エピローグ
「まあ、予想通りでしたねー」
リフェウスから「ロイシュネリアと結婚する」という報告を受けて、クレオメデスがしみじみと呟く。
「うん。予想通り。あ、でも予想よりもちょっと展開は早かったね。リフェウスのことだからもう少し悩むかなと思ったんだけど」
「あの男が悩みますかね。陛下がネリに婚活を命じた時、これは好機だと嬉々とネリを捕まえに行くのが目に浮かびましたよ、俺は」
クレオメデスのぼやきにルクレシウスは笑いを堪えきれなかったらしい。
麗しの少年王がケタケタと笑い出す。
「確かに! でも、ロイシュネリアもロイシュネリアだよ。あんなにじーっと見つめられてて気づかなかったのかな、リフェウスの気持ちに」
「気付いていたのかもしれませんが、彼女は処女であることが求められる立場でしたからね。ま、リフェウスもそれを承知で見るだけに留めていたんでしょうし」
「僕は最初からネリに先視の力を求めない、って言ってたんだけど、何を聞いていたんだろうな、リフェウスは」
ふーう、とルクレシウスがため息をつく。
「まあ、そんなに拗れることなくくっついてくれてよかったじゃないですか。陛下が本当にリフェウスを殴るとは思いませんでしたが」
「前に言ったよ?」
赤くなった右手をひらひらさせながら、ルクレシウスが嘯く。
「冗談だと思ってました」
「僕はいつだって本気で生きてる」
「まあ、でも、正直なことをいえば、先視の力は、ちょっともったいない気もしますね。ネリほど強い力の持ち主は大粒のダイヤモンドよりも貴重ですから」
「そんな力に頼らなくても、僕はこの国をちゃんと治めていくよ」
残念そうなクレオメデスに、ルクレシウスが不敵な笑みを浮かべる。
「ところで、女神の愛し子が処女や童貞を失うとその力を失う、っていうの……実は誰も確かめた人がいないんだよね。事実だと思う?」
「え、事実じゃないんですか?」
「だって、能力が失われたかどうかなんて、見た目でわかるもんじゃないだろ?」
ルクレシウスの指摘に、「そう言えばそうだなあ」とクレオメデスも頷いた。
「ま、ロイシュネリアに先視の力が残っていようがなくなっていようが、僕には関係ないけどね」