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エンマ様は友人と再開する

「背中いたい」


目が覚めるとまず思ったのがそれだった。 ……最悪な目覚めだ。 ごつごつした岩盤の上で寝たせいで、背骨が悲鳴を上げている。思わず顔をしかめてしまう。ふと横を見ると、ハルはまだ寝息を立てていた。私は自分の背中を軽く叩き、魔力を循環させて血行を良くし、強張った痛みを和らげていく。


吹雪が止んでいるのか気になり、洞窟の出口のほうへ向かった。 外を軽く覗くと、荒れ狂っていた吹雪は嘘のように止んでおり、だいぶ気温も暖かくなっていた。


「おー、やんでるっぽいな」


正確な時間がわからない以上断言はできないが、日差しの強さからしておそらく昼だろう。 吹雪が止んでいる今のうちにハルを起こし、早いうちに出発しよう。


私が戻ったとき、ちょうどハルが目を覚ましていて、大きなあくびと共に背伸びをしていた。


「あ、おはようエンマ……、うぅ背中痛いよ~」


「はいはい、背中こっち向けて」


私はハルの背後に回り、背中をさする。私と同じように微弱な魔力を通して血行を良くし、痛みを和らげていく。ついでに肩を揉んで、凝っているところをほぐしてやった。


「あーめっちゃ楽かもー」


なんか絵面的に、娘が父親の肩を揉んでいる感じだな……。 閻魔大王としては少し屈辱的だったが、ハルのあまりに気持ちよさそうな顔に免じて、黙っておくことにした。 しばらく丹念にマッサージを続ける。


「ありがと、そろそろいいよ」


ハルの表情はかなりすっきりしていた。それをみて安心する。


「おっけ、じゃあ出ようか」


私たちは荷物をまとめ、洞窟の出口に向かっていく。


「吹雪が止んでる今のうちに次の階への階段見つけたい。あ、でも昨日の待ち伏せしてたやつがいるから注意ね」


そう言い、警戒しながら洞窟を出ようとした瞬間。


「あ“っ!」


と、私の口から間の抜けた声が出てしまう。 何故なら、目の前にその二人の待ち伏せ犯が立っていたからだ。


「ほえ?」


反射的に相手も間の抜けた声を上げた。彼らもまさか、待ち伏せ相手がここにいるとは思っていないような感じだった。おそらく、休憩がてら奇跡的にこの洞窟に寄ろうとしていただけなのだろう。


そんな奇跡はいらねえよおおお!!


「ハル! そこ動くなよ」


ハルに警告し、相手が混乱している隙を突く。 一人の懐に飛び込み、みぞおちに鋭い肘を打ち込む。 二人目が慌てて弓を構えたところを、下から手を蹴り上げ弓を弾く。そのままよろけた顎にアッパーを叩き込んだ。


ドカッ!


あっという間に制圧でき、ふぅと一安心したところ――


ヒュンッ!


意識外から鋭い風切り音。咄嗟に身を捻るが、完全にはかわせない。矢が横腹をかすめ、私はよろめく。


3人目?! いや待て……。

私はとっさ目をつむり、体中の感覚を研ぎ澄まし周囲の気配を読み取る。

他にもいる。気配的に……上!?


上を見上げると、岩棚から槍を構えながら落下してきている奴がいるのを確認できた。 すぐに血で刀を作り、なんとかその切っ先を受け流す。


ガキンッ!


しかし、その一瞬隙ができたようで、遠距離からの第二射を横腹に打ち込まれてしまった。


「うぐぅ……」


「エンマ!?」


ハルが思わず叫んでしまう。 私はすぐに打ち込まれた場所を刀でえぐり、毒が回るのを防いだ。 目の前には槍を持ってるやつがいて、加えて場所を把握できていない狙撃手がいるときた。

しかも、この槍使いの構え……おそらくかなりの手練れだな。まったく…


「絶体絶命だな」


再び飛んできた矢をなんとか打ち落とす。そしてあることに気づく。

飛んできた場所がさっきと違う! どういうことだ……。


ふとハルに目を向けると、今にも洞窟から飛び出しそうだった。 しかし狙撃手の場所を把握できない限り、ハルを洞窟から出すわけにはいかない。私なら場所がわかってなくても反射で打ち落とせるが、ハルの場合は毒矢を食らって早々に動けなくなるのが目に見える。


ハルには「とりあえずそこを動くな」と目配せする。


そして早速、槍使いが攻撃を仕掛けてくる。応戦するも、なぜか強烈な眩暈がしてよろめいてしまう。 ……くそ、さっき食らった弓の毒が抜けてなかったか……。


槍使いが槍を構え、私の心臓に狙いを定める。 回避は間に合わない。目をつむり、体内の血を心臓の辺りに凝縮させて防御を固める。


だが。 いつまで経っても、槍が私を貫く衝撃は来なかった。


恐る恐る目を開けると、そこにはある男が立っていた。 槍はその男の背中のすんでのところで止まっていた。 槍使いの反応を見るに、わざと止めているわけではなく、刺せないようだ。まるで男の背中に見えない壁があるかのように。


「おやおや、まさか本当に戻ってきてるなんて些か信じがたいものですね」


その声はどこかおちゃらけており、どこか見覚えがあった。黒い髪と瞳をしている。 顔を見ると、口から頬にかけて糸で縫われており、それ以外は変なところはなくかなり穏やかで非常に整った顔をしているイケメンだった。 その特徴的な顔を見た瞬間、すぐに誰かわかってしまった。


