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「あはは、やっぱり直接刃物を交えるのは良いねぇ!」


 両手に大ぶりなナイフを持ったネロリは興奮しながらカルタに襲い掛かる。カルタが攻撃を受けると、今度はカルネに反対側のナイフを振りかざす。

 明らかに場違いな格好をした露出狂が胸を揺らしながら襲い掛かってくる。最初は驚いたし、胸の先と大事な場所以外ほぼ隠れていないその恰好にどきりともしたが尋常じゃない強さにもうそれどころではなくなっていた。


「このっ!」


 カルネが後ろからネロリに襲い掛かるが


「おっと、あぶなーい」


 彼女はけらけらと笑いながら軽いステップで避ける。今度はカルタが襲いかかるが受け流されてしまった。自分たちはこんなにも汗をかき、息も上がっているというのに目の前の女は飄々とした様子で、まるで子供と遊んでいるかのように余裕綽々の態度で腹が立つ。


「ほらほら、エイレン様は逃がさなきゃいけないんだろ?本気にならないと簡単に追いついちゃうよ」

「「……」」


 そう、この女はひょいひょいと攻撃をよけたり交わしながら着実にエイレンが逃げて行った大聖堂に近づいている。それも、時折内部で教会職員と戦っているレジスタンスの連中に手を振ったり時には手助けをしながら。

 今度は目配せして同時に左右から切りかかる。しかしそれも簡単に両手のナイフで受け止められてしまう。


「もしかしてそれが本気なら弱いなあ。僕弱い男って嫌いなんだよね~。メロナを追えばよかったかな~」


 明らかに馬鹿にされている。


「仕方ないですね」

「そうですね」


 カルタとカルネは横並びになると、同じポーズをとって目を閉じる。青白い光がぽうっと現れてふたりの体を包んでいく。


「えー、なにしてくれるのかな。待ってるね」


 ネロリはわくわくした様子で目を輝かせながらカルタとカルネの行動を観察していた。


「「……」」


 意識を集中する。ふたりの意識が、自我が、魔力が、混ざり合ってひとつになっていく。

 この世界に生まれた者には魔力を持てるキャパシティがそれぞれ決まっている。特殊な模様を刻むことで無理矢理体の中に魔力を格納する聖女は別として、それ以外の人間は持てる魔力にそれぞれ限界値がある。

 それこそ教会のトップのエイレンは戦闘にリソースを割かないだけで莫大な魔力を持っているし、メロナやラクイ、チェルシーもそれぞれかなりの魔力を溜めることができる。一般の教徒には隠されているが、教会へ聖職者として入ることはできるのはある一定値の魔力を溜めることができる体として生まれていることが第一条件だ。

 勿論カルタとカルネもそれぞれに魔力のキャパシティは教会が提示する基準をクリアしているが、最低基準のクリアでしかなかった。

 それは彼らが双子だから。この世界では双子は生まれる時に魔力のキャパシティを半々に分け合ってしまう。カルタとカルネも例に漏れずにそうだった。しかし教会に聖職者として入り、東方教会のトップに上り詰め、幹部として君臨しているのは、


「ああ、凄いね」


 カルタとカルネが魔力を一つにできるから。

 教会の求める条件はかなり厳しい。キャパシティが一定基準に到達していることもそうだし、魔力をうまく扱うことも条件のひとつにある。カルタとカルネはお互いを知り尽くした特別な双子ゆえに、


「……はあっ!!」


 カルタが魔法で作り出した刀でネロリに切りかかった。


「ああ、いいね!」


 後ろでは魔力をすべて双子に託したカルネが力なく倒れる。

 カルタとカルネは双子の間でのみ魔力譲渡ができる。双子だからこそ全く同じ性質の魔力を持っているのでキャパシティを超えても保持が可能だ。ただ、この世界に生まれたすべての双子ができる芸当ではなく、教会の基準を超えるほどのかなりの魔力を保持し、魔力を扱うことに長けたカルタとカルネだからこそできる技。魔力を譲渡した方は次に魔力がたまるまで完全な無防備状態になってしまい、動くことすら困難になる究極の自己犠牲の技。


