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冥界の太陽たち 冥界から四人の王子が復活する時、災いの蟲が来て世界は崩壊する。そしてゲームは始まっていた!  作者: あべ舞野


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冥界の太陽たち 第四話 中 北と南の境界の町 アディート

謎の少年の出自が明らかになる


冥界の太陽たち 第四話  中

          (ノルデン)州アディート 北と南の境界の町 

 

 バスルームには浴槽がない。四角く区切られた床をシャワーカーテンで囲めば浴室だ。床の一角に丸い排水口がある。壁にシャワーノズルが付いていた。カーテンをめくれば便器と洗面所だ。白い筒のゴミ箱には、掃除をさぼったのか丸めた紙が残っている。コンドミニアムタイプの宿だ。値段もおそらくそれなりなのだろう。マリアがどこかに電話をして決めた宿だ。

 チェックインして部屋に入るなり、小虎は二人がかりで浴室に押し込まれた。マリアの命令だ。足元には彼女から渡された紙袋がそのままに置いてある。

 小虎は服を脱がなかった。窓に手をかける。上下に開くタイプだ。あまり大きくないが、彼がすり抜けるには十分だ。五階建ての四階部分だった。窓の傍には雨どいがある。うまくつたえば降りられなくはない。だがまだ陽は高い。外壁を降りるのは目撃される危険が大きい。

 シャワーのカランを捻った。湯がほとばしる。停電は駅の周辺部だけのようだ。町にあまり影響を及ぼさなかったらしい。それは幸いだった。

 紙袋をのぞいた。真新しい服と靴だ。タグはない。すぐにでも着られるようになっていた。

 そっと足音を忍ばせた。ドアに近づく。耳をつけた。エフェレットきょうだいの声が聞こえてくる。

「...腹が減った! 何かない?」

「まだサンドイッチが残っているわよ。夜は母さんが作ってくれた料理をしてみようかな。多分ティーガの料理だと思うの」

「教わったのか?」

「まさか。まだ小さい時だもん」

 ロッタはアナスタシアと仲が良かったそうだ。北の料理を教わったかもしれない。母が亡くなった時、マリアはまだ八歳だ。それでも覚えているのだろうか。

「うろ覚えなんだけど。まあ料理は気合よ」

「だよな。前に作ってくれたタルトはマシだったけど、キッシュはヤバい...えーと、その...」

 気合の産物を食べているピドーは、最後には口ごもる。それでもバシッと何か叩く音がした。

 たわいのない話が少しだけ続く。

「...あいつだけどさ」

 ピドーの声が低くなった。小虎は身を固くする。

(ノルデン)州軍に連絡するのか?」

「するわけないでしょ。私はシェレンス公に雇われている人間じゃないわよ」

「だよな~。まあ、もしマリアがそうするって言ったら止めてたけど」

「しないって言ってんでしょうが。子供を売るほど人間クサってないっ」

 先ほどからバシッバシッと、何回聞こえた事か。『マリアが言ったら決まり』を、改めて実感する彼だった。マリアの声が低くなる。

「どっちの軍からも追われて逃げ続けるなんて...あんなに小さな子が...。ソフィアなら外とそんなに交流がないし、居場所を作る手伝いができたらいいなって、ちょっと思って...。まあ、弟は一人いても二人いても一緒だから。多分」

 小虎は小さな息を漏らした。彼らは軍の関係者ではなさそうだ。少しだけほっとする。便器に腰を下ろした。

(どっち側からも追われているんだ...)

 西(ヴェステン)州から逃げて随分と経つような気がする。だがどれほどの時間が過ぎたのか分からない。ずっと一人で国土をさ迷っていた。目的など無い。ぼんやりと視線がさまよう。膝に落ちた手は薄汚れていた。ただ生きて逃げるだけだった。『東の赤』の復活を感じるまでは。

「小虎! 起きてるか?」

 ノックもない。勢いよくドアが開いた。ピドーだ。服を着たまま腰を浮かせた小虎に目を丸くする。

「何だよ、そのままか? シャワー出しっぱなしにして。中で引っくり返っているのかと思ったじゃないか」

 つかつかと歩み寄ると、いきなり小虎の服を掴んだ。

「ほらよっ」

 むりやり引き上げる。力では叶わない。ピドーとマリアの行動はいつも唐突だ。構える暇がない。じたばたしているうちに便器からずり落ちる。上着をあっさり脱がされた。あわてて後ずさりした。顔が露わになる。肌は汚れて灰色だ。唇には色が無い。しっかりと左肩を押えた。皮膚の一部がひきつり、くすんだピンク色で盛り上がったままになっている。小さな手では隠しきれないほどの傷痕だ。くっきりと肋骨が浮いた肌には艶がない。ピドーは一瞬眉をひそめた。だがすぐに声を張り上げた。

