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 それから十分ほどして、祈りの間に一人の修道士が息を切らして飛び込んできた。


「め、メロナ様……!」


 祈りの間の広々とした空間に男の切迫した声が響く。メロナは呆れたように男を見て何事かと用件を問いただした。


「せ、西方教会にレジスタンス組織クレセントムーンが攻め入ったと連絡が……!」

「なんですって……!?」


 ついに始まった。

 澪の体にびびびっと緊張が走る。


「どういうことです?なんで西方にレジスタンスが?聖女様はここにいるのに」


 カルタが冷静に問う。メロナは心底動揺した様子で何も答えられなかった。


「レジスタンスは聖女暗殺を狙ってるんじゃないんですか?少なくとも我々はそう聞いておりましたが」


 カルネも続ける。


「……」


 ラクイも何か考えているようで何も答えない。


「わ、私にもわかりません……!ただそういう伝令が……!」


 更に、また別のシスターが駆け込んでくる。


「お取込み中のところ失礼いたします……!北方教会にクレセントムーンが入り込んだようです……!」

「な、なんで……何をしに」

「集約機を破壊されたとのことです……」


 全員が動揺してざわつく。


「おい、まさか、俺等のところも石を壊されたんじゃないだろうな」

「そ、それは確認中ですが……祈りの間の扉を真っ先に破壊しにきたとのことなので……その可能性は」


 くそっと!!ラクイが感情をむき出しにして床を踏みつける。


「南方は無事ですか?」


 自分たちの教会に手を出され動揺やら怒りに狂うメロナとラクイとは裏腹に、自分たちのところは手を出されていないカルタとカルネにまだ心の余裕はあるようで冷静に会話を続けようとしている。


「な、南方からはそのような連絡は……」

「そうですか。この石は我々にとっては命よりも大事なもの。全て壊れてはたまりません」

「ええ、そうですね。粉々にされたなどなければ時間はかかりますが修復は可能かと。今はここと南方のモノだけでも守らなければいけませんね」


 慌ただしく会議を続けるメロナたち。広く天井も高く静かな祈りの間にその声はよく響くので澪の耳にもすべて聞こえてくる。

 会話の盗み聞きに意識を集中していると、鋭い視線を感じて澪はそちらの方に目を向けた。視線の先はラクイだった。


「ああ、理解したぞ」


 ラクイが早足で近寄ってきて澪のこめかみにあの白い銃の銃口を押し当てる。


「お前か」

「……何を言ってるのかわからない」


 トリガーにかかった指を見て少し震えながら精いっぱい強がって返すが声が若干震えているのが自分でもわかる。


「正確に言うとお前たち、かだな」

「だから、何の話?」


 さきほどまでちゃちなプラスチックの玩具にしか見えなかった銃から鉄臭い死の匂いがして胃がきゅっとなるのを感じる。それでもなるべく表情を変えずに応じる。ここで動揺したら終わりなのだから。


「今、聖女の護衛で西方教会の主要なメンバーや強い者は全員ここにいる。北方教会からも囮として大量に人員が使われている。この状況を作り出したのは誰だ?」

「……レジスタンスでしょう」

「まあ、そうだな」


 ラクイは胸ポケットからあの宣戦布告のカードを取り出して澪の足元に投げる。


「聖女はいつでも殺せる……このカード。確かにあいつらの半月マークが刻印してあるからあいつらのモノなのは確かだが、これを持ってきたのはお前か聖女様だろ?」

「根拠がないんじゃない?」

「ハンクに聞いたが、眠らされた北方のシスターや修道士たちを起こして回っていたのはお前と聖女様なんだろ?全員寝かされて最初にたまたま偶然お前と聖女様だけが起きるなんてあるか?」

「それが根拠って言うなら弱いんじゃないの」

「まあ、弱いかもな」


 さらにぐっと銃口を押し付けられる。


「でも、疑わしきは罰せよって言うだろ?」


 ラクイの目には明確な殺意しかなかった。今すぐに澪をここで排除する気満々のようだ。カルタとカルネは半信半疑と言った様子で黙っている。メロナはラクイと同意県のようで銃を引き抜いていた。

 これはどう弁明してもどうしようもならない。結局自分じゃどうしようもならなかった。いつも肝心なところで失敗してるなあと諦観の念で体の力が抜けた瞬間、


「違う。疑わしきは罰せずが正しい」


 千影がむくりと起き上がり、


「慣用句、使えないなら使わないほうがいいよ」


 ラクイを蹴り飛ばした。彼はものすごい勢いで飛んでいくとメロナを巻き込んで壁に激突する。


「澪ちゃんに銃口当てるとかお前は何様?」


 真っ黒なオーラを纏う千影を見て、カルタとカルネは臨戦態勢に入ったようだ。どこからか取り出した長い刀のようなものを出して千影に向ける。


「君たちはどうでもいい」


 千影はふっと腕を振るとカルタとカルネも壁に押し付けられそのまま縛られたかのように動かくなる。

 千影はつかつかと歩いていき壁に叩きつけられて床に落ちているラクイの首元を掴み上げる。


「ラクイ、澪ちゃんに怖い思いさせたよね?」

「怖い思いだと……」

「っていうか殺そうとしたよね?あのさ、澪ちゃんは僕のだからそういうのありえないんだけど。澪ちゃんの事殺すくらい愛していいのは僕だけだし」


 ラクイはふっと笑みを浮かべ、


「ずっと……最初から思ってたけどよぉ、お前聖女にしては気持ち悪いなあ。一人の女に執着して付け回してどこでも盛ってさぁ……軽蔑するわ」


 ぺっと血反吐を千影の顔に吐き掛ける。

 千影は頬に吐き掛けられた血や罵倒の言葉に対して怒らずに眉を八の字にして少し困ったような悲しそうな顔を浮かべた。


「人のこと、好きになったことないなんて可哀想だね……」

「残念妻子持ちだ」

「妻も子供も愛してないんだね」


 そのままラクイを再度壁に叩きつけると、はあっとため息をついて力の抜けた体を床に落とす。死んではいないようだったがそうとうなダメージを受けたらしいくそのまま崩れて動かなくなる。


「あ、そうだ」


 千影はそばに落ちていたラクイの銃を拾い上げて集約機となっている石に照準を定めた。


「ラクイ、君は慣用句は間違えるけど」


 そのまま崩れ落ちたラクイを見たまま、石を見ることもなく、


「感は鋭いんだね。僕らがレジスタンスと繋がってるのは大正解」


 躊躇いなく引き金を引いた。軽くかちっと音がしたのも束の間、すさまじい閃光と共にレーザーのような一線の光が噴出し、そのまま石を貫いてばらばらに破壊する。


「あ……ああ……封印が……集約機が……」


 倒れていたメロナが弱弱しい声を上げる。


「澪ちゃん、終わった~」


 千影はこの場にそぐわない明るい声を出してスキップで澪に近づくと、ぽかんとしている澪を抱きしめてぬいぐるみでも抱きしめるようにぎゅっと力を入れる。


「ちょっと……」

「これで僕らの任務は終わりだから、一回帰ろ」


 千影は一度、教会の人々を横目で見ると、


「澪ちゃんのこと、酷く扱ったのとか殺そうとしたのとか、そもそも殺そうとしてたとか全部許さないから」


 冷たくそう言い残し、ロキたちが使う黒いゲートを開くとその中に入っていった。

 澪にしてみれば、自分を一番酷く扱っているのとかそもそも最初に殺そうとしたのは千影なのにと思ったし、言いたいことや思うところはやまやまだが、とりあえず移動時の眩暈をやり過ごすために目を閉じた。



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