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 あれから数時間。太陽も西側に大きく傾きはじめた頃澪と千影のいる部屋の扉がゆっくりと開き北方教会の1番偉い男が入ってきた。後ろにはメロナとラクイがいる。西方教会からやってきたのだろう。


「聖女様、ミオ様大変お待たせして申し訳ございません」


 ハンクは深々と頭を下げる。メロナとラクイも一緒に深く頭を下げた。


「先日はレジスタンス組織に関して見当違いなことをお伝えしてしまいまし、申し訳ございません」

「まさか、教会を襲撃してくるとはなあ、それも一番……」


 ハンクがぎろりとラクイを睨む。ラクイは「おっと」とわざとらしく肩をすぼめた。おそらく教会内にも序列があるのだろう。そしてこの北方教会よりも西方教会のほうが序列が上らしい。


「なんでここにいるの?」


 千影はなんの他意もなくここに西方教会のふたりがいることを問う。


「北方教会にはお二人をお任せできないと思いまして、わたくしたち西方のもので東方までお送りさせていただくことになりました」


 先程までラクイに敵を向けていた男は、今度は悔しそうに顔をそらした。本当にわかりやすい男だ。彼は裏表がなく素直で感情的なのだろう。


「えー、澪ちゃんとの新婚旅行なんだけど」

「申し訳ございません、しかしながら聖女様のお命がレジスタンスの組織に狙われているとなれば放置はできませんわ」

「新婚旅行はさ、祈りの旅の後にもっかいやんなよ」


 祈りの旅の後。その言葉に澪は一瞬反応しそうになる。少なくとも幹部であるラクイは千影にも澪にもこの後が無い事を知っている。そもそも澪を敵認定したのは西方のメロナとラクイなのだから。


「ふうん」


 千影の声色が一瞬、ほんの一瞬だけ揺れる。今後の展開を知っていて適当な事を言うラクイに対してなにか思うところがあったのだろう。


「じゃあ、そうさせてもらおっかな」


 しかし、すぐにいつものトーンに戻った。


「結婚式の後にそのままハネムーンもいいもんね」

「ええ、それも素敵ですわね、良さそうな場所をピックアップしておきますわ」

「ありがとう、メロナ」

「まあ、お礼なんて……聖女様のお役に立てることがわたくしの喜びですもの」


 今から殺そうとしている人間に対してどの面を下げてその言葉を言えるんだ。ふつふつと怒りすら湧いてくる。本当はロキの言っていることが全部嘘っぱちで教会が正しい行いをしているからこんな花咲くような笑顔でそんなことが言えるのかとすら思う。

 ただ、ロキの言っていることが百パーセント正しいかは不明だが、少なくとも何かしらを隠し、異世界の人間を聖女として持ち上げ何かをさせようとしている組織よりはロキの言う事のほうが信じられる。そもそも、計画の共有最中にロキに見せられた過去に行われた生贄の儀式が完遂した時期と澪たちの世界で大きな事件や天変地異が起こった時期のほぼすべてが重なっている事を考えるとロキの言っていることのほうが真実に近い。

 ロキの目的が本当に「他の世界に災厄を押し付けて成り立つ偽りの平和が許せない」という義憤に駆られてのものかというのは不明だが、少なくともこの生贄の儀式がなくなれば澪たちが自分たちの世界に戻った後、生活を揺るがすような大きくて残酷な天変地異は減るだろう。


「んじゃ、馬車の準備ができたら俺達が東方教会まで送るからもうちょっと待っててもらえるか?」

「うん、いいよね澪ちゃん」

「まあ、いいんじゃない」

「決まりですわね」


 メロナはまるで勝ち誇ったように一瞬北方教会の幹部男を細めた目で見下ろした後、


「それではもう少々お待ちくださいませ」


 もう一度澪と千影に頭を下げてラクイを連れて去っていく。男も後を追うようにメロナの後に続いていった。待機していた数人のシスターによって扉が閉められるが今度は鍵をかけられることもなくすぐに静かになる。


