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ハルは上を目指す

村を出てから、数時間が経過した。 先頭を行くのはオクスタシア。その後ろを、僕とエンマが続く。 けれど、僕とエンマの間には、雪が降り積もる道よりも冷え切った距離があった。


「ここから三日ほどかけて、第5層を目指します。まずは今日中に、第3層の入り口まで到達しましょう。……それよりも」


オクスタシアが歩みを止めず、肩越しに鋭い視線をこちらへ向けた。


「……」


彼の視線が射抜いたのは、僕とエンマの間に空いた、不自然なほどの空間だ。 村を出る直前、エンマが放った「ここに残ってもいい」という言葉。それに反発した僕との間で起きた口論。その余韻が、今も冷たい空気となって僕たちの間に横たわっている。


……エンマにとって、僕はやっぱり足手まといで、邪魔なのかな。 そんなモヤモヤとした思考が、足取りを重くさせる。


「まあ、いいでしょう。早いところ解決してください。こちらとしては、これ以上空気が悪い中を歩くのは御免ですので」


オクスタシアは吐き捨てるように言うと、再び前を向いて歩き出した。 彼いわく、エンマを狙う追手はもういないらしい。だから当分は肩の力を抜いていいはずなのに、沈黙の重苦しさに押し潰されそうになる。 耐えかねたのか、オクスタシアが不意に口を開いた。


「……ハル君。君の住んでいた星でも、こんな風に雪が降っていたのですか? 随分と、雪道には歩き慣れているようですが」


「え? あ、うん。僕が住んでいた場所は山が多かったから、冬はかなり雪が積もったんだ。だから、歩くのは……割と、慣れてるかな」


故郷で、友人と雪を固めて投げ合った記憶がふと脳裏をよぎり、胸の奥が少しだけ温かくなった。


「やはり、一度滅んだとはいえ気候はそこまで変わらないようですね。……私はかつて、ロシアという国に住んでいました。一年中雪が降るような極寒の地でしたから、この第2層の寒さはあまり苦にはなりません」


ロシア。聞き覚えのない名前だったけれど、この過酷な第2層が「苦にならない」と言うのだから、よほど凍てつく場所だったのだろう。


「ただ……第3層だけは、きつかった覚えがありますね」


「オクスタシアさんでも、ですか……!?」


あの完璧主義者の彼が弱音を吐くのが意外で、僕は思わず声を上げた。


「ええ。第3層は第2層とは真逆で、常に灼熱の高温に包まれています。寒い場所に住み慣れていた私にとっては、まさに文字通りの地獄でしたよ。私が第2層を拠点にしていたのも、半分はそれが理由です」


オクスタシアの意外な「弱点」を聞いて、僕の緊張は少しだけ解けた。 村で過ごすうちに、彼への恐怖心が薄れている自分に気づく。会話が弾むうちに、視界の先にぽつんと、雪景色には不釣り合いな巨大な「階段」が現れた。


「第3層に着いたら、近くに洞窟があります。そこで休憩にしましょう」


オクスタシアに促され、僕は一段ずつ階段を上っていく。 そして、最後の一段を上りきり、次の層へと足を踏み入れた瞬間――。


「っ……!!」


一気に、暴力的なまでの風が叩きつけてきた。 景色が変わることを期待していた僕の目の前に広がったのは、あまりにも望まない形の「絶景」だった。


「めちゃくちゃ吹雪じゃん……!!」


「すぐに洞窟へ向かいます。この近くにあるはずです!」


オクスタシアの声を合図に、僕たちは必死についていく。 凄まじい向かい風。舞い上がる雪。 目も開けられないほどの白濁した世界で、一歩踏み出すのさえ命がけだった。 そして――不意に、目の前が完全な「白」に塗り潰された。


「……!? 前が見えない!」


エンマの姿も、オクスタシアの背中も、一瞬で視界から消えた。 突然の孤立に軽いパニック状態に陥る。


「エンマー!! オクスタシアさーーん!!」


声を限りに叫んだ。その時、ガシッと何者かに手を掴まれる。


「な、なに……!?」


同時に、嘘のように吹雪が止んだ。 いや、止んだのではない。僕の周囲だけ、何らかの力で吹雪が遮断されているのだ。 徐々に視界が戻っていく。目の前には、僕の手を強く握るオクスタシアの顔があった。


「申し訳ありません……こういう細かい制御は苦手ですので、早めに行きますよ」


オクスタシアは苦々しい顔をしていた。長くは持たないのだと直感する。


「エンマも早く……おや?」


オクスタシアが後ろを振り返った。けれど、そこには誰もいなかった。 つい数秒前まで後ろを歩いていたはずの、エンマの姿が。


「エンマは……? エンマはどこに……!」


「……とりあえず、洞窟へ行きますよ」


「え、でも! エンマを探さないと!」


僕の言葉を無視し、オクスタシアは強引に僕の手を引いた。 抵抗しようとしたけれど、なぜか体に力が入らない。金縛りにあったかのように、足が自分の意志に反してオクスタシアについていく。


そのまま数分も経たぬうちに、僕たちは暗い洞窟の入り口へと辿り着いた。

「エンマはどうするの?!」


「大丈夫ですから落ち着いてください。落ち着いたら話します。」

とりあえず深呼吸し無理やり落ち着かせる。


「…でエンマはどうするんですか?」


「安心しなさい。エンマはあなたの位置を把握できる。」


「把握…どういうこと?」


「エンマはあなたと魔力的な主従関係になっているのでしょう。主が下僕の場所を把握するのは当たり前な話だ。」


「…そうなの?」


「そうです、君の中にある魔力を見つけてここにやってきますよ…たぶん」

オクスタシアの言葉にとりあえず一安心した。


「…それよりも君とエンマになにがあったのか気になるものですがね」


「あ…」

オクスタシアが鋭い目で僕をみてくる。


このまま2層の5階をめざしていきます。次もハル視点で話が続きます

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