「逃げるな、脱げ! とっとと体を洗え! 話があるんだろう? 俺もだよ。そうだ、服は着がえろよ」

 どうやらピドーの言う『姉ちゃんの決まり』に小虎も従わなくてはならないようだ。一応、拒否してみる。

()だ」

「アホぬかせ。体を洗え。新しいのを着ろ! 絶対に!」

 ピドーは奪った服を丸めた。ごみ箱に押し込む。

「おまえの為じゃないぞ。俺達が必要なんだよ! 汚れにも限度ってもんがあるだろうが。これは服じゃない。布だ、しかもぼろ布! まだつべこべ言うなら」

 袖をまくる。力づくでも脱がすぞ、という態度だ。服と自分の汚れ具合には自覚がある。小虎は小さく頷いた。

「本当だな? またのんびりしてたら、今度はマリアが突撃してくるぞ。俺と違って容赦ないからな。シャワーで溺れたくなければさっさと洗え」

 ピドーでも充分だ。恐ろしいセリフを残して、バスルームの扉が閉まる。

 すぐに小虎はゴミ箱から服を引っ張り出した。汚れた服のポケットに手を入れる。紙に包まれたサンドイッチがあった。さっきマリアが屋台で買ってくれたままだ。

 誰かがいる場所では食べない。安全だと思えたら口にする。身に付いた癖だ。やっと一人になれたのだ。紙は脂がしみてべとべとしている。すっかり固くなったパンを口に押し込む。いつもの通り、殆ど味を感じない。

 出しっぱなしの水音が響く。ぼんやりした感情は過去へと遡る。

 故郷のランデスヴァルト。北の辺境地、ティーガ族の最後の居住地だった。

 住んでいた所は周囲が灰色の石の壁に囲まれていたようだ。いつもの場所だったはずだが、ここで過ごした生活の記憶はおぼろだ。いつか見た見知らぬ場所の写真のようだ。そこに人間がいない。

 いつだったか。たくさんの人が神殿に押し寄せるのが脳裏のスクリーンに映る。

「×××!」

 誰かが呼んでいる。自分の名前なのにどうしても聞き取れない。たくさんの人が急いでいる。

 そこからしばらく記憶がない。

 焦げ臭い。何かが()ぜる音で目が覚めた。立てない。座ったままで茫然と周囲を見渡した。広場は明るい。

 動く人間は自分だけだった。目の前に大きな山がある。それが何なのか、ぼやけた印象だけだ。

 肩がひどく痛む。長袖の服は背中の真ん中のあたりまで赤く染まっていた。生地が裂けている。触れると、めくれた皮膚に触った。右手は血まみれになった。怖くて傷口を見られない。誰かを呼びたいのに声は出なかった。

(行きなさい)

 誰かが言ったようだ。導かれるようにそちらに這った。神殿の奥だ。

 両手を床についた。ぐったりとそこに伏せる。動けなかった。痛みと、まるで心が空っぽになった感覚のせいだ。何が起きたのか。頭には何もない。床の模様に触れる。せめてのよりどころのように血まみれの指でしっかりと掴んだ。頭の中に響く声もひどく遠い。意味を理解しようとさえできなかった。

『...の月...祈りを...』

 声がする。男だか女だか分からない。甲高くもあり低くもある。相反する要素が矛盾なく存在する不思議な調子だった。

『確かに整った!』

 山も神殿も消えた。周囲は真っ暗だ。だが輝いている。

 背後から両肩に手がかかっていた。目だけで伺うと黒焦げの指だ。ゆっくり視線で辿る。服は殆ど燃え尽き、皮膚に張り付いていた。

『全て整った! 我はお前に復活しよう!』

 黒い光が渦を巻いた。黒いドームの中にいた。巨大な首を見たようだ。記憶がはっきりしない。真っ黒ながらも輝く球体がまっすぐに押し寄せて体を包む。自分の体が違う物質に置き換わるような不快な感覚に気を失った。

