冥界の太陽たち プロローグ
異民族の神話と不穏な社会情勢
冥界の太陽たち プロローグ
グリンクラフト連邦国。先住民ティーガ族の伝説に言う。
かつて世界は混沌としていた。そこを治める為に神は自身に似せて太陽の化身四人の息子を創り、それぞれを象徴する色を与えた。東は赤、西は白、南は青、北は黒。そして覇権の争いが起きないように、順番に世界を統治させる事とした。期間はみな同じ。十三の月が二十回巡り、さらにそれを二十回繰り返す間とする。世界は光に溢れて地上には命が芽生えた。あまたの生物が育まれて人間が誕生したのだ。
始めに地上を支配したのは黒い王子だ。約束の期限が来た時、太陽は冥界に堕ちる。彼の叫びは雷になって世界を覆い、生物に襲い掛かった。人間も逃れようがない。彼らは運命に絶望した。虎に身を代えて逃げ、生き延びたのだ。
次は西の白い王子である。再び生き物は繁栄した。だが期限は来る。大いなる嵐が吹き荒れた。人々は生きる希望を絶たれ、怨嗟を抱いて猿になった。
三番目は東の赤である。またも地上に栄えた人々だが、やはり期限が訪れた。太陽は堕とされ、劫火が世界を襲った。逃げ惑い、必死に足掻き続けた人類は七面鳥になってしまった。
ついて南の青い王子だ。彼もまた同じ命運の下に天地を照らす。滅亡は水のよるものだった。逃げ場のない人類は慟哭し、涙の海に深く沈んで魚となった。
四人の王子は全て冥界に去った。しかし、世界は終わらなかった。
五人目の王子が現れたのだ。生き残った命の為である。だが彼が何者なのか判然とせず色も決まっていない。彼が現世を支配するのだ。現在は第五の太陽の時代である。破滅の日には大地が揺れ、命あるもの全てが冥界に呑まれると伝えられている。
そして人間の世界は、今度こそ終わるのだと。
グリンククラフト連邦は、先住民ティーガ族を駆逐して奪った土地に三百年ほど前に建国された。現在も王家であるグリンクラフト一族が小国を統一したのだ。西と北に高い山脈があり、南は海だ。外国からの攻撃を受けにくい。四つの大きな州はそれぞれに特色がある。
東州は北の山脈のすそ野に広がる。南の海に面しており、貿易が盛んだ。財政的にも豊かである。連邦に属するとはいえ政治的には中立的な立場だ。
細長い入り江・通称海峡を挟んで向かい合うのが南州だ。こちらは温暖な気候で観光地でもあった。
西州はグリンクラフト連邦の首都が置かれている。連邦ではもっとも栄えた地域だ。王宮をはじめとして、国の中枢機関が集中していた。冬はやや寒いが、雪が積もるほどではない。
そして北州。石炭や天然ガスを産出する。短い夏と長い冬が続く。西州と境界を接する。かつてはノイエ山ろくの谷間ランデスヴァルトに少数民族ティーガ族の集落があった。
長く平和が続いていたのだ。つい十年ほど前までは。今は内戦によって分裂の危機にあった。
グリンクラフト王家には三人の王子がいた。まず長兄が王となった。そして後継ぎの男児をもうけた。彼が王太子である。だがまもなく王妃が病死し、数年後に王も崩御した。
次いで次兄が王位についた。国内の少数民族の女性と懇意になったものの、彼女は生まれる前の子供と共に命を落とした。暗殺と言われる。先代王の死因と彼女の死をめぐって国内では噂話が飛び交った。世間が騒めく。次兄王はそんな市内を視察中に行方不明になった。
長兄の息子が後を継ぐべきという意見があったにも関わらず、末弟が一部の貴族に推されて王位についた。まもなく男児が生まれたが、生後すぐに亡くなった。次に生まれたのは継承権を持たない女児だ。
それで長兄の王子は王太子のままだ。末弟の継承に納得しない者も大勢いたのだ。王太子派と末弟王派が対立し、国内を二分する戦いが勃発した。同じ民族が二つの勢力に分裂してぶつかり、既に十年に及ぶ。三方を急峻な山脈に囲まれ、もう一か所は海辺という地形の国土だ。他国からの干渉を受けにくいだけに現状を打破する機会はなかなか訪れなかった。
かつてグリングラフトは一つの民族を存亡の危機に追いやった。国内の大きな建物は先住民の建築物を土台として造られている。栄光の過去を破壊して利用し、普段の生活から覆い隠した。だが自らも同じ運命をたどろうとしているかのようだ。
グリンクラフト人達はまだ知らない。先住の民の繁栄は消えたかもしれない。だが確かにそれらは暗闇の底で蠢き、復活の機会を狙っている。
社会は混沌の渦の中だ。
読んでいただいてありがとうございます。
長編になります。まずは入口です。




