エンマ様はいろいろと知った
私とハルはオクスタシアの後ろをついていく。 オクスタシアの歩き方は優雅そのものだが、時折漏れる魔力の気配は、彼がまぎれもない「地獄の住人」であることを思い出させた。
「そういえば私たちは、ばあちゃんに会いに来たんだけど……あの人、元気? というか生きてる?」
「ばあちゃん? ……あぁ、エミさんのことですか。ええ、ちゃんと元気にしてますよ。むしろあの歳にしては元気すぎる気もしますけどね」
「そう……元気にしているんだね」
オクスタシアの話では、彼女はこの第2層にある「村」に住んでいるらしい。そこまで彼が案内してくれることになった。
「……というか、そろそろ人間くんも私に心を開いてほしいんだけども」
オクスタシアが歩きながら首だけを後ろに向け、私の後ろに隠れているハルをじっと見つめる。隠れているといっても私よりハルのほうが大きいため隠れられてはいない。
視線を向けられたハルは、すぐに「ひっ」と声を漏らして目を逸らした。ハルはさっきの戦いを見てから、すっかり口数が少なくなっている。
「……初対面があれだったからしょうがないだろ。あと『人間』じゃなくてハルって呼んであげろ」
「ハルくんね……ねぇ、ちょっとこっち見てよ。怖くないから」
オクスタシアは両手で自分の口角をクイッと持ち上げ、無理やりニコっとした笑顔をハルに見せた。 恐る恐る、ハルがその顔を覗き込んだ瞬間。
「ひいいいいいいいいいい!!」
「うわっ!?」 「おっと……」
まるで化物を見たかのような悲鳴をハルがあげていた。
初めて聞くようなハルの絶叫に、私とオクスタシアは思わず飛び上がって驚いてしまった。
「……ごめん。そんなに嫌だったんですね、私の顔」
「あ、いや……そうだけど、そうじゃなくて……!」
「顔が嫌」っていうのは否定しないんだな……と内心思いつつも、ハルの言い訳に耳を傾ける。
「……実は、小さい頃に読んだ絵本に出てきた『口の裂けた怪物』にそっくりなんですよ。ただの子供騙しのはずなのに、ずっとトラウマで……だから思わずというか、なんというか……」
子供の頃のトラウマか。それなら、理屈抜きで怖いのも無理はない。私はオクスタシアにフォローを入れようとして、つい正直な感想が出た。
「ドンマイ、オクスタシア! 本物の化物にそっくりだってよ!」
「はぁ、全然フォローになっていませんよ。ハルくんもひどいじゃないですかぁ……」
わざとらしく落ち込む演技をするオクスタシアと、「うぅ……ごめんなさい……」と情けない声を出すハル。 ハルが終始情けない声をしていたため少し面白かった。
しばらく歩くと、雪に覆われて場所がわかりにくくなっていた階段を見つけた。 私とオクスタシアがその手前で立ち止まる。それを見たハルが、不思議そうな顔をして聞いてきた。
「どうしたの二人とも……行かないの?」
「……あまり驚くなよ」
私はハルをかがませて耳元に口を寄せ、消え入りそうな小声で告げる。
「……私たちを襲った襲撃犯の仲間が、すぐそこまで来てる」
「えぇっ!? ――痛っ!!」
声を出しそうになったハルのほっぺたを、私は力いっぱい抓り上げた。
「あまり驚くなって言ったでしょ。気づかれるじゃない」
「ということですから、2階に上がった瞬間、急いで距離を離し撒いちゃいましょうか」
オクスタシアの提案に、私たちは頷いた。。2階に上がった瞬間ならば襲撃犯からの視界からも逃れられ撒くには、これでもないくらいのチャンスだ。
彼の先導で階段を一気に駆け上がり、2階へと足を踏み入れる。
そこは1階とは異なり、巨木が立ち並ぶ鬱蒼とした森林地帯だった。身を隠すにはうってつけの場所だ。
「……あの木の上に登って、様子を見ましょうか」
オクスタシアが指差したのは、天を突くような大木だった。
「どうやって登るの?」
ハルがすぐに私を見て質問してくる。オクスタシアに直接聞かないのは、まだ心を許していない証拠だろう。
「すぐにわかるよ」
「はいはい……二人とも、手を出してください」
言われた通りに手を差し出すと、オクスタシアが私たちの手を掴んだ。 その瞬間、視界がぐにゃりと歪み、気がつくと私たちは大木の頂上に立っていた。
「え、は、へ……?」
案の定、ハルは目を白黒させて驚いている。
「ここでなら、階段から上がってくる襲撃犯の数も見えるからね」
「私たちが向かう村は場所を隠してますから、バレてしまうと村の人たちが危険になってしまいますし、ここでゆっくりしましょうか。」
理解が追いついていないハルの隣で、私とオクスタシアは淡々と話を続ける。
「あ、来た」
階段から、複数の悪魔がゾロゾロと姿を現した。彼らは私たちがいないことに気づくと、仲間同士で集まって相談を始めている。その数は、すでに10を超えていた。
「なんでここまでして私たちのことを狙ってくるんだろ。1層にいた時もハンネがわざわざ来たし……」
「ん、それ本気で言ってるの?」
私の呟きに、オクスタシアが思いっきり反応した。
「てっきり知ってるもんだと思っていました。……心して聞いてください」
オクスタシアは溜息を吐き、心底あきれたような顔をする。そのただならぬ雰囲気に、私たちも思わず息を呑んだ。
「現在、この無間地獄には全層に向けて通達が出ているんですよ」
彼は冷徹な声で、衝撃の事実を口にした。
「『元閻魔大王エンマを殺した者は、無条件でこの地獄からの脱出を許可する』……とね」
「「は……?」」
オクスタシアの言葉が、すぐには理解できなかった。 重い沈黙が、私たちの間に走る。
「まぁいいでしょう、この話は一旦ここで終わりにします。それも含めて村で話せばいい。」
「……わかったよ」
ハンネがわざわざ1層まで降りてきたのも、襲撃犯がこうして追ってきているのもすべてはここから出るためということか。おそらく通達したのも私を裏切った側近だろう。
考えることは山積みだが、今はまず、目の前の襲撃犯をどう撒くかを考えることにした。
インフルAにかかって死んでます。一人暮らしで風邪ひくと孤独すぎて死にそうになるんですね。家族のありがたみを感じます