 やがて笑いを含んだ声がした。

『生きているよ。このチビが太陽だね。絶望の虎だ、『北の黒』だ』

 まだ幼いルーカだ。

 黒い空間は溶けた。元の神殿だった。ルーカのそばに立つのは軍服の男だ。髪も目も黒い。厳しい口調でルーカに何か告げた。

 またここで彼の記憶は途切れる。

 次に目覚めたのは檻の中だった。囚われたのだ。どれほどの時間がここで経過したのか。自分に『北の黒』が復活したとは自覚が無かった。力の使い方は知らなかったが、何故使えるようになったかもよく覚えていない。近くで毎日のように説明してくれたのは誰だったか。そしてそれが発現した時こそ脱出の日だった。

 それからは逃げ続ける日々だ。

 ランデスヴァルトの公用語は、ティーガと征服民族グリンクラフトの言語の二つだった。それが幸いした。どちらも読めないのだが、聞いた言葉を理解できる。

 脱出後、見つかれば連れ戻されるかもしれない。一か所に留まるのはせいぜい数日だ。移動するなら夜が明けるまでに動く。これは鉄則である。車や列車の荷物の隙間に潜り込める。月がなくても星明かりで充分だ。

 どこへ行くというあてもない。一晩のねぐらとその日の食べ物さえあればいい。また西(ヴェステン)州へ連れて行かれるよりもよほど良かった。グリンクラフト人と自分は違う。それは分かっていた。髪と瞳の色がまるで違う。銀の髪と、緑や青や金色さえちりばめられたホワイトオパールの瞳を持つ者はいない。そして気が付いた時、殆ど発声ができなくなっていた。出すべき言葉はなかなか喉を通らない。

 また彼には特殊な能力があった。人の存在を感じ取れるのだ。離れていても、目を閉じていてさえ人間は光の球となって脳裏のスクリーンに映る。人魂とか生き霊と呼んだ方がいいのかもしれない。色や濃さはそれぞれ固有だ。一度でも人物と光を確認しておけば、いつでも居場所が分かる。人の顔を覚えるのと同じだ。

 ルーカは特別だった。まるで白い炎が燃えているようだ。冥界の太陽の復活を受けたからだろう。

 つい最近『東の赤』の爆発も感じた。ルーカに並ぶほど強く輝く。それだけならきっとピドーに会おうとは思わなかっただろう。ただどうしても気になる事があったのだ。まだそれについては聞いてはいない。

 また彼の魂の光に交じった『東の赤』は日に日に薄くなっている。完全に復活していないようだ。しかも憑依されるべき少年は何も知らないらしい。

 キルヒェガルテンで初めて顔を合わせた時には驚いた。あまりに普通のグリンクラフト人だったからだ。さらにルーカが来てしまった。自分がいれば『東の赤』には手を出せないだろう。彼はハンナ・ティッシュバンのもとへ訪れていた。彼女と知り合いならばなおさら、まだ確かめていない件もあって手を出せないようにした。

 そして一晩が明けたキルヒェガルテンの朝、一台の車が宿の前に停まった。ディーゼルの紺色だ。茶色の髪をしたきょうだいが乗り込む。『東の赤』が移動する。南東の方向へ向かった。

 日中の行動は危険だ。分かっていても追いかけなくてはならない。鉄道のない地域では、一番乗り込みやすいのはトラックだ。しかも幌付きがいい。道端に停まっているのに目を付ける。運転手の隙を狙い、荷台に飛び上がる。誰かがこちらに注意を向けているかどうかも、何となく人魂の光で分かる。小柄なのが幸いする。固い布へ潜り込み、荷物の間に身を顰める。キルヒェガルテンから出て行く車両の多くは、南方向ならアディートに寄る。この地域では交通の中継点となるからだ。もちろんそんな事は知らない。だから乗り込んだトラックがそちらを目指したのは幸運だった。もし『東の赤』の人魂と違う方向だったら、すぐにでも飛び降りなければならない。もっともそんな危ない行動も慣れっこだった。

 ここで小虎は我に返った。過去を思い出したのは久しぶりだった。もっとも記憶の量はほんのわずかだ。洗面所の鏡に自分が映る。過去のままだ。

 リビングで何か音がした。また突撃されてはたまらない。

 大急ぎで食べ終えた。古い服をまたゴミ箱に入れた。恵みを受ける筋合いは確かにない。けれども彼らがそうしろという。仕方が無いなら新品を着なければならないだろう。マリアもピドーも、小虎の負担にならないような言動で食事も服も用意してくれた。小虎はその心遣いに気が付けるほど、気持ちに余裕はなかった。

(どうしよう...)