「え? もしかして……オクスタシア!! 雰囲気だいぶかわったな!!」


「はいはーい、オクスタシアです。ほんと久しぶりですね、会いたかったですよ」


その後ろで槍使いが「うおおお!」と叫びながらひたすら突き刺そうと奮闘しているのを、完全に無視して話を続ける。 オクスタシアは私の後ろにいるハルの姿を見て、不思議そうな顔をした。


「あれ、後ろの青年はだれですか? 見るところなんか悪魔ではなさそうですけれど」


「ん? あぁこいつはまだ人間だからね。元の場所に返してあげようと思って一緒に行動してる」


オクスタシアが相槌を打とうとした瞬間。


「くっそ、さっさと死ねよおおお!」


槍使いの怒号が聞こえてくる。その声でようやく、オクスタシアが面倒くさそうに振り向いた。


「うるさいですねぇ、こっちは今久しぶりの友との再会にお涙してるというのに」


オクスタシアの左手から、スッと杖が出てくる。


「ひとが戦っている最中に出しゃばりやがって!」


槍使いが槍に大量の魔力を通し、オクスタシアを思いっきり一突きする。 凄まじい威力の一撃。しかし、突き刺した先には何もなく、風を切る音が鳴っただけだった。


「全く、危ない危ない」


オクスタシアの声は、いつの間にか槍使いの後ろから聞こえた。 槍使いはすぐに後ろに振り向き、再び攻撃をする。だが、またしてもオクスタシアは一瞬で槍使いの真後ろに立っていた。


「な、なにが起こっているんだ!?」


「先に言っておきましょう、あなたは今すぐみじめったらしくそこで命乞いをすることをお勧めしま~す」


その言葉に煽られ、槍使いは再び激怒した。


「だれがするか!」


「あら? 戦うなら仕方がないですね」


まるでそれを待ち望んでいたかのように、わざとらしく言う。


その途端。


ブチッ、ブチブチブチッ!


頬に縫われている糸が、内側からの圧力で弾け飛んでいく。 そしてさっきまでの穏やかな紳士的な笑みが一気に崩れる。糸で止められていた場所が裂けていき、口角が顔の真ん中ほどまでありえない角度で吊り上がっていく。 顔が整っているのに、化け物のような見た目。そのギャップに少し脳がバグってしまいそうだ。


杖をトンっと床についた瞬間、オクスタシアの周りの空間から、黒い四角いブロックのようなものが複数浮かび上がってくる。


杖を槍使いに向けると、そのブロックが弾丸のような勢いで飛んでいく。 弾き返そうと槍をそのブロックに向けた瞬間、槍とともにその体がブロックに強烈に引き寄せられた。


「なんだ、これ!?」


抵抗するもうまく引きはがせず、ほかのブロックも次々とその体にくっついていく。まるで強力な磁石か、重力の檻のようだ。


「プレゼントですよ♪」


オクスタシアが指パッチンをした瞬間。


ドォン!!


そのブロックたちが一斉に破裂し、槍使いは大きく吹っ飛んで岩壁に叩きつけられた。 すぐに立ち上がり再び槍を構えるが、足元がおぼつかない。


「おやおや、あきらめわるいのですね。内心では勝てないとわかっているというのに」


「黙れ!!」


槍使いはオクスタシアに突進し、槍を連続で突いていく。しかしその猛攻もすべて紙一重で、あるいは見えない力に逸らされてよけられてしまう。


「このまま勝ったとしても不公平ですし私も槍を使わせてもらいましょう」


杖を軽く振ると、杖の先端が鋭利にとがり、槍のように変化した。


「なめるのも大概にしろぉぉおお!」


激昂したその一撃も、あっけなく杖一本で止められてしまう。


「なめていませんよ、私は単純に馬鹿にしているだけですよ。あ、それでは失礼いたします」


オクスタシアはそのまま槍のようにした杖で、槍使いに対して一突きした。 うめき声をあげて倒れた男は、もう立ち上がることはなかった。


その戦うさまは、まさに悪魔でしかなかった。 ハルは後ろで腰を抜かし、少しおびえている様子だった。


オクスタシアは裂けた口のまま、うきうきで私たちのもとに歩いてくる。


「あ、どうでした、かっこいいところは見せられましたか?」


「……やりすぎだよ」


「あ、後ろの人間がすこし怖がっちゃっていますね。すみません、久しぶりですこし張り切りすぎちゃった♪」


てへっ、と顔をしていたが、口が裂けているのもあって、まったくかわいくなかった。


「とりあえず口元を治したほうがいいと思うよ」


「あぁごめんごめん」


手から黒い糸のようなものと針を取り出し、裂けた口を縫い合わせて元に戻し最初のように穏やかな顔になった。 オクスタシアはハルの元へ笑みを浮かべ近づいていく。


「ごめんね、怖がらせちゃいましたね」


「あ、えっと、その」


私はとっさにハルを自分のもとに引き寄せ、オクスタシアから離れさせた。


「まだ怖がってるから、あんま近づくな」


「え~!! ひどいですよ~助けてあげたのに。怖がってないよね?」


オクスタシアが顔を覗き込むと、ハルは少し下を向き、私の後ろに隠れる。


「ほらまだ怖がってるじゃん!」


「はぁ、仕方ないですね。それじゃ立ち話もあれだし私の部屋に行きましょう」


私たちはそのままオクスタシアの後をついていった。


新キャラのオクスタシアが登場しましたね。あとエンマのマッサージは気持ちよさそうですよね。ハルがすこしうらやましいです。たぶん現代にいたらマッサージで天下とってるかも。

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