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05

 長い廊下を歩いて数分、正面玄関ホールのような場所に人だかりができているのが見えた。輪の中心には千影がいる。相変わらずの外面で周りと打ち解けている様子に眉をしかめる。


「聖女様、ミオ様をお連れいたしました」


 チェルシーの声に全員が振り返る。

 千影はそれこそハイファンタジー世界の僧侶のような格好をしていた。上から下まで真っ白でそれこそここに居る羽の生えた誰よりも美しい存在に見える。


「わ、澪ちゃん……かわいい……お姫様みたい」

「……はあ。まあ、そうかも」


 確かにお姫様か魔法少女のような衣装だなと強く感じているので否定はしなかった。


「澪ちゃん、かわいい、すき」


 千影は公衆の面前だと言うのによろよろと歩いて澪を力いっぱい抱きしめる。まるで潰すかのようにぎゅっと。


「げっぅ……」


 不意打ちの事に肺の空気が漏れて変な声が出た。


「澪ちゃん可愛い、可愛い……もう僕のお嫁さんだね」


 湿度の高い声が耳元で響いて澪は眉を顰める。


「違うから」

「ちがくない、だって僕は聖女だからね」


 くすっという笑みを残して千影が離れていく。それをじっと嫌なものを見る目で見ていると唐突に胸元でぱらぱらっと何かが崩れる感覚がして目線を向ける。

胸の上で薔薇の花束が潰れていた。


「ああ、ごめんね澪ちゃ……え、なにこれ」


 落ちた花びらは赤く黒くなってそのまま液体のようになってカーペットの上にどす黒いシミを作っていく。服は防水なのか魔法の力なのかわからないが汚れることはなかったが気味の悪さに千影すら固まっていた。


「ああ、申し訳ございません。この薔薇は命を失うと溶けて消えるんですよ」


 エイレンが苦笑しながら残った花束を回収する。花束を贈呈するというイベントが無くなって澪はほっとしながら素直に残りを渡した。

 ただ、エイレンの手にわたった花束の残骸がなんだか悲しそうに自分を見ているように見えてぞっとしてしまう。この薔薇は一体何なのだろう。薔薇のことを考えると寒くなる。


「しかし、その聖女様。本当に護衛はいらないのですか?」

「ああ、うん、大丈夫。僕が澪ちゃんを守るから」


 千影の細長い腕が澪の腰を抱く。


「それに、二人きりがいいんだ」


 きゃあっと黄色い悲鳴が上がった。千影はもう周りを懐柔したどころか見た目のお陰で女性人気を集めたらしい。もうここで何を言ったとしてもダメそうだと思い澪は黙って目を伏せた。逃げるのはここじゃなくていい、もう少し人目のつかない場所にしようと考えながら。


「承知いたしました聖女様。それではこちらを」


 エイレンが千影の胸元になにか小さなバッジをつける。


「こちらは聖女の証。こちらがあれば各地の宿や飲食店、他すべての施設は無料でお使いいただけます。そして貴方は今聖女の力を持っているのでこのバッジを通して簡易な魔法を使うこともできます」


 白い衣装の胸元に、金の枠に縁取られた赤い宝石のバッジがきらきらと光っている。このホールは上に天窓があり太陽光が燦々と降り注いでいる事もあって、本当に聖女……いやどこぞの聖人か天使のように見えてしまった。ここにいる存在の中で唯一自分と千影だけが羽を持っていないはずなのに、ここにいる誰よりも天使に近い存在に見えてしまう。


「へえ、ありがとう」


 ふさふさのまつ毛で覆われた瞳が三日月を描く。野次馬たちがはっと息を呑んだのがわかった。この男は床に溶け落ちた白薔薇と同じで見た目こそ美しいが中身はどろどろで醜いストーカー野郎なのに、みんな見た目で騙されるんだなとぼんやりその光景を見つめる。


「聖女様、お気をつけて。どうかこの祈りの旅と聖女様にご加護がありますように」


 エイレンが再度恭しく頭を垂れ後ろに下がる。


「じゃあ行こうか、澪ちゃん」

「ミオ様もお気をつけて」


 も、というのに付属品扱いを感じて嫌な気分になったが彼らにとって大事なのは聖女の祈りの力であり聖女として呼び出したものの祈りの加護が受けられなかった自分は本来不必要なのだろうと澪は納得し、エイレンの言葉に小さく頭を下げて、ついでに腰に回されていた手をさっと払って歩き出した。


連載はじめました。初日なので5話投稿ですが

明日から1話ずつ追懐してきます。

もしよろしければ、★~★★★★★の段階で評価していただけると、参考になります。

よろしくお願いいたします。


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