 『西の白』ルーカは離れて行った。他の二人を追いかけたようだ。『東の赤』と同行する理由はなくなった。だがあの質問はまだできていない。

 ...お前は何者だ? それは何だ?

 加えてもう一つ。同行する理由。

(ご飯、食べられるからいいか...)

 あのきょうだいは、少なくとも敵ではなさそうだ。小虎は考えるのを放棄した。シャワーブースに足を踏み入れた。流れ落ちる湯の温度は一定していなかった。避けるほど熱くもなった。だが調節するのが面倒だし、どうすればいいのかわからない。ただでさえ白い肌は赤く火照った。幾ら石鹸を使っても、髪と体はなかなか泡が立たない。何度も洗った。

 マリアの用意した服は、それまで着ていた物と殆ど同じデザインだった。上着にはちゃんと大きめのフードが付いている。濡れたままの髪をまとめてかぶる。大きさは余裕がありすぎだ。袖が余る。靴も緩い。もっとも見かけだけで選らんだにしては、良い感じのサイズだった。

 ふと振り返ると、鏡の中の自分と目が合った。水蒸気と汚れで曇った面に、フードに隠れた白い顔がある。瞳が力なく虚ろに見返す。今では自身以外には出あっていない銀色の髪と瞳。汚れて灰色だった髪は、見事な銀に輝いている。濡れたままでフードをかぶり直した。髪が首筋にはりついて気持ちが悪い。

 ドアを開けるとリビングルーム兼寝室だ。ソファとローテーブルで室内は一杯だ。壁に押し付けるようにベッドが二つ。小じんまりとしたマントルピースの上にラジオがある。二ユース番組がかかっていた。アナウンサーが喋っている。内容はもっぱら朝の騒ぎについてだ。内戦の影響によるテロという事になっている。

 ベッドに転がっていたピドーも起き上った。その場であぐらをかき、笑顔を浮かべた。

「お、見られる」

 ソファに座るマリアが振り返った。

「あら、きれいになったじゃないの。座ったら?」

 ぽんぽん、と自分の横の座面を叩く。小虎は首を振った。立ったままだ。彼の位置から出入り口へ行くには、マントルピースの前を通るかソファの後ろを通らなくてはならない。その後ろはベッドだ。どう行ってもマリアかピドーを交わさなくては部屋を出られない。殆ど条件反射のように逃げる経路を確認してしまう。小虎は壁際にうずくまった。

 マリアが尋ねる。

「名前は? そろそろ教えてくれる?」

「...」

 覚えていないのだ。返事のしようがない。

「家族の方は、あなたを何て呼んでいたの?」

「...」

「あなたは...まさかランデスヴァルトから来たの?」

 フードが小さく縦に動いた。

 きょうだいの顔が険しくなった。北事変では無差別に住人が虐殺されたと二人は聞いている。それなら彼はどうやって生き延びたのか。

「あなたはその頃生まれたばかりよね?」

 小虎に反応はない。

 ピドーはしげしげと小虎を眺めた。どう見てもせいぜい十歳程度の体つきだ。十年前と殆ど身長が変わっていないなど、二人には分からない。

 マリアは重ねて訊いた。

「何て呼んだらいいの?」

 彼はしばらく目を伏せていた。やがてぼそりと言う。

「さっきの」

「小虎でいいのね?」

 本名を教えたくないのか。二人には判断がつかない。

「まー気に入ってもらったのならいいけど」

 すぐに西(ヴェステン)州に連れて行かれて自分の名前を誰も知らない。ルーカは『絶望の黒』か、チビと呼ぶ。どうしても思い出せない名前なら、出自が元になった小虎の方が良かった。自分は確かに(ティーガ)族の生き残りなのだから。

 ピドーが頭を掻いた。どう接していいのか分からない。

「えーと、お前の太陽は何?」

「『北の黒』」

「じゃあ絶望の虎か...」

 ジーノチカに聞いた話を思い出す。小虎が逆に尋ねて来た。

「...どうして...」

「え? 何が? どーもこーもあるか。巻き込まれたんだ。俺はティーガの神話なんて全っ然知らなかった。誰かに『東の赤』の石板を渡された。その日にソフィアに襲撃があって...」

