


「それで、オクスタシアとハルは一緒に何かしてたのか?」


ハルが答えようと口を開きかけた瞬間、オクスタシアがその口をひょいと手で塞いだ。


「まあ、特に何もしていませんよ。それよりエンマ、少し二人でお話できませんか?」


「オクスタシア……。わざわざ、何の用だよ」


ハルを焚き火のそばに残し、私たちは少し離れた岩陰へと移動した。


「ハル君と喧嘩したそうですね、あなた」


「な、なぜそれを……」


「あの険悪な空気の中にいたら、嫌でも気づきますよ。後はハル君から事情を聴いた次第です」


どうやら、白状したのはハルだったようだ。


「……ハルは、他にも何か言ってたか?」


「自分が役立たずだから、エンマ様は自分を村に置いていきたいんだ……と。そう悲しんでいましたよ」


「それは違う! 私はただ――」


「あなたがそんなことを思っていないことくらい、分かっていますよ」


オクスタシアの透かしたような言い方に、私は毒気を抜かれた。


「……意地悪しないでくれ。私は本当に、ハルに危ない目にあってほしくないだけなんだ」


「……でも、珍しいですね、エンマ。あなたがそこまで一人の人間に執着するとは。昔のあなたからは想像もつきませんよ。ついこの間出会ったばかりで、あなたの数千年の人生分の一にも満たない時間しか共にしていないというのに」


オクスタシアの言葉に、私はうまく言葉を返すことができなかった。数千年の孤独。その重みに比べれば、ハルと過ごした時間は瞬きのようなものだ。なのに。


「……何でだろうな。自分でも分からないんだ。ただ、ハルには無意識に惹きつけられるというか、一緒にいると、特別な安心感があるんだよ」


もっと論理的に説明しようと思ったが、どうしても曖昧な表現になってしまう。


「私はハル君のことを『面白い子』だとは思いますが、あなたほど惹きつけられるという感じはありませんね」


これまで、仲のいい奴はいた。ハルのように私を助けてくれた奴もいたし、ハルのように正義感の強い奴もいた。でも、その誰に対しても、ハルに抱いているような感情は湧かなかった。 私が深く考え込んでいると、オクスタシアがわざとらしく溜息を吐いた。


「まあ、いいでしょう。人がなぜ人を好きになるのかなんて、答えがあるわけないのですから」


(……お前が言い出したことだろうが)と、内心で毒づく。


「それよりも、あなた自身がどうしたいのか、ですよ」


「だから何度も言うが、私はハルを危険な目に――」


答えようとする私の言葉を、オクスタシアが強引に遮った。


「それは『あなたの意見』じゃない。ただ現状を俯瞰して出しただけの『正論』でしょう?」


オクスタシアの言葉が、私の胸の奥に溜まっていた澱を掻き乱す。思わず、言葉が溢れ出た。


「そりゃあ……行けるのなら、一緒に行きたいよ! でも、これから先のことを考えたら、ハルを無事に連れていけるとは思えない。今の私には、彼を救い出せるほどの力がないんだ。それが現状だ。現状を俯瞰して、何が悪い! 自分の感情を押し殺して何が悪いんだよ!」


「悪くはありませんよ。ただ、私がそれを『気に入らない』と思っているだけですから」


「そんな自己中心的な理由で……」

オクスタシアの相変わらず対応に調子が狂わされる。


「ハルはあの村で楽しそうにしていた。この先辛い目に遭うより、あの村で平穏に暮らす方が彼にとってはいいに決まってる。」


「それは、あなたが一緒にいたからでしょう。考えてみてください。ただの人間が、悪魔の群れの中で一人取り残されて、本当に楽しく暮らせると思っているのですか?」


「……それでも、この先で命を落とすよりは」


「はぁ……。いいですかエンマ様。よく聞いてください」


その瞬間、オクスタシアの纏う空気が一変した。そしてどこか懐かしい雰囲気を感じた。


「人を中途半端に救うのは、見捨てる以上に惨いことだ。救うなら、最後まで責任を持って救え。見捨てるなら、見捨てろ」


「……っ」


突きつけられた言葉の重さに、息が止まる。 沈黙が流れる中、オクスタシアはふっと表情を緩め、いつもの慇懃な態度に戻った。


「……なんてね。少し口が悪くなってしまいました。驚かせてしまいましたかね?」


「……ああ、驚いたよ。少しだけ、あの頃のお前みたいだった」


「とにかく、早いところ決めた方がいい。置いていきたいなら、置いていけばいい。連れていきたいなら、死ぬ気で守り抜けばいい」


「……わかった。ちゃんと、決めるから」


「ええ。それでこそ、私の知っている君です。そろそろ戻りましょうか。ハル君が待っていますよ」


「……ああ」


私は焚き火の光の方を見つめた。 そこには、少し不安そうにこちらを伺っている、一人の少年がいた。


オクスタシアがちょっとかっこいい回でしたね。次回はまたハル視点で話が続きます。タイトルを3秒で決めてるため今度一気に変えるかもしれません

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