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ハルは魔力の扱い方を習う

洞窟の中に、パチパチと乾いた音が響く。オクスタシアの魔法で火が灯されたが、僕たちの間の空気はまだ冷え切っていた。


「……それよりも、エンマ様と何があったのですか? ちゃんと説明してください。彼女がいない今なら、話すのも楽でしょう」


オクスタシアさんの眼光が、鋭く僕を射抜く。


「そ、それは……」


たしかに、今の険悪な空気の原因を、本人エンマの前で話すのは勇気がいる。 ここに辿り着くまでにオクスタシアさんには何度も助けられたし、このまま隠し通すわけにもいかないだろう。


「実は……エンマに、あの村に残った方がいいって言われたんです」


僕がぽつりと言うと、オクスタシアさんは真剣な目で僕の言葉を待ってくれた。


「それで、僕は残るつもりはないって言ったら、少し口論になっちゃって。……やっぱりエンマにとって、僕はもう必要のない、役立たずなのかなって。そう思ったら、もやもやして……」


思いの丈を一通り吐き出すと、少しだけ胸が軽くなった。


「なるほど……。たしかに、ハル君が怒ってしまう理由は分からなくもありません」


「やっぱり、僕は足手まといですか?」


「……そうですね。正直に申し上げましょう。以前の、力が完全に封じられていたエンマなら、ハル君の力は大いに役立ったはずです。しかし今の彼女は、元の力の五分の一程度は扱えるようになっている。そうなると、今の君は……少し、お守りになってしまうかもしれない」


エンマは村にいる間、手錠の封印を解く方法や、魔石の作成に心血を注いでいた。えみおばあさんから貰った刀もある。そうなると僕は、もう必要ないのかもしれない。


「僕は……村に戻った方が、いいのかな」


僕の弱音に、オクスタシアさんは「?」と不思議そうな顔をした。


「別に戻る必要はありませんよ。そんなことをしなくても、君が強くなればいいだけの話じゃないですか」


「え……?」


「一応言っておきますが、君が今契約している悪魔は、この死後の世界で最強の存在ですよ? はっきり言って、今の君が使えているのは、契約で引き出せる力の1パーセント程度に過ぎません」


「強くなれるんですか? 僕なんかが……」


僕の自信のない言葉に、オクスタシアさんは力強く頷いた。


「エンマから聞く限り、あなたはここに来るまで、いくつもの死線を越えてきました。それも、魔力の使い方の右も左も分からない状態で、ですよ」


オクスタシアさんが、右手を僕の胸元へと近づけ、指を差した。


「通常、普通の人間が強大な悪魔と契約し、その力を行使すれば、体が耐えきれず壊れてしまうのが落ちです。しかし、君はここまで特に異常はない。……“馴染んでいる”のですよ」


少しだけ興奮気味に語るオクスタシアさんに、僕は圧倒されてしまう。


「つまり君には、エンマ様の力を再現するポテンシャル……才能があると言っているのです!」


「……」


僕とオクスタシアさんの間に、沈黙が流れる。 数秒して冷静さを取り戻したのか、彼は自分の熱弁に気づいて、少し顔を赤らめて照れ臭そうに視線を逸らした。


「……まあ、その。つまり……なんです。強くなって、エンマ様に『一緒にいてほしい』と言わせればいい、ということですよ」


「で、でも……一体どうやって強くなればいいんですか?」


「ん? 私に聞けばいいじゃないですか」


オクスタシアさんが、迷いなく手を差し出してきた。 その手は冷たい雪の中にいたとは思えないほど、力強い確信に満ちている。


「……僕は、エンマの隣に立てるようになりたい。だから!」


僕は、その手を力一杯握り返した。


「僕に教えてください。この力の使い方を……!」



そうして、僕は早速オクスタシアさんの特別授業を受けることになった。とりあえずエンマが帰ってくるまですることになった。


「えーと、まず、魔力を使って軽く能力を出してみてください」


「分かった。……とりあえず、炎を出してみるよ」


以前にもやったように、手から炎の弾を出そうと意識を集中させる。 じりじりと手のひらが熱を持ち、小さな火の粉が舞った。


「ど、どうですか……?」


やっぱり、炎を形にするのは難しい。手がプルプルと震えてしまう。 ふとオクスタシアさんを見ると、彼は何やら非常に渋い顔をしていた。そして、申し訳なさそうに口を開く。


「……えっと、ごめんなさい。やっぱり才能ないかもしれません」


「ええっ!?」


さっきまであんなに豪語していたのに、まさかの大どんでん返しだ。


「えっと……もしかして、強くなれない?」


僕がヒヤヒヤしていると、オクスタシアさんは頭を掻きながら言った。


「あー、その……ハル君がエンマ様の力を使えているのは、魔力の放出の仕方が上手いからだと思っていたのですが、見る限り……かなりお粗末です」


いきなりのダメ出しに、僕は肩を落とした。 だって、魔力なんておとぎ話の本でしか聞いたことがなかったんだから、仕方ないじゃないか。


「そう落ち込まないでください。始めは皆そんなものです。まずはそこから直していきましょう」


オクスタシアさんの解説によると、今の僕は「5」の魔力を出せばいいところを、「50」くらい垂れ流してしまっている状態らしい。


「魔力は感覚とイメージで操るのがいいでしょう。私の場合は、魔力を出す蛇口をひねって、必要な分だけコップに注ぐ……といった感じです」


「蛇口をひねる……」


「もちろん、その人に合ったイメージの仕方があります。身近なもの、馴染みのあるものを思い浮かべてください」


身近なもの……。 僕は目を閉じ、生前の村での生活を思い返していく。


「……井戸」


僕の住んでいた村では、毎朝井戸から水を汲んでいた。その感触なら、今でもはっきり思い出せる。


僕は再び手を前にかざした。さっきと同じように、炎をイメージする。 けれど今度は、井戸の底から必要な分だけの水を、滑車を使ってゆっくりと汲み上げるイメージを重ねる。

…水をくむイメージ水をくむイメージ水をくむイメージ

頭の中で念じながら魔力を注いでいく。


「できた……!」


さっきよりもずっと楽に、けれど力強い炎が掌の上に灯った。


「上出来ですね。その感覚を大切にしてください」


オクスタシアさんが満足げに頷いた、その時だった。 洞窟の入り口から、カサリと物音が聞こえた。反射的に目を向けると、そこには雪まみれのエンマが立っていた。


「……ごめん。足踏み外して、落とし穴っぽい場所に落ちちゃった」


特に怪我をした様子もなく、彼女は平然としていた。 どうやら、僕の心配をする必要はなかったらしい。


「吹雪が止むまで、とりあえずここで待機ですね」


オクスタシアさんの言葉に、僕は小さく頷いた。 なんとか合流できた安堵と、掌に残る魔力の温かさ。 僕の中で、何かが確実に変わり始めていた。


今回はオクスタシアがハルの先生になりましたね。次回はたぶんエンマ視点で話があります。

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