 小虎がぱっと顔を上げたものの、上半分は隠れて表情は見えない。しかしきつく結んだ唇に不安が浮かんだのをマリアが見てとった。

「ここは大丈夫よ。それで...もし知っていたら教えて欲しいんだけど。ウチのお隣さんが犠牲になったの」

 彼が太陽の生贄になってしまったのだ。

「それなのに何で仮契約なの? どうしたら完全復活になるの?」

「なぜ...ティーガの...?」

 返答がかみ合っていない。再度の質問だ。小虎が何を聞きたいのかはっきりしない。

「おまえはやり方を知ってるのか?」

 ピドーはベッドから降りた。小虎の正面に立って見下ろす。

「俺は世界を滅亡させるつもりもない。ただ力が欲しいと...自分や周りの人を守れるようになりたかっただけなんだ。生贄にされた奴は、俺の大事なおじさんだった。それが首だけになって化け物に咥えられたままなんだ! 我慢できるか!」

 小虎は黙っている。ピドーの言葉の嵐が頭の上を通りすぎるのを待っているかのようだ。反応のなさにいらいらする。

「聞いてるか? 俺で三つ目なんだろう? 四つ太陽が揃ったら世界が破滅するって? させるかよ。太陽の力を手に入れられるんだろう? それで残った『南の赤』の石板をぶっ壊す。内戦も終わらせてやる。だから東の神殿に行くんだよ! 完全に力を手に入れたいんだよ! 母ちゃんは北事変で死んだ。レイナーは目の前でいなくなっちまった。知っている人が何もできないまま死んじまうのはもう御免だ! おまえだって俺たちに聞きたい事とか言う事があって来たんじゃないのか!」

 ラジオの内容が変わった。明るい音楽だ。楽しそうに若い女性が歌う。

 小虎が呟いた。

「鳥。ばたばた」

「おう。七面鳥だな。いっくらでも足掻いてやるぞ」

 マリアが肩をすくめた。

「ピドーらしいわ。ぱたぱた走り回って、ぎゃーぎゃー鳴くのよね...七面鳥って」

「あのな! 俺は真面目な話を」

「ムリ」

 小虎がまた呟いた。というよりも、彼は大概の場合は囁くように喋る。

「何をぅ?」

「できない」

「復活が? あ...うん。そっか...。必要なのは石板、生贄、司祭の三つだったか...」

 行けば何とかなると思っていたが、そうはいかないのも分かっていた。それでも行動するのがやはり足掻きの所以(所以)なのだろう。

「五つ」

「えっ何? てっきり三つだけだと思ってた」

 それには答えない。フードは俯いているままだ。

「司祭はどこに居るんだ?」

「...」

「ティーガ族だから、お前がなれるとか?」

 フードが横に揺れた。小虎には答えが分からない質問だ。だがどういう意味で否定しているのかピドーには伝わらない。

「う~ん...何が何だか...。小虎、東へ一緒に行ってくれるな」

 うん、と聞こえたようだった。

「髪を染めてみる? そのままだったらフードをかぶっているだけでも目を付けられるわ」

()だ」

 ただでさえ目立つ色なのに伸ばし放題だ。しかし小虎は同意しなかった。彼にしてはきっぱりとした否定だ。

 民族の証の色だ。マリアもそれ以上は強くすすめなかった。テーブルに地図を広げる。

「バスは動いていると思うんだけど。何回か乗り継げば...」

 密やかな声が混ざった。

「さっきの、男。いる」

 バス停も駅前だ。見つかる可能性がある。

「アウゲンか。こっちは動けないのかよ。マリアは免許を持っているだろう? 車を借りられないか?」

「何日借りればいいのよ。そんな金は無いっ」

 エフェレットきょうだいは頭を抱えた。

「よし!」

 マリアは勢いよく立ち上がった。

「とにかく晩御飯! 何か作るわ。買い出しに行って来る。いい? 今度はちゃんと待ってなさいよ、愚弟ども」

 じっとしていられない性分なのは弟と同じらしい。まだ昼を過ぎたばかりの町へ出かけて行った。


    ツヅク! 次回 あの白アタマが現れる! ソレ喋っていいの⁈



お読みいただきありがとうございます。

小虎の正体が明らかになりました。

でも伝えるべき手段を持っていないのです。


今回初出さんはナシ

北事変:10年前の事件。北州の北端、辺境の地ランデスヴァルトで起きたティーガ族の殲滅。

    実行者は不明。

    生存者はいないとされているが、小虎は生き残った。

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