「あはは、気持ちいい……」


 ネロリはカルタの刀を受け止めた腕の神経がびりびりと痺れ震えていることに気が付き甘い吐息を漏らした。


「邪魔ものは殺します」


 すさまじい速さでネロリに突っ込んでいくカルタ。


「わっ!」


 唐突に上がった速度についていけずにネロリの上腕に刃が深めに刺さり、ぶしゃっと勢いよく鮮血が噴き出す。


「あ~~~、すごい……攻撃貰ったの久々かも~」


 ネロリは距離を取ってから心底嬉しそうに笑うと、頬を紅潮させてカルタを見つめた。まるで恋する乙女のようなとろんとした目で。


「弱いとか言ってごめんね、君結構強いからさ」


 ネロリは両手の大型ナイフを手放す。大理石の床にからんからんと音を立ててナイフが転がった。


「ちょっと本気出しちゃおっかな」


 そのまま素手のままカルタに向き直った。


「素手だなんて舐めているのですか?」

「いやあ、武器って得意じゃないんだよ。ハンデだよハンデ」


 また楽しそうにけらけら笑うネロリ。カルタはまだ舐められているのだと腹立たしい気持ちでまた突っ込む。今度は先ほどよりも早く、音速にも近い速度で心臓に向かって刀を突き刺す。


「残念」


 耳元で艶っぽい声がしたと同時に背中に柔らかい何かが押し当てられる。

「なっ……!」


 刀を振りながら後ろを向くがもうそこにネロリはいなかった。


「確かに速度も速いし、攻撃する力も強くなったね」


 今度は前から声がする。


「でも、ちょっと足りないかな~」

「ふざけ……」


 前を向いた瞬間、腹にすさまじい衝撃を感じて体が吹っ飛び、壁に激突する。


「やっぱメロナのほうが強そう」


 ネロリはいつの間にか奪った刀をピュンピュン振り回しながらカルタ近付いてくる。


「はい、返す」


 ぽいっと目の前に刀が投げられた。カルタはそれを拾おうと手を伸ばしたがいろんな場所の骨が折れてしまっているらしくうまく体が動かない。しかも頭から血が流れているらしく視界も赤くて見えづらい。


「あれ?身体保護とかしてなかったの?あ、僕はそんな野暮なのしてないけどね」

「……くそ」

「そっか~、じゃあもう終わりか~。残念」


 ネロリは心底がっかりしたように足元の刀を蹴飛ばして、カルタの前にしゃがみ込んだ。きっと殺される。無様に負けた自分はこの女に殺されて、無防備に転がっているカルネも殺されるだろう。カルタは朦朧とする意識の中


「カルネ……ごめん」


 最愛の双子に自身の不甲斐なさを謝ることしかできない。


「ふーん……美しい兄弟愛じゃないか」


 カルタは力なく項垂れて目を閉じる。しかしいつまでたっても死の一撃はやってこない。それどころか、なんだか体が温かい気がする。死は冷たい物だと聞いていたのにと目を開けるとネロリの姿はなく、


「カルタ、大丈夫ですか?」


 カルネが自分の治療にあたっていた。


「……カルネ、どうして」


 自分がネロリに殺されていなかったことも驚いたが、自分に全ての魔力を譲渡してすっからかんになったはずのカルネが治癒魔法をつかっていることにも驚いた。


「僕にもよくわかりませんが、あの女が健闘賞だって言って僕を起こして魔力を少し分けてくれて……」

「……」

「赤の他人に自身の魔力を譲渡するってかなりの芸当のはずなのにいとも簡単に……あの女は僕らが戦っていい相手ではなかったのかもしれませんね」

「そう、かもですね……」


 カルタは力が抜けて今度こそ意識を失った。気絶する直前下の階で大きな爆発の音が聞こえた気がした。

★~★★★★★の段階で評価していただけると、参考になります。

よろしくお願いいたします。


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