「あーあ、澪ちゃんとの新婚ふたり旅がよかったのに」

「ああ、そう」


 千影はふてくされたように机に伏し


「澪ちゃんだって残念でしょ?」


 目線だけ澪に向ける。


「操の危機って意味では危機を脱したと思ってるけど?」

「もー。澪ちゃんが抱いてって言うまで抱かない清いお付き合いをするって言ってるのに」

「じゃあ今こんな状況でも抱いてって言ったらこの状況でも抱くの?」


 澪は皮肉で言ったつもりだが、がばっと千影が起き上がる。目があまりにもキラキラしていて反応が一瞬遅れる。


「抱いてって言った!?」

「は!?聞いただ……!!!」


 そのまま体が一瞬中に浮いたかと思うと次の瞬間には千影の腕に中にいた。


「やっぱり澪ちゃんは僕に抱かれたかったんだね」

「……今の状況なのわかってるか聞いたなんだってば!」


 澪がいくら言ったところでスイッチの入った千影が止まることはない。頬を赤らめ恍惚した顔で澪の唇に自分の唇を重ねようとしている。


「ちょ、ちょっと、ちょっと!!んん~~~~~~~~~~!!」


 唇が重なって速攻で舌が滑り込んでくる。ぬるぬると澪の口内をなぞり、唾液を絡ませる。千影はキスを堪能しながら手を澪の体に這わせて弄り始めた。いやらしい手つきにぞわぞわっと体に何かが駆け上がる。


「……ん、ん、やめ……」


 こんなところを見られたらどうするつもりなんだろう。そもそもなんでこんな状況で発情できるんだろう。この男は本当に何も見えてないのか気にしてないのか、なんだかイライラしてきて澪は千影の胸ぐらを掴むと、思いっきり床に投げた。

 目を閉じてキスに夢中になっていた千影はあっけなく床に投げ捨てられて大きな音を立ててひっくり返る。


「馬鹿千影、こんなところで発情しないで」

「だって、抱いてって……」


 まるで被害者ですと言わんばかりに目をきゅるきゅるさせ目尻に涙を貯める。


「は~~~、あんたってばわかんない男だなあ」


 それに更に神経を逆なでされ、そのままマウンティングするように上に乗る。


「わかってないのは澪ちゃんだと思うよ」


 千影の冷静な声に一瞬どういうことだと考えたが、答えが出る前に扉が激しく音を立てて開く。それと同時に千影は澪を引っ張るとまた唇を重ねた。


「今の音は……!」


 ラクイと数人のシスターが急いで中に入ってくる。


「ん……」


 千影はわざとらしく舌を出しながら唇を離すと入ってきたラクイたちに目線を向けた。


「取り込み中なんだけど……」

「おいおい、プレイが激しすぎるだろ……別に盛るのはいいけど聖女様なんだからお淑やかに頼むわ~」

 ラクイは呆れたようにため息を付いてシスターを連れて部屋を出ていった。扉が閉まる音が聞こえ、足音が離れていくのを待って千影は澪の耳元に唇を持っていくと本当に小さな声で囁く。

「澪ちゃんは西方に敵認定されてるんだから、聖女様を傷つけたなんてやったらやばいんだってば」

「……」


 確かにそうだ。それは完全に自分の落ち度だ。自分の立場をわかっていないのは澪のほうだった。そもそも自分の不安や恐怖の感情を二次的な感情の怒りとして千影にぶつけたのも自分の弱さゆえの落ち度だ。


「……ごめん」


 ちいさくぽつりと謝ると千影はふっと息を漏らして澪の頭を優しく撫でる。


「じゃあ、自分からちゅーしてくれたら許すね」

「……それは」

「澪ちゃんに投げられて背中痛い……悲しい」

「……う」


 仕方ないと腹を括り澪はぎゅっと目を閉じると自分から千影の唇に自分の唇を重ねる。そのままいつもされているみたいに唇の中にそっと舌を差し込むと自分から千影の舌に自分の舌を絡ませる。お互いから漏れる小さな「んっ」という声と熱い吐息だけが静かな空間に響く。


「……はあ」


 どれくらいそうしていたかわからないが千影が満足したように澪の肩を押して押し上がってキスは終わった。


「まさか自分から舌入れてくれるなんて……」

「……だってキスしろって」

「重ねてくれるだけで良かったのに」


 澪の蒸気した赤い顔が上塗りしたように更に赤くなる。


「さ、先に言ってよ!」

「ふふ」


 千影はものすごく満足そうに微笑んで澪を抱き寄せる。


「澪ちゃん」


 ものすごく甘い声で自分の名前が呼ばれる。


「な、なに」

「絶対に一緒に帰ろうね」


 澪にだけ聞こえるような小さな囁きに澪はしばらく考えてから首をほんの少しだけ縦に振った。



★~★★★★★の段階で評価していただけると、参考になります。

よろしくお願いいたします。


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