エンマ様は一網打尽にする
私たちは木の上から、眼下の襲撃犯たちを見下ろしていた。
「どうする? 今だったらこっちに気づいてないし、一網打尽にするチャンスだけど……」
「そうですね。おそらくあれで全部でしょうし……。2、3人ほど、意識がある状態で生け捕りにしておきたいところです」
オクスタシアが事もなげに放った物騒な言葉に、隣でハルが一瞬肩を震わせる。
「生け捕りか…何か聞きたいことでもあるの?」
「まあ……いろいろとね」
オクスタシアは何かを言い淀むような、少し含みのある言い方をした。気になるけれど、今は追求している時間はない。後できっちり吐かせることにしよう。
「次はどうやって一網打尽にするかだけど……。正直なところ、私とハルが行くよりもオクスタシアが一人で制圧したほうが早いんじゃない?」
私の提案に、オクスタシアは少し困ったようなどこか照れてるような表情をした。
「それはそうなんですけど……私が行くと、その、ついやりすぎちゃって。生け捕りにするのが非常に難しいかもしれないのです」
「あぁ……なるほどね」
一階で彼が戦っていた相手の末路を思い出す。心臓を貫かれたら、いくら悪魔でも再生に時間がかかるし、尋問どころじゃない。
「そういうことです。私が下に降りたら敵を二手に分断させます。少ないほうをよろしく頼みますよ。……それでは失礼」
オクスタシアが私とハルの肩をポンと叩いた。その瞬間、視界がぶれて、いつの間にか私たちは木の真下に立っていた。ハルはさっきの転送よりは驚いていないようだったけど、それでも不思議そうに自分の手を見つめている。
「っていうことでハル。敵が分断されたら、私たちはオクスタシアとは別のグループを叩きにいくよ」
「わかったけど……あのオクスタシアって悪魔、一体何者なの? 明らかにただ者じゃないっていうか……」
「まあ、オクスタシアはこの地獄の中だと、たぶん私の次に強い悪魔だからね。あいつの能力は――」
説明が終わるより先に、上空から轟音が響いた。 見上げれば、すでに口を裂けているオクスタシアが、大の字になって降下してくる。その姿を見せないよう私は咄嗟にハルの目を手で覆った。
襲撃犯たちも異変に気づいて慌てふためく。 にしても、あいつどうやって分断するつもりだ……?
オクスタシアが空中で杖を一振りした。 その瞬間、地面が悲鳴を上げ、凄まじい「地割れ」が走る。 亀裂は見事なまでに、敵を9対1くらいの割合で真っ二つに引き裂いた。襲撃犯たちは双方の別方向へと逃げ惑い、綺麗に分断されていく。
「無茶苦茶だな……。ハル、いくよ!」
「えっ、あ……うん!」
目を覆われていたハルは何が起きたのか正確には分かっていないようだったけど、勢いに押されて走り出した。
オクスタシアは数の多いグループを追いかけ、私たちは残りの二人を追いかけていく。
「数は二人。……生け捕り分とぴったり同じだな」
追いついたとき、二人の襲撃犯は逃げ道を失って立ち止まっていた。
「エンマ、毒には気をつけてね……」
「同じ手は三回も食らわないよ。……たぶんね」
私は自分の血で刀を二本作り出し、一本をハルに渡した。 受け取るハルの手は少しぎこちなく、緊張で強張っている。
「大丈夫だよ。負けても最悪オクスタシアが助けてくれる。もっと力抜け」
「エンマ!…なんか情けないね…」
「うんわかる。私も言っててめちゃくちゃ情けないもん」
少し冗談を飛ばすと、ハルの肩の力がふっと抜けた。
「……別に、無理して戦わなくてもいいからな」
「いや、それはない」
即答か。まあ、そういう奴だよね。 私はハルの体に自分の魔力を流し込む。彼の体もだいぶ私の血に馴染んできたのか、以前よりスムーズに魔力が染み渡っていく。
「これでハルの体内にある私の血が、毒をはじいてくれるはずだ。身体能力もかなり上がってるはずだ。」
残念ながらハルを強化することはできても、私自身を強化することはできない。そのため私には普通に毒が効く。
「敵は間違いなく私を狙ってくる。私が抑えてる間にやってくれ」
「……わかった」
「よし。様子を見て飛び出してきて」
私が姿を現すと、敵はすぐさま武器を構えた。
「誰だ! ……って閻魔大王かよ!」「まさか本人から来てくれるとは……!」
一人は弓、もう一人は槍。 案の定、弓使いが距離を取り、槍使いが一直線に突っ込んできた。
……またこのペアか。
槍をいなしながら、弓の軌道を読み、回避する。
「さっきと同じ……あ?!」
思わず驚きの声が出た。 周りの木の枝に、いつの間にかクロスボウのような仕掛けがいくつも設置されていたのだ。
ヒュン、ヒュンヒュン!!
