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 大通りを歩きながらホテルの名前を探して二十分ほどでそこは見つかった。少し大きめの石造りの綺麗な建物。中に入ると真っ赤なカーペットが敷かれた少し広めのエントランスがあり、支配人がすっ飛んできた。

 マリンに「聖女がここに泊まるから」と言われソワソワしながら待っていたらしい。支配人は、すぐに最上階の部屋に澪たちを案内した。

 部屋はかなり広く、豪華な調度品と大きめのシャンデリア。ふたつある部屋の奥には大きなキングサイズのベッドがふたつ。現実世界で言うところの高級ホテルのスイートルームに近いのだろう。


「初めてのお泊りがこんないい場所なんて最高だね」


 にこにこ顔の千影を見て澪は危機感を募らせ、カーペットをつま先でなぞる。


「この線よりこっち入ってこないで」


 侵犯をしたらどうなるかわかってるでしょうね、と威嚇をする。

 本当は別の部屋がよかったがマリンが同じ部屋で予約を入れていたのと、そもそも今日は他の部屋は満室らしいので仕方なく同じ部屋に入ったが、こんな危険な男と同じ部屋で夜を過ごすなんて考えられなかった。


「入ってきたら叫ぶから」


 がるがると唸る澪を千影はぱちぱちと瞬きをした後、またうっとりとした顔をして、


「叫び声も可愛いと思う」


 頓珍漢なことを口走る。そのまま澪の引いた境界線を超えた。

 あまりにもあっさりと線を超えて侵入し、あまつさえベッドに座ってきたことに澪は叫び声どころか、小さな悲鳴すらでなかった。思考が追いつかなくて素っ頓狂に「は?」と小さく喉の奥から声が勝手に出た。それから、一瞬視界が揺れて気がついたら天井を見上げていた。


「澪ちゃん、叫び声は?」

「え?は、ちょ……」

「聞きたいな、澪ちゃんの聞いたことない声」


 うっとりとした顔で自分の頬を撫でる千影に澪は目を白黒させて固まるしかできない。


「びっくりした顔も可愛い」


 頬を撫でていた手がそっと肌を撫でて唇を触り親指の腹でさわさわと撫でる。ぽかんと開きっぱなしなのを良いことに少しだけ下唇をまくってそのまま粘膜の部分にまで指を這わす。


「あったかい」


 ぬちゅ、と粘膜を擦る粘っこい音に興奮したのか


「叫び声じゃなくて、可愛い声でもいいよ。まだ聞いたこと無いから」


 そのまま顔がゆっくりと近づいてくる。それと同時に昼間に感じたあの薔薇の香りも近づいてきてくる。強烈な香りに澪ははっと我に返って、


「このレイパーっ!!」


 おもいきり膝で腹を蹴り上げた。


「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!!」


 無防備だったのかダイレクトに膝が入り、千影は声にならない声を上げて澪の唇から手を離した。悶絶しているのか痛みに耐えているのか動かなくなった千影の下からもぞもぞと這い出してそのままベッドから降りる。じりじりとベッドから離れて千影の様子を見る。これで激昂して襲ってきたら次は急所を蹴り上げようと脳内でシミュレーションしながら。


「み、おちゃん」


 それから数分して千影はゆっくりと体を起こして澪の方を向く。


「君のプレゼントは毎回痛いね」


 少し頬を染めた顔。潤んだ目、よだれのたれた口元。


「……は?」

「さすがに今のは効いたよ」


 恍惚とした嬉しそうな狂気じみた顔を見て、澪は二歩、三歩と下がってそのままトイレの扉を開けて中に入り鍵をかけた。


「澪ちゃん」


 足音が近づいてくるのが聞こえる。一歩、二歩とゆっくり。澪はトイレのノブを力いっぱいぎゅっと押さえて、


「入ってきたら、どうなるかわかってるんでしょうね!」


 叫ぶ。声が震えているのが自分でもわかった。


「どうなるの?」


 どんっと一度扉が叩かれる。


「澪ちゃん、入ったらどうなるの?」


 再度どんっと扉が叩かれる。何度も何度も。ホラー映画の殺人鬼が袋の鼠になった被害者を追い詰めるように。


「ねえ澪ちゃん、お腹の少し痣になったよ」


 ふいに音と振動が止んだ。


「……蹴ったこと謝ってほしいの?そんなの襲おうとするほうが……」

「ううん、謝って欲しいなんて思ってないよ、嬉しいもん。痕を残すって愛だもんね」


 衣擦れの音がして、それから、


「だから僕も」


 少しの沈黙が訪れる。


「……」


 なんだか嫌な予感と気配がして澪は警戒しながらさらに扉のノブを開かないように強く押さえつけた。それなのにサムターンがゆっくりと回り全力で押さえていたはずのノブが勝手に下がり扉が開いた。まるでスローモーションのようにゆっくりゆっくり。

 開帳されていく扉の先に目を向ける。


「僕も澪ちゃんに痕つけてあげたい、マーキングしたい」


 扉が開ききって見えたのは恍惚な表情で上半身裸の千影だった。


「なんで脱いで……」

「見てほしかったから」


 確かにほとんど皮下脂肪のない薄いお腹、その臍のあたりが少しだけ青くなっているのが見えた。


「……見たからそれしまって」


 唐突に見せつけられた男の体に思わず澪は目をそらす。ネットや雑誌などで見たことがないわけではなかったが唐突に実物を突きつけられると恥ずかしくて自然と顔が赤くなってしまう。


「澪ちゃんお顔真っ赤、照れてる?」

「照れてない、扉閉めるからどいて」

「やーーだ」


 ぱっと腕を取られてそのままトイレの壁に体を押し付けられた。どんっと体に鈍い衝撃が走る。


「体が熱いから服着たくないだもん」

「わかった、じゃあ手離して」

「だめー、お礼しなきゃいけないから」


 両方の腕をまとめられて頭の腕で固定される。力を入れて逃れようとしても相当強い力で押さえつけられているらしく振りほどけ無い。


「澪ちゃんってたしかに強いけど」


 顔が近づいてくる。にやあっといやらしい笑みを浮かべた男の顔が。


「ここでは僕のほうが強いみたい」


 目線を上に上げる。拘束されている部分が淡く光っていた。


「大丈夫大丈夫、痛いこととかしないから」


 だったらまた蹴ってやると足に力を入れるが


「だめー」


 一瞬で力が抜ける。魔力で体の力が奪われたらしい。


「こんなことして卑怯だと思わないの?」


 ぎろりと睨みつけるが、千影はきょとんとして「思わないけど」とあっさり答えた。その返答に別の意味で力が抜ける。


「じゃあ、澪ちゃんお礼」


 服のボタンが上からぱち、ぱちと外されていく。3つほど開けられたところで白い胸元が露出した。


「映像じゃなくて生で見ると大きいね」

「……映像?」

「うん、いつも見てたよ。カメラで」

「……ああ」


 たまにどこかから視線を感じることがあったが盗撮されていたのか。若干の嫌悪感と帰ったら全部叩き壊してやると強い気持ち湧いたがこの男ならやっていそうだとあまり驚くことはなかった。


夜ご飯作ってた手ガッツリやけどして今の今まで冷やしてたので19時30分ごろの更新間に合いませんでした。

すみません。

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