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 少しの眩暈の後目を開けると広い廊下に出ていた。奇妙なほど静かな空間の廊下の至る所に教会のシスターたちとレジスタンスのメンバーが倒れていて、あちこちが破壊されて美しかった教会施設の面影はなくなり、至る所が生々しい赤で彩られている。


 澪は近くに崩れていたシスターにそっと近づく。


「この子……」


 最初に澪に服を繕ってくれた新人の少女だった。気絶しているだけで息はあるようだが肩口に刺し傷がある。

 隣に倒れ込む別のシスターの脈も確認する。こちらも気絶しているだけのようだが、こちらは太ももに刺し傷があった。どちらも同じくらいの大きさのナイフで刺した物のように見える。

 それから澪は千影と協力してそこら中に転がっていたシスターやレジスタンスメンバーの脈をとって回ったが誰一人として命を落としている者はいなかった。


「約束は守ってるようね」

「一人でも殺すなら協力しないってやつだね」


 教会の中庭に姿を現す少し前、澪はロキに交渉を持ち掛けた。教会の人間をひとりとして殺さない事。それが守られないのであれば千影と共に離反してレジスタンス諸共すべて消し飛ばすと。

 別に教会の人間の命に興味があるわけでない。こんな極悪非道な事をやらかして、死んで終わりなんて許せなかったのだ。

 魂がなくても彼女達の体は生きていた。いや、生かされていた。騙されて使い捨てられ、死ぬこともできずに永い時間、体から無理矢理血液や体液を搾取されながら苦しんだ。きっとその絶望の中で体力がなくなり失意の中で死んでいった者もいただろう。

 すべての教会関係者がこのことを知っていたとは思えない。特に目の前で苦しそうな表情で倒れている少女たちがそんなことを知っているようには見えない。彼女たちもまた、教会に言われるがままに動き搾取されている対象なのだろう。現に彼女たちは武器を持っていない。支給もなければ武器を生成する技術もないのだろう。だとしたらそんな末端を殺すのは気が引けるし殺す意味もない。

しかし幹部連中は別だ。聖女の末路を知らないはずがない。彼らには責任を取らせる必要がある。罪を背負って生きていく必要がある。だから、なおさら殺してはいけない。

 ロキは澪の訴えを真摯に受け止め、殺さないと約束して作戦を実行した。ネロリは嫌がるかと思ったが彼女は彼女で自分が死ぬ事や痛みに対しては興奮するが他者の命を奪うことには興奮しないので殺さないことを約束して上に上がっていった。

 聖女たちをいとも簡単に淡々と処理していったレジスタンスやロキを見ていたので些か不安だったが、きちんと約束は守るらしい。


「大聖堂はこの先ね」

「そうだね、いこっか」


 あたりを警戒しながら目的地に向かって歩く。この角を曲がればもう大扉が見えるだろう。


「澪ちゃん、危ない!」


 澪が曲がろうとした瞬間、千影が澪の腕をぐっと引っ張った。その瞬間、すさまじい閃光が飛んできて壁に穴をあける。


「あら、残念ですわね」


 千影が角から飛び出して驚いたように目を大きく開いた。


「ロキ……」


 澪も角から飛び出す。大聖堂に続く廊下にはメロナがいた。片手にあの白い銃を持ち、もう片手にはズタボロになったロキの首根っこを持っている。


「意気揚々と乗り込んできた割りには弱かったので殺しました」


 メロナはポイ捨てをするように男の体を軽々と投げ捨てた。ロキの体は近くの壁にあたり、力なく床に崩れる。


「こんなに弱いのに教会に歯向かおうなんてよく思えたものですわ」


 メロナは心底軽蔑するような顔でロキを見下ろし一度鬱憤を晴らすように体を蹴り上げる。だらしなく弛緩した体が衝撃でがくんと揺れた。


「聖女様は、まあ……そこまで黒の魔力をため込んだんですもの。お強いんでしょうね」


 そのまま白い銃を構えなおす。


「でもミオ、お前はよくもまあお荷物の癖にしゃしゃれますわね。聖女様にくっついてきただけのただのおまけの邪魔者の癖に」

「……邪魔者ね」

「そうですわ、邪魔者。死ね!!」


 普段の美しい鈴を転がすような声と穏やかな口調はどこへ行ったのか、化けの皮が剥がれたメロナは憎々しげな荒っぽい言葉と共に澪に標準を定めて銃をぶっ放す。澪はそれを視認すると軽々と避けた。澪の後ろにいた千影が片手で魔力をかき消す。


「澪ちゃん、下がってて」

「あー、あちらがご所望なのは私みたいだから」


 澪は千影の前に一歩踏み出した。


「じゃ、サポートするね」

「舐めやがって……っ」


 メロナは動揺したようにまた銃を澪に向けて何発か放つ。


「思ったより弱いのは貴方じゃない?」


 ロキから貰った魔力の指輪で身体能力が強化された澪にとって、放たれる魔力の軌道を読み避けるのは難しい事ではない。弾速も女子小学生のドッジボール玉くらいにしか見えない。

 勿論これはメロナが焦ってろくに魔力を込めずにとにかく数を打っているというのもあるが、使えば使うほどに自身に蓄積された魔力が減っていくから段々と勢いが落ちていっているのも澪が軽々とメロナの弾丸をよけることができる要因だろう。

 そもそもの話、いくらメロナが強いとはいえロキとの戦闘を終えた直後かつ、一発目の一番強く魔力を込めた不意打ちが外れてしまい、焦ってとにかく数うちゃ当たるをやっているようでは澪は止められない。


「くそっ……足手まといの癖に!」


 それでもメロナは憎しみを込めて何発も魔力を弾丸にして放つ。外れた弾丸は壁をぶち抜き、硝子を砕き、調度品を破壊する。レジスタンスの襲撃でめちゃくちゃになった教会をさらにめちゃくちゃにしていく。


「ガキが……っちょこまかとっ……!鬱陶しいわっ!ボケっ!」


 ひらひらと交わし近付いてくる澪に焦るメロナは更に魔力を消費して弾丸を放つ。常人ならこんなに何発も何発も撃つことは難しいが怒り狂ったメロナは命を燃やす勢いで空気から魔力を取り込み、澪を狙う。

 澪はメロナの懐に滑り込む。このまま投げてから絞め落とせば勝ちだと思った瞬間メロナは銃を捨てた。


「は……?」

「じゃかしいわ、ガキがっ!!」


 メロナは澪を蹴り上げる。澪は蹴りの勢いで宙を舞った。


「……っ!」


 千影が後ろから澪の体を守るサポート魔法を常にかけ続けているおかげで体そのものには問題はなかったが銃撃しかできないとなめてかかっていた澪は驚いてもろに攻撃を食らってしまった。


「澪ちゃん……っ!!」


 千影の悲鳴に近い声が響く。そのまま助けに入ろうとしたが、


「俺も仲間に入れてもらいたいもんだね」


 後ろから弾丸が飛んでくる。千影はそれを自身の魔力で掻き消すと攻撃が飛んできた方を向いた。


「……ラクイ」

「よぉ、聖女様。ご機嫌麗しゅう」


 へらへらと舐めたような口調ではあるが、目には明確な殺意がこもっている。


「おー、すごい。めちゃくちゃになってる」


 ズタボロになった廊下を眺めて、また銃を構える。


「ラクイの相手してる暇はないんだけど」

「いやあ、女相手に2対1っていうのも卑怯だろ?だから、あんたの相手は俺がしてやろうと思って」


 ラクイは目を細めて、もう一発弾丸を放った。


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