四方八方から矢が飛んでくる。 ……まずい! おそらく全部に毒が塗ってある。
私は目の前まで迫っている槍を無視し、全神経を矢の回避に集中させた。
「うぐっ……!」
矢はなんとか避けたが、その隙を突いた槍が私の脇腹を数回貫いた。
「よしっ! もう一回やるぞ!」
「ふぅ……」
私は次の攻撃が来る前に、傷ついた内臓を血で補強し、無理やり体を動かせる状態に保つ。 ……なるほど。あの弓使い、洞窟の前で戦ってた時に矢を放ってきた奴と同じ能力か。 あの時、別方向から矢が飛んできたのも、こうやって能力でクロスボウを設置していたからなんだ。
「ハル!」
私の合図で、ハルが木陰から飛び出した。 不器用な動作ではあるけれど、魔力で強化された怪力で、私の作った血刀を槍使いに振り下ろす。
「二人目だと!?」
反応しきれなかった男は、そのまま勢いよく吹き飛ばされた。ハル自身、自分のあまりの力強さに驚いて固まっている。 その瞬間、設置されたクロスボウからハルに向けて一斉に矢が放たれた。
「ハル!」
避ける反射神経のないハルの体に、次々と矢が突き刺さる。 ……が、ハルは顔をしかめるだけで、倒れる気配がない。毒が効いていないと悟った弓使いは、顔を青くして森の奥へと逃げようとした。
「ハル! 私はこの槍使いを抑える。早いところその弓使いを追って!」
「了解!」
ハルは矢が刺さったまま、脱兎のごとく弓使いを追いかけていった。 私は地面に落ちている矢を拾い上げ、うずくまっている槍使いの足に突き立てた。
「……っあ!」
男は慌ててポケットから小瓶を取り出そうとした。私はそれを即座に奪い取る。
「かえ……せ……」
様子を見るにどうやら解毒剤のようだ。後で使えるかもしれないから、ありがたくもらっておこう。
しばらくすると、全身に矢が刺さってハリネズミのようになったハルが、気絶した弓使いの襟首を掴んで戻ってきた。
「お疲れー、すごい姿だな」
「自分の体が……自分の体じゃないみたいだったよ」
「それにしても、いくら毒が効かないからって少しは避けなさい」
苦笑いしながら、ハルに刺さっている矢を一本ずつ抜いていく。 念のため、生け捕りした弓使いにも抜いた矢を一本刺しておいた。
そこへ、穏やかな笑みを浮かべたオクスタシアが戻ってきた。口元はすでに、綺麗に糸で縫い合わされている。
「あ、そっちもちょうど終わったみたいですね」
オクスタシアが手から黒い糸を伸ばし、倒れている襲撃犯二人をぐるぐる巻きに縛り上げた。
「大きな怪我もなさそうですし、そろそろ村のほうへ行きましょうか」
私たちは二人を引きずりながら、再び森の奥の村を目指して足を運んでいった。
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